異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第305話「またどこかで勇者する 昔のお話Ⅶ⑪」

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―――捜索の結果、魔王が現れる気配はなかった。

 

全ての魔力は二口水晶を再生させるために使われていたのだろうとまずは推測された。

 

ボロボロだったそれは、ルルが身に着けてより後は見事な装飾と色彩を取り戻しているのだ。

 

「伝説、と言ってもそれなりに見るアイテムなんだけどねえ」とミナは訝し気に手に入れた二口水晶を矯めつ眇めつしていた。

 

ダンジョンを変貌させ、サソリ騎士を生み出したであろう膨大な魔力がこれを再生するためだけに使われるはずもない。

 

彼を強化するためでもなく、魔力は消えていった。

 

二口水晶を再生するため、のはずだ。

 

しかし、不審な点は残る。

 

もし、もしも……あのダンジョンを変貌させたバグが何かをしていたとしたら。

 

魔王を生み出しかねないそれを吸収した、何者かを相手にせざるをえないというのならば……

 

それがいつになるかはわからないが、そのいつかに備えなければならないのかもしれない、と彼女は小さく嘆息した。

 

「来年のことを言えば鬼が笑う、か」

 

今までに何匹オーガを倒したか、ミナはもう覚えていないが……だというのなら。

 

「備えよう」

 

ミナがボソリとそう言ったのを聞いていたのは、ルルだけである。

 

「ええ、備えましょう」と少年が頭に侵食してくるような甘い声を出した。

 

その声に、ミナは少しだけ怒りを表して。

 

メリ、と音がするほど従者の額にチョップを食らわせる。

 

「何するんですか」

 

「殴ったのよ!さあ、行きましょう―――このダンジョンにはもう用はないから」

 

ミナは探索を続けている仲間たちの方を見て、歩み出す。

 

―――ルルもまたその後姿を追って、歩み出すのであった。

 

 

 

それからしばらくして―――フラナの魔術学院。

 

「うむ、良かろう。宝石の涙とこやつの解析情報。それでも十分に役に立とう」

 

その一室―――魔術学院の理事長室でヒゲをもそもそと撫でつつ、オーサンは微笑んでいた。

 

ダンジョンを脱出した後、オーサンに宝石の涙を渡すことを条件にフラナの滞在とルルの危険性なしを証明する手続きをオーサンは取ってくれた。

 

今回はその最初の約束の日……学院管理のダンジョンから脱出して1年の月日が流れていた、そんな日であった。

 

その間に色々あったわけだが、とにもかくにもオーサンとの約束を果たせたミナは安堵のため息をつく。

 

「あーつっかれたあ。冒険の依頼も叔父さんのやつ優先だし……いや、そっちはいいんだけど。ほら、ルルも叔父さんにお礼言いなさい」

 

ミナは検査が終わり、頭からヘルメット型の魔導具を取り外したルルにそう促した。

 

「ええ。ありがとうございます。色々と学ぶことが出来ました……」

 

頭をペコリと下げて礼を言った少年の顔には、邪悪な笑みが張り付いている……

 

「……今度は何を企んだんじゃ?」

 

「いえ、こう、錬金術で白金やヒヒイロカネを増やしてですね」

 

左手で作ったコップに右手の指を入れてくるくると回す仕草をした少年の顔面に、ミナは鉄拳をすかさず叩き込む。

 

メガン、という音がして「てめー……オレのホムンクルス大量生産してたことは一生忘れてねーからな!」と低い声音で言って、ルルの股間を踏み潰し―――

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!?何デカクしてんだてめぇーーー!?」

 

「せ、生理現象ですよ。ああ、前が見えない」

 

ぶん殴られておっきする―――それが生理現象なのかはわからないが、ルルの股間のペットボトルがペットボトル並であることを脚の感触で知らされて、ミナは「引っこ抜くぞてめえ!」と今度は腹を踏んづけるのであった。

 

「おぶう!?」

 

「まあ、そのへんにしておけミナ。経済を混乱させるような策を取るのであれば、考えはいくらでもある」

 

ルルが蛙が潰れたような声を上げるのを呆れ気味に観察したオーサンは、そう言って姪に「じゃが、手綱はよく握っておけよ」と言ってドアに手を掛ける。

 

「あ、仕事?」

 

「そうじゃ。お主らも仕事へ行くがいい」とにべもなく言い放って叔父は部屋を出ていった。

 

残されたのは少女と少年である。

 

「―――行くかぁ」「はい」

 

ダメージなどなかったかのように振る舞う不死者の少年に、ミナはじとっと冷たく湿った視線を向けて、それから一つため息をついた。

 

「……変な企みはすんなよ」

 

「変でなければ良いのですか?」

 

「そーじゃなくて!!」

 

ミナは何度かそんな遣り取りをした後、手のひらで額の汗を拭って、髪の毛を掻き上げる。

 

「師匠たちが待ってるから、もうほら行くわよ」とルルの手を取って歩みだす。

 

「―――次はどんな冒険が待っているのかしらね」

 

その冒険が、ルルがやらかしたことによるものであることなど、ミナはまだ知らない。

 

そう、ルルがとある貴族の少女をその魅了の魔眼でおかしくして、この国を操ったらミナのためになるのではないか?というとんでもないことをやらかしたことで、1年以上のキャンペーン・クエストをすることになることなど。

 

それが終わってからすぐにアウグスティヌス兄妹と分かれることになることなど、そう―――まだ知らないのであった。

 

 

 

―――そこでハープの音が切れた。

 

「こうして再び冒険は始まるのでした―――この大馬鹿野郎のせいで」

 

ミナの言葉もまた途切れた。

 

宝石の涙が関わった最初の冒険の話はこれで終わりである。

 

「この後、前にも言ったかもしれないけど、このバカ野郎は言うことを聞かない貴族の幼女に魅了の魔眼をかけて、国が危うく傾くところになったのよ」

 

「いやー、ちょっとミナさんに便宜を図ってくれる国にしようと思っただけなんですけどねえ。あの頃の僕は、人の機微や権力というものに対する認識が薄かった」

 

ジト目でルルを見る少女の視線を半ば無視して、ルルは腕を組んでウンウンと頷いている―――

 

その頬に冷や汗が見えたのは、気のせいか、それとも……

 

「やーっぱりルルくんてばサイテーなのです」

 

岬はへの字口にひどく呆れたジト目をルルに向けてそう言った。

 

「流石に自我意識取り戻したらその考えになるのはどーかと思うぜ」

 

話の途中に加わってきた恋が、芋けんぴをかじりながらそうため息をつく。

 

当然の仕儀であった。

 

「宝石の涙には様々な魔法効果があり、特に邪悪な力を打ち消す働きがある。だから二口水晶に宿った何者かの邪悪な意志を砕けたのよね」

 

少女たちから嫌な視線を向けられて、それから逃げるようにアチラコチラを向いている従者に助け舟を出すように、少女はそう言って微笑んだ。

 

「とは言え、マジでその程度でしかないとも言えるから、錬金材料以外には微妙なのだけども」と言って立ち上がって、台所へと向かう。

 

「それじゃ、ご飯食べましょ」とミナは、まだ困っているルルを一瞥してから笑った。

 

―――まだ、冒険は再開しない。

 

幕間は―――もう少しだけ続くのだ。

 

 

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