異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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―――というわけで。
「連行したのです。真崎さん、この人で間違いないのですね?」
岬が連れてきたひじりを居間に強制的に座らせて、そう言った。
「あ。ああ……そうだけど、なんで後ろ手に縛られてるんだい?」
「あたしにインタビューをしようとしたからなのです。あたしに質問をするな、ってやつなのですよ」
少しばかりイライラしていた岬は、普段ならしないような目つきでそう言ってドッカと座り込んだ。
そうして途中で聞き出したこの女の経歴を思い返す。
乙花ひじり、26歳。
フリーのジャーナリストで、1年前までとある新聞社の記者であったらしい。
芸能関係の記事を作っていたらしいが、伊良子恋関連の記事でトラブルを起こして退社。
現在に至る……とのこと。
「しつこいねえ……僕、恋人とか彼女とか結婚とか、全然考えてないし、今はこのお嬢さんのことで手一杯なんだよねえ……これでもクビの瀬戸際なんだぜ?」
真崎孝蔵、30歳。
恋の所属する芸能事務所でプロデューサーやマネージャーをしている男……
手腕とかそういうのは入社してまだ4年程度なためか頭角を現してはいない。
というより恋に見捨てられそうになっているためか、恋が芸能活動を完全に辞めるようなことがあればクビと言い渡されているそうな。
「いやいや、アイドル業も大変ねえ恋ちゃん」
ミナは頭をポリポリ掻いて、ルルの差し出したコーラをぐいと飲んだ。
「そうだなあ。で、なんであたい逆恨みされてんの?」
「なんでもこのプロデューサーさんを寝取ったとかなんとか」
ミナのその言葉に、恋は盛大なため息をついて「そんなわけないでしょ」と全ての気力を失ったように蹲った。
「そんなこと!信じられるはずがないわ!」
「信じるも信じないもねーっつーの。なんでこんなもやしプロデューサーと恋愛せなならんの……あたいは!恋愛はまだいいし!するんだったらもっと筋肉ないと嫌だっての!」
恋がうんざりとして激高すると、女もまた激高する。
「そんなの!意外と細マッチョなのよ、この人!!」
ギリギリと奥歯を軋ませつつそんな事を言う女を見て、ルルはそっと真崎に耳打ちをした。
「あの。この人とそこまで深いお付き合いで?」
「いやあ、そんなことはないと思うなあ……何回か恋ちゃんの取材を申し込んできて、僕も同席してたってだけで……」
苦笑しながら真崎はそうルルに返した。
「……ああ、偏執狂のたぐいですか……」
「ん?マニアのこと?」
「いえ、こちらの国の言葉だとストーカーが正確でしょうか。一つの物事や人物に執着し続ける人間ですね」
真崎にそう返したルルは、自らの主人を見れば予想通りに「お前が言うな」とばかりにジト目になっていたのだが、それを無視して「どうしましょう」と聞いてみる。
「うーん……ちょっと専門外かなあ……」
ミナは困った笑顔でそう言うと、ルルに「どうする?」と聞き返してしまう。
「いやあ、僕もミナさんのこと以外の恋愛ごとは完全に門外漢ですし……」
ルルも珍しく困った笑顔を浮かべてミナの傍に寄った。
「まあ最悪、記憶消して駅前に放置だな……」
「そうですねえ……」
二人は精霊語でそう話すと、居間の畳にぺたりと座る。
「しばらく好きにさせときなさい、岬」
ミナは岬を手招きし、岬もそれに従って二人のそばへとやってきた。
「だから!小学生と大人が恋愛したら警察沙汰だっつうの!」
「そうそう。僕だって仕事でアイドルの子の面倒見てるんだもの。恋ちゃんの言う通りだからちょっと落ち着いて?僕の腹筋をどこで見たかは不問にするから」
アイドルが怒りを宿し、プロデューサーは困った笑顔でそうして説得を試みるが。
「いいえ!プ〇〇ンジェル事件を見ればわかるようにリアル幼女に欲情する人間はたくさんいるのよ!私は騙されないわ!!」
「陰謀論とか都市伝説が混じってくるから滅多なこと言わないでくださいよ、乙花さん」
真崎はそう言って呆れ果ててしまう。
「……ストーカーなら空悟に差し出すか……」
「空悟さん、休職中ですし直接警察署においてきますよ」
異世界から来た主従はそうして冷たい目をひじりへと向けた。
結局のところ、二人には1mmも関係しない上に、恋に被害が行きそうだったのでルルは殺しても良いんじゃないか、位のことは思っていた。
流石にミナの前で口にはしなかったが、ミナも表情からしてそのくらいの扱いでいいんじゃないかなあ、と呆れているのは間違いない。
「最近、なんか変なマスコミ根性のとよく会うわね……」
ミナはまた瞑目して前髪を手で梳いて、ふうとため息を放つ。
「とりあえずストーカーってことでいいんですね、あなた?」
「違うわ!私は真実の愛の使徒!こんなところで止まらない!」
ミナは過去を思い出し、そういえばこんなん何人か見たな、と想起してルルに困った目を向けた。
ルルはルルで嫌なものでも見るかのような目で眉をひそめている。
「やっぱ捨ててくるか」「そうしますか」
二人の目が完全に本気だったので、岬は「いやぁ~あたしもそれでいいと思うのですが、ちょっと真崎さんの意見聞いてからにしませんです?」と苦笑いである。
