異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第286話「幕間12-1 厄介な身内はいるものである」

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「助けてくださいましですわ~~~!!」

 

庭で父・八郎が大切にしていた、そしてミナがこちらの世界に来てすぐにメイズ・ウッドの術をかけた松の木を世話していたミナに、そんな悲鳴が届けられた。

 

「みはるちゃん?なによ藪から棒に」

 

ミナは水を撒こうとしていたホースを地面において唇を尖らせる。

 

そして縁側で本を読んでいたルルも鋭い視線をみはるにぶつけた。

 

「なんの用ですか。僕らは今日、仕事がお休みなんでゆっくりしているんですが?」

 

わずかに、ほんの僅かに殺気を込めてルルがそう咎めると、みはるは「そんなこと言ってる場合ではありませんわぁ~!叔父様が!叔父様が来るんですのぉ~~!」と全くその視線を気にしていないとばかりに叫びだす。

 

「……はあ、みはるちゃんの叔父さん?」

 

ミナは訝しげに、そして空気を全く読んでいないドリルヘアーの少女に対してそう質問する。

 

すると彼女は「そう!叔父様!叔父様が来るのです!あわわわわわ……」

 

怯えなのかなんなのか、わなわなと震え始めたみはる。

 

それを見たルルは「うちは探偵でも何でも屋でもないんですがねえ」と言って、本をかたわらに置き庭に立った。

 

「まずは落ち着いてちょうだい。何が言いたいのか全くわかんないわよ」

 

ミナがこっそりとサニティ―――気分を落ち着かせる魔法を唱える。

 

みはるは魔法をかけられたことにも気づかずに―――「あ、ありがとうございます!落ち着きましたわ!」とまだ落ち着ききっていない様子で微笑んだ。

 

「で、叔父さんがどうしたって?」

 

「そうなのですわ!は、母方の叔父様の一人なのですけど、わたくしが地下アイドルをやっていることは知らないはずなのです!知られたら折檻されてしまいますわ!」

 

みはるはそんな事を言っているが、ミナはにべもなく「お父さんはOK出してることでしょ、地下アイドルは。叔父さんとやらは親父ガードとか出来ないの?」と返して苦笑する。

 

「いわゆる人の話を聞かない族なのですわ!」

 

ミナはその言葉に、彼女の父親も半分くらいその族のような顔してるけど、そうでもなかったなあとホテルでの会議での話を聞いて思ったことを想起していた。

 

話を聞いてみれば簡単な話である。

 

要するに真面目に人の話を聞かないタイプで、男子はこうあるべし、女子はこうあるべしというかなり古いタイプの人間のようなのである。

 

「夕ちゃんと気が合いそうねぇ……」

 

「失礼なことを抜かすな、金髪女」

 

ミナがみはるにそう言ったのとほぼ同時に、てくてくと仕事から戻ってきた夕が反論した。

 

「あ、終わったんだ、スパイス調合」

 

「うむ、廻は潤美殿を休ませた後、岬や恋とともに出かけたからな」

 

やれやれ、と夕はバッグを肩に掛けたままみはるへと話しかける。

 

「こんにちは。今日はどうしたんだ、みはる」

 

歌合戦での付き合いもあってか、夕は気安くそう呼びかける。

 

「ごきげんよう夕様!お願いですわ!助けて下さいまし!!」

 

「……ふむ」

 

夕はおそらく既に内容を把握しているのだろう、微妙な顔つきでそう言って三春の話を黙って聞いた。

 

「いや、金髪女の言う通り一ノ瀬社長を盾に突っぱねてはどうだ?」

 

夕もまたミナと同じことを言って、縁側に座る。

 

「まあ落ち着いてこれでも飲め」

 

そうしてみはるにポイとペットボトルを手渡す。

 

「クラフトコーラ……ですの?」

 

「茄子味と書いてあったので試してみたが、うむ、まぁまぁ美味かった」

 

最近流行りだというクラフトコーラであるが、その怪しい味名にミナは「大丈夫?ペプ○小豆と似たようなゲテモノ感がするわよ」と心配した。

 

ミナは地球人であった頃、それを飲んで口の中に広がる炭酸→強烈な小豆の風味→コーラ味というコンボに思わず吹き出したことがあった経験からの心配である。

 

「いや、茄子の風味は最低限だ。茄子は淡白だからな」

 

夕は何の衒いもなくそう言って、「さあ飲むと良い」と促した。

 

みはるは「で、では遠慮なく……」と恐る恐るそれに口をつけると―――

 

「うっ……!?」

 

「う?」「まずかったら吐き出してもいいですよ。どうせコーラですし」

 

ミナとルルがそう言うと、しかし打って変わってみはるは満面の笑みを浮かべて―――

 

「お、美味しいですわ!美味しいですわ~~~~!!!」と叫びだした。

 

「ほう。うまいか。うまいのか……そうか」

 

夕がその様子に「しまった。ダース単位で余っていたゆえ、確保しておくべきだったか」と指を鳴らす。

 

「茄子の僅かな苦味が絶妙にコーラ味にマッチしていて、更にクラフトコーラとは思えぬほどの強炭酸!これは美味しいですわっ!!」

 

みはるのそんな感想に、夕はどうやら自分の躯体でネットに接続したのか十数秒ほど沈黙した後、「落ち着いたようだな」と嘆息した。

 

後から確認したところ、このときに例の茄子コーラを注文していたということである。

 

「は、はい……それで、その」

 

「その叔父さんの説得?それとも来訪の阻止?やってほしいのはどちらかしら?」

 

