異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第254話「―――はい。無茶ですね、この術を使いながらやるつもりですか?」

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『―――蒼き空よ。碧き流れよ。青き星よ。悠久に揺蕩いし我らの世界よ―――』

 

四つの声は一つとなって、急に世界からざわめきがなくなる。

 

音が消えていく。

 

すべてが平らかになっていく。

 

『ぬぅぅぅぁぁぁぁ!これは……!』

 

音もなく、ミナの両隣にノトスとヴァダーが現れた。

 

そして、尊大な表情のバハムートもまた人の姿を取って勇者の頭上へ現れる。

 

『偉大なる時と空と星の精霊たちよ。我らは伏して希う。神の定めしすべてを逆行させる転輪をこれへ―――』

 

ミナとカレーナは、そっくりな顔で、同じ表情で、わずかに脂汗を額ににじませながらもニヤリと―――実に嫌味で蠱惑的な顔で魔王を睨めつける。

 

言葉はいらない。

 

お前を殺す、嘲弄して殺すという意志だけがその双子のような笑顔には張り付いていた。

 

『我らが望みしもの、我らが抱きしもの、全て何人にも笑わせまいぞ。歴史とは彼の物語。彼とは我ら全てなり』

 

四人が指を高く魔王へと向け、瞠目する。

 

―――さすれば、南より吹く豊穣王、泉にて人の願いを叶える女王、大地に潜む獣にして女帝もまた指をさす。

 

『転輪よ―――世界を司る精霊たちよ。我ら伏して希う。我らの力のすべてを捧げても構わない。我ら、怒りと憎しみを正しく扱うこと、王らへと誓わん』

 

四人の指と、三人の精霊の王たちの指に青い輝きが灯る。

 

その青い輝きは……

 

『原初の星、か』

 

夕が観測したそれが放つ可視光を分析してため息をついた。

 

「……原初の星?」

 

『ファーストスター……つまり、宇宙が創生された後、最初期に出来た星々のことだ。構成物質は現在の恒星とは異なり、水素のみ。その輝きは青く寿命はとても短かったという』

 

宇宙の一番星。

 

その輝きを指先に宿した七人は、その瞳を閉ざす。

 

『―――さぁ、星々の輝きよ。生まれる前の煌めきよ。彼の者を放逐せよ―――我らの物語に彼の者はいらぬ。記憶のみを留めて、その所業を無へ帰さん』

 

―――こうして呪は紡がれた。

 

『ぬ、ぐおおおぉ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

魔王が光を浴びて苦しみ始める。

 

「―――名付けてレトログレード・エクスティンクション!貴様は逆光銀河・追放消失の刑に処す!!」

 

ミナとカレーナが即興で組み立てたその精霊術は、即ち存在そのものを逆行させて誕生以前の状態へ、空間も星の記憶も改竄して消滅させる大精霊術であった。

 

ほとんど神の所業であるそれは、勇者であるミナでなくば神の誅罰による死を免れ得ぬものである。

 

―――故に、こうなるのだ。

 

『わ、我の記憶が……ぬ、抜け落ちていく……おぉぉぉあぁぁぁぁぁ……!!』

 

そう、記憶の魔王は他者の記憶に依拠する存在である。

 

空間から、星から切り離され、強制的に逆行させられている彼の者は―――その蓄えた記憶をすべて消去されているのだ。

 

まず八郎の顔が消える。

 

―――八郎の、三郎の父の記憶はこの半世紀少し程度のもの。

 

既にそれは魔王が読み取れる時間軸から離れてしまっていた。

 

「……言われるがままにやったですけど、これ……完全に禁呪のたぐいでは?存在消滅って……」

 

岬が指した指先は動かさないままに、怖気を振るう。

 

「そりゃそうよ。私が反転の術法を使うことを許されてる身じゃなければ、逆にこっちが神様に罰を受けてるやつだもの」

 

ミナが苦笑してそう言う。

 

―――言った瞬間、ヴァダーが一瞬嫌な顔をしたことは言うまでもない。

 

「ま、こやつには―――ふさわしいじゃろ。人の記憶なんぞを覗くハレンチなやつにはの」

 

カレーナが多分テレビで覚えたと思しき言葉を使って、きひひと笑った。

 

