異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第313話 「……やばいやつか、それ」

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燃え尽きて灰になった己の残骸に、ミナは無限のバッグから聖水を取り出して振りかけた。

 

振りかけられたそれは、ジュウと音を立てて熱を収め、不思議なことにほとんど蒸発もせず灰を残らず固めてしまう。

 

少女はそれを集め、人型へと形作っていった。

 

そうして出来た灰の人形を小さな箱に納めて、無限のバッグへと聖印を切ってから入れる。

 

本来であればその箱を大地に埋めるのだが、ここでは叶わないが故に。

 

「我が心と魂をかつて宿した躯よ。我が汝を調和の輪へと返すまで、しばし我が懐にて休み給え」

 

火葬の後、その灰を大地に返すのが調和神の葬儀の仕方であった。

 

そうして調和神の死者への祝詞を半刻ほどに渡り神聖語によって詠み、最後にもう一度聖印を切って瞑目する。

 

「これでおしまい、か……」

 

「森人式に風化や腐敗の術ではなかったのには意味があるのかや?」

 

ふとした疑問をカレーナはミナに投げる。

 

すると彼女は「ほら、日本の都市部では基本的に火葬が義務付けられてるから……」と身もふたもないことを言った。

 

「金髪女。信濃は大日本帝国の所有物ゆえ、神森市の条例には縛られんぞ。衛生的見地から火葬が望ましいのは確かだが」

 

台風の整備点検を終えた夕がそう言うと、ミナは「まあそりゃそうなんだけどね」と舌を出した。

 

「しかし、自分の葬式を自分で最初から最後までやることになるとは……」

 

ミナが嘆息すると、「お義母様に連絡して、カバーストーリーの準備をしてもらいますね。遺体は腐乱していたので火葬済み、ということで」とルルがスマホに文字を入力し始めた。

 

「よろしく。正直、カーチャンにも空悟にも申し訳ないが、全裸で泥酔して死んでるのなんて絶対見られたくないし、これでよかったんや……」

 

ミナは遠い目で格納庫の奥の方を見つめる。

 

そこには変わらずジェッ○○ェンジャー1みたいな戦闘機がいくつも並んでて、何故かため息が出た。

 

 

 

―――さて、水門三郎の日本人としての葬儀は行われ、つつがなく終わった。

 

呼んだ親戚、友人は最小限であったが家族葬ではなかった。

 

9月8日のことである。

 

「そりゃ息子の死体なんか見たくなかったけどさ」と、茜が参列者の最後の一人を見送ってからそう言った。

 

西洋人にしか見えない自分やルルに奇異の目を向ける親戚も多少はいたが、なんとかやり過ごすことができた……

 

「ごめん、カーチャン」

 

不意に喪服姿のミナがそう謝ると、「謝るな謝るな。これでようやく自分の仕事に集中できる」と頭を振る。

 

「あんた、マジで友達少ないのな」と揶揄すると、「うるせー」と娘は毒づいた。

 

事実、参列した元友人と言えるものは、今野夫妻を除けばほとんど顔を見せなかった。

 

ミナは思う。

 

―――そりゃ数年以上連絡してない連中は来ないだろう、と。

 

しかし、かつて事件を起こした冨永ふのりと寺内くらいは来るかと思ったが、彼女らは未だに病院を行ったり来たりしている状態のためか顔を見せることはなかった。

 

「まぁまぁ……私と茜さんが知っていればいいのよ」とガンもその他の疾患も完治し意気軒昂な姿を見せた祖母・莢は微笑んだ。

 

「お義母さん……」

 

「あなたたちはこうして生きているのだもの、気にしないで自分のやることに集中するの」

 

肩を叩いてそう慰めた莢に、ミナは「そうだねばーちゃん」と笑って……

 

精進落としで出された日本酒を不機嫌そうな顔で飲み下しているもう一人の祖母の姿を認めた。

 

「で、そっちはなんでそんなに不機嫌なんだよ」と問えば、「我、あまりこう、のう。好みでない男にジロジロ見られるのは気味が悪うて喃」と戯けたことを抜かす。

 

「嘘つけボケ」と祖母の頭に平手をペンと叩き込むと、カレーナは「死神も死の精霊もおらん葬式なんぞ見とうもない」と本当のことを零した。

 

