異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第291話「幕間13-4 そうだ、首領に接触しよう」

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「ということがあってだな、孫」

 

「何がということなのかわからないんだけど」

 

トントンとまな板で人参を刻んでいるミナが、藪から棒にそう言ったカレーナに返してジト目になった。

 

「洞森ノ湯でグルメバトルやるって話になって、恋ちゃんもあのなんとかプロデューサーに連れて行かれてしまったのですよ」

 

チウチウとストローでりんごジュースを飲んでいた岬が続けると、「また面倒そうな収録だなあ……」とミナは同情心を隠すことなくフッと苦く笑う。

 

「まあそれはそれとして、バーチャンは何も悪さしなかったでしょうね?」

 

ミナがジト目で聞けば、「そりゃもう大人しかったのです。何度か恋ちゃんに咎められたりはしていたようですけど」と岬が肩を竦めた。

 

「ふーんじゃ!ええか、うぬが死体殿とゴールインする前に我もこちらの世界で彼氏作っちゃるからな?負けたらどうする?」

 

そっぽ向いた祖母がそんなことを抜かし始めたので、「勝ち負けとかあるんかい……」と孫娘は頭を振る。

 

「そりゃあるに決まっとるじゃろ!9000歳超えのババァに負けたら、我が死ぬまで笑ってやるわ―い!」

 

「いい度胸……とは言わないわ。バーチャンの生殺与奪は私が握ってるんだしぃ?」

 

くつくつと年若い妖精は笑い、もはや妖精女王と言っても過言ではない上古の森人は「なんじゃ!?か弱いババァをいじめるのかえ!?」と言って、ザザザと後ずさっていった。

 

「はぁ……ま、いいわ。私たちは当日行けないけど、岬たちは行くんでしょ?」

 

「はいなのです。流石に恋ちゃんを放ってはおけないのですよ。何しろあたしが言ったことで苦労させてしまってるのですし」

 

岬は死んだ目で連れて行かれる恋と、イキイキとした顔で連れて行く真崎を見てなんとかせねばと思わざるを得なかった。

 

「そーじゃのー。我もなんか面白そうだから行ってみようかのう」

 

「あなたは肉も骨のスープも無理でしょうに……」

 

指を唇に当てて思案するカレーナに、端で本を読んでいたルルが嘆息する。

 

ミナもそれに同意して「冷やかしに行くだけならやめといたほうが良いと思うけど」と口をへの字に曲げて、刻んでいた人参を鍋に入れてコンロに火を入れた。

 

カレーナは二人の言葉に、「そこはそれ。別に食わんでも人が争っているのは面白かろ。血が流れぬのであれば尚良しじゃ」とニンマリ笑って唇を手のひらで隠す。

 

「だからジーチャンに先立たれんだよババァ」「同感です」

 

二人はジト目でそう言って、夫婦?仲良くフン、と鼻を鳴らした。

 

「えー?でもおもしろいであろ?」

 

「わからなくはないけど、恋ちゃん巻き込まれてるしノーコメントで」

 

「僕もミナさんと同意見です。かつてならともかく、今の僕は仲間の窮地を下手に笑うようなことは好みません」

 

ミナは沸騰寸前の鍋にシチューのルーと砕いた固形コンソメを入れながら嘆息し、ルルは本を置いてエプロンを身につける。

 

「ミナさん、副菜は僕が作りますね」

 

「任せたー今日はシチューだから、サラダお願い」

 

「はい、任されました」

 

二人が並んで料理を作り始めると、カレーナは「むう。蔑ろにされておるのう我」と呟いた。

 

その言葉に、岬は「残念でもないし当然だと思うのです。今日のシチュー、お肉残したら罰金なのですよ」と睨めつけると「そんなあ……我に死ねと?」と返して鳴き真似を始める。

 

岬はその態度に、「涙なんてただの体液なのです」と相棒の魔法少女と同じことを言いながらビシリとカレーナの顔に指を指した。

 

その指から顔をそらし、カレーナはブーブーと文句を垂れる。

 

……今日はまだ平和であった。

 

 

 

それから一週間後。

 

「ふぅーむ……エンソなるもの臭いのはともかく、強力な術者の助けもなく室内でこれだけの水を蓄えられるのは良いものじゃな」

 

洞森の湯のプールスペースで、カレーナは大きく伸びをして欠伸をした。

 

「全部人工なんですけど、エルフ的にそれっていいのです?」

 

「まあうちの森の頭の固いのならなんぞぐちぐち文句言いだすかもしれんがの。我、真面目とかそういうの大嫌いじゃし。つか、精霊はどこにでもおる」

 

