異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第292話「幕間13-4 そうだ、決着をつけよう」

 

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『はーい!それじゃあ何故か始まっちまったラーメン対決!あたいが呼ばれた理由が近くにいたからってだけだってのは、おめーらも理解してくれるよなぁー!!』

 

審査員席で恋はマイクを高く掲げながら、最初から猫かぶりをする気もなく立ち上がってそう叫ぶように笑った。

 

わずかにやけくそ感が漂ってはいたが、彼女のファンであろう集まった連中は『うおーーー!!』と大喝采を上げている。

 

「うーん、この。集まってきたもんですねえ」

 

岬は双眼鏡でその様子を見つめつつ、隣りにいる潤美に声を掛けた。

 

潤美は疲れ切った表情で―――

 

「店長が暴走しなくてもこれじゃあ仕方ないやんけ!クソォ!!」と地団駄を踏んでいた。

 

言い出しっぺである岬は少しバツの悪い表情でなにかいおうとしたが……

 

先に口を開いたのは店長であった。

 

「まぁまぁ、潤美くん落ち着き給え。真面目にこれは吾輩も大将も悪くない。向こうの店長が悪い。小学生の岬くんの挑発に乗って勝負だなんだと言い出した彼がな」

 

岬はその言葉をフォローするかのように「申し訳ないことをしてしまったですけど……うーん、あの人、ミ○ター○っ子で○一くんに助けられて勝つ、地元の情けない食べ物屋の店長臭がすごいですし、なんとかなるですよ」と言って微笑む。

 

そんなふうに潤美の肩を叩いて店長と岬が慰めるが、潤美は怒りが収まらないらしく「勝ってくださいよね、店長!ったくもう!ほんとにもう!!」と叫ぶように言って店長の肩をつかんだ。

 

「うむ……大将も吾輩も負ける気は毛頭ない」と返したことにわずかに安堵して、潤美は椅子にドッカと腰を下ろす。

 

「どうしてこんなことに……」

 

「どうもこうもないのですよねえ……」

 

頭を抱える潤美に岬はそう声をかけると、会場である秋桜に特設された壇上で『この洞森ノ湯は~』と店舗の宣伝をしている恋に目を向けた。

 

客引きにはなるだろうし、いいかなあ、と岬は息を吐いて……

 

周囲を見回す。

 

周囲を見回して、先程のSMNの首領らしき人物や魔法少女たちがいないかを探していたが、気配は完全になくなっていた。

 

「……夏休み終わった後、大変になるかもしれないのです」と呟いて壇上を再び見れば、司会として連れてこられたコメディアンのブランデー子爵が対戦の相手同士を紹介する段に入っていた。

 

「おっと、そろそろいかねばならん。吾輩は壇上に戻るから、潤美くんを頼むよ」と帝政ドイツの軍服に身を包んだ明らかな不審者のおっさんは店舗の外へと出ていった。

 

「……まあ銀○伝のコスプレと言われればそうかもしれないくらいで済むと思うんで、元気出してくださいですよ、潤美さん」

 

「出ないよぉ……」

 

盛大なため息をつく実年齢15歳以上は下の女性に、岬はそれ以上何も言うことが出来なかったのであった。

 

 

 

―――それから二十数分後。

 

スナック黒十字……カレーショップ竹山と漁大くらげ屋の紹介が終わると、もう一方の店……あの大変鬱陶しいことをしでかした若者の店の紹介が始まった。

 

「フハハハハッ!ラーメン専門店『ワッパ麺』は店長の芦湯敬次くんの元でこの洞の湯で開業した新進気鋭のラーメン屋……ッ!いかなるものを作ってくれるか、楽しみだッ!!」

 

そうしてブランデー子爵がビシィッとマイクを向けると、芦湯は「やってやるぜ!うちのラーメン、食べてってくれよな!」と気合を入れる……

 

「だからお風呂入った後にあのゴツ盛ラーメンはきっついのです。出店場所間違えてるのです」と岬が呆れているが、戻ってきた廻が「まあそう言ってやるな。無礼者ではあるが、やる気はあるのだし……」と自分も擁護するつもりがないことを示すように、明後日の方向を見て嘆息した。

 

「廻さんも同じようなことを考えているようでご安心しましたのですよ」

 

岬はニコニコ笑って廻の瞳を見ると、「まあ後は……」と瞑目する。

 

