異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第29話「もし都市伝説から最近生まれたものではないのなら、由々しきことですが」

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そうして数日後、本日は次の空悟の休みの日である。

 

今日こそ科戸研究所へ突入するのだ。

 

攻略に時間がかかることを考慮して、空悟には余りまくっている有給休暇を使ってもらって、である。

 

空悟は封印物の中から防弾チョッキとショットガン、集成主義者の持っていた東側製のアサルトライフル、そしてこのダンジョンでたっぷり弾丸も銃そのものも手に入った九四式拳銃で武装している。

 

腰には打撃武器として、前回活躍した精神注入棒が腰に吊られていた。

 

ミナが調べてみると、これはどうも何かの霊木で出来ているようで、そのため意志力を込めて殴ると霊体にもそこそこダメージを与えられるものだと判明していた。

 

何故こんな形なのかは、バグダンジョンゆえの理不尽さだろう、というのがベテラン冒険者二人の意見であった。

 

刑事としての装備である愛用の拳銃は置いてきた。

 

今日は刑事としての仕事ではないのだから。

 

アンデッドとの激戦でも一発も撃たれておらず、それ故に先日のカバーストーリーもすんなり信じてもらうことが出来た。

 

それでも、懐にある重さのおかげで戦えたのだろう、と空悟は思っていた。

 

あれから数日間、勤務が終わるとミナと組手をすることになった空悟だが、警官生活で鍛え上げた柔道、剣道、空手、そして捕縛術の全てがが全く通じなかったことは多少ショックだった。

 

しかしミナもまた異世界で拳法を学んできていたわけだから、これも上達のチャンスとして受け入れている。

 

「よし、行くかぁ!」

 

「空悟、ちゃんと清水さんに言ってきたよな?」

 

気合を入れる男に、森人の勇者は開口一番そう問いかけた。

 

「もちろんだ。弁当も作ってもらったし、準備は完璧だぜ」

 

キャンプか何か用と思われるリュックサックから、アルミホイルに包まれたおにぎりとおかずの入ったタッパーが入った弁当袋を取り出して見せてくる。

 

「お熱いねえ……結婚して5年だっけ、6年だっけ。ちゃんと弁当作ってもらえんだな」

 

「そりゃそうだろ。弁当作ったほうが食費も浮くしな。俺も時々作る」

 

リュックに弁当を戻しながら彼が言うと、ミナは「マジで?あれ?お前料理できたっけ?」と怪訝な顔になった。

 

それを見た空悟は少しだけ憮然として、「大学時代に文に習った。言ってなかったっけ?」と返す。

 

ミナは首をひねって昔の記憶を思い出そうとする。

 

十数秒ほど考えて、その記憶を引っ張り出したが、今回は邪神によって忘れさせられていたという精神への負の衝動が起きなかった。

 

「ああ、そうそう。そう言えばそんなこと聞いた記憶はあったけど、一回もお前の食ったことなかったからな。邪神と関係なく完全に忘れてたわ」

 

純粋に邪神に人生を狂わせられる前の三郎もよく覚えていなかった事象であり、ミナは内心少し安堵する。

 

「ダンジョンで炊事することがあったら食わせてくれよ。オレの料理も食わせただろ?」

 

ミナがそう言って肩を叩くと、任せておけ、と彼は笑う。

 

その背中にルルがドス黒い視線を向けて、「もういいですから行きましょうよ」と半目で提案した。

 

明らかに二人の友情に嫉妬している彼に向けて、エルフの少女はため息を漏らしながら笑う。

 

「ルル……あんた、なんでそんなに不機嫌なのよ?」

 

そう聞くと、ルルは「いやあ、仲いいなあ、って」となんでもないように言ったが、その視線には嫉妬の色が確かに含まれていることがミナには見て取れた。

 

だから彼女はビシ、と少年にチョップをかましてから背後に回り込んだのだ。

 

「ルル、あんたさぁ……私とこいつがそんな関係になるわけねぇだろぉがァァ~~!」

 

