異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第261話「幕間1-3 本当になにか出たのです」

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「まー、一人二つくらい怪談をお話して、そしたらろうそくを消すのです。で、百話したらなにか起こるということみたいですけど、ぶっちゃけ本当に起きてもらっても困るので今日は少なめに話すのです」

 

岬がそう言って指を振る。

 

エアコンは効き始めているものの、やはり本日は熱帯夜。

 

まだぬるつくような湿度と25度近い気温が残る中、怪談大会は始まる。

 

最初はとおるから。

 

それはとても有名な、「ベッドの下の男」であった。

 

「―――ある日。私の従姉が―――」

 

「「ごくり……」」

 

自分の身内のことである、と偽ったその語り口に怪談好きのななかやヨシヤまでも息を呑む。

 

―――気のおけない友人とのお泊りでのくだらない語らいの夜。

 

夜も更けて。

 

やがて従姉の友人は、従姉の手を握り―――

 

「『買い物行こ。コンビニ。いますぐ!』と有無を言わせぬ迫力で、従姉を連れ出したの」

 

そして、その向かう先は―――近所の交番。

 

混乱する従姉。

 

従姉の友人は言う。

 

ベッドの下に、人がいた、と。

 

「―――そう。ベッドの下には―――ナイフを持った男が一人―――従姉のお姉さんを殺すために、潜り込んでいたのでした……もしかすると、この話を聞いたあなたのところにも―――ふふふふ、おしまい」

 

とおるは最後に柔和な笑みを浮かべてろうそくを消し、話を締めた。

 

「ちょ、ちょっと怖いんだけどぉ!ボクのベッドの下にはいないよね!?」

 

怯えたかけるがとおるの肩をつかむが―――

 

とおるは柔和な笑みを崩さないまま、「そりゃもう。これは有名な都市伝説だもの。現れるはずがないわ」とにべもなく返した。

 

「あー、アメリカで噂になった話だろ。俺も知ってるよ」

 

「ベッドの下の男」というのはアメリカ発の都市伝説の一つで、とおるが話したとおり、ベッドの下に部屋の主を害する目的の刃物を持った男が潜んでいた、というものである。

 

「じゃあ従姉ってのは!?」

 

「私の親戚に従姉のお姉さんはいないわね。従兄のお兄ちゃんはいるけど」

 

叫ぶかけるに、とおるはしれっと返して「じゃあ、次は恋ちゃんね」と振る。

 

まだグズグズしてるかけるをよそに、恋は「じゃあ、似たような話で。これはあたいの事務所の先輩が実際に体験したことだって話だぜ」と平素と変わらない調子で話を始める。

 

―――それはまたベッドの下の男の類話「ベビーシッターと2階の男」であった。

 

 

 

しばらくして。

 

最後に岬がまた、締めの話として一つの怪談を話していた。

 

「これはあたしの親戚のシステムエンジニアさんから聞いた―――実話なのです」

 

―――あるシステムの導入を行う長期プロジェクトで、システムエンジニアたちが与えられた小さな部屋があった。

 

小さな会議や打ち合わせ程度ならその部屋でできるのは間違いない。

 

だというのにもかかわらず、医師も看護師も誰一人としてそのプロジェクトルームへ近づくことはなく、打ち合わせは会議室や各現場で行われていた。

 

―――そっとシステムエンジニアが看護師にそのことを聞いてみたが、口をつぐむ。

 

その様子に湧き上がる好奇心を抑えられなかった彼は、幾人かにそのことを訪ねてみた。

 

「そうして――― 一人の年配の看護師さんがこう答えました。そう―――その部屋は」

 

「……そ、そそそそそ、その部屋はぁぁぁ?!なんなのぉぉぉぉ!?」

 

かけるが怯え切ってそう聞くと、岬は瞑目して―――数瞬後にカッと目を見開く。

 

「その部屋はかつて手術準備室として使われていた部屋。その準備室は―――」

 

ニタァ、と岬が不気味に―――久しぶりに廻に叱られそうな嫌な笑みを浮かべて。

 

「……かつては、手術で死人が出てしまったときの――― 一時待機場所でもあったというのです……」

 

「みぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

かけるの絶叫が体育館に響く……

 

そしてそのシステムエンジニアはと言えば。

 

そんなことを聞いてしまった後だからだろうか、その部屋がサーバ室として機能するよう十分に冷房設備が整えられていたからなのか。

 

時たま、啜るような音と猛烈な寒気を感じつようになったのだという……

 

「そうして、その彼はもうこの世にはいないそうです。その方がどこでどうして死んだのかは、あたしも何も知りません―――どっとはらい」

 

岬はそう言って、無言の友人たちの反応を待つことなくLEDろうそくを消して腕を組んだ。

 

―――ちなみにこれはミナが三郎であった頃、先輩SEから聞いた話である。

 

無論脚色しているため、その先輩が死んだわけではないのだが……

 

「……オチがないのね、また」

 

「オチがあるのって怖くなくないですか?」

 

とおるが不満そうに言うのに対して、岬はそう答えて嘆息した。

 

そうして全員が一通り怪談や都市伝説を話し終わった後、全く全然怯える様子もなく笑っていたななかが、ピクリとして硬直した。

 

―――それはなにか。

 

「……あれぇ……?なんかいるぅ……?」

 

「うん、なんかいるな……」

 

ヨシヤもそれに同調する。

 

二人は野球少年と元気っ子らしく、視力は両方ともに2.0である。

 

「え?何かいる?」「う、ううううううう嘘だよね!?」

 

ななかが指さした方向に、何かが浮かんでいるのがわかる―――が、とおるやかけるは見えてはいないらしい。

 

もちろんそれは。

 

「……見えますですよ」

 

「ああ、あたいにも見える」

 

二人もまたそうしてななかの指す方向を見る―――

 

(何が見える?)