「それもそうね……真崎さん?どうします?」
「いやぁ~……僕としては知り合いとは言え付き合いも薄い記者さんなんてどうなってもいいんだけどねえ……」
「あたいも同じだよ。人のプライベートに踏み込むんじゃねえよ」
相変わらず真崎は困った笑みで、恋は今にも殺しかねない瞳を向けているが……
「ふっ!この私を止められると思っているなら、それはできることではないわ!」
後ろ手に両の親指を縛られて身動きもろくに取れないのに、どうしてここまで自信満々なんだろうと思いつつ、ミナは「OK。警察に突き出してやるからちょっとまっててね」と電話に手をかける。
「ああ、そんなご無体な!ウソです、ウソ!」
女は実際に警察を呼ばれると困ることにようっやく気づいてミナにそう懇願する。
だが……
ミナは真崎と恋に視線を送り、二人がこくりと頷いたので電話をかけようとする。
「あー!あー!やめてください!死んでしまいます!!」
「うちの近所でウロウロしてて小学生に捕縛されたって正直に言いなさいよね。こっちは全然気にしないから」
ミナは殺気すら込めた視線で女を睨めつけた。
「ひぃっ!?」
殺気に怯えて女は悲鳴を上げ、ガクガクと震え始めた。
「はぁ……真崎さん、この女性はこちらでどうにかしますので、もうお帰りください」
ミナはもう何もかもが面倒になった、とばかりにそう言って真崎を見る。
「そ、それはいいですが……手荒な真似はしないほうがいいかなあ、と」
ミナの殺気に当てられたのか、少し怯えた様子で真崎はそう言ったが……
「だぁいじょうぶですよぉ。ぜぇんぜぇんそんな手荒なことするつもりはありませんから」
ミナは少し間延びした口調で満面の笑みを浮かべて両手を胸の前で合わせて、ぽん、と叩いた。
「そ、そうですか……?」
「そうそう。ミナねーちゃんに任せておけば超平気だから」
口調こそいつものだが、笑顔は猫かぶり時のそれに切り替えて恋も笑う。
「うふふふふふふふふ―――」
「あはははははははは―――」
上古の森人と魔法少女の底冷えのする笑いが部屋に響く。
「うわ、うわぁぁぁぁぁぁ!いやぁあぁ!死にたくないよぅ!?助けてダーリン!!」
「だいじょーぶだいじょーぶ。死なすようなことはないから絶対に」
「そーそー五体満足スッキリぽんで家に返してやるからさー」
岬は恋の言葉の「かえす」が「帰す」じゃないことに気づいて、「大丈夫だと思いますです?ルルくん」と隣の男の娘に質問をしてみた。
帰ってきた言葉は―――
「大丈夫ですよ。何しろ蘇生手段はいくつもあります」
にっこりと張り付けた笑みを浮かべているルルに恐怖を抱いて……
「じゃあ、僕は帰るね!恋ちゃん、来週のネットライブよろしくね!!」
真崎もまた慌てて席を立つ。
「じゃーねープロデューサー♪」
「お気をつけてー♪」
二人は至極明るく、裏を感じさせない笑顔と声で真崎を見送り……
女を風呂場の方へ引きずっていく。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
―――その後起きたことについては、言うまでもないことであった。
一週間後、ネットライブの会場として用意されていた西之森公民館の一室で。
「……何をしたんだい、君たち。あの乙花ってブンヤさん、僕のことをまるで気にしていないかのように振る舞うんだけど」
「思うところがあったんじゃないですかねえ」「なのです」
隣の部屋でアイドル衣装に着替えている恋を置いて、真崎は見学に来たミナと岬にひじりのことを聞いたのだが……帰ってきたのはそんな答えであった。
それから3日ほどして、東京で真崎と出会った乙花ひじりは先日のことまるで忘れている上に、全く平静に応対してくれたという。
かなり不気味だったが、それでも一人自分や恋にまとわりつくマスコミが減ったことは喜ばしいことであったが……結構不気味だ、と真崎は言う。
もちろんこれはミナと恋がやったことである。
ミナがターモイルの術で恋と真崎へ危害を加えられなくした上で、恋がソング・オブ・アムネジアを使って当日の記憶を消したのである。
最終的に口止めするために、目の前の男にも記憶消去の魔法をかけることも考えたが……ミナの意見でやめておいた。
なぜなら、もう黄昏の傭兵団も茜が属する「水道局」も気づいているのだ。
隠しきれなくなる事態はもうすぐ、目の前にまで迫っているのだと。
だから真崎の記憶はあえて消さなかった。
もし同じようなことにみはるや相羽姉妹、岬の友人たちが巻き込まれたとしても記憶操作はしないとミナたちは決めていた。
そうなった時、そういう不思議なことがあると知っておいてもらったほうが対策が取れるからである。
「おまたせしましたー」
その時、撮影用のドレスに身を包み、営業用の猫かぶりをしている恋が入ってくる。
「うん、じゃあこちらの準備はできているから」
真崎はそれまでの不安に満ちた顔ではなく、気怠げだが真面目そうな顔つきになって立ち上がった。
―――その日のネットライブは、同時視聴者数80000人を超える大盛況だったという。
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