異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第293話「幕間13-5 そうだ、喫茶店に行こう」

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「あ、岬ちゃん。勝ったねえ、カレー屋さん」とかけるは岬に手を振ってくる。

 

その姿に岬はホッとして、「勝ちましたですね!」と声を返して彼女の隣りに座った。

 

「順当、かなあ……」ととおるが首を傾げて、ななかが「お腹減った~~」とぼやいている。

 

そこには何も問題がないように見えた―――のだが。

 

ふと視界の隅に。

 

ふと嗅覚の片隅に。

 

ふと精霊の感覚が。

 

一斉に岬の感覚に、何かがいると伝えてきた。

 

「!?」

 

異常を感じて振り返れば―――そこには何もいない。

 

『今日は面白かったわ。ね、私のお店にいつか来てくれるかしら。あの怪物二人も連れてくるといいわ―――今度こそ、ケーキを食べていってね、と伝えてね』

 

ふわりと花と草の香り。

 

ふと自分の手を見れば、そこには一枚の名刺。

 

―――そこにはイタリア語で「Foresta」と喫茶店の名前が書かれていた。

 

『―――あなたもあなたの仲間たちも排除したかったけど、もう駄目だから少しお話し合いをしましょう、オリジナル―――』

 

声はかすかに消えていく。

 

その名刺を強くつかんで、岬は「望むところなのです」と一言呟いて、怪訝な顔をしている友人たちに瞳を向けて。

 

「あ、なんでもないのですよ。あはははは!」と後頭部を掻いて誤魔化すのであった……

 

 

 

―――結果として、後日。

 

「ほらほら、ちゃんと働いてくださいね」とカレーショップ・竹山 洞森ノ湯支店で、潤美は今までよりも若干疲れが取れた顔で、調理をしている男……ワッパ麺の店長・芦湯へと指示を出していた。

 

芦湯は「ぬぐぐ……こんなことでくじけるものか……バイトしてくれてたみんなのためにも……!」と拳を握りしめながらラーメンスープを煮込んでいる。

 

それを横目で見ながら、廻は「……しかし、ひと月も店を閉めることに同意したのは、店員がほぼ総て彼の同級生だったから、とはな」と呆れていた。

 

「まあ、いいじゃろ。1ヶ月後には元通りになるんじゃろ。その間の機会損失は知らぬわ……機会損失で合ってるかの?」

 

カレーナが慣れないこちらの言葉を使ったので、岬が「それであってるのですよ」と答えて、調理場内の椅子に座ってため息をついた。

 

「それにしてもSMNの首領が岬に接触を図ってくるとはね……しかも、これ前に行った喫茶店の住所じゃない」

 

カレーナの後ろから浴衣姿のミナがフルーツ牛乳を片手に現れて、「行ってみなきゃ仕方ないか……」と岬と同じように嘆息する。

 

「マンガのようには後攻有利とは行きませんでしたね」と言ったのはルルである。

 

言外に何かを言いたいようだが、「兵は拙速を尊ぶって言うわよね」とミナが瞑目する。

 

「そういうことなのです」

 

少し離れた場所でスープを煮込んでいる青年の敗因は唯一つ、味であることは先にも述べた。

 

調理技術の高さに驕った……それが敗因を呼び寄せた理由である。

 

「あやつのところのバイトちゃんを一人捕まえて聞いてみたんじゃがのう。ちょっとワンマンちゅーのかの?わがままなところがあるようじゃて」

 

カレーナが長い髪をくるくると指で弄びながらそう言って、「若さ故の過ちか……」と続けてケラケラ笑っていた。

 

その時、ガラリと扉を開けて入っていくるものが一人……それは。

 

「あー疲れたぁ~……」

 

ミナの意見に首肯した岬の隣にいたのは、色々と仕事を終えて戻ってきた恋であった。

 

衣装はもちろんちょっとアイドルっぽく装飾された浴衣である。

 

「そっちも無事終わったようですね……」

 

「二度とやらんわ~!小学生が水着でお風呂入ってるの見て喜ぶロリコンどもめ!全部滅びてよ~!!」

 

恋は岬の隣に座ると、小学生らしく手足をジタバタさせて今日の撮影……この洞森ノ湯の宣伝番組の映像を撮る仕事への呪詛をぶちまけたのであった。

 

「……元気出すですよ。カレーラーメン奢ってあげるのです」

 

岬にそう言われると、恋も悪い気はしなかったらしくジタバタを止めて「ん。ありがと」と短く返して足を揃えて座り直す。

 

その様子に、岬は嬉しそうに笑って……

 

そしてこそこそとラーメンスープを煮込んでいる青年へ近づいていくカレーナを見咎めた。

 

「カレーナおば……お姉さん。人の仕事の邪魔をするのはご法度なのですよ」

 

続けて廻が「一所懸命に仕事をしているのだから、邪魔をしないでやってくれ」と静かに言って、大将が「カレーラーメン2丁あがったよ!」と声を上げたことに反応してツカツカと去って言った。

 

「なんじゃなんじゃ。ええじゃろ、大人同士の自由恋愛くらい」

 

「人の仕事を邪魔するなって言ってるのよ。はー、やれやれ」

 

不満げに唇を尖らせる祖母に、ミナはにべもなくそう言って肩をつかむ。

 

「んじゃー、私たちはバーチャンと一緒に飯食ってお風呂入ってくるわ」と「つかむなぁ!引きずるなあ!」と往生際の悪い若作りの婆様を連れて、ミナとルルはバックヤードを退出していったのだった。

 

「なんとか今日も無事終わりそうなのです―――が」

 

「……ああ、これはあたいら全体で向き合わないとね」

 

そう、ついに姿を見せたSMNの首魁の目的はなんなのか。

 

岬はどことなく予感していた。

 

―――それはきっと自分だけではなく、仲間たち全員……否、この街全体に関わることなのだと。

 

岬は中空を当て所なく見つめると、フッと息を吐いて足を小さくばたつかせた。

 

「こう言うときは」「深く考えると失敗するぜ」「なのです」

 

二人の魔法少女は顔を向き合わせて笑い、そして向こうで潤美にしごかれている芦湯を眺めてプッと吹き出すのであった。

 

―――なお、付記しておけばこの一ヶ月で鍛えられたワッパ麺は、風呂上がりに合ったあっさりラーメンを出して人気を博するのであった。

 

岬や恋にとっては大して意味のないラーメン勝負であったが、潤美が元気を取り戻したことと、美味しいラーメン屋が増えたことだけは確かに意味があったのだ、としばらく後に二人は思うことになるのである。

 

 

 

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