異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第318話「―――察するに、オレと同じか。趣味が悪いな」

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―――川崎のコンビナートは既に火の海であった。

 

両脚戦車が10両以上跋扈し、機関銃と主砲で手当たり次第に攻撃してくる。

 

深夜であるため人が少なかったのは幸いだったが、それでも既に死傷者は数十人を下るまい。

 

大規模テロ。

 

そうとしか言えない規模で、通常ありえない物体が破壊活動をしている。

 

現場は既にパニックを呈していた。

 

『ふははははは!やれい!まずは手始めにこの町を焼き尽くす!これを以て日本政府への宣戦布告とするのだ!』

 

そう叫んだのは両脚戦車の中心にいる午雷王である。

 

その全長10メートルほどある巨体の肩に乗っているのは牛込ではなく―――軍服を身にまとった女性であった。

 

「然り。この工業地帯を焼き払えば、日本政府も戦こう。かつてはこうはいかなかった―――戦き、畏れ、平伏すなら良し。さもなくばこの腐った国すべてを滅ぼすまで」

 

女性は鉄面皮を絵に描いたような風情でそう言って、「とは言え厚木や立川、朝霞の自衛隊が動く前に目的を果たす。貴様は見せ札だ。仮に両脚戦車がすべて破壊されれば撤退だ」と作戦の一部を語り、午雷王を嗜める。

 

『心得ておる!自衛隊ごときは敵ではないが―――!』と呵々大笑した。

 

長い黒髪の女性は、ふぅ、と息をつくと「貴様は機械、私は女の体になってまで生きながらえたのだ。失敗は許され―――」とそこまで言って、なにかいいようのない恐怖に似た感情を脳裏に浮かべた。

 

「―――む?」

 

『どうした?』

 

「―――来るぞ。異常熱源体共かもしれん」と彼の肩の上で立ち上がり、居住まいを正して軍刀の鯉口を切る。

 

時間は午前1時。丑三つ時まではまだ早い。

 

ふとキラリ、となにかが光った気がした。

 

―――鋭い刃のような、翠の閃光が。

 

「死ねぇ!」

 

それは翠の装束を纏いし妖精である。

 

「なっ!?」

 

女は午雷王の肩からとっさに地に降り立ち、抜刀術を使う―――が。

 

その神速と言っていい抜刀術は、しかし妖精の手にある金剛石の剣によって阻まれ、バギン、と軍刀はまるで割り箸を手折るかのような音を立てて砕け散っていた。

 

「異常熱源体……!」

 

「バカロボの次は黒髪美少女か!趣味に走ってる組織だな、てめーら!」

 

それは間違いなく妖精の勇者ミナであった。

 

「バケモノめが……!この短時間での襲来―――やはり信濃を掌握したというのは真であったか」

 

「悔しいか!?悔しめバカどもめ!私の誕生日の深夜に行動を起こした不幸を悔やみながら死ねぇ!」

 

ミナがその剣を振ると、女は一瞬の躊躇もなく後ろへ地面を蹴る。

 

その判断は正しく、ミナの剣は空を切った。

 

「―――その反応速度。一撃を防いだ膂力。普通の地球人じゃねえな」

 

「……」

 

勇者の言葉に女は答えず。

 

『ぬう!ここは退避か!』と午雷王が叫んだ。

 

その瞬間―――

 

ドン、バゴォムと轟音とともに両脚戦車は一両吹き飛ぶ。

 

「ミナさん。各個撃破でいいですね?」

 

「うん、時間はかけない。川崎には焼肉が似合うのであって、爆炎が似合うのは特撮映画!てめえら逃さねえぞ!!」

 

従者の声に小さく答え、そうして大剣を肩に担ぐ。

 

そうして黒髪美少女を視線で射抜いてミナは吠えた。

 

戦車の爆光をバックに、吠える勇者を見れば、その上空からは天使のように舞い降りる魔法少女、そして人用の簡易飛行装置らしきロケット噴射を使い降りてくるボディアーマーに機関銃と日本刀という出で立ちの戦士。

