異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第270話「幕間3-2 奥様の日常後半」

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そうして本日の業務は終了の時間となった。

 

特に残業をするほどの日でもない。

 

LINFには、夫から子供たちを保育園から回収したとのメッセージが上がっていた。

 

息子の隆は3歳、娘のアキももう4歳だ。

 

来年の春にはふたりとも幼稚園に通わせる……その前に街の騒動が終われば良いと文は思う。

 

夫には命の危険があることはしてほしくない。

 

そうは思うのだが、荒事ばかりはどうしようもない。

 

夫は警察官なのだ。

 

今は休職中だが……

 

前は街の治安が悪いこともあって、やきもきすることも多々あったが今はそうではない。

 

半グレに殺された警官は、この街の治安の悪化が始まったこの十数年で一人や二人ではない。

 

不安は尽きないが―――とはいえ、水門三郎であった水門ミナの言葉が正しければ、今の空悟を害せる人間などそれこそ装甲車両で武装した軍隊か例の謎の組織たちくらいなものだろう。

 

心配しすぎても仕方ない。

 

邪神とやらはあの先輩になんとかしてもらおう。

 

……学生時代とは頼りになる度がだいぶ違いますからね―。

 

彼女は内心でそう思いながら、自分の息子がミナのことを話す時早口になっていたことを思い出す。

 

「あの先輩が初恋とかになったらどうしよう……」

 

誰にも聞こえないよう声を抑えて彼女は呟く。

 

そうしている間に、帰る準備が整ったので相談してきた眼鏡の同僚へと挨拶をした。

 

「お疲れ様でした。お先に失礼します」

 

彼女はそういって職場を出る。

 

―――外の気温はまだ30度台。

 

ねっとりとした夜風が彼女を襲い、ぶわっと一気に汗が吹き出してくる。

 

「さぁ、かえってお夕食作らなくちゃ」

 

文はそうして通勤用に買った自転車のキーを外すのであった。

 

 

 

そして―――我が家へたどり着く。

 

「ただいまー」

 

「おかえりママ!」

 

3歳の隆がドタドタと走りながら母を迎えた。

 

顔に浮かんでいるのは笑顔。

 

「ただいま。ほら、走らないの」

 

バッグを玄関に置き、靴を脱ぐと文は隆の頭を撫でる。

 

そうしていると長身でがっしりとした体型の夫が、娘を抱えながら現れた。

 

「ようおかえり。飯の材料は買ってるし、洗濯と掃除も終わってるぜ」

 

「ただいま、空悟さん、アキ……ところで何を買いました?」

 

「ああ、言われてた通りカレーの材料は買ってあるぜ。肉は豚肉で良かったんだろ?」

 

買ったものを確認すると、明快にそう回答が帰ってきたので「ええ、毎日暑くて仕方ないですしポークカレーで大丈夫です」と文は微笑んだ。

 

「おう。手伝うぜ。ほら、アキ。ご飯の準備するからちょっと離れててくれ」

 

「はーい。ほら、いこ、たかし」

 

「うん、ドミノやろう!」

 

姉は弟を伴って、居間へ消えていく……

 

「ドミノかあ。片付け大変になりそうですね」

 

「いいよいいよ。それは俺が子供たちを手伝うから。さあ、さっさと作っちまおうぜ。俺は腹へったよ」

 

ニッと笑う夫に日々の疲れが癒やされる気がして、いや、今はあの先輩のおかげでそんなに疲れてない、とアンビバレンツな考えに囚われた文は「ま、いいか」と小さく漏らしてキッチンへ向かう。

 

そこには愛用のエプロンがあって、暖かい日常がある。

 

彼女は、今はそれでいいと思った。

 

それでいいと思って……テーブルの上にあるものを見咎める。

 

「空悟さん、これ、なんですか?」

 

「あー……三郎からもらったキノコだな……スープに入れるとうまいらしいんだけど、正直どうかと思ってだな」

 

そこに鎮座していたのは、なんだかカラフルな色のキノコっぽいものであった。

 

「もう一度聞きますけど、なんですこれ……?」

 

「三郎のバッグに残ってた珍味の一つで、キノコのモンスターの干物だそうだ」

 

「明日、私返してきますね?」

 

文は空後の返答にノータイムでそう言って、ニヤリと笑った。

 

今や最強の地球人類と言っても過言とは決して言えない空悟に恐怖を呼び起こさせるような酷薄な笑みであった。

 

「あ、うん。なんか面白いかなと思ってもらってきた俺も悪いんだ。俺が返してくるよ」

 

冷や汗を流す夫に、文は優しく「大丈夫です。茜さんともお話がありますから」と有無を言わせない態度を取る。

 

「あ、わかった。頼むわ」

 

空悟は諦めたように天を仰ぎ、すまんな、と心のなかで一つ添えて玉葱の薄皮を剥き始めた。

 

―――もちろん、翌日ミナが文に詰め寄られて悲鳴をあげるのは確定事項であった。

 

 

 

―――私は夫の親友に嫉妬しているのだ。

 

たゆたう夢の中で文は思う。

 

あの少女の姿で現れたから、より強くそう思うのだ。

 

解消する方法はなんだろう。

 

わからない、わからない、わからない。

 

でも夫は自分を大事に、子供を大事にしてくれるから大丈夫。

 

大丈夫なはずだ。

 

それはわずかに生まれた心の闇である。

 

心の闇は誰にでもあるものだ。

 

その闇を解消する方法は既に提示されている―――彼女はまだ気づかない。

 

彼女の夫は―――きっともう気づいているだろう。

 

二人の子を持つ母は、ゆっくりと意識の深層へ眠りに落ちていく。

 

―――きっと目覚めは爽快だろう。

 

 

 

 

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