異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第256話「がー!してやられた!」

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三人が完全に消えたことを確認したミナは、バグの気配がほとんどなくなったことを確認してルルに「どう?」と聞いた。

 

「もう大丈夫です。ここはもうバグダンジョンではありません」

 

「―――よし、それじゃあ―――」

 

―――瞬間、ズズズズズ……と大きな音がして、船が動き出す。

 

ビー!ビー!ビー!と警告を示すブザー音と、そして赤いランプもいくつもついて部屋を剣呑に染め上げる。

 

そうして―――ブン、と艦長室のモニターが突如として光を放った。

 

「な……!」

 

ミナが何の魔力も感じず、ルルがバグの気配を感じないということは、純粋な科学技術に寄るなにかだとわかる。

 

だが、それは―――

 

『フハハハハハハ!勇者どもよ!貴様らがこれを見ているということは、我が敗れ去ったということ!故に、我が最期の策を見るがいい!!』

 

画面に写ったのは、先程斃したはずの魔王オンマジン……だが、様子がおかしい。

 

『―――これは、ただの記録映像だ』

 

廻が深刻な顔でミナを見る。

 

『まさか……!』

 

夕が艦長席の端子に己のコードを繋いで解析する―――

 

『ハッハッハッハッハ!ウワーッハハハハハハ!即ち、『信濃』とうぬらが呼ぶこの船はまもなく浮上する!その仕掛けがどうなっているかは、残念だが教えてやることはできん!ハーッハッハハハハハハハ!』

 

「真面目にやってくれたのう。こやつ……」

 

カレーナが頭を振って、こりゃ我にはどうしようもない、と零して机に尻を乗せて嘆息する。

 

「ぬぐぐぐぐぐ……!」

 

ミナが悔しげに画面に拳を向けて―――

 

『ステルス機能も何もかも切った!これを元に戻すにはうぬらの機械人形でも30分はかかるであろう!ハハハハハハ!苦労して私を斃したのだろうがご苦労さまとしか言いようがない!!』

 

そこまでいうと、画面に映る不快な禿頭は突如真面目な顔になって―――

 

『なお、この録画は自動的に消滅する―――成功を祈る』

 

「ス◎イ大○戦じゃねーか!死ね!!」

 

ミナは画面に掌底をぶち当てようとして、その一瞬前に画面が焼け焦げてモニターは完全に沈黙した。

 

「がー!してやられた!」

 

「まさか魔王が純粋な科学技術で罠を仕掛けているとは……これは盲点でした」

 

ミナは悔しげに頭をガシガシと掻き、ルルは一周回って感心した、とばかりに肯いて。

 

二人共が廻と夕を見た。

 

「廻さんは博士と秋遂さんに連絡!夕ちゃんはハッキングしてなんとか食い止めて!」

 

「僕は死霊術にて、あの骸骨の艦長さんを召喚します。空悟さんと岬さん、恋さんは何かあったときのために待機でお願いしますね」

 

ミナの言葉に夕が『最悪、沈めるが構わんか?』と聞いてきたので、「あたりきしゃりきのこんこんちきよ!」と返して、ミナはルルを向き直る。

 

「俺らはほんとに待機でいいのか?」

 

「なのです」

 

「マジでなんかあった時、竜の兜と魔法少女の力が必要だから、今はそれで頼む!」

 

二人は指示を飛ばし、仲間がコクリと首肯したことを確認して―――そして勇者は祖母をちらりと見た。

 

「ばーちゃんは……海の精霊に呼びかけて、なんとか浮上を妨害して!」

 

孫の言葉に、カレーナは「やれるかどうかはわからんが、なんとかしてみよう」と唇を尖らせる。

 

『ミナ。博士に連絡はついた。秋遂を経由してなんとか妨害してみるとのことだ』

 

廻がそう言って、『夕、演算補助を開始する』と妹機の肩に触れた。

 

『すまん!相当これはいじられている!緊急停止論理鍵が必要かもしれん!』

 

夕はそう返して、システムへの介入にさらに没頭する。

 

