異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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―――翌日の夜。
二人はミナに着付けてもらった黒装束を身に着け、少女忍者の体で体育館の前に来ていた。
時間は―――午前零時。
用務員も帰宅し、完全に校内は無人である。
―――体育館の気配は、変わらずそこにあったが……
「む、これは……」「なんだこれ……」
まっすぐそちらへと歩いていくと、地面が歪む感覚がした。
体育館へ向かえば向かおうとするほど、その歩みは遅くなる……
これは一体どういうことか、と二人は顔を見合わせた。
「……妨害、なのですかね」
「そうかも。正門つーか、校舎の方から入ってみようぜ」
恋がそう提案し、校舎へと歩き始めると本当に地面が歪む感覚は消え失せる。
「……校舎へは入っていいというのであれば、いきましょうですよ」
岬はニパッと笑って、そちらへと向かう。
……そうして、校舎への入り口を見れば……
「……こんなん、昨日はなかったように思うのですが」
「だよなあ。これ、どう見てもルルにーちゃんが呼び出すガーゴイルだよなあ……」
鎮座していたのは、ガーゴイルのような形をした銅像が二つ。
しかし、動く気配も魔力の気配もない……
そして立て看板があり、「これより先、一切の希望を捨てよ」とダンテの神曲にある地獄の門と同じ言葉がおどろおどろしい字体で記載されていた。
「……よほど成仏したくないのですね、これは……」
「どうする?ミナねーちゃん呼ぶか?」
「いえ、見ての通り大した力を感じないので、そのまま向かいましょうですよ」
そうして恋の言葉に、気にせず行ってみようとばかりに忍装束のまま岬はガラスのドアに手を当てる。
「―――世界を支配する偉大なるロジックよ、我が声に従い閉ざされたものを開くのです。アンロック」
岬の唱える古代語に従って彼女のステッキに光が宿り、すぐにも校舎のガラスドアのロックは開いた。
「さあいきますですよ」「おー」
二人は僅かな緊張感と少しの期待を持って、校舎へと足を進めるのであった。
中に入ってみれば、そこは昼間の校舎とはまるで別の場所であった。
岬は廊下の明かりをつけようと、照明のスイッチに手をかけるが……
「むう。無反応なのです」
岬はカチカチと何度押してみても全くつかない照明に、唇を歪める。
「それだけじゃねえな。順路決まってるみたいだぜ。ほら、職員室の方にはいけねーし」
恋が職員室の方へ歩いていくと、また床が歪んでいき、どうやってもたどり着けないのである。
「魔法で校舎ごとぶっ飛ばす訳にはいかないですしねえ……」
岬はステッキをギュ、と握ってため息をついた。
そして正門から向かって左方向の職員室へ行くことは諦め、右へと曲がって廊下を進む……体育館とは完全に逆方向だ。
「……で、階段を登れ、と」
「うっへ、こっち理科室じゃん。定番のアレ来ちゃうかな……?」
恋が嫌そうに舌を出すと、岬は「でもうちの学校に人体模型もホルマリン浸けもないですよ?」と首を傾げる。
「いやあ、普通ならそうなんだろうけど、理不尽と超常現象の塊だしね、あたいらのお相手」
恋がヒヒヒ、と笑って階段に足をかけて登っていく。
それを自分もついていけば、たしかに順路は理科室行きのようであった。
―――惟神小学校の理科室には人体模型がない……
いや、正確にはあるのだが30cmクラスの小さなもので、それなりの世代の人間が思い浮かべるような人とほぼ同じサイズのものではない。
それも使用する時以外は箱にしまわれているのだから、転校してきたばかりの二人が気づくはずもないのである。
無論、30cm程度であっても本当に動けば怖いものだが……
「……うちに人体模型あったのですね」
「ちっさ。しかも1体かよ」
カチャ、カチャ、と音を鳴らしながらそれは無機質に、不気味に近づいてくるが……
「まあ、あたいらにはなにも怖くないっつーか……」
「もうゴーストやらドール系モンスターやら見慣れてしまったのですよ」
二人はわずかに感性が前とぶっ飛ぶほど変わってしまったことに遠い目になりつつ、人体模型を壊さないようにそっと理科室を通り抜ける。
『なんでよ~~!』
一瞬、後ろからそんな声が聞こえたが、振り向いても誰もいない。
「……あたいらと同じくらい子供の声……?」
「みたいなのです。動くちっさい人体模型よりもちょっと今のほうが怖いかもですね」
岬は苦笑する……
邪悪な気配を全く感じなかったことから、おそらくは脅威ではないと二人は認識して理科室を出た。
……廊下は暗く、シンと静まり返っているが、岬はすでに精霊術のインフラビジョンを使用しているため視界は問題ない。
問題なのは、やはり順路でしか進んではいけないようであることだけだ。
「……次は図書室なのです。うちの図書室はラノベも漫画もあんまり置いてないのでつまらないのです」
廊下がこれ以上進めないことを確認した岬は、その右にある扉の看板を読み、ガラリとドアを開けて入っていった。
そこには……
「……前の自分ならヒィって叫んでたのは間違いないのです。これは……」
やはり邪悪な気配は何も感じない、薄ぼんやりした子供たち……おそらくは過去の図書室利用者と思われる影がたくさんいて、無言で本を読んでいた。
しかし、特にこちらに攻撃してくる様子もなく、ただただそこにあるだけだ。
「うーん……まあ、いいのです。特にギミック的なものもないようですし、次へ……む?」
岬が図書室の後ろ側のドアを開けて出ようとすると、開かない。
すると、ぼんやりした姿の少女が本を渡そうとしてきた。
(本に関わるギミックを解け、ということなのでしょうけども、それに付き合う必要はないのですよ)