「男と女の間には真の友情は成立しない、とかいうのあるけどな、何故俺が元男にそんな感情抱かなきゃならないんだよ、ルルくん……こいつの顔見ててもだな……嫌でも三郎の顔が浮かんで仕方ないわ」

 

ミナは笑ったままルルのこめかみに両の拳を当ててグリグリと回転させる、いわゆるウメボシと呼ばれるお仕置きを行い、その隣で空悟は心底嫌そうな顔で肩を落としていた。

 

「イタタタタタ!痛いですって!そういうのは理屈じゃないんですよ!わかりました!わかりましたから!」

 

「わかりましたじゃない!私を精神的ホモにするのはやめてもらおうかァ~~!恋愛事など後500年はいらぬわぁ~~!」

 

バタバタと手足を動かして抗議するルルと、ウメボシを続行するミナをリュックを背負った岬が見て笑う。

 

「仲いいですねぇ……」

 

「だよな。むしろそういう意味で怪しいのはお前らだよ」

 

岬の言葉に空悟が肯んずると、ルルはニヤ~~っと変な笑いをしてミナを見る。

 

その顔に「てめーら……どういう眼で私を見てるんだ……?」とミナはつぶやくしかなかったのである。

 

 

 

気を取り直して、ミナは調和神の聖杖を取り出す。

 

コホン、と咳払いをしてその杖を掲げると、陰陽術の詠唱を始めた。

 

「陣よ、遠く聞け。汝がその名を忘れぬならば、我らをそなたの下へと呼び戻し給え!汝の名は『記憶』なり!」

 

杖がキラリと光ると、四人もまた光に包まれる。

 

「おお、これは……」

 

「ちょっと黙っててくれ。すぐに終わる―――よっ!」

 

ミナが掛け声を上げると光は消え、四人が立っていたのはすでに―――

 

「おお、すげえ……マジで研究所の前だ。こりゃあ便利だな」

 

そこは科戸研究所と書かれた扉の前だったのだ。

 

空悟の感嘆する声に、ミナは「だろ?」と返して扉に触れる。

 

「―――よし、ここからはダンジョンだ。空悟、岬……油断だけはしてくれるなよ」

 

「おう」「はい!」

 

二人の返事に首肯して、ミナは扉に触れたまま呪文を詠唱し始める。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ、我が声に従い閉ざされたものを開け。アンロック」

 

ぽう、と彼女の手に光が宿る。

 

それが消えると同時にガチャリ、と何かが開くような音がして―――そのとおりに扉は軋んだ音を上げて開いた。

 

開いた扉から見えるのは、ガラスの引き戸で仕切られたエントランスホールのようだ。

 

扉の外からの建物の大きさと比べても広すぎるように思えるそれは、よくよく見れば何か空間が歪んでるようにも見えた。

 

「……ゾンビとかがうろついてた辺りより気持ち悪いです……」

 

岬がミナの後ろに隠れながらそう言って身震いする。

 

「まだまだ序の口ですよ。行きましょう。打ち合わせ通り先頭は前衛のミナさん。殿は僕、コンノ殿はミナさんの後ろ、ミサキ殿は僕の前。これが基本のポジションです」

 

ルルの言葉に二人は首肯し、そのような並びとなってミナが動き始めるとともに歩き出す。

 

エントランスホールはひんやりとして、しかし時折点滅しながら輝く白熱電球が明るさと僅かな暖かさを出していた。

 

ガラスの引き戸を開け、下足入れを無視して土足のまま踏み込む。

 

科戸研究所の探索はこうして始まった。

 

 

 

まず襲ってきたのは―――通路いっぱいの鉄球であった。

 

「ベタな罠!」

 

「そういう場合じゃなくて、どうすんだ!」

 

ミナが目を見開いてありがちさを糾弾し、空悟がそれに突っ込むと少女は笑う。

 

「本当は仕掛けを解いて止めるしかないんだろうが、ぶっちゃけオレの場合これが一番だ」

 

ミナは無限のバッグからハンマーを一本取り出す。

 

「ルル!どう?物理的なトラップの気配はないわよ」

 

「触発系魔法の気配なし、バグの気配なし、破壊不能オブジェクトもネガティブ。ただの鉄球ですね」

 