その様子を見てミナは「封印、限定解除よ」とルルに言って呪文を唱えた。

 

「―――森人の勇者が死の王へと、我らが偉大なる調律者ディーヴァーガの名と契約において命を下す。この鉄の船を差配するものを呼び出し、もって浮上を阻止するべし」

 

「主命、たしかに。ルル・ホーレスは主との契約に従い、死すらも葬らん」

 

ミナの額への接吻とともに、ルルの瞳に紫色の光が宿り、死の王としての権能を取り戻した少年は呪を紡ぐ。

 

「死よ。死の死たる根源よ。墓所に眠りし者たちに今一度の生を与えよ。仮初の中で、我は汝らを支配せん」

 

呪文が完成すると、ルルの手に一本のタクトが握られていた。

 

『……ここは』

 

そのタクトを振ると、すぐさまに黒い光としか形容できない粒子が空間へ撒かれて、そしてそこには訝しがる旧海軍の軍服を着た男がいた。

 

骸骨ではなく、その青褪めた顔を除けば生きているとしか思えない―――動く死体だ。

 

「すみません、突然お呼び立てして申し訳ありませんが―――」

 

『うむ。わかっているとも。艦が浮上しようとしている―――これも運命か。止めようというのだね?』

 

その男は。

 

顔だけがはっきりと見えないその初老の男性は、『緊急停止用の論理鍵は―――『ニイタカヤマノボレ0815』だ』と夕に教える。

 

『かたじけない、艦長!』

 

「―――0815、ですか」

 

礼を言う夕の焦りぶりと対照的に冷静な岬が聞くと、『何の数字かはわからないな……だが、重要な数字に思える』と艦長は呟いて―――

 

『私への用事は、浮上阻止で終わるということでいいだろうか』

 

「ええ……沈めるにしろ何にしろ、あなた方は昇天……この国だと成仏というのでしたね。正しき死の国へと送りましょう」

 

ルルがそういうと、船が浮き始める。

 

『―――緊急停止論理鍵は効いている―――が、あの魔王め!機構の一部を独立化しているッ!!』

 

夕が憎々しげにそう叫ぶ。

 

『切り離しは?』

 

『出来ませんな。艤装委員長としてなにか手は?』

 

艦長の言葉に、夕は努めて冷静にそう返す。

 

「おーい!ポントスに抑え込ませるのも限界じゃぞ!でかすぎるわい!!」

 

浮かび上がった船は、しかしそのまま浮上はしていかない。

 

不自然な力に押さえつけられているのは、それはカレーナが呼び出した水の上位精霊ポントスに寄るものである。

 

「おばーちゃん!あたしも手伝いますですか!」

 

「不要じゃ!ポントスは古き精霊!古すぎて知を持たぬ厄介者ゆえ、契約者以外の呼びかけには傅かぬ!」

 

カレーナはすでに額に脂汗をにじませているが、魔力を補充しようにも岬が直接それが出来るのは恋だけだ。

 

そして魔力・精神力の譲渡は神聖魔法の範疇。

 

それが出来るのはこの場ではミナとルルだけである。

 

「むむむ……なのです」

 

岬は悔しげに唇を歪め、恋が「今は待ちだ。出番は来るって」と彼女の方を叩いた。

 

一方で空悟は、難しい顔でミナを見つめて―――「アレだな。うん。今俺に出来ることはない―――か」と肯いて目を瞑る。

 

『……うむ、これは浮上自体は阻止できぬと見るべきだ。隠蔽機能の復旧に尽力すべきだろう』

 

艦長はそう言って、『承知!』と返した夕に満足気に肯いた。

 

『秋遂に逆噴射をさせているが―――』

 

廻がそうして今頃は艦を水底へ戻そうと奮闘している秋遂へ通信を繋いだ。

 

『ますたぁ。後一分三十七秒で発動機が過剰発熱域に入ります』

 

無感情なそんな声が聞こえて嘆息した。

 

『聞いてのとおりだ後は―――』

 

「わかってるッ!一秒でも長く艦を押し留める―――!荒ぶる嵐と渦の王!あらゆる船を食らう狂える海の主クラーケンよ!」

 