 

(死んだあたしのおばあちゃんなのです。そちらは?)

 

(3年前に死んだじいちゃんだ)

 

目配せ……ではなく、新しく覚えたテレパシー魔法で意志を疎通させて二人はコクリと肯いた。

 

きっと一年前の自分ならパニックになってるだろうなあ、と岬は微笑んでななかとヨシヤを見た。

 

「ふたりとも何が見えるです?あたし、亡くなったおばあちゃんが見えるですよ」というと、「えっ……いや、ななかにはなんか変な靄にしか見えないけど」と返してくる。

 

「俺も同じだ。ばーちゃんが見えるって、それ怖くないの?」

 

ヨシヤがそう聞くと、岬は「書割というか、写真みたいな感じに見えるので怖くないのですよ」と返し、これはなんだろうかと思案する。

 

「かけるちゃんにも見えない?」

 

「み、みみみ、見えない!ボクには何も見えないッ!!」

 

恋の質問に、かけるは恋にぎゅーっとしがみつきながらそう答えた。

 

「……何か起きてしまったので、帰りますです?」

 

岬はそう言って、友人たちを見回すと。

 

かけるは腰砕けで動けそうにない。

 

ななかとヨシヤは逆に元気そうだ。

 

そして恋は言うまでもなく、ニッと笑っている。

 

「……まだ帰りたくないみたいですね。じゃあちょっとした冒険なのですね。まずは見た目が違う理由を考えないといけないのです」

 

岬はそうして、まず自分に見えているのが死んだ祖母であること、恋が見ているのが彼女の祖父であることを軸に思案する。

 

(……最後に出たお葬式は確かにおばあちゃんの葬式だったのです―――恋ちゃんは?)

 

(あたいも覚えてるのはじいちゃんの葬式かな……みんなにも聞いてみようぜ)

 

岬はそうして「四人とも、誰か身内の人にご不幸があってお葬式に出た記憶はありませんですか?」と聞いてみた。

 

すると……

 

「ぼ、ボクの身内はぁ!ボクが生まれてから誰も死んじゃったりなんかしてないよ!」

 

かけるはそう言って、「もう帰ろうよぉ~」と泣き出してしまった。

 

それをなだめながら「私も同じかな……なんならお父さん、お母さん両方のおじいちゃんおばあちゃん、ひいおじいちゃんおばあちゃん、みんな健在だよ」と答えたのはとおるである。

 

「じゃあ、うっすらなにかが見えてるお二人は?」と聞けば。

 

「あー、俺がちっちゃい頃に爺さんが亡くなっててさ。俺も葬式に出たらしいんだけど、ぜんっぜん覚えてないな」

 

「うーん、ななかもおばあちゃんいなくて、ななかが生まれた後に死んじゃったって聞いたから。もしかするとお葬式出てたかも……?わかんないけど」

 

ヨシヤとななかそう答えると、岬は「……断定ではないですけど、見えているのはお葬式に出たことがあるから、かもしれないのです」と言って腕を組んだ。

 

「あー、つまりあれか。なんか幽霊かなにかが、人の記憶を映し出してるとかそういうアレ?」と恋が指を立ててパッと笑った。

 

「えー……そんな非科学的な。ありえないと思うんだけど」

 

否定的なのは実際に何も見えてないとおるである。

 

「うーん、とりあえず何の動きもないので危険はないと思いますです。今日はお開きにするですか」

 

岬がおおよそ正体を推理する材料は得たとばかりに、そういうとかけるが「うんうんうんうん!帰ろう!怖い!変なのいるんでしょくぉぉわいぃ!!」と涙目でとおるの服を引っ張っているので、岬は「それ以上引っ張ると服が破れちゃうのですよ」と言ってかけるをとおるから引き離す。

 

「うーん、かけるちゃんがこんなに怪談に弱いとは思わなかったなあ」ととおるは冷静に、少し伸びて胸元の小学生にしてはある胸の谷間が見えそうになった服を見つめてため息をついた。

 

「でもさー、これなんにもしてこないぜ。もやもやしてるけど、触ってもなんも反応ないし」

 

「ほんとだ。ふわふわっていうよりもやもやしてるよ、これ!」

 

野球少年と元気っ子はそうしていつの間にかその物体……?に近づいてペタペタと触っている。

 

岬や恋には、それが祖母や祖父に触れている友人たちに見えるのだからなんだか微妙である。

 

「……電気つけたら消えないかな、岬ちゃん」

 

「いいアイデアなのです、恋ちゃん」

 

このままだとなんだかずっとかけるの泣き声ととおるのため息とバカ二人のお遊びが収まらない、と思った恋の提案に岬が乗った。

 

「このままでは埒が明かないから、明かりをつけてきますですね」

 

「あ、うん、よろしく。ほら、かけるちゃん離れてってば!」

 

まだしがみつこうとするかけるを引き離そうと、彼女の頭と肩を手で押し続けるとおるを後目に、岬は管理室へと向かうのであった。

 

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