異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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「タンスなんか見て、何を気にしてるの?」
ミナはルルの隣に座ると、ルルが見ている方向を見定めて首を傾げた。
「いえ……戸棚の中からかすかに魔力を感じるのです。邪悪なものではありませんが……」
彼は戸棚を指さして、ふぅーむと主人と同じように首を傾げる。
「……む、確かにちょっとなんかあるわね……おばあちゃんに後で聞いてみようか」
ミナは今すぐ確認はやめることを従者に促すと、ルルは首肯して「そうですね」と言って横座りしているため少しずれたスカートの裾を直す。
今日はミニスカートなので、太ももが丸出しである。
そのままにしていればそのうち中身が見えてしまいそうな風情だった。
「……ぬう」
「どうしました?」
「なんでもないわ」
ミナはそうしてあぐらをかく。
(……どうやってアレを隠してるんだろう)
ミナはそうしてふぅっと息を吐いた。
「今焼いてるから、これでも食べて待っててね~」
その時、ガラリとガラス戸が開いて莢が待っている間に食べるようにと、きゅうりとなすの味噌漬けに昼の煮物の残り、それから焼き鳥缶が一つ出てきた。
「ありがとう、おばあちゃん」
「お酒は戸棚に入ってるから、飲んでいていいわよ。あたしももう殆ど飲めなくなったし、全部飲んでもいいわ」
莢はそう言い残すと、再び台所へ戻っていった。
「さて……おばあちゃんの許しも出たし、戸棚の中をちょっとだけ見てみようか。お酒を取るついでに」
ミナはニコリと笑って、ルルの瞳を見るのであった。
「……これは」
ルルが見つけたそれは、古いどぶろく用と思われる小さな甕であった。
今は中にはいっているのは……
「焼酎、みたいね。これ」
ミナが匂いを嗅いでそう断定した。
アルコールの匂い、かすかに残る素材の香り……その中に、一片の魔力をたしかに感じる。
「……プリザベーション」
ミナはそのかかっている魔法の検討をつけて、こめかみに指を当てた。
プリザベーション。保存の魔法。
物体の劣化、腐敗を長期間防いでくれる便利な生活魔法の一つである。
これと無限のバッグを組み合わせることで、ミナとルルは物資の10年単位での保存を実現していたりするものである。
この甕はその魔法がかかっている可能性が非常に高い。
……こちらの世界のものと思われるそれに魔法がかかっている理由は……それはかすかに思い当たるが、しかしそれが正解とは限らず彼女は数瞬口を開くのを逡巡した。
先に口を開いたのは、ルルの方である。
「……この魔力、どこかで感じたことがあるんですよ……どこだったろう」
ルルはそう言って、思い出せないな、と瞑目して考え込んでしまった。
「……こりゃ本格的にループ説を疑うべきね……」
ミナもまたルルと同じように考えて、「オレかルルでないとすれば、オレの血縁の誰かだよ。でも、カレーナばあちゃんじゃあない……」と甕を持ち上げて言う。
「……この甕はもらっていって、解析しようか」とミナが言うと、ルルは「賛成です」と返して戸棚を閉める。
「んじゃあ飲むか」とミナがコップに甕から焼酎を注いで、莢が料理と一緒に持ってきてくれていた氷を入れる。
オンザロックでちびちびとミナは酒を飲む。
……それからしばらくして、莢が箱膳にウナギを乗せてやってきたのであった。
「二人の将来に幸福がありますように、八百万の神々様にお願い申し上げます……」
莢は小さな、本当に小さな重箱に詰められたうな重を神棚に上げて二礼二拍手一礼をした。
「……まだ結婚するとか、そう言うのじゃなくて、彼氏でもないんだけど……」
ミナはそんな嬉しそうな祖母に、強く否定することが出来なくてタハーと後頭部を掻いて苦笑する。