「よっしゃ!どっせい!!」

 

ルルの分析結果を聞き、目前まで迫った鉄球にそのハンマーを全力で振りかぶり―――

 

「どうするつもり……って決まってるわな……?」

 

空悟のつぶやきをよそに、鉄塊はより巨大な鉄塊に高速で衝突して、そして。

 

音もなく停止した鉄球は、バカっと割れてバラバラになって地面に落ちたのであった。

 

「よっしゃ。今更、私にこの程度の罠とはナメてるのかしら?」

 

ミナがハンマーの柄を地面に叩きつけると、砕けた鉄球はそのまま鉄の砂になって消えていく。

 

破壊された後は魔法の仕掛けでそうなるようだった。

 

「力技すぎる……」

 

「力技でどうにかできるところはどうにかするだろぉ。バイ○ハ○ードじゃないんだし、いちいちやっとれんわ。破壊不能オブジェクトでもなかったしね」

 

ミナがハンマーをしまうと、岬は「破壊不能オブジェクトってなんですか?聞いた感じ、壊せないものみたいですけど……」と聞いた。

 

ミナは「良い質問ね」と返して、説明を始めた。

 

破壊不能オブジェクトとは、バグダンジョンでよく見つかるもので、次の性質を持つものである。

 

一つは、通常の方法では絶対に破壊できない。どんな道具を使おうが、魔法や腕力を使おうが破壊することが出来ない。

 

二つ目は、特定の仕掛けを解くことで消滅したり移動したり無力化するものが多いこと。

 

そして最後に、破壊不能オブジェクトはダンジョンの外ではほとんど見受けられないが、外にあるものは例外なく厄ネタであるということだ。

 

ミナとルルもまたダンジョン外の破壊不能オブジェクトのために冒険しなければならないことが何回もあった。

 

200年も冒険者を続けている女が「しなければならない」と言うほどにそれは厄介なものだとミナは言う。

 

「とにかく、さっきの鉄球は違ったわ。破壊不能オブジェクトがあると一気にリドルが難しくなるのよね。ここから先に出ないとも限らないし、気をつけましょう」

 

その言葉に新米二人が肯んじたのを見ると、前を向いて歩き出す。

 

通路はなんの変哲もない、コンクリート壁のいかにも秘密の研究所めいた廊下である。

 

鉄球が現れた壁をミナが調べると、そこには小さな切れ目があることに気がついた。

 

罠を発動させないように、そっと壁に耳を当てて壁の向こうの音を聞く。

 

(わずかに空気の流れがある……うん)

 

「どうだ?」

 

「この中、鉄球がなくなったのか空洞があるなあ。その奥に空気の流れがあっから、多分隠し通路だぞ」

 

ミナはバッグに手を突っ込み、そこからダウジングで使うようなL字型の棒を2本出した。

 

「……今どきダウジングですか?」

 

岬が怪訝な声をミナに向けると、ミナはニッコリ笑う。

 

「まあ、こっちの世界ではそうかも知れないし、向こうでもただの棒でやったら確証バイアス実験結果を増やすだけよ。でも、これは魔法の棒だから」

 

そうしてL字棒の短い部分を持って、棒先を壁に向けるとパカリと開いた。

 

「うん、この先には通路がある可能性が高いわ……これはね、捜し物の杖っていうものでね。こういうふうにすると、求めてるものがあるかどうかある程度判定してくれるのよ。的中率は7割くらいだけどね」

 

「十分じゃないですか!これで埋蔵金探しましょう!」

 

目をキラキラさせた岬を見てミナはたはー、と苦笑した。

 

岬が子供の頃は徳川埋蔵金の特番が何回もテレビで放映されていたことを知っているからだ。

 

もちろん、その全てがただただ大穴開けて近隣に迷惑をかけていただけであることも。

 

本当にあるかどうかはともかく、現代日本でそのような地主に訴えられそうなことをするつもりはミナにはなかった。

 

岬の言葉をあえてスルーしたミナはルルを見る。

 

「よし、こっち行ってみるか……ルル、どう思う?」

 

