異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第274話「幕間5-2 男の娘に男装(?)させることでしか摂取できない栄養成分は確実に存在します」

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―――それから2時間後。

 

「あのさぁ、私着せ替え人形じゃないんだけど……」

 

そこにはデパートのウェディングコーナーで紅いウェディングドレスを着させられているミナがいた。

 

赤薔薇のように真っ赤で豪奢、かつ動きやすくコーディネイトされたそのドレスは、生命力に満ちていてミナによく似あっている……

 

どうしてこうなったかと言えば、普段着や余所行き着を物色していたら、ミナの目にウェディングコーナーが映ったためだ。

 

果たしてどうなるかはわからないが、ミナとしても茜に寂しい思いをさせて元の世界に戻るつもりはない。

 

その前に母が亡くなる可能性も高いのだが、ミナは―――水門三郎が本来生きた時間というものを正確に把握しているわけではない。

 

おそらくは30年から50年は生きたのだろうが、それも曖昧である。

 

その前に孫をこの世界に遺していくという手もなくはなかったが……

 

「相手、あれしかおらんのよな……」と自らの従者の顔を思い浮かべて頭を振り、胡乱に嘆息していると、ニヤついている魔法少女たちが「おっ興味あるです?」「ミナねーちゃんのちょっといいところ見てみたい!」と背中を押してきて……

 

あれよあれよとこのざまであった。

 

「はぁ~~~……」

 

そんな状況の中、あからさまに不満を顕しているミナであったが……

 

「まぁまぁまぁ、お似合いですわよ、お客様!お父様が見たら、そのまま泣き崩れてしまうところが想像できてしまうくらいに!」

 

店員さんが嬉しそうにそう言うのを聞いて、「ああ。まあ。うん。確かにあいつと結婚するっつってこのドレス着てたらトーチャン泣くわ……」とミナは天を仰ぐ。

 

実際にグリッチ・エッグにいる父シリウスに、ダークエルフで不死の王であるルルと結婚するとか言ったら、娘を嫁がせる云々の前に「世界の終わりだ」と100%泣き崩れるだろう。

 

秩序に属するものなら、世界が終わると誰だって思う。

 

勇者がノーライフキングに嫁ぐなど、はた目にはどう見ても世界の終わりであろう。

 

如何にルルが調和神の誓約に縛られていても、そこは仕方のないことと言えた。

 

では、三郎の父、八郎であればどうだったろうか、とミナは思い……

 

「そもそもこっちのトーチャンは、オレが女になったことにショック受けるな……」と虫にも聞こえないほど小さく精霊の言葉で呟いて、あーもう、と頭を掻こうとして、商品のヴェールが頭にのっかっていることを思い出してやめる。

 

「ミナちゃんだと白の方が似合いますですかね?」

 

「いや、あたいは黒の方がいいと思うぜ。んでルルにーちゃんは白でいいじゃん。お互いの色に染まるって感じで」

 

「なるほどなるほど。恋ちゃんはそう思うのですね。確かにミナちゃん白、ルルくん黒だとしっくりこない気がしますですし」

 

父の泣き崩れる姿を想像して嘆息する森人の少女を置いて、二人の魔法少女はそう話し合っていた。

 

その様子に、ミナはわずかに不機嫌そうに「だったら私は緑でいいわ……」とウェディングコーナーの天井を見つめる。

 

緑や青、水色といった寒色系のウェディングドレスのほうが、ハイエルフの自分にはいいんじゃないかと彼女は思うのだが、それにしても……

 

「私の普段着の話じゃなかったの?なんで結婚衣装を私は着せられているわけ?いや、ウェディングコーナー見てたのは私だけども……」

 

「まぁまぁよろしいじゃありませんか。いつかは貴女も着るわけですし、妹さんたちのお願いでしょうし!」

 

妙に押しの強い店員が、ミナの不満を踏み消すような勢いで顔を寄せてくる。

 

「あ、ところで当店のインタスに上げてもよろしいですか?」

 

「お断りさせていただきます」

 

図々しくSNSに乗っけていいかと聞いてくる店員に、丁寧に頭を下げてお断りすると、ミナは「次行きましょ、次」とうんざりと項垂れる。

 

「せ、せめて一枚だけでも笑顔でお写真をですね!?」

 