「店長と大将の作品が出されたな……うむ、打ち合わせ通りのカレーラーメンのようだ」と廻が壇上を分析する……

 

「なるほどなのです……ところで、負けた方のペナルティってなんなのです?」

 

「うむ。簡単なことで、1ヶ月間の業務停止と片方の店への店長出稼ぎだそうだ」

 

同じ説明を壇上のブランデー子爵がしているのが見えて、岬は「まためんどくさくなりそうな感じなのです」と嘆息した。

 

「あとは見ているしかないな……」

 

「観客も盛り上がってるみたいですしね……」

 

二人が同時にベンチに座り、顔を見合わせて「「全く面倒」なのです」と再び嘆息した。

 

「うーん、あの片方の小僧は顔は良いが、面倒くさそうなのじゃ……」

 

嘆息して二人の後ろで、何故か声がする。

 

「何者!?」

 

最初に声を上げたのは、椅子で項垂れていた潤美であった。

 

「いやいや、そこな岬と廻の関係者じゃよ」

 

ヌッと暗闇から染み出すように現れたのは、浴衣姿のカレーナである。

 

「……ミナさんのご姉妹かなにか?」

 

「おうおう。そうじゃそうじゃ。水門ミナの従姉のカレーナ・トワイライトじゃよ。見知り置け」と潤美に返して、カレーナもまた丸椅子に座って「観客席からは遠いからこちらで見させてもらうことにしたぞ」と微笑んだ。

 

「うーん……良いのですか、潤美さん?」

 

岬が潤美を見ると、潤美は「ミナさんの身内なら邪険にはしないわ……」と疲れ切った笑みで嘆息する。

 

「おうおう。殊勝なことじゃ。よろしく頼むぞ―――って、もう試食始まっているではないか」と壇上を見つめた。

 

『欧風カレーと魚介出汁をあわせる技術……』と審査員らしき禿頭の男がズルと麺をすすり、スープをレンゲで掬って口に入れる。

 

『これは……なるほど。濃厚なシーフードスープカレー……だが、もったりすることなく素直に啜れるスープは確かにラーメンスープ……調理技術の確かさを感じますね』

 

神妙に審査をしているようだが、どこかのグルメ漫画のようで観戦している岬はなんだか笑ってしまう。

 

「どっちが勝ってもまあ、店長のほうは大丈夫だと思うんですけどねえ」

 

ぶっちゃけ洞森ノ湯店はそこまでチェーン全体の売上には影響していない。

 

それどころか売上そのものとしては足を引っ張っている店舗である。

 

ぶっちゃけ1ヶ月位休業にしても店長としては問題がない―――本店のカレーについては廻と夕が作れるようになっているので店長が1ヶ月不在でもそこまで問題はないだろう。

 

『素晴らしい!ラーメンとカレーを融合させながら感じるのは広大な海……!これこそ香辛料の大海原だ~~~!!』

 

禿頭の隣ですごい勢いでラーメンを食べ尽くした背も高ければ恰幅も良い審査員が穏やかな笑顔を浮かべながらそう叫びだす。

 

「なんかどこかで見たことあるようなないような」

 

「こんなグルメ漫画そのままの審査員どこから連れてきたんでしょうね……」

 

カレーナがグビリと麦酒を飲みつつそう首を傾げると、潤美が呆れ顔を浮かべてそう言って項垂れた。

 

「あーもう、どうしてこうなっちゃうんだろ……変なトラブル……!」

 

潤美はそのまま頭を抱えて突っ伏してしまう。

 

その時、『ぶっちゃけあたい残ったスープにお行儀悪いけどご飯入れて食べたい』と身もふたもないことを壇上の恋が微笑みながら言っている。

 

にこやかな笑みを浮かべながらそう言うと、『もう少し量があるといいんだけど、これって審査だから!食べすぎて後攻食べられないとかだめだよなあ、子豚共ォ!』とマイクパフォーマンスを始めた。

 

会場は大盛りあがりになっているが、それと反比例するかのごとく隣の潤美は項垂れていき、今や地面に頭を突っ込んでしまいそうである。

 

その様子に岬は少しだけ同情した。

 

何しろ今回は店長はなにも悪くないな、と事情を聞いたカレーナですらも判断していたことなので岬と一緒に背中をさすってやると「ありがとうございまぁす……」と元気のない声が帰ってくる。

 

