異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第277話「幕間8-1 ただ食べ放題で食べまくるだけの話」

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廻は今、大変困っていた。

 

ここは商店街のバイキング……食べ放題の飲食店「根気のおかもと」である。

 

ビュッフェと呼ばれることもあるが、定額制食べ放題がバイキングで、ビュッフェは必ずしもそうではない(取った分だけお金がかかる場合もある)立食セルフサービス形式の食事サービスのことを指す。

 

その定義であればここは間違いなくバイキング。

 

A県内で主に出店しているチェーン店で、とにかくたくさん食べたい若者向けの店だ。

 

そこで廻が大変困っていたのは、目の前の岬のことであった。

 

「……さてなのです」

 

「さてではないが」

 

目の前に盛られた大量の肉である。

 

どう見ても4人前はある牛肉、豚肉、鶏肉、そして加工肉の山。

 

種類もロース、ハラミ、カルビ、タン、レバー、ホルモンと多彩である。

 

それだけではない。

 

対焼肉用白飯に、ガーリックライス。

 

冷麺、寿司、焼きそば、ナポリタン、たこ焼き、唐揚げと高カロリー炭水化物食が目白押しである。

 

どう考えてもそれもひとりで、それも小学生女子が食べる量ではあり得なかった。

 

「……太るぞ」

 

「廻さんも一緒に食べればいいのです。というか、運動量が多いからあたしは問題ないのですよ」

 

実際に、パーティーメンバーが日々ダンジョンアタックや訓練で動いているカロリー量は大人顔負け、否、スポーツ選手以上であろう。

 

特に彼女と恋は魔女なる「既に地球人とは別種の生命体」になっている可能性が高く、カロリーがどう消費されているかは廻でもわからない。

 

一切太らないと自称するハイエルフのミナやカレーナ、解析上はどう見ても死体なのに飯を食うルルと合わせて科学的に不可解な存在である。

 

彼は内心で、自分たちも含め現代科学で解析可能な身体構造をしているパーティーメンバーが、なんと空悟しかいないことに眩暈がするような気分を覚えていた。

 

「まあそれもそうだ……」

 

廻は表面上は全く困った風を見せずに、岬にそう返してひょいひょいと網に肉を乗せていく。

 

「それにしても突然食べ放題に行きたいとは、どうしたんだね?」

 

中肉中背よりもう少し長身の、こう見えて大日本帝国の決戦兵器として生まれたロボットは、何故か不機嫌そうにコーラの入ったプラスチックのグラスを弄んでいる岬へと声を掛けた。

 

「……うーん、なんというかそういう日なのです。忙しくて死にそうだったあの頃では思いもよらなかった気分ではあるのですが」

 

岬はそう、廻とあわせ鏡のように困った顔になってグラスを突き出した。

 

……廻のグラスには税抜980円で提供されているアルコール飲み放題のファーストドリンクである発泡酒がなみなみと注がれている。

 

「む。そうだな。乾杯だ」

 

「はい、あたしたちの前途と冒険に乾杯なのです」

 

―――ポコン、と廻のガラスのグラスと岬のプラスチックグラス同士がぶつかり合う音がして、岬はこの店に入ってから初めての花が綻ぶような笑顔を見せた。

 

 

 

ジュウジュウと肉が焼け、それをお互いに取皿に持っていっては、ふたりとも黙々と食事を楽しんでいる。

 

時たま廻のグラスが空き、彼は都度異なる酒を持ってくることだけが変化のように……

 

「……して、何が君を苛立たせているのかね」

 

廻は僅かな罪滅ぼしのように取られてきた、ヤングコーンと海藻とレタスのサラダを、フォークできっちりと3種類共に刺して口に運ぶと、そういってホルモンを頬張る岬の目を見た。

 

岬はきょとんとした目でホルモンをコーラで飲み下すと、「ぷはぁ」と息を吐く。

 

そうして廻の目を見て「……いや、なんか最近というか肝試しの後、みんなで遊びに行くたびにヨシヤくんがついてきてですね。ななかちゃんと仲がいいのですよ」

 

岬曰く、なんだかヤキモキしてしまうという。

 

「これは背中を押してしまったほうが良いのかどうか、の問題なのです。とおるちゃんやかけるちゃんとななかちゃんが疎遠になったら意味がないのです」

 

夏休みが終われば何故かみんな親戚の家に長期遊びに行ってしまっているというヨシヤの取り巻きも復帰してくるので、再びななかとの距離は開くだろう。

 

それでいいのかどうか、なんだか気になってヤキモキしてしまうのだという。

 

「なんだそんなことか……」

 

廻は少しホッとして、焼酎ロックの入ったグラスを煽る。

 

「そんなことなのです。そんなことだからこそ背中を押してしまったほうが良いのだろうか、と思うわけなのですよ」

 

岬は箸で焼けた壺漬けカルビを廻と自分の取皿に上げて、それから腕を組んだ。

 

網がそろそろ黒くなってきたので、網を変えてもらおうか、と岬はななかのことを考えつつも思う。

 

廻はその様子に、内心で自分に聞かれてもわからんな、とため息をついていた。

 

それは岬にもわかっているようで、これはいわゆるただの憂さ晴らしのやけ食いにしか過ぎない。

 

しばし、しばしの間再びの沈黙が流れる。

 

「……かつての自分ならどうしたか、ということを思えば良いのではないだろうか。仕事で疲れきる前の君がまだ君としてそうあった頃のことを」

 

廻はこれ以上には言うことはないのではないか、とグラスを掲げてそう微笑んだ。

 

「確かに……!じゃあ今のところは現状維持なのです。あたしは告白は男性の方からがいいと思ってるのですよ」

 

冷麺を啜りつつ岬はそう言って微笑み返した。

 

「その心は?」

 

「本当に仲良くしたいなら、夏休みの後も仲良くすると思うのですよ。それを見てからでもいいかなーと」

 

岬はそうしてまたガーリックライスをスプーンで掬って口に運んだ。

 

「なるほど……」

 

その言葉に廻は思う。

 

子供時代は短いものだが、さりとて大人になってからが長いとも言えぬ。

 

日々は定型化して、どんどん短く感じるようになっていくだろう。

 

彼女は、目の前にいる少女はきっと長く生きることになるのだろう。

 

あの金髪の少女や銀髪の少年のように。

 

―――その時、今の発言を後悔するかどうかは―――

 

「後悔はしないようにな」

 

「もう2度めの少女時代ですし、できるだけしないように生きていきたいですね」

 

蕎麦をすすりながらカルビを食べるというバイキングでしか出来ない食べ方をしながら、岬は笑った。

 

笑って少し寂しい顔をしたので―――

 

「まあ、とりあえず今は食べようじゃないか」

 

廻はそうして彼女の皿によく焼けたソーセージを置くのであった。

 

 

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