異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第317話『彼奴めら、宣戦布告もなしに行動を開始しおった』

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―――真夜中。

 

ちょうど時計が0時を指したときだった。

 

「―――みんな寝ちまったな」

 

「そうだな」

 

誕生会はあれから6時間近く続いたが、文は子供たちを寝かしつけるために21時前には水門家の風呂を借り、茜の部屋で眠っていた。

 

それから1時間もすると同じように眠気に耐えられなく無った岬を、恋が連れてミナの部屋へ。

 

廻と夕もまたすでに縁側手前に敷かれた布団でいつものように休眠状態に入っている。

 

23時を周る頃には、茜も「明日も仕事だから」と言い残して部屋へ去っていった。

 

気がつけた従者と親友以外は皆が眠りについていた。

 

「―――誕生日は終わったが、改めて誕生日おめでとう」

 

「ありがとう、親友」

 

日本酒の入ったグラスを合わせて二人は乾杯をする。

 

「楽しい宴会でしたね……」

 

「なんのネタだっけ、それ」

 

「多分スパ○ボ」

 

益体もない会話をしながら、時間は徐々に過ぎていく。

 

「しかし文は明日ここから出勤かぁ」

 

「長引いたからな……結局、ビールケース一箱全部開けちまったし」

 

よくよく見れば転がっていたり、ビールケースに収まっている空き瓶の他に、ポーションの空き瓶らしきものも散見される。

 

二日酔い防止のために、空悟と文が何度かに分けて飲んでいたのだ。

 

何故か酒の神は泥酔や二日酔いには即効性のある回復手段を認めないくせに、節度ある飲み方をしているうちは回復を認めてくれるのだ。

 

どうしてそういうことになるのか、酒神の神官の間でもこれには議論が分かれるらしい、とミナは笑う。

 

「だからって言って、こんなことで無駄遣いしていいのか?」

 

「工房で量産できるから想定の内だ。明日仕事に支障出るだろ、特にカーチャンと文さんの。それにしてもフリームも呼んでやるべきだったかな?」と首を傾げたミナに、空悟は「あの格納庫に文はともかく子供たちは連れてけんからなあ」と苦笑した。

 

そうしてふと、テレビを見ているルルを振り向いた。

 

「面白い、それ?」

 

「ええ。それなりに」

 

そこには1990年代ごろの地方局OP・ED特集が写っている。

 

いつもながら趣味に生きている惟神テレビの謎番組である。

 

今写っていたのは、福島中央テレビのOPだった。

 

平和な朝の様子を映し出すその映像は、ほのぼのとした音楽と相まってノスタルジックだ。

 

もちろん余計なコメンテーターやタレントの解説だの笑い声などもない。

 

ただただひたすら各地のテレビ局のOP・EDを映し続ける。

 

「……マニアックすぎる番組だな、これ」と空悟が苦笑すると、ルルが「何事も始まりと終わりはあるもので、そういうのが楽しいと思える時期があるんですよ」と肩をすくめた。

 

「時期って……お前さん900歳超えだろ?」

 

「自我を得てよりは150年ほどです。まあ、エルフ的にはそういうお年頃ということにしておいてもらえると」

 

そう言われては空悟は何も言えず、ミナを見る。

 

「オレに聞かれてもわからん……ガキの頃テレビのOP見るのに早起きしてたのは認めるけどな」

 

エルフのお年頃と言われても、ミナにもよくわからない。

 

実際に最後にあったときは7歳かそこらの見た目だった自分の妹コルスも、既に300歳に達していたし、大人びた考えをする子だった。

 

それにミナと同じ年に生まれたハイエルフは天護の森には1人もいない。

 

だから、お年頃と言われてもなんだかよくわからないのだ。

 

長机の向かいで酒瓶を抱きながら、大いびきをかいて寝こけている祖母に聞いても無駄だろう。

 

「まあ、ルルが楽しいならオレはいいよ」

 

瞑目して呟き、日本酒をぐいと飲み干す。

 

そして―――それはその時に起きた。

 

ザザ、と映像が乱れる。

 

そして放映が中断し、完全に真っ暗な画面になってしまった。

 

と、同時にスマホの電波が切れてしまい―――通信が不全となっていることが一目瞭然の状況であることがわかる。

 