『ぬぅぅがぁぁぁぁぁ!だが我は記憶の魔王オンマジン!この程度ではどうにもならぬわぁぁぁぁぁ!!』

 

負け惜しみのように叫んで、魔王は戦略兵器も暴食も武具も―――沈黙の魔王も、すべての顔を取り落としながらぐにゃぐにゃと違うものになっていく。

 

「三郎!なんかやべえぞ!」

 

「ああ!最後っ屁やらかす気だぜ!ルル!!」

 

ミナは指先を向けたまま、もう片方の手で客人碎を握りしめる。

 

「―――はい。無茶ですね、この術を使いながらやるつもりですか?」

 

ルルは肯んじながらも、また無茶をしようとする主人を咎めてふぅと苦笑した。

 

苦笑して、自分も客人碎を握る。

 

「空悟さん、僕らを後ろから抑えていてください。夕さんと廻さんはあれが向かってきたら援護をお願いします。恋さんは岬さんに魔力を供給してあげてください」

 

術の起点でありもっとも集中が必要な主人に代わり、仲間たちに指示をして、彼らが首肯したことを確認するとルルもまた槍に集中する。

 

「これでいいか?」

 

二人の背中をガッチリとホールドした空悟にそう問われて、ルルは「お願いします」とだけつぶやく。

 

「岬ちゃん、大丈夫?」「うん、大丈夫なのです」

 

岬もまだ平気な様子で、恋から魔力を補充されていく。

 

そして涼しい顔のカレーナが「やったれ、孫」と短く言ってニヤリと嗤った。

 

「―――客人はお帰りの時間となった―――」

 

ミナは客人碎の発動の呪を紡ぐ。

 

『ギャァァァッァオオオオオオウウウウゥゥゥ!!!』

 

魔王の姿は変異し―――恐竜の。

 

かつて支配の王笏を恣にした恐るべき竜の姿を取る。

 

ティラノサウルスの顔とトリケラトプスの身体に首長竜の首と翼竜の羽を持つ歪なそれは走り出す―――

 

「私は見送らん。弔いの鐘ではなく、祝福の声をもって―――」

 

ミナの瞳は荘厳に、翠であることを止めて金色に輝いた。

 

バゴゥン、ドドン、と轟音が鳴り響く。

 

それは歴史を積み重ねた人類が、バグやリソースの力を借りて作り出した科学兵器の炸裂音だ。

 

しかし、廻と夕が放つ重火器と殺人光線の妨害も物ともせずに、魔王は走る。

 

嘲笑うが如くに―――

 

『死ね勇者ァァァァァァァァッァァァッ!!』

 

「―――イヤよ。吠え碎け!客人碎!!」

 

だが、そんな嘲弄も殺害の意志も、勇者のにこやかな笑みにかき消されるのみ。

 

裂帛は光と風の断層となって、魔王に直撃した。

 

『ファヴォオオオオオオオオオ!!!Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!???』

 

吹き飛び、斬り散らされた魔王は―――すぐにグズグズと溶けて、純粋なバグの塊となって―――そしてボトリと地面に落ちて、ただの原初の歪みの塊、無力なれど恐るべきモノへと還元された。

 

『……』

 

沈黙したそれは、すぐに球体を成す。

 

そうして精霊たちは役目を終えたとばかりにミナに肯いて、そのまま消えていった。

 

四人の指先から原初の星の光は消えて―――空間は、戦いのために魔王が作り出した空間は消えていく。

 

後にはバグの塊が浮かぶ艦長室だけが残された。

 

「……これでよし」

 

ミナは―――そうつぶやくと、震える腕でマジックポーションを三本取り出し、まとめて口腔より飲み下す。

 

「大丈夫か、三郎!」

 

「まだ……大丈夫だ。あれは純粋なバグの塊……このままにしとくわけにゃ行かねえ……!」

 

ミナは倒れそうになる身体を奮い立たせて立ち上がる―――と。

 

そこには。

 

「……これは……」

 

「なにこれ……」

 

艦長室のドアを開けて入ってきたのは。

 

「マコとクロキとショウコ……ですか!?なぜこんなところに!!」

 

それは3人の魔法少女たちであった。

 

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