「ビンゴ、かどうかは進んでから決めましょう。罠の可能性もありますが」

 

「じゃあそれで。空悟もそれでいいか?」

 

ルルと空悟が首肯したのを確認して、彼女はアンロックの魔法を唱えた。

 

すると目の前を塞いでいた壁は音もなく崩れ去り、そこには鉄球を拘束していたと思われるケージが一つと、その奥へ続く道があったのだった。

 

 

 

続く道を進む。明らかに外からの印象とはかけ離れた広大な迷路がそこには広がっていた。

 

「かんっぜんにいつものバグダンジョンめいてきたわね……気をつけてくれ、空悟、岬。こっからは罠の数も凶悪さもほぼ間違いなく悪化するから絶対壁を触らないこと。『壁を伝っていけばいつか出口にたどり着く』を逆手に取られてトラップカード発動!ってのが定番だからさ。後はオレの前にも出ないでくれ」

 

ミナの警告に、壁を触ろうとしていた岬が「ひぇ」と短い悲鳴を飲み込む。

 

「敵が出たら?」

 

「ショットガンを躊躇なくぶっぱしてくれや。散弾くらいなら防具で弾けるからな」

 

ひらひらと今着ている服……蒼色のローブの裾を振る。

 

それはディープブルーローブ、紺碧の衣と呼ばれる魔道士用としてはかなり上位のものである。

 

「りょーかい」

 

空悟のその言葉を耳に入れると、ミナは捜し物の杖を持って先頭を進んでいく……今回はミナが斥候なので、一番うしろでマップを記載しているのはルルだ。

 

岬はその仕事を見せてもらいながら歩いている。

 

ダンジョンでマッパーは必要不可欠である。

 

万一の時、地図を書ける人間は多いほうがいい。

 

一方で空悟はミナから、罠についてレクチャーを受けている。

 

タイルが一枚だけ新しくなっているところに気づいた空悟に笑いかけたミナが、コツンと小石を投げ込んでみると、地面から槍がガシャンと出てきて空悟と岬は肝を冷やした。

 

「マジでイン○ィ・ジョー○ズみたいなことしなきゃならんのな……」

 

「全部出来れとか言わねーけど、単純な罠の見分け方くらいは覚えてないとあっという間に死ぬからな……いや、オレも何回かどころじゃなく死にっぱぐってるから人のこと言えた義理じゃねえんだけどもよ……罠にハマってゴブリンにとっ捕まった時は、『あ、これ某みすぼらしい鎧兜のゴブリン専門駆除業者でも来なきゃ死ぬわ』って思ったし……なんとかアレされる前に救助されたけどさ……」

 

「そっか……」

 

そして思い出したように「あ、ひん剥かれるまではされた」と笑い、「それ以上は言わなくていいっつーに……」と親友にげんなりされるミナであった。

 

遠い目でつぶやくミナの実感のこもった言葉に、空悟は空恐ろしくなる。

 

これは冒険者としての実習も兼ねた冒険行であったのだ。

 

 

 

何度か角を曲がり、いくつかの背嚢や木箱を見つけ、その中の物品を回収していく。

 

罠は当然用意されており、ミナはそれを一つ一つ解除しては中身を確認して無限のバッグの中へ放り込んでいった。

 

それらの宝箱から手に入ったのは、主に銃器、銃弾、手榴弾やポーションの入った水筒に、竹や木の皮に包まれた……あるいはアルミ製の弁当箱に入った旧軍の航空増加食を思わせる食料だ。

 

そこに時折軍刀や銃剣が混じっている。

 

それだけではなかった。

 

中に少数だが恐ろしいものが混じっていたりもした。

 

一番ルルの興味を引き、空悟や岬がドン引きしたのは桐箱から見つかった手紙とかんざしだ。

 

便箋に「遺書」と書かれ、中身は日本語でも英語でも他の地球上の言葉でも当然グリッチ・エッグの言葉でもない、壊滅フォントですらない謎の言語で書かれた手紙。

 

更に、それと一緒に入っていた緑色の光沢を持つかんざしが凄まじい不気味さを放っていたが、とりあえず両方とも呪いはかかっていなかったのでミナは無感情に回収する。

 

