異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第280話「幕間10-2 嫉妬の心は父心のはず……」

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そして精霊の導きに従って、その怪しいブンヤとやらを探して歩いていくと……

 

この熱帯夜でもサングラスにマスクという暑苦しい出で立ちで、月明かりを浴びながらツカツカと歩いている女性の姿があった。

 

何かを探しているのを悟らせまいと足早に歩行しているが、しかしサングラスの下の視線がキョロキョロと不審に動いていることはミナや岬にはバレバレであった。

 

「わーあやしーい。眠らせちゃおっか?」

 

「一応事情だけでも聞いておかないと駄目な気がしますですよ」

 

岬はそうしてツカツカと近づいていく……

 

ミナは止めるつもりもない。

 

岬が本気になれば、誰にも気づかれないように彼女を始末することは可能だからである。

 

しかもミナには複数の蘇生手段があるため、後はどこか離れた路地裏で蘇生して放置という外道な戦法が使えるのだ。

 

―――もちろんこの世界に来てからは一度もやったことはないのだが。

 

「ちょっとそこの貴方、待ってくださいなのです」

 

岬が声をかける―――ランドセルに付けるタイプの防犯ブザーを持ちながら。

 

「えっ!?」

 

「質問には、はい、か、いいえで答えるのです。でなければこの防犯ブザーの紐を引っ張ってあなたの人生を破壊してしまうのですよ」

 

岬は天使のような笑顔で、悪魔のような事を言って女性に声を掛けた。

 

「な……え……ちぃ……!」

 

「まずはあなたが何者なのか話してもらうのです。でないと我が家から帰れない人が出ちゃってますですので」

 

天使の笑顔を崩すことなく、岬はそうして女性を睨めつける。

 

「う……わ、わかったわ。わかったから、防犯ブザーから手を離してちょうだい」

 

「それはあなたの態度次第なのです―――襲われるかもしれないのに武器を手放す阿呆はいないのですよ」

 

ニパっと更に明るい笑顔で岬は女を威圧する―――

 

こんなことをしなくとも、今の岬なら力技で昏倒させる程度のことは簡単なことである。

 

その上で脅している。

 

こんなことしていいのか、と一瞬岬は思うが本当に一瞬だけ……

 

「い、乙花ひじり……よ」

 

「どこのマスコミさんですか?それともフリーのパパラッチさんです?」

 

ジリジリと近づきながら、岬は笑みをより深く、しかしもはや人とも思えない威圧感を放っている。

 

これは影の精霊シェイドによる精神に作用する精霊術プレッシャーの効果もあるが、それ以上に岬の生物的な強度は既に一般人には猛獣と変わらないということでもある。

 

ジリ、と近づくたびに女は怯えを強くして後ろへ下がる……

 

しかし、逃げられないとわかっているのか、動けない。

 

「い、言うわよ……言えば良いんでしょ!フリーのジャーナリストよ!このあたりにあの女がいると知ってきたの!」

 

「あの女です?」

 

「そうよ!あの女の近くにいたのだからわかるでしょう!」

 

声を荒らげて、ここがちょっと目立つ橋の上だということも忘れてひじりと名乗った女性は吠えた。

 

(ミナちゃんでもルルくんでもないですよね?夕ちゃんのはずもないですし……水門先輩はお歳が違うですしミナちゃんのお父さんに操を立ててるはずですし……えと……?)

 

岬には見ず知らずの人間に「女」呼ばわりされる近くにいる女性のことに思い浮かばず「えーと……心当たりが無いのですが……」と困った笑顔で頭を掻く。

 

「とぼけないでよ!あの伊良子恋とかいう小娘よ!」

 

「ほえ?恋ちゃんが女?」

 

自分同様まだ少女の時分の彼女をそう呼んだひじりに、岬は盛大にクエスチョンマークを頭の上に浮かべて首を傾げた。

 

「……ええっと」

 

「今度こそあのメスガキのスキャンダルをモノにして、あの人を取り戻してみせるのよ、私は!邪魔をしないで!!」

 

……嫉妬と怒りと憎悪が混ざった顔をしている女を見て、岬は思い当たるフシがあった。

 

(あ~これ昔のあたしなのですぅ~~!)

 

内心頭を抱えるしかないとはこのことであった。

 

そう、彼女はおそらくは恋に嫉妬している……それも恋に真崎を取られたと思っているのだ。

 

(婚約者に振られて自暴自棄だった頃のあたしなのですぅ~~!ぐわぁぁぁぁぁっ!?)

 

そりゃ悪意まみれで近づけないわ……

 

岬の内心はそんな気持ちに染まるのであった。

 

「はぁ……それはともかく恋ちゃんは小学生ですよ。なんでそんなこと言ってらっしゃるのですか」

 

「小学生だって女よ!中学になれば色もつく!油断も隙もないとはこのことだわ!」

 

興奮してそんな事を言う女性に、岬は盛大にため息をつく。

 

そう、こう言うとき理性ではなんともどうしようもないのである。

 

しかもなんだか嫌な予感がしたので、岬はミナにハンドサインをした。

 

予め決めておいたもので、「埒が明かないので家に一度連れて行く」の意味である。

 

ミナはそのサインに指で丸を描いて許可を出した。

 

「はいはい……わかったのです。うちまで来て恋ちゃんと話し合うのですよ」

 

「……はっ!?まさか伊良子恋の友人!?申し訳ありませんが話をお聞かせくださ」「話を聞けと言っているのです!」

 

岬はスマホと録音機器を突き出した手を取って、そのまま後ろに回して関節を極める。

 

子供とは思えない武術の冴えだが、これもミナと廻の手ほどきの賜であった。

 

「いたたたたたた!は、離して!離しなさい!」

 

「大人しくお話を聞いてくれないからなのです。その人はうちにいますです。だから来いと言っているのですよ」

 

その話している間に岬はもう片方の手も取り上げて、親指同士をセロハンテープでぐるぐると縛り上げてしまう。

 

ひじりはもうこれでまともには動けないようになり、そのまま拘束されてしまった。

 

「はい。あたしの言う通りに歩くのです。質問も抵抗も禁じますですよ」

 

もし抵抗すれば防犯ブザーを引っ張り、女児相手にセルフ緊縛プレイを披露していた変態として警察に突き出してやる、と岬は笑う。

 

そんなこと警察が信じるはずがない―――と言おうとして、岬の顔を見ると目は笑っていないのに唇だけはまるで三日月のように笑みの形に釣り上げられていて。

 

「わ、わかったわ……」と言う以外に女は術をなくしてうなだれる。

 

―――それは彼女が味わったことのない、命の危機を感じさせる事態であった。

 

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