異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第265話「幕間1-7 何も起きなかったのです」

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―――それから1時間ほどして、ようやく二人は体育館の入口へとたどり着いた。

 

施錠は―――されていない。

 

岬はゴクリと息を呑み、その大きな……小学生なら5人が一度に入れる引き戸を引いて中へ入った。

 

そこには……宙に浮く鏡が一つ。

 

それもかなり古そうな、しかし少なくとも現代の鏡と同じ製法で作られた裏面鏡であることだけは間違いない。

 

複雑な文様が刻まれた縁を持つ、どことなく古代鏡を思わせる佇まい。

 

古代と近代が融合したような雰囲気の鏡であった。

 

『……なぜここへ来る』

 

そして、それははっきりとした声音を持って岬へと質問してくる。

 

「そりゃまあ、見つけてしまったのですし、あんな話をしたのもあたしですし、謎を解き明かしに来ましたですよ」

 

「後は、ちっと趣味悪いからもうやめてもらうように言いに来た」

 

忍装束姿はそのままに、二人はステッキを持ち……しかし戦闘する意志はないとばかりに腕はおろしていた。

 

『……魔女たちか。その眼鏡を掛けた方は精霊使いでもあるな……よろしい。答えよう。私……私はこの惟神小学校と呼ばれている学び舎に宿る意志の総体である』

 

静かに鏡は、二人を映し出して笑いの粒子を含ませて語り始めた。

 

『私の宿るこの鏡を作ったものは外つ国の魔女……うぬらと同じく幼い容姿を持つ少女であった……』

 

声は懐かしそうに鏡にその像を映す。

 

その姿は……銀髪の魔法少女の姿。

 

そしてそれは……

 

「……あれ?あたし、その人何処かで見覚えがあるですよ……?」

 

岬が訝しげにそうつぶやくと、鏡は『魔女は己を『古き魔女』と私を作り出した後にそう呼称した……』と返す。

 

『私は失敗作であったらしい……故、この地にて人の願いを映し出すものとして在れと彼の者は言った……』

 

鏡の言葉に岬はうなずくと、「それは一体何年くらい前のお話なのです?」と確認した。

 

『季節が百を巡るよりも前の話だ……』

 

鏡はそういうと、二人の反応を待つかのように沈黙する。

 

その鏡に彼?を作った存在を映し出しながら。

 

「……やっぱり、似ているのです」

 

岬はその姿と、前にマコたちの記憶で見たSMNの首領らしき存在の姿に類似性を発見していた。

 

記憶の中の姿のため、顔ははっきりしないがその銀髪と落ち着いた佇まいは確かに彼女らの首領の姿に似てはいた。

 

「岬ちゃん、何か気になる?」

 

「うーん、SMNの首領……にちょっとだけ似ているような気がするのですよ」

 

「マジか……うん、でも今は関係ないから次行こうぜ」

 

確かに気になる点ではあるが、この事件や戦後すぐの事件とは関係ないため留意事項として心に留めることを確認して岬は首肯する。

 

―――もしかすると100年以上前からSMNの首領が存在する可能性は、たしかに放ってはおけないのだが。

 

「じゃあなんで死体を見せたり、死んだ人を見せたり、よくわからない影を大量発生させたりしたんだよ」

 

恋がストレートにそう聞くと、『親しい者であった死者をもう一度見るのは人間の根源の望みの一つであると、私はあの戦争で学んだのだ』と若干悲しげにそう言った。

 

『お前たちに見せたのは、悪戯に夜にここに来るのは危険だと知らせるため……』

 

「危険?」

 

『小学生が保護者も伴わずに、夜の校舎で遊ぶなど危険以外の何物でもないだろう……外に精霊に親しいもの、死に親しいものが居たとは言え、だ』

 

ごく常識的な回答が帰ってきて、二人は小さく嘆息する。

 

『じゃあ、戦後にあった幽霊騒ぎというのは……』

 

『私だ。あの少女が埋めていった三百と六十五の魔女たちの骨。その力を持って、疲れ果てた者たちの魂の安らぎとなれば、と。どうも逆効果だった上に、骨まで盗られてしまった……あの少女に申し訳がない』