最悪リムーブカースをかけた上でディスティングレイトで分解してしまえばいい、というのがミナの意見だったが、それでも空悟と岬はドン引きしていた。

 

首を傾げながら進むと、地面に「味噌カツは三分前に終了」と流暢な草書体で書かれていて、ミナはちょっとうんざりする。

 

そんなこんなで装備や物資を補充しつつ進んでいった結果、探索開始から3時間ほど経った頃、剣道の有段者であり銃剣道にも心得のある空悟は、今は軍刀が一本と推定一〇〇式機関短銃と思われる銃剣付きの短機関銃を追加で装備していた。

 

魔物は今の所遭遇していない。

 

不気味なほどに迷宮は静まり返っていた。

 

「よし、クリアー」

 

また一つ、ミナが罠を解除する。

 

今度は発動すると毒ガスのたぐいが噴霧されるものであった。

 

「罠で殺しにくるダンジョンかよ……」

 

「それでこっちの消耗を狙ってんのかもな」

 

外した部品を物理的に握りつぶしてミナは憮然とする。

 

そうして角を二つほど曲がったところで、今度はシャッターが降りている入り口があった。

 

シャッターには漢字で「閉鎖」と大書されている。

 

ミナは捜し物の杖を向けて、L字棒が開くのを確認すると、近づいてトラップを探査する。

 

結果として、シャッターやその回りにはなにもないことがわかると、空悟に話しかけた。

 

「罠は……ないみたい。空悟、とりあえず手榴弾投げてみるか」

 

「……旧日本軍のって暴発しやすいんじゃなかったっけ?」

 

「即死までならどうにかしてやるから、さっさと投げるべ」

 

そうして二人は拾った手榴弾―――推定九九式手榴弾の安全弁を抜いて投擲する。

 

物陰に隠れて爆発をやり過ごすと、数秒後にボン、と爆発音がした。

 

ピクリン酸の爆発的な反応によって発生した硝煙が消えるのを待って入り口を確認すると、シャッターが少し歪んでいた。

 

「投げ損かぁ……」

 

「なるほど頑丈だな……よし、やっぱオレがぶっ壊すから、中になんかいたら空悟は即機関銃乱射。岬も変身してそれに続いて魔法ね」

 

ルルには背後の安全確保を頼むと、ミナは彼女自身の体躯の3分の2はあろうか大斧を取り出した。

 

「ま~さかり~か~ついだ金太郎~~♪」

 

ガスっとそれを無造作に振り下ろすと、シャッターが半分以上裂けて、そして―――

 

その亀裂から、軍服を着たゾンビやスケルトン、そしてガスマスクをつけた朱い軍服の何者かが中にいることがわかる。

 

「よし撃て!」

 

「了解!」「わかりました!エネルギーボルト!!」

 

それらは亀裂に殺到するが、ミナが体をそらした瞬間に空悟と岬の銃弾と力の矢が撃ち込まれる。

 

第一波はそれで7体が停止するが、それでも死体たちは亀裂を押し広げながら徐々に徐々にこちらに出てこようとしている。

 

「全く、全然いないかと思えば今度はモンスターハウスか……ルル、なんにも来てないわよね」

 

「今のところは」

 

「―――今のところは、ね。空悟、岬、ちょっと離れててくれ。オレが一発ぶち込むから、そしたら亀裂に近づいて中に遠慮なしにブチ込んでくれ。援護はする」

 

バッグから空悟に拾った一〇〇式機関短銃の弾をありったけ放り投げ、彼が受け取り亀裂から離れたことを確認すると、ミナは詠唱を開始した。

 

その詠唱は……そう、イオナズンみたいな術は使えるという母へ言った言葉の証明となる術であった。

 

「世界を支配する偉大なるロジックよ。大気の法則を書き換えよ。水の素、呼吸の素、そのいくつかを融合せしめ、致命の破壊を風と成せ!フュージョン・エクスプロードッ!!」

 

その瞬間、亀裂の向こうで大気が爆発した。

 

