異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第302話「迷宮を征く勇者する 昔のお話Ⅶ⑧」

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「愉しかったです」

 

「そりゃお前は楽しかろうがよぉ!?」

 

ニヤニヤと―――どこかいやらしく蠱惑的な笑みを浮かべて主人を見つめるダークエルフに、ミナはそう返して額に手刀をぶちかました。

 

「……愉しかったですけど」

 

わかってないように少年はそう返して、額をさすった。

 

「そーじゃない、そーじゃないのよ……ったく……!」

 

ミナがそういうと、ルルは面白いことがあったように、意志の光をこれまでよりも強くしてミナに「そう言わないでくださいよ、ミナさん」と後ろからそっと抱きついた。

 

そのあまりの体の冷たさに、ミナはゾッとする。

 

……確かに彼は死体なのだとミナは思い直して、「あれを倒してリソースが入ったのかしらね?」とルルをぐっと引き離しながら呟いた。

 

「……多分。随分頭がはっきりしている、と思います。この石の力もあるのでしょうが」

 

引き剥がされたルルがその腰のバッグから心露の石を取り出すと、その輝きが失われていることにミナは気づいた。

 

「……これは」

 

「ああ、魔力を失ってるな、そらぁよ」

 

むくりと壁から起き上がった、正気を取り戻した槍兵はそう言って近づいてくる。

 

「イナースさん」

 

「おう、貸してみな」

 

ミナに声を掛けられた彼は、ルルの手から心露の石を受け取って品定めをする。

 

「おう、こりゃあ魔力を失ってる。間違いねえな。精神を賦活し、はっきりさせるこの石は持ってるだけで効果があるんだが……どうやらお前さんの心に吸い込まれて行っちまったようだ」

 

ポイと心露の石を放り投げたイナースは、フッと笑った。

 

「どうだね、気分は」

 

「ええ、だいぶ良いです。お陰様で」

 

ルルの言葉にイナースはニッと笑って、「悪意を感じるな。だいぶ人間らしくなったぜ」と返して槍を担ぐ。

 

「ええ。そりゃもう。僕に負けたくせにだいぶ偉そうなあなたにははっきり言おうと思ってたんです」

 

そう、満面の笑みを華のように返しながらルルはそう言ったのであった。

 

「黙れボケェ!!」

 

そう罵倒しながら後頭部をガンとぶん殴ったのは、当然―――

 

「……痛いですよ、ミナさん」

 

「っせーな!はっ倒すぞバカタレ!!」

 

怒りを宿した勇者殿であったことは言うまでもなかったのである。

 

「やれやれ。これで多少は戦も楽になるか」とイナースは頭をかいた。

 

いくら死の王、如何に強力無比なマジックキャスターとは言え、判断力に劣るのであれば使いづらい。

 

契約の魔力によって攻撃できないというのであれば、当然のようにイナースは気にするところはない。

 

ないのだが。

 

「……やっぱぃ本性はぁそがいなもんけぁ」とカイムが不機嫌そうに言ったのをイナースは聞き逃してはいなかった。

 

「今度はあっちですかねえ、兄様」

 

呆れた声で起き上がった妹にそう言われると、「ま、今のオレは頭目じゃねえからミナちゃんに任すとしようかねえ」とルルの顔面に拳をブチコんでいる勇者を見ながらハハハと軽く笑う。

 

結局のところ、これ以上は本日は進んでも良くないだろうということを話し合い、次の階の入り口の前で野営することになるまで後30分ほどというあたりであった。

 

 

 

―――翌日。

 

勇者が朝起きて目に入ったのは、ボードゲームを真剣に打っているルルとイナースの姿であった。

 

「だから僕には勝てないと何度も言わせないでくださいよ」

 

「いや待て!もう一戦やろう!あそこで兵士を動かしていれば……」

 

もう何時間も興じているのだろう、イナースは青筋を立てて駒へと向かっていた。

 

「ほら、ミナさんもハルティアさんも起きてきました。カイム殿ももう少しでしょう。出立の準備を」

 

勝利の愉悦を感じているのか、昨日までとは異なる蠱惑的な笑みを浮かべてルルはそうイナースへ促す。

 

「いいか!次はかならず勝つからな!今夜こそ覚えてろよ!」とイナースは捨てぜりふを吐いて火を熾し始めた。

 

「おはよう、ふたりとも……何やってんのよ」

 

ミナが声をかければ、ルルは勝ち誇った様子で「身の程を教えてあげただけです」と微笑んでいた。

 

「あのさぁ……」

 

ミナはボサボサの髪を手漉きで整えながら、ジト目で従者を睨めつける。

 

「あの、僕何かいけないことでも?」と明らかにいたずらっぽく、悪意を感じる笑みだったものでミナは―――

 

「ていっ!」と小さく言って、ルルの脳天に踵を落としたのであった。

 

「あの、見えてますよ」「下着だから恥ずかしくないのだわ!いいからお前もそのボドゲ片せや!」

 

今のミナの防具―――緑色のハードレザーアーマーはズボンがなくスカート風になっているもののため、踵落としなどすればパンツが丸見えになってしまうのだが、当然彼女にそんな羞恥心はない。

 

未だルルへの恋愛感情は全く無い時期のため、見られたくないという気持ちすらない時期ゆえの攻撃であった。

 

「ほらほら。自覚なく露出するのはやめろ、ミナ。こちらが恥ずかしい」

 

ハルティアがもう完全武装状態でテントから出てきて、そんな事を言ってはミナの頭を小突いた。

 

「おはよう~……ってなんで踵落としくらいで恥ずかしいのよ。魔物相手にはよくやるのだわ」

 

ミナは虐殺なカッター風の術のことを思い浮かべながらそう返す。

 

するとハルティアは「これだよ」と呆れた顔で、朝食の準備を始めようと兄の方へと歩き去ってしまった。

 

「えー……なんでよ。別にいいじゃん……」

 

「ミナさん、僕以外には見せないでほしいんですが」とルルが抗議してくると……

 

そこに現れたのはカイムであった。

 

「そだぁわい。こいに同意すんは業腹ぁだがどん、騒動呼ばはったりするわぁな」

 

そうへの字口でミナに忠告をしてくる。

 

「でも、別に私の体見て嬉しい人はいないと思うんですけど、師匠」

 

カイムはその言葉に一つ大きなため息をつき、「そぉ思いたば思わぁええわぇ。ワイは腹ぁ減った」と後ろを向いてハルティアたちの方へ行ってしまう。

 

「ほんと何よもう……」

 

何がなんだかわからない、とミナはもたもたしているルルに代わってボードゲームを片付けていく―――

 

するとルルが、自分の瞳を見て言葉を紡いできた。

 

「安心、しました。あなたもどこかズレているところがある」

 

「む……」

 

ニコリ、と優しい笑みを向けられたミナは、その顔の美しさと可愛らしさに一瞬目を奪われるが―――

 

「てい!」とミナはその頭にゲンコツを1つ落として、「バカ言ってないであんたはテント片せぇ!」と叫ぶのだった。

 

 

 




喪中なので、今年もよろしくおねがいします、とだけ。
2023年……か……
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