異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第290話「幕間13-3 そうだ、ラーメン勝負しよう」

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そうして廻はウェイターを続けながら、今日来ている客を分析していた。

 

(三分の一程はカレーラーメンを目的に来たものだな、こちらの食券を買った者は)

 

残りはあったから食べてみた、程度のものであることは会話の内容や一緒に注文したものなどを分析することで判明した。

 

総合的に見れば、普段の1.2倍ほどの売上が見込めるだろうが、期待したほどではない……ほどではないのだが。

 

「まあこのくらい売れりゃあいいよ」と大将は笑った。

 

伝えはしなかったが、まずいという声は殆ど聞こえなかったため、試験としては十分だったのではないだろうか、と廻は思う。

 

後は口コミに乗せられれば、だが……

 

廻は既にSNS上にカレーショップ竹山―――スナック黒十字の支点チェーンのカレーラーメンについての口コミと同時に、漁大くらげ屋の名前もだいぶ出ていることを確認していた。

 

これなら成功と言えるかな、とネット工作の不要を確認すると、「では次の注文はカレーラーメン3つとカレーライス2つですね」と微笑んだ。

 

「うむぅ!客が多くなってきたな!潤美くんはまだ起こすなよ!彼女は最終兵器だ!」

 

奥の方から店長の怒号のような声が響いてきた。

 

それを聞いた他の店員たちは苦笑して、テキパキと動き出す。

 

「スープの量はまだあるな!よし、具!」「承知しました」

 

廻はそうして具を完璧なまでにぴったりをトッピングして……そして。

 

「どうなってんだよおぃい!!」と厨房の外から別の怒号が響くのが聞こえてきた。

 

「この声は……」

 

―――怒り、憎しみ、驚き、それと嫉妬。

 

声の分析からそれらの勘定があることを察した廻は、暴力沙汰になる可能性を瞬時にはじき出して厨房の外へ出る。

 

「おいッ!ラーメン屋はうちしかいれないんじゃなかったのかぁ!?」と鉢巻をした若い男が、洞の湯のスタッフへと怒号を浴びせていた。

 

「そ、それは……限定メニューであれば問題ないと契約書に……」

 

「なにぃ!?何ってんだよ!?あぁ!?」

 

それは……最近、と言っても洞の湯がオープンしてすぐに店主が体を壊してテナントを閉めたラーメン屋の代わりに入った、別のラーメン屋の店主のようだった。

 

店名は「ワッパ麺」。

 

いわゆる二郎系ラーメンリスペクトの店であり、風呂上がりに食べるラーメンとしては重すぎるためかそれほど売れていない、と廻は記録していた。

 

「どうされましたか」と既に出来上がっている注文の品を机においた後、すぐにキレている男へと近づいていくと……

 

「お前か!あのカレー屋の店員だな!?」

 

熱量の向きが急に自分に向いたことを悟った廻は、壁のコスモスを背に「お客様の御迷惑です。後ろでお話というわけにはいきませんか」と微かに微笑みながら提案する。

 

「店員さん、申し訳ありませんが……」と廻は頭を下げて、そしてこっそりと杖を出して魔法を使おうとしていた恋へと目配せをした。

 

「は、はい。私はちょっと上役を呼んできます」とうろたえたスタッフは厨房へと消えていく。

 

「おう、いいよ。なんでこっちに黙ってはじめてんだよ限定ラーメンなんてよ」とガンをつけてくるその男に、「いいからこちらへ」と廻は腕をつかんで引っ張っていった。

 

「な、ちょ、力強っ!?」

 

「お客様がたお騒がせいたしました。どうぞお食事をお楽しみください」

 

文句を何事か言っているようだが、廻は音声サンプリングから彼の声を排除すると客に頭を下げて、それから怒り顔の大将と困惑顔の店長が待つ、カレーショップ竹山に用意されたバックヤードへと歩いていくのであった。

 

 

 

ラーメンを作らなければならない大将を置いて、店長と廻はバックヤードでその怒れる男へ呆れの視線を向けていた。

 

「私と大将は1ヶ月前からやると店には通達していたんだが」

 

「そもそも期間限定なら他の店とかぶるメニューを出しても良いと、この契約書にはバッチリ記載があるんだが」

 

その言葉に、男は「うるせいやい!仁義ってもんはねえのか?!」とまた怒るので、店長は「仁義で商売が成り立てばどんなに良いだろうなあ」とどこかの銀○伝に出てきそうな格好でため息をつく。

 

「勝てば官軍負ければ賊軍というだろう。こちらはルールに則っているのだから、君のような無礼者に言われる筋合いはないし、もし文句があったのであれば一ヶ月前に申告してしかるべきだろう」

 

もちろん廻もにべもなくそう言い放つ。

 

正しいだけでは動かない世の中だが、少なくともこのような理不尽に屈する気は廻にも店長にもない。

 

「俺が修行から帰ってくれば、これだ……!ふざけやがって!」

 

男がそう言うと、店長が「その間にスタッフに申し渡ししていなかった君が悪くはないかね……?」と首を傾げざるを得ない。

 

「そうですよねえ……ちょっと聞いてましたですけど、男らしくないのです」

 

追撃をかけたのは、近くで潤美を見ていた岬だった。

 

「岬……」

 

「店長さんの言ったとおり、ちゃんと申し送りの流れを作って置かなかったのも悪いですし、商品開発で負けていることに腹を立てて運営側に文句言うのも見苦しいのです」

 

廻が窘めようとしたが、岬は構わずにそこまで一気に言って。

 

そして、「勝負でもしたらどうです?潤美さんが起きちゃうから少し静かにしていてほしいのです」と潤美の頭に貼ってある冷感ジェル湿布を取り替える。

 