「これは!?」とミナが言うか言わないか、その瞬間、休眠モードに移っていた廻と夕が起き上がった。

 

「ミナ!一大事だ!」といつにない緊迫した声で廻が叫ぶ。

 

「これを見ろ!」

 

夕の頭に巻かれた殺人光線照射装置が、今は空間に映像を受像させる―――それがなんだったかは。

 

『私だ。薺川だ。千葉県川崎市で不明熱源が見ての通り地上に現れ破壊活動を起こし始めた。つい2分前のことだ。そして広域電波障害が発生しておる。すでに偵察のため台風を自動発艦させた』

 

予想通りだ、とばかりに冷静に伝える薺川だったが、その声はわずかに震えている。

 

上空からの偵察映像では、既に工場がいくつか爆破されていると見受けられた。

 

そしてそれを行っているのは、多脚型の90式戦車のようななにか―――以前に隣町地下の研究所分所に現れたものであった。

 

『状況からの三次元解析映像だが、これは相当にまずいぞ。彼奴めら、宣戦布告もなしに行動を開始しおった』

 

「くそっ!やらかしやがったか!」

 

「すでに秋遂と私用の台風は信濃を発艦し、こちらへ向かっている。自衛隊の即時救援は見込めまい……動けるか?」

 

ミナの叫びに夕がそう言うと、瞬間―――ドアを蹴破るような勢いで茜が部屋に飛び込んできた。

 

「三郎!もたついてないでさっさと行く!あんたの婆ちゃんの剣も忘れないようにね!」

 

既に「水道局」から連絡を受けていたのか、茜のスマホはビィビィと警告音を鳴らしていた。

 

「あたりきしゃりきのこんこんちきぃ!空悟、毒消し飲め!ルル!岬と恋ちゃんを叩き起こしてこい!つか、変身させろ!」

 

空悟に酔い醒ましのアンチドーテポーションを投げ、そして矢継ぎ早に指示をすると、自身は上古の森人の戦装束へと素早く着替える。

 

『奴らの最終目的が確認できたものであるとするなら、そのまま東京湾沿岸を攻撃していくはずだ。頼むぞ』と薺川の声が聞こえ、同時に岬と恋が変身しながら駆け下りてきた。

 

「なんなのです!?藪から棒に!」

 

「決まってんだろ!なんかあったんだよ!」

 

階段を駆け下りると同時に魔法処女特有の変身光が消え、2人は衣装とステッキを身にまとっている。

 

「改の会の連中が動き出したわ!川崎で破壊活動してるんだと。迎えが来るから、私とルルは秋遂さんの頭!空悟と恋ちゃん、岬は廻さんと一緒に秋遂さんに乗って!夕ちゃんは―――」

 

「もちろん、私の台風で向かう―――さて、どこまで被害を極限化出来るものか」

 

いびきを掻いているカレーナから剣を奪い腰に佩いたミナに、夕はそう言って縁側の鍵を開けた。

 

そうしてガラリと引き戸を開ければ。

 

そこには音もなく―――本当に音もなく降りてくるスーパーロボットとマルチロールファイターの姿があったのだった。

 

「っし。空悟!40秒で支度しな!」

 

「言われなくともそのくらいで用意はできる!」

 

空悟が毒消しを飲み、そしてボディアーマーを着込み、機関銃と日本刀を背負って準備が完了するまで40秒もかからない―――

 

「……空悟さん」

 

そこに不安げな文の声が投げかけられた。

 

この大騒ぎに起きてきたのだ―――子供たちもまた。

 

「おとーさん……?」「お、おしごと?」

 

「大丈夫だ、すぐ戻る」

 

妻と子に短くそう答えて、仲間たちとともに外へ出る。

 

『おわあ!?なんじゃなんじゃ!?我の体は!?』

 

「寝ぼけてんなばーちゃん!敵が動き出した!出るぜ!」

 

ミナの言葉とともに、上空で浮遊している秋遂と台風から縄ばしごが降りてきた。

 

「それじゃあ―――潰しに行きますか!」

 

ルルがにこやかに、しかし力強くそう笑う。

 

―――ここが分水嶺。

 

辛うじて保たれていた日常と、隠されていた非日常が入り交じる分水嶺であった。

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