「えぇー……」

 

ミナはそうしてしばらく店員と問答し、そのしつこさに諦めて―――大神官としてあちこちで笑顔をふりまかざるを得なかった時期のことを思い出しながら、営業スマイルを浮かべるのであった。

 

 

 

結果として、まともというか、センスは茜の若いころのものとそう変わらないものの、いくらかの衣装を手に入れてミナたちは家に帰ったのだが……

 

「岬、どうしたのほくほく顔で?」

 

ミナはニコニコしている岬に、若干怖い顔でそう聞いたのであった。

 

「あ、ウェディングドレス姿のミナちゃんの写真のお陰でルルくんからマジックアイテムをもらえたのですよ」

 

そんな聞き捨てならない言葉を吐く岬に、ミナは「見せたの!?あれを!?」と怒りと驚きと焦りを交えた声音で肩をつかむ。

 

「なのです。どうせいずれバレてしまうのですよ。その前にルルくんから何かを引き出しておくのは悪い考えじゃないと思うのです」

 

「それはどういう……」

 

「ほら、これなのです」

 

岬はそうしてスマホを見せてくると―――

 

そこには顔こそ隠されていたが、複数のミナのウェディングドレス姿が表示されていた。

 

「……これは!?」

 

「肖像権は保護されてるですけど……これは韋駄天百貨店のホームページの写真コーナーなのです」

 

「はぁぁぁぁぁ!?あの店員!!SNSにはのっけてねえけどよぉ!?」

 

ミナはわなわなと震えながら、スマホから見える自分の写真を凝視する。

 

「どうしますです?抗議とかしますですか?」

 

怒りの矛先が先ごろの店員に移ったと見た岬がそう聞くと、ミナは「……い、今更抗議しても拡散してるだろうし……口より上は完全に見えてないし……うぐぐぐ……」とそのウェディングドレスを着た自分に震え、そして。

 

「あの店員には抗議してくる。店には抗議しない。それで行くわ……」

 

苦渋の決断をしたようにミナは天を仰いだ。

 

みはるの実家と喧嘩しても何の意味もない。

 

乗っていたところで、自分までたどり着く人間はまずいないだろうし、いたとして追い返せば済む話だ。

 

メイズ・ウッドの効果で我が家に悪意を持った人間が近寄ることは出来ないし、このまま韋駄天百貨店の売上に貢献することにしたのであった。

 

「はぁ……ところで何をもらったのよ」

 

髪をすいてどかっと居間の長机の前に座ると、ミナは息を吐いた。

 

「これなのです。予備の二口水晶なのですよ」

 

「ああ、そりゃたしかに魔法使い専門だと必須アイテムみたいなもんだしね」

 

ミナは納得して2階へ向かう。

 

「……ミナちゃん?」

 

「画像を消せとは言わないけど、お仕置きだけはしなきゃね」

 

目が笑ってないミナをお見送りして、数十秒後。

 

ドォン!という何かを思いっきり叩きつけたような音がしたのであった。

 

 

 

「それで今ルルにーちゃんが撮影会なわけかー」

 

ルルが男物と女物のウェディング衣装をとっかえひっかえ装着させられ、ミナと件の店員に撮影されているのをメロンソーダを飲みながら恋は眺める。

 

その隣では昆布茶を飲む岬がいて、「そーなのです。自分だけ公開されるのは不公平だとかなんとか」と呆れている。

 

パシャパシャと写真を取られるルルはまんざらでもなさそうであり、なんだかヤケになっている様子のミナよりも状況を楽しんでいるように見受けられた。

 

「まあ恋ちゃんのぶんもマジック・アイテムもらいましたですし、今回はあたしたちだけ得をした感じなのです」

 

「ミナねーちゃんの普段着も手に入ったしねえ」

 

そうしてミナの姿を見れば、ホットパンツに新緑のTシャツというラフな格好だ。

 

「まあ、いいのです」

 

昆布茶と一緒に買ったきなこもちを食べながら岬は微笑む。

 

ああ、なんて平和な時間なのだろう、と。

 

ミナもルルも恋も、この場にいない空悟や廻、夕も同じことを思っているだろうことに岬は安堵するかのように、もう一つきなこもちを食べたのであった。

 

 

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