「そいつぁいい考えだな、お嬢さん!」と、その時大音声がバックヤードへと響いたのであった。

 

「ここの責任者連れてきたぞ」と続けたのは漁大くらげ屋の大将。

 

その隣りにいるのは、黒いタキシードに身を包んだもみあげの目立つ男であった。

 

「こちら、洞の湯の支配人の安達太良浩次さんだ」

 

「ご紹介に預かった安達太良だ。話は聞かせてもらった。規約違反の君はこのフードコートから出ていってもらうところだが……」

 

「うっ……!」

 

ジロリと睨まれたワッパ麺の店主は、口からうめきを吐く。

 

そして、たっぷり10秒ほど睨めつけると―――

 

「すぐに入ってもらえるラーメン店は少ない。漁大くらげ屋さんも入ってくれるわけではない……だとすると、これは月並かつコミックめいているが……」

 

そうして盛大なため息をついて。

 

「イベントの企画としていいだろう。カレーショップ竹山さんのカレーラーメンとそちらの限定ラーメン、どちらが売れるか勝負をしたまえ……負けたほうにはペナルティを出す……!」

 

そう安達太良は言って、くるりと後ろを向いた。

 

「勝負の開始は1週間後!それまでに準備をしたまえ、芦湯くん!細かい部分はそちらで決め給え!漁大くらげ屋さんの了承はもらっている!」と言ってそのままバックヤードを出ていく。

 

「よ、よし……やってやる……やってやるぞ……!今度こそ……」

 

「今度こそじゃなくてだねえ。大将、いいのかね。私は別に追い出されなければ何でも良いんだが」

 

軍帽を模したコック帽の向きをキュと直して、店長は大将を見た。

 

「望むところに決まってんじゃねえか。変な茶々入れて来たんだから、当然やるよなあ?」

 

「お、おう!」

 

若い男は威勢よくそう言って、「そっちこそ逃げるなよ!」とあらんばかりの小物臭を出しつつ去っていったのだった。

 

「なんだったんですか」

 

「それは私にもわからんな……」

 

岬と廻は去っていった迷惑な男の背中をみやり、店長たちとともにため息をつくのであった。

 

 

 

「ほー。それで勝負となった、と」

 

ソフトクリームを舐めながら、浴衣姿のカレーナが聞くと、「うむ」と廻は腕を組んだ。

 

潤美が復活したので、休憩時間というやつであった。

 

「毎年ラーメン選手権やってるスーパー銭湯は知ってますけど……うーん?」

 

とおるもカレーナと同じオレンジシャーベットのソフトクリームを舐めながら首を傾げた。

 

「でもなんか楽しそうだね、それ!」

 

「わかるわかる。お祭りっぽいよね」

 

ななかとかけるもそう言ったが、恋は「ミナねーちゃんの本棚にあった昔のグルメ漫画みたいな展開じゃん……」と天を仰いでいた。

 

「ああ、将○の寿司とかミス○ー○っ子とかですね」

 

岬がカレーラーメンをすすりながらそう言うと、恋が「まさか本当に売れないからってそんなこというやついるとは思わなかったよ……」と呆れてしまう。

 

「うーむ、そもそも風呂上がりにあんな獣臭まみれのものなど良う食わんじゃろ。そのカレーラーメンとやらも、香辛料馬鹿みたいに贅沢に入れてるから食えてるんじゃないかの」

 

無防備なななかの浴衣がはだけないかなー、などと邪悪な考えをしてるババァがそう言うと、岬が「だいぶ否めない意見なのです」とスープを飲んで、くはーと辛さと旨さに嬉しいため息をついた。

 

そう、いわゆる二郎系ラーメンと呼ばれるラーメンはとにかくドカ盛りで脂と肉と麺の暴力の塊と言えるラーメンの中でも人気のジャンルの一つである。

 

廻の思うところ、大都市に比べれば市中にラーメン屋の多くない神森市ではそれなりに売れそうな味であった。

 

しかし。

 

「残念だが、ここは銭湯である。そして水泳施設でもある。湯や泳ぎで疲れた体にあのような拉麺は胃腸へのダメージが大きい。ここでは売れんだろう」

 

―――しかしながら、彼も出店してしまった以上、成果を挙げずに撤退とすれば数百万を超える負債を負う可能性は高い。

 

「引き下がれんのだろうなあ……」

 

廻は少し困った顔で、あの小物臭を漂わせた若者を思って、恋が見ている遠くを同じように見つめた。

 

「まあ飲食店の9割は1年持たないって統計もあるらしいですしね。本当かどうかはあたしも知らないのですけど」

 

岬はにべもなく言って、ドンブリを持ってスープを飲み干していく。

 

「わぁ、岬ちゃん豪快だな~よーしななかも!」とななかが真似しようと食券売り場へ走り出そうとして、とおるが「もう食べたでしょ!カツカレー!!」と肩をつかんで引き止めた。

 

「えー、やだやだ食べるぅ」

 

「食べきれなくなったらどうするの!私に母親みたいなこと言わせないで!!」

 

駄々をこねるななかをとおるが抑えるのを眺めつつ、ナマズのひつまぶしという期間限定のメニューを食べているかけるは「ボクもやめたほうがいいとおもうけどねー」と微笑んでいた。

 

「……とりあえずあたしたちにできることはないと思うのです」と岬がニパっと笑うと、恋が「それはどうかなぁ……」と嫌な予感しかしないという顔つきで相棒の魔法少女を見つめる。

 

「……何かご心配なのです?」

 

「こないだの配信、すごかったじゃんか……真崎Pが出現したら嫌だなあ、って」

 

恋が方をすくめてそう言うと、岬は「……否めないのです。否めないのですねぇ……」と口元のカレーを紙ナプキンで拭き取りながら冷や汗を流すのであった。

 

 

 

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