異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第287話「幕間12-2 騒動の火種は知らないうちに撒かれているものである」

 

そして、翌日のこと。

 

ミナはインコグニート……即ち、変装の魔法でみはるへと姿を変えていた。

 

「……どうやってるんですか~?その変装~?」

 

「企業秘密ですわ!」

 

―――その声はしっかりとミナのものである。

 

シェイプシフト、即ち変身の古代語魔法、変化の陰陽術などであれば声までもごまかすことはできるのだが、そこまでやると今度は傍で疑問を呈しているつぐみへの言い訳が面倒なのでこの術を選択していた。

 

シェイプシフトの下位互換ではあるものの、ミナほどの術者であればほとんど誰も見抜くことは出来ないだろう。

 

実際に親である一ノ瀬社長も今朝みはるの部屋から出てきたミナに気づくことはなかったのであった。

 

「そういうわけで、叔父様とやらに気づかれても良いようにわたくしが代役を努め、その間に本物さんは今回の撮影の主旨を果たした上で叔父様と出会わなければ良いということで」

 

「もし遭遇した場合、僕がどうにかしますのでつぐみさんもぬえ子さんもご安心を」

 

傍に控えていたルルがニッコリというと、同じく機材に隠れていたぬえ子もまた「そういうわけなんで私とルルさんは隠れてま~す」と少しだけいたずらっ子のように微笑んだ。

 

「つぐみさんは違和感を持たれないようフォローをお願いしますわ―――さて、件の叔父様は、と……」

 

ミナはそうしてその男を見定める。

 

―――みはるの話によれば、その叔父さんはいわゆる話を全く聞かず、イラッとくると女でもビンタするという現代人とはとても思えない人間であると言う。

 

そして八左衛門と仲が良く、彼はその兄に頭が上がらないようである。

 

そうなるともうなんかこう、洗脳でもするしかないんじゃないかなー、とミナは90年代にはよくいた話聞かない教師のことを思い浮かべて嘆息した。

 

(まあ、最終的には力技しかないわね)

 

内心そうつぶやいて、みはるの姿をしたミナはなんでもないことのようにしゃなりしゃなりと向こうから歩いてくる男を見据えながら歩き出す。

 

「ごきげんよう、叔父様。今日はどうなさったのです?わたくし、これから『仕事』なのですけども」

 

―――ミナはそうして宮廷で振る舞うような調子で、粗野そうなその男へと挨拶をした。

 

「おう、久しぶりだな!その件で来た!八左衛門は自由にさせろと言うが、ワシはそうは思わん!なぜだ!そんなに学生のうちから目立ちたいのか!ワシが納得するように言ってみろ!!」

 

―――その言葉に、ミナは瞬間湯沸かし器のように沸騰しかけるが、こめかみを押さえてなんとか我慢する。

 

(八左衛門さんとの話、1ミリも守る気ねーじゃんよ……いや、マジでクソ頭の固い小国の騎士団長によくいるタイプだわ……)

 

怒りマークをこめかみに浮かべるかのように、「お父様やお母様の許可はもらっていますわ!叔父様は家庭のことに口を出さないでくださいまし!」と小さな扇子をビシリと突きつけてお嬢様の姿をしたエルフは鼻を鳴らした。

 

「そうですよ~何の権利があってそんなこと言うんですかぁ~」

 

つぐみが援護射撃をしつつ、腕を組んで怒りを表した。

 

「そこだ!それが気に食わん!女は女らしく、男は男らしくあるべきだ!学生のうちから芸能人のように目立とうなどと、八左衛門が許してもワシが許さん!」

 

許す、許さねえじゃねえよ……ミナは今すぐ顔面ぶっ壊してやりたい衝動を抑えて微笑みを保つ。

 

「いつの時代の話ですか……子役など昔からいくらでもいたでしょうに」

 

扇子で口を覆って、「みはる」は心外なことを言う、とため息をつく。

 

「それがどうした!?今はお前と身内の話をしている!身内の恥を全世界に公開するなと言っているのだ!!」

 

「みはる」はそれならちょっとは理解できるかもしれないと思ったが、それでも別にみはるやつぐみが人様に恥ずかしい動画を配信しているか、というと……

 

体を張った探検隊もどきや、優雅な私生活からのズッコケた話の披露、オリジナルの歌を歌ってみたり、カバーソングを歌ってみたり、踊ってみたり、旅番組もどきをやってみたり、と多岐にわたるが別に裸を晒したりしているわけでもなく、結構まっとうな活動をしているとミナは判断している。

 

炎上するようなことは何一つしていないがゆえに、恋とコラボする時以外は視聴者数は伸びていないが、それでもファンが徐々に増えているのだな、とミナは思っていた。

 

「恥かどうか決めるのは世間様ですわ。わたくし、誓って犯罪行為や痴女的な行為には手を染めておりません」

 

今どき、インターネットで顔を晒すような若者は「普通」である。

 

ミナ自身は、そんな目立つ行為は一切ごめんであると思ってはいたが、それでもこの間の韋駄天百貨店のウェディングコーナーの件のような不意に顔を晒すハメになることなど珍しくもない。

 

「言うことを聞く気はないということか!」

 

