異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第289話「幕間13-2 そうだ、お風呂入ろう」

 

 

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「大将、特に問題は起きていないようですね」

 

廻は次の注文で茹でる麺を人数分渡しながら、漁大くらげ屋の店主に話しかけた。

 

「おう。そっちの店長も大人しくカレー作ってるだけだからな」と言ってニッと笑う。

 

「店長を本店以外で表に出すのは危険性が高すぎますから……」とこの半年以上の付き合いでどういう人間か理解しきっていた廻は、遠い目をしてへの字に口を引き結ぶ。

 

もし汗腺が存在するなら汗の一つも流しているところだ。

 

「カレーラーメンは難しいと聞きますが」

 

「おう、難しい。どーしてもカレーうどんもどきになるからな。そこをどうにかするのはこちらの腕ってやつだ」

 

そうしてカレーとタレを注いだどんぶりにスープを入れ、そしてくるくると混ぜ合わせると麺を入れる。

 

「具、頼むわ」「承知」

 

そうして決められた具をトッピングしていくと、漁大くらげ屋特製魚介カレーラーメンの出来上がりであった。

 

「三人前、A-1席で運搬します」

 

手早くトレイに乗っけると、廻はすぐに動き出す。

 

その姿はスナック黒十字でのウェイター服であった。

 

「あ、来た来た。おーい!」

 

廻の姿を確認した少女がひとり声を上げる。

 

見れば、それは岬のクラスメートの水木ななかであった。

 

「どーも、岬ちゃんちのお兄さん!」

 

「お世話様です。ななかちゃん、ちょっと失礼よ」

 

隣りにいるのはメガネを掛けた少女、佐々木とおるである。

 

いつも一緒にいるかけるの姿は見えず、今日は二人だけのように見えた。

 

「いらっしゃいませ。カレーラーメン二つになります……こんにちは、ふたりとも。今日はかけるくんはいないのかな?」

 

ウェイターがそう聞くと、少女たちは「プールでずっと泳いでるんで、多分そのうちくると思います」「そーそー。恋ちゃんと一緒にね。なんか物足りない、って」と口々に答えた。

 

(魔法少女としての体力を持て余しているのかもしれないな)と思考し、カレーラーメンをテーブルに置くと男は「そうか……」と呟いて0.7秒ほど思考してから「ありがとう。楽しんでいってほしい。ごゆっくり」と頭を下げてテーブルを離れた。

 

「何事もなければ良いんだが」

 

呟いた言葉が投げかけられたのは、スパスペースで湯に浸かっているはずのカレーナに向けられたものであり、また過労で休んでいる潤美に対してでもあり、そしてその介抱と監視をしている岬に向けられたものでもあったのだった。

 

 

 

「へっくし!」

 

サウナを抜けて水風呂から上がったカレーナを襲ったのは盛大なくしゃみであった。

 

「誰ぞ悪口でも言っておるのかの……と、あれは」

 

カレーナの視線の先には、どうやらプールスペースから移動してきたと思しき恋とかけるの姿が見えた。

 

脱衣所で今は服を脱いでいる……と、かけるが怪訝な目をして服を脱ぐのを途中でやめた。

 

『どうしたんだい、かけるちゃん』

 

『なんだか嫌な視線を感じる……いやらしい感じの』

 

ウィンドボイスを使ったらなにか言われそうだったから、そう読み取れたのは彼女が長い人生で培ってきた読唇術の賜物である。

 

「……鋭いの」

 

カレーナは舌打ちをして視線を外し、「少女も良い。かわいいもの、美しいものは全て良い」と後ろを向いて炭酸泉へと向かっていった。

 

概ねいるのは婆さんおばちゃんばかりだが、それでも幾人かはカレーナの眼鏡に叶う……一晩二晩相手をしても良いと思える女性もいて、カレーナは「手を出したら孫がうるさいからのう」と小さな声でつぶやきながら、いわゆる視姦をしていた。

 

炭酸泉の泡で体を覆いながら、女は周囲を眺めて「ふー」とため息をついた。

 

そうしてすぐに……後ろから知った気配が近づいてくる。

 

おそらくは恋とかけるだろう、と思ってその体をよく見ようと見れば……

 

「……チッ」とカレーナは舌打ちをせざるをえない。

 

(水着で来るか……)

 

「そりゃ水着で来るよ。今、かけるちゃんが嫌な視線を感じるって言ったら、カレーナおば……姉ちゃんしかいねーじゃん」

 

舌打ちをしたカレーナに、恋がジト目で話しかけた。

 

「ぬう、汝も読唇術のたぐいが使えるのかぇ?」

 

「ちげーよ。かけるちゃんほどじゃねえけど、あたいもそういう視線には敏感なんだよ」

 

恋は呆れ気味で、うしろにかけるを隠しながら歩いてくる。

 

「あの、確かミナさんの……?」

 

「そ、親戚のねーちゃん。変態だからかけるちゃんも気をつけて」

 

ジト目を微塵も崩さずにそう言われたカレーナは、「失敬な。無理矢理はせんぞ。今は」とタオルで汗を拭いた。

 

