異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第306話「幕間15-1 古びたゲーセンにて」

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その日は、暑い日であった。

 

そんな中でろくに空調も効いていない古いゲームセンターで、ミナはごくごくとコーラを飲んでいた。

 

「うーん、昔はダイエットの方が好きだったんだけどなあ。やっぱ、今は普通に砂糖入ってる方が好きだわ」

 

きっと飲んでも太らない、という安心感が実際の味よりも美味しく思わせていたのかもなあ、とミナは思いながら視線の先を見た。

 

そこでは、おじいさんと言っていい歳をした白髪の男が、レトロゲームをプレイしていた。

 

ミナが幼い頃のゲームだが、コンシューマ版を母が持っていたゲームでもあり、彼女はそれをプレイしたこともある。

 

「―――うーん」

 

ミナはそのTシャツにジーパンのおじいさんを、少し場違いだなあ、と思いつつもじっと眺めていた。

 

「どうしました、ミナさん」

 

「ほらあれ。商店街の与野組合長さん」

 

ミナは視線だけでそちらを指すと、ルルは「ここだいぶ暑いですよね……摂氏30度以上は確実ですか」と涼しい顔で少年は微笑む。

 

「ミナさんも汗ばんでいるというのに、大丈夫でしょうかね」

 

そう古い格闘ゲーム……というよりは一対一のベルトアクションゲームの趣が強い、餓えた狼の物語の第1作をプレイしている与野組合長を心配する言葉を紡いだ。

 

「あんたが人の心配するとは、成長したわね」

 

「こちらの世界は、あちらよりも危険で、しかしあちらより安全でもありますからね。それぞれの意味で」

 

そう肩をすくめると、肩が大きく出た、いわゆるオフショルダーと呼ばれるシャツが動いて―――どう見ても美少女にしか見えなかった。

 

ミナはその光景に、普通のTシャツとホットパンツを見比べて嘆息した。

 

「うーん、なんだかよくわからないけど不思議な感じだわ」

 

見た目に若い自分たちがこうして気怠げに暑苦しいゲーセンの中でジュースを飲みながらダラダラしていることも。

 

若々しい格好をしたおじいさんが長時間レトロゲームをプレイしていることも。

 

そもそもこのゲーセンの存在自体も……

 

「……で、まだここに居るんですか、ミナさん」

 

ぐるぐると思考が渦を巻いてしまいそうだったミナに、ルルが気遣うように声をかける。

 

「んー、まあそうね。ちょっと組合長に声を掛けてから、目的の場所に向かいましょう」

 

ミナは人差し指の先で上唇を指すと、それをおろしてからそう従者に伝えて歩き出した。

 

―――それが今回の話の始まりである。

 

 

 

「おや、水門さんの娘さんと息子さんではないですか。こんにちは」

 

―――ミナが声をかけると、機嫌良さそうにそのおじいさんは挨拶をする。

 

声を掛けたのは、彼がすごい髪型をしたムエタイのボクサーを巧みに操り、ラスボスの空手道着を着た白人のおっさんをビルから叩き落としたことを見届けてからである。

 

「こんにちは……うちの母がお世話になっているようで」

 

「いえいえ」

 

どうやらこれ以上プレイはしないのか、座面がもうテッカテカになって、しかも一部剥げている古びたゲーセン椅子から立ち上がると組合長は頭を下げる。

 

ミナとルルも合わせて頭を下げた。

 

「今日はどちらへ?若い方がこんなうらびれた古いゲーセンにいらっしゃるとは珍しい」

 

はっはっは、と軽く笑って組合長はぐるりと回りを見回した。

 

「あー……実は、ここに入ってるレストランがもう閉店になるって言うんで、一回だけ来てみようかなあと」

 

そのために開店時間をこのゲーセンで過ごしていたのだ、と少女は笑った。

 

「ほうほう。ここは朝からやってますからな―――レストランというと……あそこか。まあ時代でしょうね」

 

与野氏はそういうと、「それでは私も用事がありますので」と言って去っていった。

 

二人は去りゆく組合長にもう一度頭を下げ、それから「じゃ、行ってみるか」「ですね」と頷いてゲーセンを出るのであった。

 




短いですが、ご容赦を……
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