異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第264話「幕間1-6 トイレ掃除なのです」

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―――体感時間にて約3時間後。

 

追加で2冊本を読み終わった二人は、薄ぼんやり少女を見つめて「まだおすすめある?」「まだ時間はあるようなのです」と聞いてみる。

 

薄ぼんやり少女はその二人に、悲しそうに首を横に振って微笑んだ。

 

「そうですか……でもまだ面白い本はたくさんありそうなので、卒業する前にまた来ますですよ」

 

「ああ、今度は昼にね」

 

微笑み返せば、薄ぼんやり少女は後ろを向いてそのまま本棚の方へ歩いていく。

 

すると、自然に図書室の後ろのドアがガラリと開いたのであった。

 

「なるほどですよ。あの子のおすすめの本を何冊か読み終わらないと出ていけないのが……」

 

「この部屋のギミックだった、ってわけだ」

 

恋がフッと息を吐いて、「じゃあ次行くか」と促した。

 

「はいなのです。理科室の人体模型とか、家庭科室の踊る食材とかも同じようにクリアできればいいのですけども……」

 

岬は唇に指を当てて、うーん、と一つ唸って外へ出ていくのであった。

 

 

 

―――理科室の人体模型は一緒に遊んだり、分解して組み立てていたらそのうちに動かなくなった。

 

家庭科室の踊る食材たちは、彼らを使って料理をしていたらそのまま料理だけを残して消えてしまっていた。

 

そして音楽室のベートーベンの肖像画は、岬がピアノを弾いていたらそのうちに目の光をなくしてしまった。

 

……どうやらその教室の正しい使い方をすれば、消えてしまうようである。

 

そして二度と「順路」には現れなくなる。

 

それがこの夜の学校に仕掛けられたものと言えた。

 

「学校の怪談にありがちな幽霊とか赤マントとかそう言うのは一切いない、というのもなかなかだねえ」

 

恋が次の「順路」になったトイレに入りながらそういうと、「ここはトイレですし、花子さんとか出るかもですよ?」と岬が微笑む。

 

新校舎……10年ほど前に改築された部分であるが故か、トイレは明るくきれいで、幽霊など出てきそうにもない。

 

「……とは言え、ここはどういうギミックがあるのですかね……普通にトイレを使えばいいってことなのですか?」

 

「別にもよおしてはいないから、うん、掃除でもしようぜ」

 

恋はそうして女子トイレの入り口においてあるロッカーからモップとクレンザーを取り出した。

 

「そうですね。いくらきれいなトイレだからと言っても、床は割と足跡できったないですもんね」

 

よく見れば、シューズから剥がれ落ちた樹脂などによる黒や青の線めいた汚れが目立っている床を見つめて岬は小さく汗を垂らす。

 

そうしてバケツと雑巾を取り出して、便器の掃除の構えに入った。

 

「トイレ掃除、嫌がる子多いよね。他人の汚したトイレなんて、どんな病気もらうかわからないし残念でもないし当然だけど」

 

「あたしは元コンビニ店長ですから、そこらへんは全然気にしないのです」

 

岬はそう言ってどこからかマスクを取り出すと恋に渡して、「さぁ掃除しましょうですよ」と言って掃除を開始した。

 

「落ちねーなぁー」

 

「仕方ないのです。普段は放課後に10分か20分くらいしか掃除しないのですから」

 

ゴシゴシと便器を拭きながら二人はぼやく。

 

やがて1時間ほど掃除を続けると、女子トイレはほとんど作られたときの輝きを取り戻していたのであった。

 

「やっぱりトイレはきれいな方が気分がいいですね」

 

「だねー……ッてここまでする必要があったかはわからんけども」

 

ピカピカと蛍光灯に照らされて輝くそのトイレに満足気に微笑んだ岬に、恋はそう返して後ろを振り返った。

 

すると、トイレの入口に誰か立っているではないか。

 

それは赤いマントを身に着けた薄ぼんやりした少女で、小さく『ありがとう』と言って消えてしまった。

 

「……いましたねえ、花子さん」

 

「赤マントじゃないの?」

 

二人はその様子を恐れることなく顔を見合わせて苦笑する。

 

「……ゴースト系かな?」

 

「負の精霊力は感じませんですから、多分土地の精霊か学校の精霊のたぐいなのです」

 

『なんでだよぉ』と聞こえたあの声は、ギミッククリアに血道を上げている今は全く聞こえていない。

 

岬はミナから精霊術を教わる際に、精霊は何にでも宿り、その方向性も千差万別だと言っていたことを思い出す。

 

建物に宿るブラウニーは建物がなくなれば消えてしまうが、それがこの世界で適用されるかはわからない……

 

この惟神小学校は、明治時代にその基礎が出来たもので、旧校舎の一部が10年前の改築時まで残っていたとミナは言っていた。

 

完全に壊されたのではなく、改築と修繕を続けた建物ならば……建物の中位精霊と呼ぶべき存在が生まれていてもおかしくはない、と岬は考えた。

 

「通信でミナちゃんに話を聞きましょうですよ」

 

岬はそうして、恋からトランシーバーを受け取る。

 

「あーあーテステス。こちら岬なのです。博士、ミナちゃんはそこにいますか?」

 

『ああ、いるとも。替わるから待ち給え』

 

そうしてすぐに通信は繋がれ、ミナの声が聞こえてきた。

 

『元気そうね。ミナよ。どう?』

 

「全然平気なのですが……建物の中位精霊っているです?」

 

岬の質問に、ミナは『いるわよ。ブラウニーはせいぜい10年もすれば住み着くけど、それは100年くらいだから殆どの建物には……あ、そっか。惟神小学校はもう創立100年くらいだもんね』と軽い返事が返ってくる。

「それはどんなのなのですか?」

 

『んーーー……まあ、名前は『ニコラース』よ。形は建物によって千差万別』

 

「なるほど……」

 

『今の岬なら契約を結ぶこともできるでしょう。黒幕がそれかはわからないけど、やってみて損はないわ』

 

ミナは自信を持て、と一言で言って通信を切る。

 

岬はその言葉にホッとして、恋を見る。

 

「じゃ、行きますですか」

 

「もちろんだ」

 

二人はそうして、女子トイレを出る。

 

先程まで進めなかった廊下が進めるようになっていることを確認した二人は、その方向へと歩いていくのであった。

 

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