ミナがニッコリとしてそう言うと、ドリルヘアーのお嬢様は「……考えてませんでしたわッ!」と自信満々に胸を張るのであった。

 

 

 

水門家、居間。

 

「それでどっちやってほしいの?どっちでもやってあげるけど……成功報酬は何にしようかしら?」

 

ミナはそうして腕を組んで考えると……

 

「そういうと思って、わたくしの宝物をお持ちしたのですわ!!」

 

三春はそう言って、なにやらよくわからない塊のようなものを出してくる。

 

「……なんでしょう、これ」

 

「タンパク質と炭水化物、それに塩分が主成分だな……推定としては食物だ」

 

夕が分析してそう言うと……

 

「そうなのです。これはわたくしが幼い頃から行っている森でよく取れる謎の物体なのですわ!毒はないですわ!煮るとカツオとシイタケと牛骨を煮込んだような出汁が出て美味しいですわっ!」

 

みはるが自信げにそういうので、まじまじと観察してしばらく……

 

「ルル、夕ちゃん、こっち来て」と呆れと諦めが入り混じったフクザツな表情になってしまった。

 

「どうしました、ミナさん」

 

ルルは精霊語でこっそりとそう聞いてみた。

 

「あれ、うちの森によく生えてるキノコだわ……ほら、清水さんに大目玉食らったあのキノコモンスターの原種」

 

夕はその言葉に―――精霊語を解析して―――「またお前らの世界の仕業か」とジロリとミナを睨めつけてきた。

 

「クレーラの瞳の時と言い、そういう才能でもあるんでしょうか?」

 

「わがんね……でも、これはこれで良い食材だし、確保するのは良いかもしれないわね」

 

ルルが疑問を抱き、ミナが少しだけ欲を出すと、夕がそれらを嗜めるかのように「いい加減、この手の外来生物の出現はやめてほしいものだ」と呟いた。

 

「……あの、その、なんとかお願いはできる……ということでよろしいですか?」

 

「もちろんよ。その手の人の役割を強引に決めようって輩は、私大嫌いだモノ」

 

サムズアップとウィンクを返して、ミナは笑い返し「どうやってやったろうかねえ?」と笑みを悪そうに変えて含み笑いをするのであった。

 

 

 

一ノ瀬興起、というのがその男の名前であった。

 

八左衛門はその名の通りの八男坊であったのだが、その兄は総て寂れゆく神森市へ留まることを厭ってこの地を離れていた。

 

興起もその一人で、八左衛門の兄の中では三男である。

 

八左衛門と興起はそれなりに仲がいい。

 

だが、それでも譲れないものはあるというわけで。

 

「なぜ姪に会わせようとせんのだ、ワシを」

 

「兄貴がアホなことを押し付けなきゃ良いんだよ。娘ももう高校三年だ。受験を控えた大事な時期に兄貴の生活指導で気を揉ませたくないんだよ」

 

湯飲みに入った冷たいほうじ茶を啜り、八左衛門は嘆息した。

 

「手ぬるい!大事な時期だからこそ生活を糺すことは必要だろう!」

 

ドン!と机を拳の腹で叩く男に、八左衛門はにべもなく「兄貴のは時代遅れなんだよ」と呆れ返った。

 

確かに彼もまた娘が地下アイドル、あるいはなんたらチューバーなる動画配信者となっていることについて思うところはある。

 

だが、それはそれで娘や娘の友人がやりたいことなのだろう、と今は黙認しているのだ。

 

「大体だなあ。それで成績が落ちているなら俺だって止めはする。だが、ウチの娘はコンスタントに成績上位をキープしているからな」

 

文句など言えるものかよ、と裂きイカを口に含んでフンッと鼻を鳴らした。

 

「……だが、それでもだな」

 

「わかった、わかった。ただし無理やり止めるなどということはしないでくれよ。娘に恨まれたくはない」

 

「全く心配性だな……」

 

そう言うと、興起は日本酒の入ったコップを差し出し、八左衛門も同じようにコップを突き出して乾杯と呟くように言ったのであった。

 

 

 

「と、話してるけど?」とミナは盗聴器のイヤホンを片方外しながらみはるへ問いかけた。

 

「とても信じられませんわ!絶対途中で気が変わるのが叔父様です!」

 

藤岡弘、探検隊の制服に身を包んだみはるは、そうしてぷんすこと怒っている。

 

「気が変わる、というのが理解できんなあ。弟との約束だからと軽んじているのだろうか……」

 

夕は首を傾げて、「ま、約束を反故にするというならやりようはある」と独り言ちた。

 

「男らしくない、って話で攻めるのは逆効果ね、ああいうのの場合」

 

「あの手の輩は、自分ルールが絶対ですからね。逆上されても面倒だ」

 

ルルが何やら機械を操作しながらそう言って、遠い目をする。

 

同じようなことが昔あったのだろう。

 

ミナもまた苦虫を噛み潰したような顔となった。

 

(ま、故郷の森でルルを認めない家の連中と口論になったときよりは遥かにマシよね)

 

ミナは内心でそう独り言つ。

 

そう、ハイエルフの口論というものはとにかく長いものである。

 

下手をすれば10年、20年と続きかねないので実力行使で黙らせたのはもう80年かそこら前だったはずである。

 

「まあ、後は私達に任せてみはるちゃんはぬえ子ちゃんちに避難しておいて」

 

ミナがそういって、車を発進させる。

 

「……そうですわね。ありがとうございます」とみはるは殊勝に頭を下げた。

 

「素直が一番!そんじゃ行くわよー」

 

ブロロロロ、とエンジン音を鳴り響かせてジープ・グラディエイターは去っていくのであった。

 

 

 

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