異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第262話「幕間1-4 謎の死体みたいなものがあったのです」

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―――そして管理室についた岬たちが見たのは、それは……

 

「……ちょっと、みんなを連れてこなくてよかったな、これ……」

 

「……なのです。これは、死体……?いえ、なんだかおかしいのです」

 

そう、管理室には明らかに死んでいる見たこともない男がいたのだ。

 

いや、”あった”というべきだろうか。

 

頬はこけ、顔色は土気色。

 

そして身体にはいわゆる国民服と呼ばれるもの。

 

戦前、国民と軍の距離を近くすることを目的として制定された標準服を着ていた。

 

「ああ。なんか良くないものを感じるな、この死体みたいなもの……ミナねーちゃんを呼ぶぜ?」

 

「頼みますです。あたしはちょっとこれを調べてみるのです」

 

岬は恋に連絡を任せ、そのカーキ色の軍服のような服を着た男に手を触れる。

 

温度は間違いなく死体の、冷たい温度。

 

―――しかし、30度近くある今にしては冷たすぎる温度をしていた。

 

「……外傷は、あるですかね?」

 

彼女は死体の国民服を脱がそうとするが、服はベッタリと死体に張り付いて簡単には脱がせそうもなかった。

 

「……まるでそうと作られたような……」

 

しかし、死体くらいでは動じなくなったな……と自分の感覚の麻痺度にたはは、と苦笑して、死体の顔を見た。

 

「30歳にはならないくらいの人……死因はわからないのです。少なくともあたしではわからないですね」

 

そう呟いて死体の臭いをかぐ。

 

「血臭も死臭、腐臭もなし……生肉めいた臭いが何もないというのもおかしな話なのです」

 

そこまで言ったところで、ガラリと管理室のドアをゆっくりと開けて恋が入ってきた。

 

「どうです?」

 

「……やっぱつながんねえ。これ、学校の怪談って昔のホラー映画で見たシチュっぽいな……」

 

どこかそれを二人共が予想していたのか、魔法少女たちはお互いに見つめ合ってからハァと大きなため息をついた。

 

「とりあえず体育館の電気を点けましょうですよ」と岬が言って、電源をつける。

 

その間に恋は椅子にぐったりしている死体を床に寝かせてやった。

 

果たして電気はまともに点いて、体育館の中を眩しく照らし―――

 

「うわーーーーっ!?」

 

そちらからかけるの大音声が聞こえてきたのであった。

 

「チッ!まさか本当になにか起きるとは!」

 

「あたしたちだけで調査するべきでしたですかね……?」

 

岬はステッキを出してそういうと、「ミナねーちゃんも大したことないって言ってたからな……」と恋もまたステッキを出した。

 

そして体育館へと入っていくと―――そこには。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「か、鏡が……?」

 

そこには大きな鏡と、映し出される―――影のような何か。

 

それも一つや二つではなく、30ほどはいる。

 

悪意や敵意を魔法少女たちは感じることがなく。

 

「か、鏡……なんか出てきたぁ!?」

 

騒いでいるのはかけるだけ。

 

「鏡って何言ってんだ?なにもないだろ」

 

ヨシヤがそうして影をすり抜け、鏡もすり抜け、うろうろと周りを歩く……

 

「えー、かけるちゃんだけになんか見えてるん?嘘だぁ」

 

ななかもキョロキョロと周りを見渡すが、何もないかのように影も鏡も無視し、かけるにしがみつかれたとおるは「ほら、落ち着いて。何もいないから」と彼女をなだめていた。

 

―――かけるだけに見え、他の子達には見えていない。

 

つまり、これは魔法少女の力を持つものだけにしか見えていないということだ。

 

そうであるならば話は早い。

 

「みんな落ち着くのです。まずは外に出ましょうですよ。ミナちゃんのところに戻りましょう」

 

「そうね。そうすべきだわ」

 

とおるが賛成すると、かける以外の二人も「そうだなー影山限界みたいだし」「かけるちゃん、マジでそう言うの見えてるのかな?すごい。でも、とりあえずお腹すいたから帰ろ!」と賛成した。

 

「んじゃー、あたいが管理室の鍵閉めてくるから」と恋がいって、素早く管理室へ走っていった。

 

影はその間にも鏡から何体も出現していて、しかし敵意も悪意も邪悪な気配もなく、ただただ生み出されていく。

 

影が体育館を埋め尽くした頃、6人は体育館の外へ出て鍵をしっかりと閉める。

 

「うぇぇぇぇん!こんなのあるなら言ってよぉ……!」

 

完全に腰が抜けたかけるは、岬におぶわれながらそう涙目でぐずっていた。

 

「まぁ、いいではないですか……特に危険なことはなかったですし」

 

「なんか変なのは見えたけどね」

 

そうして管理人へ電話をかけ―――こちらはつながることを確認する。

 

「はい。はいなのです。鍵は……はい、保護者と一緒にそちらへ行きますです。はい」

 

岬がそう電話口で言って、まずはミナと合流を目指して校庭を歩いていると、向こうから金髪の少女と銀髪の少女にしか見えない少年が走ってくるのが見えた。

 