「マジですか、カレーナおばあちゃん」と黒い洋服に身を包んだ岬が聞くと、「人が死にすぎて忙しいんじゃろ。わざわざ魂の入っていない死体の葬儀には来ぬのであろ」ともう一杯日本酒を呷る。

 

「それだけか?」

 

「もちろんそれだけであるものか。代わりに少なくとも葬儀屋ともうぬらの関係者とも違う連中がチラチラ伺っておったぞ」

 

カレーナは茜を見て、そう零すと「何ぞ心当たりはあるかや?」と聞いた。

 

「ま、心当たりといえば……義母さん、少し席を外してもらえるかしら」

 

「わかっとるよ。さ、行こうかね岬ちゃん」と岬を連れて、ルルたちが待っている外へと歩いていった。

 

「はいなのです。話は後で聞くのですよ」

 

岬がそう言って去ると、茜は重い口を開く。

 

「―――確かに、何人か職員じゃないのがいたわ。『水道局』でもない」

 

「それはオレにもなんとなくわかったけど、魔力も精霊力も感じなかったから……」

 

ミナが茜の言葉を継ぐ。

 

母はその言葉に肯んじて、「……先日、十瑚元議員のいる老人ホームの近くで爆発物が見つかったわ。それもとんでもないものがね」とミナの瞳を見つめた。

 

「……やばいやつか、それ」

 

「なんだと思う?」

 

―――ミナが恐る恐る聞くと……

 

「地上爆発でも半径2kmは確実にぶっ飛ぶ核爆弾入りトランク。あんたの術で近寄れないからやらかしたんでしょうね」

 

見つかったのは500キロトン級の小型核爆弾であったという。

 

それがメイズウッドの効果半径のギリギリである老人ホームの2km北で見つかったのだという。

 

もしそれが爆発していれば、神森市で生き残れたのは黄昏の傭兵団の七人とカレーナ、SMNの首領イェカくらいなものであろう。

 

「……そこまでやるか」

 

ミナは少しだけ改の会への認識を改め―――

 

「そこまでやるっつーならこちらも全面戦争だわ……ばーちゃん、働いてもらうぞ」

 

ミナはギリ、と歯ぎしりをして祖母を見た。

 

「あーわかっとるわかっとる。この地に悪意あるものが入れぬようにすればよいのであろ?言っとくが、空から入られるのは防げんぞ」

 

やることはもうわかっているとばかりに、掌をひらひらと振って微笑んだ。

 

「カクヘイキとやらはあれじゃろ?フュージョン・エクスプロードを古代語使わんでやるやつじゃろ?そんなん使ってくる奴らには容赦はせんでいいのう」

 

人様の森を焼こうとする奴らに容赦はしない。

 

それも只人や地球人よりも遥かに恐ろしい報復をするのが森人という生き物であった。

 

「あー、やっぱり下手にエルフの森に入ろうとすると殺されるんすか」

 

そう茜が聞けば、「森によってはの。森人は森ごとに特徴が違うでなぁ。うちは我や今の里長のシリウスが寛容じゃから問答無用はないが、そう言う森も結構ある」とケラケラ笑った。

 

「西方世界南部のレッドエルフの森とか酷かったなぁ……ルルを仲間にする前のことだけど、エルフだろうが問答無用で殺しにかかってきたもの」

 

ミナが肩をすくめると、「あ、レッドエルフってのはこっちの世界で言うとマングローブみたいな河口に生える木の森に住んでるエルフの総称なんだけど……」とそこまで言いかけて、祖母に「待て。話が脱線しとる。あの蛮族の話は今はええじゃろ」と遮った。

 

「あ、ごめん。とりあえず神森市は森に囲まれてるからメイズウッドを街を囲むようにいこう。したら連中、出ることも入ることもかなり制限される」

 

ミナの言葉に茜は肯んじて、「容赦なく徹底的にやっちゃいなさい」と口はへの字に曲げたままサムズアップを返した。

 

「OK……全く、明日オレの誕生日だっつーのに、ホントふざけたことしてからに!」とミナは拳を握りしめるのであった。

 

 

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