異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第268話「幕間2-3 人形は恥ずかしがる」

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「夕の様子がおかしい?」

 

縁側に座って煙草を吹かす廻に、ミナは夕が宝石を見て以来少し浮かれた様子のままであることについて聞いてみた。

 

「そうだろうか?夕とて性格設定は女性だし、宝石が好きでもなんら問題はないように思うが」

 

ミナが先日心に抱いたことと同じようなことを口にして、男は煙を空へと吐き出した。

 

自分のように、見た目が離れすぎている少女……岬に懸想に近い感情を抱いているよりはずっと健全だ、と思ったがそれは口にはしない。

 

彼が汗腺を持つ生き物であったなら、冷汗の一つも書いているところだ。

 

「我々にも感情はある。電気信号とプログラムが作り出す疑似的なものだが、それとて人間も仕組みは似たようなもの。脳神経を走る電気信号と君たちの言う精霊力や魂が作り出す生命の思考と何が異なろうか」

 

実際には似て異なるものなのだろうが、表面上同じであれば同じようなものだ。

 

廻はそうファジーな判断を下して、灰皿に煙草を押し付けて立ち上がった。

 

「ま、確かにそういうものかも」

 

立ち上がった廻と入れ替わるようにミナは縁側に座る。

 

「でも、ちょっと気になるのよね」

 

「なにが、だ?」

 

二本目の煙草を取り出して火をつけた廻に聞かれて、ミナは「感情の精霊」と答えて嘆息した。

 

「……機械である我々に精霊の関わる余地はあるのかね?重金属を大半の精霊は嫌うのだろう」

 

「心を持つなら体がどんなもので出来ていようと感情の精霊は動くわ。廻さんも夕ちゃんもちゃんとその辺は働いています」

 

ミナは人差し指を立てて廻の疑問に答え、そして「喜びの精霊がやけに多い気がするの」と続けた。

 

「なるほど。端的に考えれば、夕が持っている指輪が原因と言えるが」

 

廻の言葉にミナは首を振る。

 

確かにそれはマジックアイテムではあるが、気配遮断の魔法がかかっているだけのアイテムだ。

 

だとするなら、夕の周りを跳ぶ喜びの精霊たちは彼女自身の中から生まれているということになる。

 

宝石は女を変えるのかもしれないが、今までの夕と比べると大変に可愛らしい様子なので、ミナはわからなくなってしまう。

 

「邪神が関わっていないといいのだけれど」

 

「計算が出来んからな、彼奴めらは。だがな。今は如何な仲間のこととはいえ思考に時を費やすよりも、戦力の強化に努めるべきだ」

 

廻の言葉にミナはうなずき、しかし夕が浮ついていることには一抹の不安が消せなかった。

 

―――心配し過ぎだろう、と廻は思ったが、しかし対策を立てるのであれば心配も必要だろうと廻は再び喫煙に没頭していく。

 

ミナはその様子に、少しだけ溜息をつくのであった。

 

 

 

そもそもいつから彼女は笑うようになっただろうか。

 

ミナは時折朗らかになるようになった彼女を見て、首を傾げる。

 

『なんだ金髪女。ジロジロと』

 

相変わらずミナに対しては辛らつであったが、それだけに過ぎない。

 

「いえ、なんでもないわ」

 

今日は廻と夕の追加装備開発に必要な素材の探索のため、ミナと夕、そして恋だけでダンジョンにやってきていた。

 

主にこれは以前の冒険であった損傷時の侵入対策である。

 

グレムリンなどの雷精を狂わせる魔物が他にいないとは限らないのだ。

 

それを防ぐすべの開発は急務であり、それは電気をほとんど使わない世界にいたミナでは不可能である。

 

ここのところ、夜の時間は薺川博士と共に研究の日々を送っている。

 

―――そこで気づいた。

 

『どうした金髪女』

 

ミナはそう聞かれると、顎に手を当てながら「前のグレムリンの事件の時、損傷受けてなかったっけ?」と夕に聞いた。

 

『それがどうかしたか?あのベヒモスに損傷させられたが、女男の修理魔法で修繕できた』

 