 

鏡は本当に行為を後悔しているようで、うなだれるようにその鏡に映る少女の姿見を消してしまった。

 

その姿に岬はホッとして胸をなでおろす。

 

そして鏡に向き直ると、ニコリと天使の笑みで笑いかける。

 

「では、危険はないということで―――あたしから提案なのです」

 

岬はステッキを消して、身体を倒して後ろ手を組む。

 

『……提案?』

 

「あたしたちに力を貸してくれないですか?精霊の一種であれば、あたしと契約してほしいのです」

 

岬はそうして鏡を迎え入れるように片手を突き出した。

 

『……いいだろう。ただし、一つだけ忠告だ。夜の学校など危ないから二度と来るんじゃあないぞ』

 

鏡はそう警告して、『我が名は―――ワラシトモと呼べ。我が校に宿った様々な思いの、童子共の心の集合体故に。努々力を誤用するなかれ』と言って岬の手に触れると、そのまま鏡は消え去って……

 

「薄く体育館を覆っていた気配が消えていく……」

 

「幽霊の正体見たり枯れ尾花、でしたのです。でも……」

 

ワラシトモは力を誤って使うな、と言った。

 

神森警察署が収容した365の骨の正体は、無数の魔法少女の骨なのだと言う。

 

つまり、その骨を回収したのは……

 

「岬ちゃん、行くぜ」

 

岬が複雑な気持ちを抱いていることに気づいた恋は、ニカッと笑って八重歯を見せる。

 

「そうですね。結局、SMNの首領とは一度会ってみないとどうしようもないと思うのですよ」

 

戦闘もなく穏便に済んだことに二人は安堵しつつ帰路を急ぐ。

 

―――いつの間にか時間は正常に戻っていて、0時33分を示していた。

 

「じゃあまずは連絡を取るのですよ」

 

「おう!」

 

―――突入準備をしていた廻たちの準備が無駄になったことは喜ばしいことであった。

 

 

 

―――そして研究所にて。

 

「ワラシトモ……か。知らない精霊ね。もしかするとこちらの世界だけの新種なのかも」

 

岬と恋の話を聞き終わったミナは腕を組んで嘆息する。

 

「それにしてもあの学校に精霊が潜んでいたとは……前に行った時は気づかなかったわ」

 

「多分アレですね。魔法少女の骨が力の源だったとすると……」

 

ルルの言葉を廻がつなぐ。

 

「うむ。おそらくは岬たちが約半年在籍したことにより活性化したに違いない」

 

廻はドッカと椅子に座ると、「下手な騒ぎになる前に君たちが見つけて良かったと思うしかないな」と微笑んだ。

 

「廻さん……そうですね。本当にななかちゃんたちだけで良かったのですよ」

 

岬はそうして微笑んで、薺川博士に「助かりましたのです」と言って通信機を返そうとする。

 

『それは君たちが持っていたまえ。どうせそろそろ渡す予定だったのだ』

 

薺川はそういってカラカラと笑う。

 

その様子にこの場にいる全員が笑いをあげた。

 

―――研究所の上に輝く月は、真夏の夜の熱気に歪んでいるだろう。

 

岬はそうして、何も起きなかったことに安堵したのであった。

 

 

 

―――SMNアジト。

 

「ああ、良かった。気にしていたのよねえ」

 

銀髪の魔法少女は、ただ一言そう言って手元のグラスを弄ぶ。

 

中に入っているのはニガヨモギをすりつぶしてぶどうジュースと混ぜ合わせたものだ。

 

「イェカ様?どうされましたか?」

 

傍らで普通のぶどうジュースを飲んでいたマコが、主の細やかな喜色に反応してそう聞くと。

 

「なんでもないわ。さ、そろそろ今日は休みましょうか」

 

立ち上がったイェカの顔は、先程の喜色を忘れたかのように毅然としていて。

 

その美しさにマコが微笑むと、微笑みを返してくる。

 

―――SMN首領イェカの正体は未だに不明であった―――

 

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