異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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ある日曜。
ルルはなぜか空悟と連れ立って出かけ、水門家には仕事でいない機械人形の妹を除いた女性メンバー三人がそろっていた。
……ちなみに茜は休日出勤である。
この所休日出勤が多いのは、やはり「水道局」の仕事のせいなんだろうな、とミナは少し申し訳ない思いをしつつも日曜日であった。
今日はミナもバイトは休みなので、一日のんびりとしている予定である。
ミナは母を見送った後にやってきた恋がまだ朝ご飯を食べていないということで、朝が遅かった岬の分を含めて朝食を作っていた。
「岬ちゃん、ブラどんなの買ってる?」
唐突に恋がそう聞いてきたので、岬は「どうせ若返る前と同じくらいには育つと思うので、今は量販店で一番安いやつを買ってるのです。居候ですし、貯金も限りがありますですし」と返して夏用のパーカーを羽織った。
「じゃあ参考にならないか……」
恋はそうして、フッと息を吐くと、台所で料理をしている勇者に声を掛ける。
「ミナねーちゃんは?」
「二プレスか自作のスポブラ。まだ私、ブラジャー必要なほどないもの」
ミナは鍋から皿に煮物をよそいつつそう返した。
「しかしまあ、その『まだ』が来るのは何百年後か知らないけどねえ。ともすれば今は岬の方があるんじゃない?」
ちょうどその時レンジで温めていた昨日の残りのシチューが、温めの終わりを示すチンという音を聞いていた。
「まー、それはそれとして飯にすんべ」
「はいなのです」「はーい」
ミナの言葉に二人は元気のいい返事をして、ミナはサラダを机に置く。
やがて食事が始まり、そうすると当然のように雑談が始まった。
その果てに、食事前の話題が蒸し返されるのは当然のことだったろう。
「ところで、なんでブラジャーの話なんかしたのです?」
岬がシチューの中のブロッコリーをポリポリ咀嚼しながらそう聞くと、サラダのアスパラガスをボリンと齧った恋は「いやね」とちょっと嫌そうな顔をする。
そうして葡萄キメラの事件の前の仕事の時の話をし始めた。
「端的に言えば、まだブラ付けてないの?って年上のアイドルにからかわれたんだよな……あたい、おっぱいちっちゃいから……」
「はぁ。でも恋ちゃん可愛いし、別におっぱいなくても平気では……?」
岬は微妙にずれたそんな感想を述べると、恋にキッと睨まれる。
睨めつけた恋は、「でぇもぉ、私もそんなことでからかわれたくないしぃ……騒動も今は落ち着いてるから、買っちゃおうかな~って思うのよねぇ~」と猫かぶり状態に両手を空に突き出した。
「うーん、確かにそうかもしれないのです。後半年ちょっとであたしたちも中学生。そうなってブラをつけてないとなれば、からかわれることは必至なのです」
猫かぶりに怒りの粒子が含まれていることに気づかないふりをして、岬も腕を組んでウーンと唸る。
自分のブラジャーもまた、地味過ぎてからかわれそうだな、と思ったからである。
―――そんな小学六年生を横目に、ミナは我関せずとばかりに二度寝ならぬ二度目の朝食を頬張っていた。
「ミナちゃんはどう思いますです?」
そんな態度でいれば、当然話は振られるわけで。
ミナは「じゃあ韋駄天百貨店に入ってるアパレルにでも行ってみる?そこで可愛いの探せばいいじゃない」と車のキーを出しつつ微笑んだ。
「逃げましたですね」「逃げたよねぇ~?」
物わかりのいい大人のふりをしたミナの態度は即座に子供―――と言えるかどうかはわからない魔法少女二人に見破られ、ミナは舌を出しつつ「バレたか」というほかなかったのであった。
ジープ・グラディエイター薺川改をかっ飛ばしながら、ミナは「ちなみに先程の答えは、下着には結構魔法の効果があるものがあるから、効果で選んで可愛いとか私あんまり考えたことない、ね!」と言ってケラケラ笑った。
「あー神秘なビキニとか危険な水着とか」
「えっちぃな下着とかねえ。肌に密着する下着は魔法を弾いたりする柔らかい素材を仕込みやすいのよね」
助手席の岬の言葉にそう答えて、ミナは自分のリボンを指差す。
「私はこのブラックリボンがあるから、パンツは普通のを穿いてるわね。動きやすさ重視で」