「それがどうしたの、ミナねーちゃん」

 

如何なる物理法則を改ざんしているのか、器用にも何かに跳ね飛ばされたような体で飛んできたスライムを鎌で撃墜しつつ恋が頭の上に疑問符を浮かべた。

 

「……とりあえず今はいいわ。帰ったら薺川博士の診断を受けましょう?」

 

『……何か私に悪影響がある可能性がある、ということか。以前の自衛隊基地地下の戦闘で』

 

「端的に言えばそうなるわ……バグの影響だったらシャレにならないから、ね?」

 

ミナは彼女の手を掴んでそう懇願すると、夕は黙って首肯した。

 

『私も誰かを悲しませたくはないからな』

 

 

 

―――そして研究所にて。

 

『検査は終わったが、確かに記録としてベヒモスの攻撃後に感情回路に揺れが発生しているが誤差の範囲だよ、君たち』

 

薺川博士はエビデンスを解説しつつそう言ってカラカラと笑った。

 

『君たちも成長しているということさ。私としては何も問題ないように思える』

 

「うーん、薺川博士が言うのならまず間違いはないはずですけど……」

 

ミナがまだ納得ができていない様子でそういうと、パソコンを操作しているルルが「でも、ミナさんそういう機微に疎いじゃないですか」と微笑んだ。

 

「む……」

 

「フレッシュ・ゴーレムに心を与えようとした実験をして、結構いいところまで行ってたのに、心が生まれていたことに気づかないで……」

 

「処分を許してしまったのよね、あのとき……痛恨なのだわ」

 

ミナはこめかみに人差し指を当てて、むむむ、と過去の後悔を反芻する。

 

そこに躯体を換装した夕がやってきて、「興味深い話だな、金髪女。私は処分はされたくないのだが?」と僅かに呆れの粒子を含んだ言葉をぶつけてきた。

 

「夕ちゃんひっどい……今の私はしないわよ。ただ、ちょっと心配になっただけなのだわ~」

 

ミナがおどけつつそう言うと、「わかってるとも、わかっているさ。ふふふ、あはは」と柔らかく笑い始める。

 

『ふぅーむ。なるほどねえ。情緒が成長している……廻と比べてそこが遅かったのが心配だったが、問題はなさそうだ』

 

薺川博士はモニターの数値の変動を観察しながら、『とりあえず楽しく生きてくれるなら私は何も問題はないよ』と言って夕に向き直った。

 

『その心は大切になさい。君だけのものだ』

 

「……はい、わかっております。ありがとうございます」と返して、少し頬を赤らめた。

 

「……夕ねーちゃん?」

 

「いや、ちょっと、いくら数値とは言えな……」

 

恋がその様子に疑問を呈すると、夕はモニターからふいと目を背けた。

 

『……ん、ああそうか。済まない済まない。私としたことがデリカシーがなかった。観測中断処理に移る』

 

薺川博士はその様子になにか気づいたようで、すぐにモニターを消して居住まいを正す。

 

「……えーっと、ああ、なるほど。そういう」

 

「興味深い。こんな繊細な反応をするゴーレムは初めて見ました」

 

ミナとルルがそう言って顔を見合わせると、恋が「……つまりどういうこと?」と聞いてくる。

 

ミナはそれに「誰だって心の中を覗かれたらイヤでしょう?」と言って、夕を軽く抱きしめた。

 

「や、やめろ金髪女!暑苦しい!」

 

夕は離そうとするが、如何せん戦闘用躯体ではない今の体ではミナを引き剥がすことが出来ない。

 

「ほらほら。遠慮しないでハグし返してもいいのよ!」

 

「やめろ!気味悪い!!」

 

押し返そうとする力は弱く、彼女がそこまで嫌がっているわけではないことがミナにはよくわかった。

 

彼女は確かにこの世界に順応しつつある。

 

仲間たちが皆、この世界に順応している。

 

―――慣れきったときこそ、変化が起きるはずである。

 

夕もミナもじゃれ合いながらも、どこかでそれを予感していた。

 

 

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