異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第316話「っしゃぁ!今日は飲むぞぉ!」

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夢のようだ、と彼女は思う。

 

この世に生きる者たちは、定命の者たちは、正しく彼女にとっては夢のようなものだ。

 

「上古の森人は夢を見ない」

 

その長すぎる寿命そのものが夢のようだものだ、と齢9000年にも達する彼女は思う。

 

「現世は夢、夜の夢こそ真、か。うぬらの世界のものも言うではないか」

 

岬が用意した料理をパクつきながら、カレーナは孫娘に声をかけた。

 

「ばーちゃん、つまみ食いはやめろよな」

 

主賓のミナが大人しく手を付けずに待っているというのに、勝手にサラダを食べている祖母にミナは眉をひそめる。

 

そう、やはり誕生会はやらないといけないだろう、という空悟の意見で急遽企画された誕生会のため、ミナとカレーナ、ルルは家事を岬と恋に任せて食卓でくつろいでいた。

 

まだ到着していないのは、今野一家のみ。

 

葬式の翌日なのにどうなんかなあ、と思わなくはないが、茜が「実際に今のあんたが死んだわけでもないんだしいいんじゃない?」と言ったことが決め手である。

 

「いいじゃろ。どうせ我が勝手するとわかって、我だけ別皿にされてるんじゃし」とすねたようにプイと横を向いたカレーナである。

 

「そもそもばーちゃん、肉食えねえから別皿になってるだけだっつうの」

 

ミナはハー、とため息をつく。

 

そのため息にかちんと来たのか「そもそもハイエルフなのに肉ばっか食ううぬがおかしいんじゃよ?」と舌を出している祖母は、遠目にはミナと姉妹かなにかのようにしか見えなかった。

 

「はーい、おしゃべりはそこらへんで!それじゃあメインディッシュの豚?の香草焼きなのです!」

 

ドスン、と食卓には大皿に乗った小豚の丸焼きのようなものが載せられる。

 

「ねぇ、岬これって……」

 

「ダンジョンで取れたミニマム豚なのです」

 

「ちゃんとガイコツ博士には検査してもらってるから大丈夫だぜ」

 

明らかにミニマムすぎる体躯の豚を指さしたミナに、二人の魔法少女は胸を張って答えた。

 

「バグの気配もないですし、単なる猪の変異体系モンスターかと」

 

「あ、うん……ならいいか」

 

ルルもOKを出しているとわかり、ミナは少し安堵してその小豚の丸焼きみたいなものを見遣る。

 

「六脚豚もまあ原産はダンジョンだって言うし、問題は多分ないわね」

 

それにバグダンジョンで拾ったポーションなども普通に使用しているわけだから、問題はないわけである。

 

そうしてしばらくして、すべての料理が食卓に乗る。

 

中心には―――流石にミナの年齢である635本も蝋燭は立てられないので―――

 

三郎の年齢と同じ34本の蝋燭が立てられたケーキが鎮座していた。

 

「あー……誕生日、おめでとう、三郎」

 

少しだけバツの悪い顔をした茜がそう言うと、「ありがとうカーチャン!」とサムズアップを返して娘は笑う。

 

「ダメだぜ、茜おばさん。誕生日は年取ってもちゃんと祝うもんだ。自分、他人も……って事務所のパイセンが言ってたぜ。あたいもそう思う」と恋がミナと茜のグラスにビールを注ぎながらニヤリとした。

 

「なんかこう……ねえ?」

 

「うん……そうなんだよな……」

 

茜とミナは揃ってバツの悪そうな顔で、「面倒くさくなって……」「同じく……」と似たような言い訳をし始めた。

 

「クリスマスも焼肉食べる日にするし、本当に祝い事に興味ない親子なのです」

 

呆れ顔でケーキの蝋燭に火をつけていく岬に、ミナは「うーん……まあでも祝ってくれるなら嬉しいわ!」と半ば取ってつけたように、ガハハと笑ってごまかそうとする。

 

ピンポーン、と。

 

玄関のチャイムが鳴ったのはその時だった。

 

「私が出よう」と廻が立ち上がり、玄関のドアを開ける。

 

「ようこそ、今野夫妻。待っていたよ」

 

廻の挨拶に文はペコリと頭を下げて「どうも、お呼ばれになりました。聞こえてましたよ、先輩。そんなだからダメなんですよ」とミナを見て呆れた声をかける。

 

「うーっす。誕生日プレゼントくらい強請れよなあ。親友だろ?」

 

入ってきたのは子供たちを伴った今野夫妻であった。

 