ミナやカレーナが言うには、精霊は生命がどうであれどこにでも存在し、自然の流れに沿っているのだという。

 

「そもそも自然をいくら人が壊そうと、人は所詮大地と海と空がなくば生きてはいけぬ。そして壊しきるなどおこがましいことよ」

 

サンオイルを塗りながら女は言って、「まあせいぜい人が滅ぼしつくそうとも、1000年や2000年もすれば新たな芽が生えようよ。環境汚染問題なぞ、所詮うぬら地球人だけの問題ぞ」とにべもなく言い放った。

 

「そういうものですか」と岬は言って、スクール水着の裾を直して椅子に座る。

 

「いよいよ今日なのですねえ、例の収録」

 

「3時からじゃったかの。まー恋にはかわいそうじゃが面白くはあるの」

 

ちゅー、とトロピカルなジュースを飲みながら女はケタケタと笑うもので、岬はその様子に「変な乱入とかはやめてくださいですよ」と釘を差した。

 

「ホホホ、それはあまりにもつまらんことになったときだけじゃな」

 

頬に手を当ててケラケラと笑って女は人工の泉を見遣って、「どれ我も泳ごうかのう」と立ち上がる。

 

「運痴のおばあちゃんは泳げるのですか?」

 

岬が怪しげにそんな事を言うと、「我とて水の精霊には愛されておるからのう。当然、泳げないということはない」と自信満々にプールサイドへと歩み去っていった。

 

「どうなるものやらなのです」

 

「同感だぜ……」

 

と、答えたのは収録間際であるはずの恋であった。

 

格好はサングラスにラフな格好で、泳ぎに来たというわけではないことは一目瞭然である。

 

「恋ちゃん、収録は大丈夫です?」

 

「あー、どうせほぼ生放送だから時間までは遊んでていいってさ」

 

恋は頭をかきながら盛大なため息をついて、「あたいほんっとあのクソ会社の上層部潰してきたいんだけど」と天を仰いだ。

 

上層部が真崎を本気でクビにしかねないからアイドルを辞めていないだけなのだ。

 

当然、恋のフラストレーションは貯まるばかりである。

 

「……やっちまいますですか?」

 

「………………やめとくよ。そのうち天罰が下るだろ」

 

たっぷりと沈黙したあとにそう言った彼女は、自分の母親のように、と小さく付け加えて、やるんなら自分だけでやるとの決意を暗に岬へと伝えてくる……が。

 

「ははは、仲間は一蓮托生なのです。ミナちゃんなら解決策の10や20は提示してくれるですよ」と今や恋の親友となった少女が笑いかける。

 

「……そうだな。全く、芸能人なんかなるもんじゃないね」

 

きっと長くなる人生、有名になりすぎたら居づらくなるだろ、と恋はシニカルな笑みを浮かべて岬の肩をたたいた。

 

岬はその叩いてきた手をそっと握って、「最悪ミナちゃんの世界に逃げる、なんてのもありかもですね」と微笑んだ。

 

「できるのかな?」「きっとできるですよ」

 

二人が笑い合い、そう今は冗談でしかない言葉を交わすと―――

 

「この世界でそれを目指す気はない?」

 

―――二人はギラッとした視線を感じた瞬間、ワンドと言えるまでに小さくしたマジカルステッキを手に周りを警戒した。

 

白い、白くて、銀色で、鉛色の魔力が二人を貫いてくる。

 

「……何者です!」

 

魔力の圧に耐えて、その方向を睨めつけたのは岬が先だった。

 

「……ふふ、ここでは話だけね。この世界にあなた達が居場所を作るつもりなら、あの怪物たちのそばにいる以外にも方法はあるということ……覚えておいてほしいわ」

 

顔は見えない。

 

白い水着に包まれた銀色の魔女が、こちらを見つめている。

 

「まさか、あなたは……!」「SMNの……!」

 

二人が口を開くと同時に女はサングラスを放って一瞬その素顔を顕にすると、「今日はプライベートなの。見かけたから声を掛けただけよ。それじゃあ、またね」と意味深に微笑みかけて人混みへと消えていった……

 

「……何が目的なのですか?」

 

岬はそうとだけ言うと、「でも顔は覚えたのです……確かに、あの顔は」と放られたサングラスをギュッと握りしめる。

 

「次は逃さないのですよ」と決意に満ちた目で天を仰げば―――

 

「あ。やっべ、もう時間だ」

 

「あ、いってらっしゃいなのです」

 

恋が戻る時間にいつの間にかなっていたのであった―――

 




なんかオリジナルのランキング16位に入っていたのでせっかくだから投稿します。

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