「突然いらして、わたくしの自由を奪うようなことを仰っしゃられる方の言う事など聞く気はございません」

 

―――「みはる」は、きっとみはるがあのように叔父を恐れていなければ、このように対応したろうと、数年後の彼女がどうなっているかを思い演技をした。

 

「……なるほどな。では今回は引き下がろうか。だが、身内に迷惑をかけるようなことがあったら、今度こそ許さんぞ!」

 

興起はそう捨て台詞を言い残すと、後ろを向いて憤然として去っていった。

 

「―――津波かなにかですか、あの方は」

 

まだ演技を続けながら、つぐみにそう聞くと、彼女はいつもの間延びした声で「みーちゃんもそう言ってたよぉ~」とタオルを「みはる」に渡す。

 

「ありがとう、つぐみさん……」

 

「みはる」は少しだけ疲れた笑みを浮かべると、「ああいう権威主義者は、あなたたちが有名になったら即座に手のひらクルッと大回転すると思いますわ。お気をつけて」とつぐみにアドバイスをした。

 

身内の恥だのなんだのと小うるさい親父だったので、ほぼ間違いはあるまい。

 

そしてきっと謝ることはないのだ。

 

―――ミナ本人の親戚たちのように。

 

(あ~ああいうの見てたら、思い出しちまったよ。もしこっちでアレと結婚して帰ったりしたらうるせえぞなもし~)

 

そうなのである。

 

ミナが勇者となり、大魔道士となり、大神官となり、精霊術を極めてもなお認めようとしなかったものもいたくらいなので、邪神討伐しても大して認めねえだろうなあ、と心の中だけで言って後ろを振り向いた。

 

「出てきていいですわよ。もうあの叔父様はおりません」

 

精霊の感覚からそれだけは確実である。

 

ミナはみはるの演技をやめて「だから安心して出てきなさいって」と微笑んだ。

 

「そ、そうですか……?」

 

「ええ、もう近くにあの男はいないわ。私も変装解いてくるね」と言って、ミナは裏に引っ込んでいった。

 

「みーちゃん、撮影はどうだったぁ~?」

 

「バッチリですわ!しかし、まさか百貨店の地下スタジオにまでいらっしゃるとは……」

 

みはるは今さっき撮った、セーラー服で機関銃と肩キャノンを装備して歌って踊る動画を確認しつつ、ブチブチと文句を呟く。

 

そうしている間に引っ込んだミナが変装の魔法を解除して、顔を出した。

 

「さ、着替えたわよ。編集作業は後にするんでしょ?今日は私が奢ってあげるから、ご飯食べにいきましょうね」

 

そうして彼女はふたりの背中を叩いて、「さくっと着替えてきなさい」と微笑んだのであった。

 

―――このみはるの叔父がいずれ起こす騒動については、今は別の話である。

 

 

 

「よし。百貨店から目標は離れた。金髪女は任務を達成したようだな」

 

夕が百貨店の隣のビル屋上で、そう真面目にルルに報告した。

 

「ですか。やれやれ、あのお嬢さんは人騒がせで困る。魔法を使うまでもなかったのは幸いですが」

 

今回のミッションは、普通に洗脳して終わりにすることもできたのであるが、しかしあの手の頑固者がすぐに考えを変えたとしたらそれはそれで疑念を抱かれてしまう。

 

「あの社長殿は悪い人間というわけでもないですし、その身内を下手にいじるのは面倒ですからね」

 

ルルは髪の毛を右手でいじりながら、少女らしい仕草でそう言った。

 

「何事もなく……でいいのかはわからんな。あの手の頑固者は目下の者が言うことを聞くまで諦めんぞ」

 

「まぁまぁ。いずれみはるさん、つぐみさんのほうが目上になりますよ」

 

少年は空を見上げながらそう微笑むと、その隣でポットから麦茶を注いでいたぬえ子が「そういうもの……なのかなあ?」と首を傾げた。

 

「ええ。権威に弱いものはそうですよ。そういうものなのです」

 

だからミナさんも地位を得るまでは大変だったみたいです、とルルは言葉にはせずにそう一人思う。

 

「さて、撤収するか。ここに長居するのはいかんとビルの管理人から言われていることだしな」

 

夕は立ち上がって屋上の出入り口へと歩み去り、そしてルルとぬえ子も麦茶を飲み干すと立ち上がった。

 

「ただまあ。どうせ騒動を起こすのでしょうけどね」

 

「ルルさん?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

精霊の言葉で小さく呟いた言葉はぬえ子には届くことはなく、今回の騒動らしくもない騒動は一見しては落着したかのように見えたのであった。

 

 

 

「―――うぬぬぬ。小娘が生意気になりよって!まあ、いい……八左衛門との約束も……?」

 

男は不満そうに路地を歩いている……

 

歩いて、そして足元になにかがあるのを気づいた。

 

それは、虹色に光る飴玉のようだった。

 

「ふむ……?なんだこれは……」

 

男は、興起はその飴玉から目を離すことができない。

 

できない。

 

できなかった。

 

だから―――

 

「……そうすればいいと……」

 

それに命ぜられたかのように、それを拾って、みはるの叔父はニヤリと笑ったのであった。

 

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