ミナの言葉に岬は「まあだいたい予想通りなのですが、ミナちゃん元の世界では偉いのですよね?」と返して、運転している彼女の横顔を見た。
「それなりの服装とかは……」
「そりゃ持ってるに決まってるじゃない。一応、勇者で大神官でハイエルフだもの」
ミナはそうして、岬をちらりと見た。
その服が見たい、と今にも言わんばかりの顔で。
―――ふと、バックミラーを見れば、やはり同じく期待に満ちた恋の顔。
「そんなにお前ら、私のコスプレ大会が見たいってか?」
「いやいやいや、そういうわけではないのです。偉い人なんですから、そりゃあ豪奢な礼服とかも持っているのかなって話なのです」
じとっとしたミナの目に、岬は臆することなくそう返してニヤリと笑った。
嫌な笑みではないが、圧を感じる笑みで、ミナはわずかに(この子、やるようになった)と思う。
やはり、ともすれば自分より才能があるのではないか、とミナは思い、その思いをかき消して唇を尖らせた。
「持ってるけど……まあ、学院で認められた大魔導士の儀礼服でしょ。後、大神官の礼服に……」
他にはハイエルフの儀礼用の衣服、勇者として王族に謁見する際に使う礼装、東方で公的な場所に出るための十二単の伝統服、それから拳法の師父としての礼服などがそれにあたる、とミナは言って―――
「でも、着る機会なんかろくにないから、着こなせてないのばっかよ?」
殆どが豪華で見た目がいいだけで、冒険者の装備として合格なのはハイエルフの儀礼服と大魔導士のローブくらいなものだ。
因みにその大魔導士のローブを、ミナは廻・夕との戦いで破損した青いローブの修復に使うのにバラそうかな、と思ってるくらいだ。
「結局、私に必要なのは実用装備であって、普段着は恥ずかしくない程度なら何でもいいのよね」
その言葉通り、ミナの普段着はほとんどが茜の若いころの服を仕立て直したものか、岬と同じく衣料量販店で買ってきた本当に安いもの、或いは自分で仕立てた物ばかりなのだ。
無論、先に言った通り礼服や喪服など、場に合わせた服装が必要なのはわかっている。
だが、あえて普段着や観光に行くために着る服にそういう華美さは何一つ求めていないのであった。
「素材が良い人って何着ても似合うからなぁ」と恋が言ったのに合わせて、ミナは「そうねー逆に言えば素材が悪い人は何着てもソコソコ以上にはならないのよねえ」と前世の自分を思い浮かべる。
少年時代はともかく、青年時代は小太りの冴えない男だった三郎は「何着ても似合わないのだから、何着ててもよい」という発想の元、茜が用意した服か安売りのダサい服、或いは外行き用のスーツばかりだったことを思い出して嘆息する。
実際にはそう言うことはない。
デブにはデブの、ハゲにはハゲの、その場に合わせたかっこよく見栄え良く見える服というものはあるものである。
だが、自信を持つことなく生きた前世青年時代と長きハイエルフとしての生活がそのような感覚を全くなくしているのである。
つまり、何がどうと言えば。
「ははぁ、何着ても似合わないから服は適当でいいっていうのが、何着ても似合うから適当でいいと反転しただけなのですね、ミナちゃん」
本質を突いてきたのは岬であった。
結局のところ、自信がつこうがつくまいが、服に関する認識がおかしいということである。
「そ、そうとも言うわね?」
「せめてルルくんに見せるものだけでもちゃんとしたのを買いましょうです。あの水着みたいなのを」
珍しくうろたえたミナに、岬が指を振ってそう窘める。
「まさか。私が素っ裸で抱き着いた方が喜ぶんじゃないの?」
「いや、それとこれとは話が違うっつーか、なんで自分が持ってる漫画とかアニメとかのキャラデザとかメカデザとかならそんなこと言わないのに、自分の服だけはそーなんだい?」
「大体あの変態男の娘は、毎度のセクハラでミナちゃんの素っ裸は見慣れてると思うのですよ」
反論に対して、魔法少女たちからは辛辣そのものの反論が返ってくるのであった。
「つまり?」
「ブラだけではなく色んなものを見てきましょうですよ☆」
サムズアップして回答を出した少女に、ミナはふーッと嘆息して「結局ファッションショーがしたいのね、二人とも……」と呟いた。
「あっはっは、まー気にすんなって!」
……そうしてジープは韋駄天百貨店にたどり着く。
ここからがミナにとっては苦行の時間であった……
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