なんの予兆もなく、ズドンと轟音を上げて衝撃波と高熱がアンデッドたちを押しつぶしていく。

 

その衝撃波は亀裂から漏れて、殺到していたゾンビたちを砕きながらミナたちの下へと押し寄せるが、それは魔法の残滓である魔力によって届かない。

 

そう、それは空気中の原子を核融合させ爆裂させる魔法。

 

しかし、秘されし蒼白き死の精霊を呼び寄せない―――即ち放射線を発生させない古代語魔法の奥義の一つであった。

 

「何だ今のは!?」

 

「簡単に言えばティ○ト○ェイトだよ!つまり、放射線が出ない純粋水爆攻撃だ!」

 

「だいたいわかった!」

 

そうして衝撃波が巻き起こした粉塵が収まり、亀裂の中にうごめくものがまだ残っていることを確認した空悟と岬は、ミナの指示通りに近づいてサブマシンガンとエネルギーボルト、そして魔力弾を乱射する。

 

制圧にかかったのは5分ほどであった。

 

「……うーん、この赤い軍服の奴はレッサーヴァンパイアか……都市伝説から生まれたにしちゃ凶悪だわ」

 

亀裂から中に入り、トラップのないことを確認したミナは、赤い軍服のアンデッドのガスマスクを剥ぐとその肌は真白く、その口に牙があることを確認する。

 

そうして、いかんなぁ、とばかりに自分の額に人差し指と中指を当てた。

 

レッサーヴァンパイアはまだそれほど年を経ていない吸血鬼のことだが、一般人には凄まじい驚異である。

 

おそらくは小隊支援火器などで完全武装した現代の兵士が3~4人いれば正面から打ち破るのも可能だろうとミナは思うが、だだっ広い内部にいたのは見て取れただけで十数匹。

 

彼らの武装、そしてゾンビやスケルトンの群れと合わせれば、かなりの驚異となりうる数である。

 

「もし都市伝説から最近生まれたものではないのなら、由々しきことですが」

 

空悟たちを伴って近づいてきたルルがそう言うと、ミナは「やめてよね……考えたくもない」と肩を落とす。

 

「第一そんなだったら、我が国は先の戦争に勝ってるでしょうよ。アメリカが超○血○でも持ち出さない限りはね……」

 

持ったガスマスクをポイと捨てると、ミナはレッサーヴァンパイアたちの死骸が復活しないようにホーリーライトを詠唱して、完全に周囲のアンデッドたちの死骸を塵に返した。

 

融合爆発の魔法で概ね内装が吹き飛んだ部屋ではあったが、そこにはベッドや布団の残骸がグシャグシャになって散らかっており、どうやらアンデッドたちを安置するための場所だったと見受けられる。

 

ベッドの残骸に張り付いている名札、ベッドネームには個人名すら書いてあった。

 

高熱と爆風で焦げてはいるが、部屋の壁は全て真っ白に塗られている。

 

一面のリノリウムの床も砕けてはいるもののさっきまで新品同様だったのではないか、とミナは推測した。

 

奥にはこちら側と同じシャッターで覆われた出口があり、そのシャッターも爆風ででこぼこになっているのが見て取れる。

 

ヴァンパイアやスケルトンが装備していた軍刀や銃器の中で状態が良いものをいくつか見つけてリペアーの魔法で補修してバッグにしまうと、ミナは「行きましょうか、あの奥へ」と言って3人を見た。

 

返事は確認せずにミナはそのシャッターに歩み寄ると、そのまま押すように蹴り開ける。

 

奥側は爆風が逃げなかったせいか、シャッターの強度も弱まっており、ミナにとっては軽い蹴りであっさりとシャッターは奥へ倒れ込んだ。

 

―――そこは真っ暗な場所。

 

何も見えない闇。

 

ハイエルフの少女は、ヒヒイロカネの剣の先に光を灯す。

 

ミナがもう一度「行きましょう」と言うと、3人は首肯した。

 

少年はいつもどおり、なんでもないように。

 

少女と刑事は息を呑んで。

 

闇の向こうに何があるのか、それを確かめるために。

 

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