「あーあっちも気づいてくれていたみたいなのです」

 

岬が苦笑すると、恋もそうする。

 

―――体育館から感じた微弱な気配は、今もなお背をチクチクと刺すように感じている。

 

岬と恋は、軽い気持ちでもしかすると友人を危険に巻き込むかもしれなかったことに少しだけバツの悪い気持ちになり。

 

次は二人だけで忍び込んで、解決を図ることを内心で誓うのであった。

 

 

 

「……で、その死体は?」

 

「あたいが鍵を締めに行ったときには、影も形もなくなってた」

 

かけるたちをそれぞれの家に送った後、ミナ、ルル、岬、恋の4人はファミレスで食事を取りつつ今日の出来事について話していた。

 

「そっかぁ。私らも突然体育館に変な気配が出てきたから、何かあったのかと思ったけど……」

 

「多分それは雑霊のたぐいでしょうね。僕としては鎮めておいたほうが良いと思いますよ」

 

ルルが注文したサラダを食みながらそういうと、ミナも「そうね。そんなに難しいことはないことだし」と肩をすくめてスープバーのスープを飲む。

 

「あたしたちだけで平気ですかね?」

 

「多分。ただ万一のため、博士から通信機預かってくるべきね。バグやリソースの影響下でも動くやつ」

 

首をかしげて自分たちの実力を疑うような素振りを見せる岬に、ミナはバックアップさえしっかりしていれば二人だけでも大丈夫と太鼓判を押す。

 

「少なくともふたりとも、研究所表層部はもう二人だけで余裕で突破できるし、地下のほうも空悟、廻さん、夕ちゃんの誰かいれば安定して攻略できてるし」

 

ミナがそう言って、フォークでルルのサラダを少し刺して奪うと、ニッコリと笑った。

 

「ミナさん、僕のを取らないでくださいよ。まあ、僕もミナさんの意見に賛成です。ふたりとも、あちらでも十分に冒険者としてやっていける力量は身につけていると思いますよ。年齢的にギルド登録はできないですけど」

 

自分のサラダを盗ったミナを嗜めると、ルルもまた太鼓判を押す。

 

「いいじゃない。私のも少しあげるわよ。そんなわけだから、明日にでも忍び込んで見ることね。私の黒装束貸してあげる。あの程度の鍵なら、アンロックで簡単に開くはずよ」

 

ミナはサラダをトラれることに抵抗したルルの耳にフッと息を吹きかけると、そう言って微笑む。

 

黒装束は……集成党の支部へと忍び込んだときにも使った陰陽術による加護のかかった忍装束である。

 

それを着ればまず小学校程度のセキュリティであれば見つかることはないだろう。

 

「わかったのです。やってみますですよ」

 

岬は小さく微笑んで、そして―――

 

「それにしても死体が気になるのです」

 

「そうだよなあ」

 

コーラとジンジャーエールを1:1で混ぜたコークジンジャーもどきを飲みながら、恋は岬の言葉に同調する。

 

当然、それに答えるのは耳に息を吹きかけられてわずかに顔を赤くしたルルである。

 

「ああ。あそこには死の気配はほとんどしませんでしたので、実体ある幻の類でしょう。原理はミナさんがよく使うファントムハンドと同じです。魔力や土地の瘴気で物理干渉力を持つ、しかも傍目にはそこまで違和感のない幻が作られる。それも岬さんが潜在的に持つ浄化の力で消えなかったことから、殊更に邪悪なものではないでしょう」

 

ルルは言い終わると、赤くなった顔を誤魔化すかのようにアイスコーヒーを口にした。

 

その様子に、岬はわずかに苦笑して、顔を引き締める。

 

「思いっきり見えてたかけるちゃんはどうしましょうですかねえ……」

 

岬は少し眠くなってきたのか、机に頬杖をつくと目を瞑った。

 

「んー……まあ最悪記憶操作でなんとかなるでしょ。ね?」

 

「そうっすねー」

 

アイドルのためか夜更かしに慣れている恋は、隣の岬とは対照的にしゃきっとしていて自分の分のサラダを食んでいる。

 

「ただかけるちゃん、本気出したら多分あたいらより強いから、効くかどうか怪しいですけど」と肩をすくめて。

 

そう、彼女の中にはまだ古くから保存されてきた影山家の長女の魔力が今も存在している。

 

呪いが解け、正しく使えるようにはなっているはずだが……

 

「あー……それもそっか。まあ、そん時は私がなんとかするから良いわ……ほら、起きて岬。ご飯着たわよ」

 

コクリコクリと船を漕ぎ始めた岬に声を掛けてすぐに、フレンチメイドに近い制服を着た店員が「ご注文の品、お持ちしましたー」と気だるそうな声を出しながら注文の品を持ってきたのであった。

 

岬はハッと目をさますと、目の前に出てきた鉄板焼チャーハンを見る。

 

「……あ、明日は昼間寝ておかないといけないですね」

 

夏休みに入ってから、冒険と遊びを繰り返した疲れでも出ているのか、かなり眠そうな岬であった。

 

 

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