造形は美しいであろうに、あまりにも疲労を溜め込んでいるせいか精彩を欠いているその容姿にカレーナは深くため息をついて「いっそ我があの生意気そうな小僧を骨抜きにしてやればよかったかのう」と割と真面目にそうしたら解決していたのでは?と思案する様子を見せていた。

 

「そのほうが良かったかもしれないですねえ……」

 

岬もまた嘆息すると、壇上の審査員がそれぞれ芦湯のラーメンの出来上がりを今か今かと待っている様子である。

 

「グルメ漫画だと後攻のほうが強いものですけど……」

 

「そういうものなのかなぁ……」

 

岬が唇に指を当ててうっすら上を向いてん~、と小さく可愛らしく唸ると潤美がじっとりとした目つきで岬を見つめてきた。

 

このままだと本当に地面に突っ伏してしまうなと思った岬は、「ほらほら、無理しないで横になっていて良いのですよ?」とベンチに潤美を半ば無理やり横たえようとする。

 

「あ、まだ駄目……ち、力強っ!」

 

「ほらほら。素直に横になるのですよ」

 

冒険者現象によって、岬の腕力もまた常人のそれではない。

 

その腕力で無理やり潤美はベンチに横にさせられてしまったのだった。

 

「お、対手の審査が始まるようじゃの」

 

カレーナが寝転んだ潤美に一瞬邪な視線を向け、しかしすぐに退屈そうな表情になって壇上を見れば―――

 

『よしっ!さぁ食ってくれ!』と芦湯がラーメンを審査員たちへと差し出していた。

 

量は審査のためか本来のものより第少なめのように岬には見える。

 

『……なるほど、カレーラーメンと言いつつカレーの姿は見えず、しかしカレーの匂いだけは濃厚だ……』

 

『味も……カレーですね』

 

『どうなってんのこれ?見た目ただの東京ラーメンじゃん……?』

 

ハゲと巨漢の審査員に続き、恋もまた驚きの声を上げる。

 

そのスープは醤油ラーメンのようにしか見えないのにもかかわらず、しかしカレーの風味は濃厚というラーメンであった。

 

『つまり、これはクミンなどの色を出す香辛料を使わず、それ以外の香辛料を煮込んで作った香辛料出汁……否、カレー出汁を……』

 

ハゲの審査員がそのラーメンの内容をつぶさに解説し始める。

 

巨漢の審査員も調理技術の確かさ、鋭さを指摘していくが―――先程のように笑顔ではなかった。

 

そして黙って、思案をし始めてしまう―――

 

『な、なにか不満があるのか、審査員の人たち』

 

不安なのかそう問いかけた芦湯に、恋は『うーん、まあ美味しいは美味しいんだけどさ、これ』と微妙な顔を向けて瞑目してしまった。

 

『何やら審査員の人たちは言いたいようだ―――ッ!実食も終わったことだし、ここで勝敗を決めてもらおうかッ!!』

 

ブランデー子爵がそう叫び、パチンと指を鳴らすと照明が暗くなり、赤と青のライトが壇上を照らしていく。

 

どうやらこの間に審査員が投票をするようである。

 

「どっち勝つと思いますです?」

 

「うまそうな臭いがしたのはテンチョーのほうじゃのう」

 

「わ、私もそう思います……うぐぐ……」

 

岬の言葉にカレーナと潤美が反応し、そしてそのとおりに―――

 

赤と青のスポットライトは店長と大将を照らし出す―――

 

『勝者ッ!カレーショップ・竹山&漁大くらげ屋ッ!!下馬評通りの展開だァァ~~~ッ!!』

 

ドドドドドと重低音が鳴り響く中、ブランデー子爵は高らかに店長と大将の勝利を宣言する。

 

『……まさか2対1が卑怯とは言うまいね、芦湯くん。これは君の明らかな戦略的失敗だ……』

 

どこかの絶対零度の剃刀のような風情で、帝政ドイツ陸軍の軍服を着こなしている男が芦湯を見つめた。

 

『な、な、く、くそぉッ!!』

 

芦湯は頭の鉢巻を外して地面に叩きつけ、そして膝から崩折れる……

 

『ふぅ~む―――審査員の……なんと言ったかな……?』

 

『塩沢です。結論から言いますと、調理技術は双方互角と感じましたが、問題は味です。芦湯選手のラーメンは、カレーラーメンであることを思わせない、という驚きに満ちていましたが肝心要の味がずいぶんと劣るものでした』