「……まあ、そうなりますか」
ルルはやはり空悟に言われたこともあってか否定などはしなかったものの、まだ告白する勇気はなさそうであった。
「そうかしら?とてもそうは見えないけれども」
焼酎を飲んで顔を赤くしたミナが座っているのは、ルルの隣。
それもパーソナルスペースに思いっきりINした場所で、人一人分も離れてはいないのだ。
「そう見えるか、おばあちゃん……」
ミナはちょっとだけ神妙に、しかし少しだけ嬉しそうにそう言って、グラスの中の焼酎を飲み干した。
「ふふ、そう見えるわよ。それじゃあ食べましょうか」と莢は言って、上座に置かれた箱膳の前に座った。
「「「いただきます」」」
三人の声が重なる。
莢は合掌し、ミナは調和神の聖印を切って、そしてルルは何もせずに。
重箱の中のウナギに箸を入れると、サフ、と軽い音が聞こえてそのウナギが柔らかいものだと知らせると同時に香ばしい香りが漂ってくる。
「……わ、うめえ。これ本当に美味しいね、おばあちゃん」
ミナはニコニコ顔になって蒲焼をご飯で追いかけた。
「……ほう。これは。確かになにかを……いや、ただ美味しいだけか……やはりウナギが違うんですね。調理技術はミナさんのそれと遜色はない……」
ルルは二口ほど食べてからそう論評をした。
「何度も言うけど、あたしが茜さんに教えたのだもの。そうそう義娘や孫娘に負けるものですか」
莢はホホホ、と笑ってすまし汁に口をつける。
捌いたウナギは2匹。
1匹は普通の大きさで、1匹はミナが捌いた1.2m超の巨大ウナギである。
肝吸いにするほどでもないから、肝焼きや兜焼きにするための半助とモツはお土産ね、莢は言ってくれた。
「しかし自信なくすなあ。オレ、200年くらいは冒険してたんだけどなあ」
「茜さんに聞いたわよ。そんなに毎日毎日料理する生活じゃなかったんでしょう?主婦は毎日料理するのだもの。経験値が違うわ」
莢はそうして、ウナギに口をつける。
「うんうん。美味しいわ」
「ですね……ありがとうございます。このウナギはとても美味しい。それにあちらの世界のウナギとの違いもありました。僕にとっては良い収穫となった……」
ルルはそう言って、ウナギの身をご飯と一緒に持ち上げて口に入れる。
「へぇ。何か違いがあるようには思えないけど……」
ミナが訝しげにそう問うと、ルルは「生命の精霊力がとても強い。あちらの世界のイールとは異なります。生育環境の違いだけではなく、おそらく種別が異なるのかと」と嬉しそうに言って微笑んだ。
「たしかにそれは感じるけど……スーパーのお魚コーナーじゃそんなの感じなかったし、このウナギが特別なのかも?」
ミナはそうしてふーむと唸ると、莢が「それならこのウナギをくれた漁師さんのところに行ってみたらどうかしら」と提案してくる。
「カーチャンも知ってる人?」
「いいえ。水門の本家でしか付き合いのない人よ。茜さんには教えていないわ。あなたが結婚する時に二人には教えようかと思っていたのだけど」
そうしてその漁師の所在地と名前を莢は教えてくれたのだが、それは……
「……えっと、相羽譲治さん……?」
「そうよ。今の副市長さんの親戚でね。妹さんは街で乾物屋をしているの」
どこかで聞いた名前そのものであることを訝しんだミナが確認すれば、その漁師はどうやらぬえ子たちの関係者のようであった。
「ほあぁー……バッチリ関係者じゃん、オレら。なあ、ルル」
ミナがそうして隣のルルの肩に手を置くと、ルルも少しだけ苦笑して「ええ。その乾物屋の娘さんとは交流があるんです、おばあさま」と莢に返した。
「へぇ……これも縁というものかしら。ふふ……さ、食べて食べて。せっかくのうな重が冷めてしまうわ」
莢は不思議なこともあるものだ、と笑って二人に食事を済ませるように進めるのであった。
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