「こんばんはー」「……こんばんは」

 

小さく挨拶したのは彼らの子供たちだ。

 

「文さん、空悟……いらっしゃい。言うて、大人が誕生日お祝いねだるもんじゃねえだろぉ?」

 

ミナは入ってきた二人にそう返すと、「そういうのは大人になればなるほど、自分で強請らんとやってもらえんぞ」とにべもなく言い返されたのであった。

 

「二人の言うとおりじゃぞ。人は何でも当たり前になっていくからの。強請らんと始まらんし、強請られたらくれてやるものよ」とカレーナが勝手にワインを飲み始めながらケラケラと笑う。

 

「あなたにはもう少し自重してほしいものですが」

 

「ばーちゃんのお強請りで人生浪費した人間がどれだけいると思ってんだ」

 

ルルとミナにジト目で見られたカレーナは、「相手も我に惚れ込んでたし……我のせいだけじゃないし……」と不満げであったが……

 

「ともあれ、三郎、34回目か600年ちょっとかはわからんが、誕生日おめでとう!」

 

その言葉をかき消すようにどっかと座り、早速子供たちにたかられているミナの前に、空悟はそう言ってドンと大きめの酒瓶を置く。

 

「結構奮発して買った酒だ。貰ってくれ」

 

「おう、サンキュウな」と両脇を隆とアキに挟まれながらミナは例を言った。

 

「私からはこれを」と文からは手作りと思われるコスモスの押し花で作られたしおりを渡される。

 

「文さんもありがとう。うーん、やっぱり一年前からは考えられないな」と苦笑したミナであった。

 

そしてそれだけではなく……

 

「あの、そのぉ」「わたしたちのはこれです」

 

舌っ足らずな声で、幼児たちが渡してきたものは……

 

「えーっと、お手伝い券?期限は無限?ありがとうね」

 

お約束の手作り権利書であった。

 

「ど、どういたしまして」「いつでもつかってね!」

 

ミナがその両手で、頭を撫でてやるとふたりとも照れて笑みを返してきた。

 

「なんとも、本当に……考えられないな」

 

ミナはそう独り言つ。

 

そこに瓶ビールのケースをガシャンと置いて現れたのは夕だった。

 

「夕ちゃん」

 

「私や廻からは特にはないが、博士からはこれを預かっている」と何やらペンダントを手渡してくる彼女に、それは何かと尋ねると「新型の通信機だ。次元間の通信も理論上可能なもので、スマートフォンとの情報連結機能もある」とビールを飲み物用の冷蔵庫に納めながら夕はぶっきらぼうにそう言う。

 

「ありがとう。大事に使うわ―――ともあれ、これで全員揃ったわね」

 

ミナがそう宣言すると、夕も、荷物を置いた今野夫妻も卓についた。

 

「んじゃ、はじめようですよ」

 

岬が言った。

 

「飲み物はみんな持ったよな?」

 

恋が笑う。

 

「うむ」「ああ」と廻と夕が。

 

そして、空悟と文もグラスを手に持って。

 

茜が「それじゃあ」と電気を消した。

 

蝋燭の明かりが煌々と、食卓を照らす。

 

ミナはその様子に、どこか満足して。

 

「変わった風習じゃのう」と祖母が漏らした言葉を聞き流し。

 

「一気にどうぞ」とルルに促され……

 

ふう、と蝋燭へと息を吹きかけて消していく。

 

『誕生日おめでとう!』という言葉が響き、照明が再びつけられる。

 

「みんな、ありがとう―――この世界に戻ることをあの日選択したのは間違いじゃないって信じている。それじゃあ、乾杯!」

 

『乾杯!』

 

大人たちのグラスにはビールが、子供たちやルルのグラスにはジュースが注がれていて、それらが乾杯の音頭とともにチン、チンと軽い衝突音を奏でていく。

 

夢のようだ、と再びカレーナは思った。

 

きっとこの出来事を孫は忘れまい。

 

その出来事が悪夢にならぬよう、祖母はそっと精霊へと祈りを捧げる。

 

「っしゃぁ!今日は飲むぞぉ!」

 

「くれぐれもうちの子に飲ませようとしないでくださいね」

 

自分の鼻に人差し指を当ててくる文の釘刺しにミナは「わかってるってわかってる!調和神様に誓うから!」と絶対にそんなことはしないと自らの奉ずる神へと誓って、グラスのビールを飲み干す。

 

―――そうして楽しい、ささやかな誕生会が始まり、そして。

 

その日の夜半に、それは―――起きたのだった。

 

 

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