 

『塩沢さんの仰る通り、視覚を誤魔化すために使った調理技術を味を向上させることに向けたほうが良かったと思いますね。スープとカレー味にバランスが取れていなかった……ちなみに私は安里瀬です』

 

ハゲと巨漢の審査員はそう締めくくった。

 

『まぁ、俺もびっくりしたけどもよ。元気だしなって』

 

漁大くらげ屋の大将が、崩折れた若者にそうして肩を叩いて励ます。

 

『つ、次こそは……勝つぜ!』となんだか熱血漢なことを言っているが、そもそもこの件を仕掛けてきたのは芦湯であることを大将は忘れていなかったので微妙な顔つきになった。

 

それを代弁するかのように「あたいとしちゃこう言う騒動は起こされちゃたまんないんだけど」と、恋は誰にも聞こえないようにそう言ってズ、と残っているラーメンスープを飲む。

 

『漁大くらげ屋さんのラーメンは、カレーでありシーフードスープでもあり、そして確かにラーメンでした。しかしながら、繰り返しますがワッパ麺さんのラーメンは、ラーメンの姿をしたカレーうどん止まり……審査員一同、満場一致でのくらげ屋さん勝利です』

 

塩沢はそう言ってレンゲを置き、恋に目配せをする。

 

場を締めろの合図と解釈した恋はマイクを手に持って『まあぶっちゃけ、味が総てってやつだ……だけど、あたいは努力だけは認めるぜ……そうだよな、子豚ども!』と叫ぶと、会場のドルヲタたちが『うおおおおおおお!そのとおりだぁぁぁ!!』と叫びだした。

 

その歓声を手をかざすだけで止めると、恋は『それじゃあ子豚ども!この項垂れてるにーちゃんの店に、1ヶ月後ペナが解けたら行ってやってくれよな!あたいからのたっての願いだぜ!』と締めくるる。

 

荒れた海が凪いでいくかのように静かになっていく会場を見渡し、ブランデー子爵は『というわけで、芦湯氏も敗北を認めたッ!この勝負!カレーショップ・竹山と漁大くらげ屋の完全勝利だぁぁ―――ッ!!』とブランデー子爵が声を上げると、会場からワッと歓声が再び上がった。

 

『それではオーナーの安達太良氏から挨拶をお願いするッ!』

 

それまで沈黙を保っていた審査員席の端の特別席に座っていた安達太良が立ち上がると、『勝敗は決まりました―――ワッパ麺さんには1ヶ月の営業停止とカレーショップ・竹山さんでの就業を求めます……そして、勝利したカレーショップ・竹山さんには、こちらを……』と言って、ツカツカと店長に近づいていくと『金一封です……少ないが、取っておいてください』と賞金を渡したのだった。

 

「よぉぉぉっし!勝った!アホのラーメン屋に店長勝ったッ!!」

 

その瞬間、潤美が立ち上がって両手を振り上げて勝利を喜びだし、会場へと向かっていった。

 

その後ろ姿を見送ると、カレーナは「ちなみにいくらじゃ、あの封筒の中身?」と岬に聞く。

 

「10万円だそうです。ちょっとけちくさい気がするのですよ」

 

岬がそう言うと、壇上で大将と一緒に芦湯を慰めては、会場からのブーイング―――もちろん芦湯に飛ばされたもの―――を宥める恋を見て、「これは恋ちゃん、この銭湯のキャンペーンガールにされてしまいそうなのです」と嘆息した。

 

「ま、我としてはどちらでも良いのじゃが……ところで今日はうぬの友人は来ておるのかえ?」

 

「多分会場にいるですよ―――何をするつもりですか?」

 

「いや、あのかけるはお主の仲間じゃろ?護衛しておこうかのう、とな」

 

カレーナは普段感じない真面目さを声ににじませてそう言って、岬をキロと睨めつけた。

 

「……大丈夫です。かけるちゃんはいますですよ」と言って、岬は外へ出ていく。

 

そうだ。なぜ今まで気づかなかったのか。

 

今、この銭湯の中にはSMNの首領がいるかもしれないのに。

 

知らず、岬の気持ちは急いていく。

 

「無理はするなよぉ」と後ろから声を掛けられたことに、振り返らないままに手を振って。

 

 

 




ちょっと区切りが微妙になっちった……

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