「そういうところだよ……」

 

「そんなことより、我はカレーナ・トワイライトじゃ。日本語は習ったところが古風での。このような喋りになっているのは許してたもれ」

 

さらりと流れる水のようにカバーストーリーを話したカレーナはザバリと湯から上がると、その豊かな姿態を見せつけるように湯船から出て、かけるに手を差し出した。

 

「あ、はい。影山かけるです。改めてよろしくおねがいします」

 

礼儀正しく頭を下げたかけるは、差し出されたその手を右の手で握り返した。

 

「よろしくの」

 

カレーナはその握り返された手を、いやらしい手つきにならないように最新の注意を払いながら感触を堪能する。

 

(あ~手を出したいのう~ヤッてやりたいのう~でも出せんからのう~)

 

残念に思いながらも、そんな思考をしながら手を離す。

 

―――流石にミナも内心の自由まで奪うつもりはなかったようであった。

 

「目つきがやらしい……」

 

しかしアイドルとしてそう言う視線に慣れている恋にはバレバレだったようで、岬は手を離したかけるとカレーナの間に入りカレーナをまた睨めつける。

 

「う、うおお?視線でも駄目か?駄目なのかの?!」

 

そう涙目で言うものだから、恋は「寒気がしない程度で勘弁してよね……」と髪をすいて嘆息した。

 

「あ、やっぱりさっきの視線はお姉さんだったんですね……?」とかけるが一歩引いて、「ごめんなさい。兄からも恋愛するにしても男と付き合ってくれって言われてるんで」と微笑みながら汗を流してしまった。

 

「う、うぬぬ……ね、年長者をいじめて楽しいかちびっこぉ!」

 

「楽しくはあんまりないけど、股間と胸と尻をねっとりした視線で見るのやめてよ」

 

にべもない恋に、カレーナは「我、悲しい!」と涙を流してしまった。

 

「嘘泣き乙」

 

「え?これ本気で泣いてるんじゃないの……?」

 

「涙なんてただの体から出る汁だよ……あたい自由に泣けるし」

 

かけるがシクシクと泣くカレーナを指さしながらそう聞くと、恋は普通にポロポロと涙を流し始める。

 

「う、うぐっ!?その年で自在に泣けるとは!?」

 

カレーナは涙を止めて、少しだけ怯んでしまった。

 

「へっ。アイドルなめんなよ。んじゃ、行こうかかけるちゃん」

 

「いいのかな?なんかちょっと落ち込んじゃったけど」

 

「いいのいいの。すぐもとに戻るから」

 

恋はかけるの肩を押して、ジャグジーの方へと歩み去っていく。

 

「ぬぅ~生意気な~!」

 

カレーナはもう一度炭酸泉に体を漬けて、「あ~つまらんのう~」と足を組む。

 

すると。

 

「あのぉ。炭酸抜けるんでやめてもらえませんかねえ」

 

そう40からみの太ったおばちゃんが話しかけてきて、渋々大人しく湯に浸かるのであった。

 

 

 

「そういうわけでカレーナばーちゃんは休憩所でふて寝してるよ……」

 

先程行ってみたら、外からも見える休憩所で浴衣半脱ぎで寝ているカレーナを発見してきた恋はそうしてため息をついた。

 

「男も見える場所だってのに。出禁にならなきゃいいけど」

 

「大丈夫ですよ。多分、今頃店員さんが注意に行っているですよ。それに逆らえば停止です」

 

岬は潤美の蒼白な寝顔を見ながら、恋にそういって頬杖をついた。

 

「……大丈夫、この人?」

 

「もとから顔色は悪い人ですけど、ねえ……」

 

「うーん、ううーん……」

 

唸るようにうなされているメイドさんを見て、二人はまたため息をついた。

 

「カレーナおばあちゃん、顔はそっくりですけど、ミナちゃんとは似ても似つかない人ですねえ……」

 

「だよなー。まあそれはともかく、あたいもあっちに戻るよ。岬ちゃんはこのままでいいのかい?」

 

恋は目の前の潤美を見ながら、「まあ廻さんに見張りを頼まれていますですからね……」と微笑む。

 

「じゃあ、廻さんのことは?」

 

「そちらは……廻さんからお話していただければ、と」

 

急に廻のことを振ってきた恋に、臆しも動揺もなく岬は返して。

 

「告白は男の方からするものですよ。日本神話にも書いてあります」と笑った。

 

「それって、子作りは男の方から誘えってやつじゃなかったっけ」

 

「同じだとあたしは思いますですよ。さ、ななかちゃんたちのところへ戻ってくださいです」

 

岬は恋に廻からもらったクーポン券を渡して、ひらひらと手を振る。

 

「わかったよ。岬ちゃんがそれでいいなら」

 

渡された少女は、少しニヒルな笑みを浮かべてバックヤードを出ていく―――

 

渡した少女は、「今日という日は明日のための……」と呟いて、うなされているメイドに生命の精霊術をかけてあげるのであった。

 

 

 

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