ミナは右手のマスターリングに集中し、水の王の一人クラーケンを召喚する。

 

「怒りのままに猛り狂え!汝の暴虐こそ荒ぶる水故に!」

 

それは第十位階にある水の精霊術、ストームスクリーマーである。

 

海水を操り水の竜巻を作り、あらゆる船を沈める対軍隊用の精霊術である。

 

―――虹の帝ティトゥスはこの術で十万の軍船を沈めたと言うが―――

 

その威力は確かにあった。

 

排水量にして12万トンに及ぶ船の浮上が――― 一時的に止まる。

 

ギギギギギギギッ!船が歪む音が聞こえる。

 

「いよぉし!効いてるわね!ばあちゃん、大丈夫!?」

 

ミナが聞けば、「何も問題はないわい!」と返してきたので、孫娘は「それでこそ」とつぶやくと、精霊術へと集中した。

 

『海面まで、後五百米―――四百米―――三百―――二百―――』

 

廻が静かに浮上までの距離を算出する―――そして。

 

『―――隠蔽機能復帰。光学迷彩稼働、赤外線、紫外線、可視光―――マイクロ波、ミリ波、センチ波、メートル波、遮断!』

 

夕が叫ぶ。

 

ステルス機能の復旧を示すように、艦長室の警告音と赤いランプの光は消え去り―――

 

静寂が取り戻される。

 

『―――秋遂から報告。信濃の光学迷彩、外部観測では正常稼働中』

 

廻が夕から接続を解除して立ち上がり、人のように『ふう……』と瞑目してため息をついた。

 

『艦長……協力を感謝します』

 

夕も立ち上がり……兄機と共に敬礼を取る。

 

夕は海軍式の脇を締める型の、廻は陸軍式の大きく脇を開ける敬礼をする。

 

『うむ……役に立てて嬉しいよ。最初に言ったと思うが、この艦の……信濃のことは頼むよ』

 

艦長は答礼を返して、その答礼した指の先から徐々に崩れだしていった。

 

『これでお役御免だな。ありがとう……』

 

「いえ、こちらこそ。あなた達を使役するのは無粋なので、安らかに成仏されるとよろしいかと」

 

目から紫色の輝きがなくなったルルが微笑むと、艦長はフッと笑ってミナを見た。

 

「―――岬、恋ちゃん……頼むわ」

 

ミナが岬と恋にいうと、恋は岬の肩に黙って触れた。

 

「全力でやるのです」

 

「おっけーだぜ」

 

少女たちはそう言い合って、そして岬は杖を高く掲げた。

 

「船を覆え、船を覆え、追葬の花弁が降り注ぎ―――悪しき夢は終わりを告げるのです」

 

金色の光がステッキから放たれる。

 

「明日のエネルギーよ―――悪しきを、凶つを、魔に落つ前の姿へ―――追憶の花弁よ。天より降り注いで雨となり、悪夢も絶望も何もかも洗い流して―――アナン・レインボー・レイニーデイ」

 

岬の声と光に従ったかのように、艦長室そのものが動きだした。

 

「―――これは」

 

『緊急用の移動装置だ。艦尾格納庫へ出るぞ』

 

艦長の言葉通り、やがて艦長室は艦尾の―――海が見渡せる場所へと現れる。

 

真っ暗だった部屋の窓から見えたのは―――空から降り注ぐ天気雨と輝く虹。

 

『―――これで皆、成仏できるだろう。ありがとう……』

 

艦長はその言葉だけを残して崩れ去った。

 

後には太陽を受けて光り輝く雨と虹。

 

―――やがてそれも消え去って、静寂と凪が戻る。

 

「―――これでようやく……」

 

「終わりですねえ……」

 

気が抜けたのか、勇者と魔法少女はへたりと床に尻をついて。

 

「―――帰りましょうか」「そうだな」と勇者の従者と親友がニッと笑う。

 

『夕』『問題はない……』

 

短く名前を読んだ兄に、妹は瞑目してそう答えるのであった。

 

 

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