岬は苦笑してその本を受け取ることを、やんわりと辞退するとドアに向かう。
「ごめんなさいなのです。急いでいるものですので―――世界を支配する偉大なるロジックよ、我が声に従い閉ざされたものを開くのです。アンロック」
ステッキでドアに触れて、そう唱えればドアはするりと開き、後には廊下の暗闇があった。
「じゃ、行こうぜ」
困惑している薄ぼんやりした少女を後目に、二人はまた廊下へと出ていく……
『なんでだよう……』とまた声が聞こえたが、二人は半ば無視して先へと進んでいった……
―――それから体感で1時間ほど経過する。
しかし次から次へと学校内の実習系教室を巡るばかりで、一向に体育館への道は開かれない。
中途に魔物が出るわけでもなく、ただただ二人は忍装束のまま歩き続けていた。
「図書室4回、家庭科室5回、理科室2回、音楽室1回……ですね」
「うーん、ここまでだってことはやっぱギミックを解除していったほうが良いのかね」
図書室の前で立ち止まった二人は、そう言い合い図書室へと入っていく。
「まあ力技で無理なら、従ってみるのも手なのですね」
岬はそうして薄ぼんやりした生徒たちを避けて、開いている机に座ると夜食に作ってきたサンドイッチとお茶を広げた。
「……図書室でご飯食べて良いんだっけ?」
「緊急避難なのです。家庭科室で食材が踊ってるのを見ながらご飯はなんか胃に悪い気がするのですよ」
岬はニパッと笑うと、サンドイッチの入ったバスケットから卵サンドイッチを取り出して「いただきますなのです」と言って合掌した。
「まあいいか……いただきます」
恋もそうしてツナマヨサンドイッチを取り出して口に入れる。
それからしばらくして、二人がお茶も飲んで一息つくと、待っていたかのように奥から本を持った薄ぼんやりした少女が現れる。
どこかプンスカと起こっているような雰囲気をまとわせた少女は、手に持った本を少し乱暴に岬の前において腕を組んだ。
「あはははは……ごめんなのですよ。これは……」
岬は謝ると、置かれた本のタイトルを見る。
「上杉鷹山とはまた渋いものを……」
岬は渡された本のタイトルを見て苦笑した。
上杉鷹山とは本名を上杉治憲といい、出羽国米沢藩の九代目当主である。
渡されたタイトルから、それにまつわる何かを解かなければならないはずであるが、岬は近代史……というより架空戦記の主な舞台である戦国時代や第一次世界大戦から第二次世界大戦までを詳しく知っていて、それ以降やそれ以前については曖昧な部分も多い。
「……恋ちゃんは詳しいです?」
「なわけないじゃん……」
二人は苦笑し合い、そして薄ぼんやりした少女を見つめると……
彼女は何かに気づいたかのように本棚の方へ向かって、今度はまた別の本を―――
「魔術師のくだものづくり?」
恋はタイトルを読んで訝しむようにそうつぶやいた。
「何がどう関係してるんですかね、これ……」
岬はとりあえず中身を読んでみようと思って、ページを繰っていく。
同じように恋もまたページを繰っていけば、双方ともになんだか引き込まれるものがあったのだろうか。
―――2時間ほど後。
二人は与えられた本を読み終えていたのであった。
「ふー面白かったのです」
「ああ、面白かった……けど、時間……もう3時に……?」
恋が苦笑してスマホの時計を見れば、時間は3時33分で完全に停止してたのであった。
「……時間は経ってない、ですか。すぐ薺川博士に連絡するのです」
「よし来た!」
恋がトランシーバーのようなものをカバンから出して操作すると―――
『こちら薺川だ。そちらは突入してから3分というところだな。秋遂からの観測によれば』
いつものしゃがれた骸骨の声が響くと、恋は「こちら恋だよ。3分?こっちの時間は3時33分に固定されてんだけど」と返した。
博士はその言葉に『うむ。こちらの真時間計測機では間違いなく3分だ。そちらは時間が歪んでしまっているようだな』と興味深そうな声を響かせる。
『その通信機はその時間の歪みを補正して会話を成り立たせている―――最悪の場合、他の人員は突入準備をしているから、君たちは安心して探索すると良い』
薺川はそういって、『現在、そちらの学校は、当世風に言うのなら未知のエネルギーフィールドに包まれておる。だが、内包する熱量は君たちを超えるものではない。最悪の場合、力尽くで浄化してしまえばどうにかなりそうだと、ミナくんも言っておるから安心したまえ』と続けた。
「承知したのです。それじゃあ先に進もうと思いますですが……ところで本にまつわるギミックなど、わかれば相談したいのですよ」
岬が割り込んでそう言えば、博士は『本か……何も見つからないのであれば、勧められるまま読んで見るというのはどうだろうか』と返してくる。
―――確かに本そのものに仕掛けも魔術的なトラップも見受けられず、何より岬の浄化の力に引っかかってもいない。
と、するならば……
そこまで考えた時、薄ぼんやり少女が笑みを湛えながらまた2冊本を持ってきた。
『……♪』
出した本を読破してくれたことに、どこか嬉しそうに。
「……なるほど。図書室は本を読むところですからね」
「じゃあ、とりあえず読んでいけば良いのか……」
恋が手に取った本には「ぼくらの七日間戦争」、そして岬が手に取った方は「ナルニア国物語1~ライオンと魔女~」とタイトルが記されていた。
「……気合い入れて読むか」「いえいえ、本は楽しんで読むべきなのです」
やれやれとおでこを拭く恋と、ニコリと笑う岬が本を取る。
薄ぼんやり少女は、その様子に音を立てないように手を合わせて「わぁ」とでも言うかのように微笑んだのであった。
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