 

そして光学迷彩を解いたスーパーロボットとマルチロールファイターの姿があった。

 

「ミナさん、やはり?」

 

杖を午雷王に向けつつ、ルルは目を細めて黒髪美少女を睨めつける。

 

「間違いないわね。冒険者現象よ。大した強化でもないが―――その秘密を知ったからには生かして返さねえからな」

 

冒険者現象とは、すなわち魔物を倒すことによりバグを正常なリソースへ戻すことによって授かる神の恩恵である。

 

ただし、この現象はどんな人間であれ与えられるものであり、そこに善悪の区別も所属する組織や信仰する教義や神とも関係がない。

 

万人が等しく授かれる恩恵なのである。

 

その恩恵は、心身の能力の大幅な強化であり、人が人のままに人を超える力を持つ存在と戦うために与えられたものである。

 

「やっぱ空悟と同じか……」

 

ミナはそうつぶやく。

 

つまりは、魔力を持たない地球人にとって冒険者現象はおそらくグリッチ・エッグの人間よりも強く作用するのだろう、とミナは推測している。

 

空悟だけの効果ではないかと思っていたが、そうではないらしいと瞬時に彼女は考えて、すぐさま呪文を唱え始めた。

 

「偉大なるロジックよ。我が手を媒介し、鋭き蜘蛛の糸を作り出さん。弱き一条の蜘蛛の糸と侮るなかれ。其を破ること能わず、汝は大いなる理に切り裂かれよう。ブレードネット!」

 

刃の鋭さを持つ蜘蛛の巣が宙空に生成され、女へとめがけて飛んでいく―――

 

「ちぃっ!」

 

女は横っ飛びに転がり、その蜘蛛の巣をかろうじて避ける。

 

ゴロゴロと転がり、立ち上がるとその手から小さな金属で出来たなにかを投擲した。

 

ミナは金剛石の刃を振るい、その礫のようなものを弾き飛ばした。

 

―――瞬間。

 

『危ない!』と上空から降り立った夕がミナの前に立つ。

 

カァッ、とそれは一瞬白熱して、バンッ!と破裂音を立てて弾け飛んだ。

 

「フラッシュバン―――!姑息な!」

 

ミナは目をつぶりもせずにその光を見据えて―――否、その向こうで体勢を立て直そうとする女を見据えて剣を向ける。

 

ミナを飾る黒いリボンの効果なのか、太陽以上の閃光を浴びてもミナは平然としていた。

 

「―――化け物め」

 

「人のこといえんのか!!」

 

ミナが怒気もあらわに女に反論すると、女は「貴様に対しては言えるさ、異常熱源体め」と苦々しくどこから出したのか新しい刀を青眼に構える。

 

「よーし、いい度胸だてめえ」

 

「待った待った!落ち着くですよ!」

 

「ミナねーちゃん!キレてる場合じゃないぜ!」

 

上空からの声―――ではない。

 

すでにその時、閃光を隠れ蓑にミナの仲間たちもまた地上へ降り立っていた。

 

「どうする?」

 

「アレはオレがなんとかする!各個撃破を頼む!」

 

ミナの背中を守るような位置に降りた空悟は、その言葉に「おう!」と振り向きもせずに、両脚戦車隊へと向かっていく。

 

魔法少女二人もまた同じく空悟とともに―――

 

『あの午雷王とかいうのは、私に任せてくれ。廻も戦車の撃破へ』と、夕が回転式の機関銃を左手から出現させて午雷王へと向けた。

 

『承知』と短く答えた廻は、上空の秋遂と台風に通信を行う。

 

『あとは任せた』と男は言うと、脚部のジェットエンジンを使用して飛び去るのだった。

 

『ぬぅ……!』

 

「逃がしては……くれまいね?」

 

戦場へと去っていくミナの同胞へと視線を向けるも、ルルに杖を向けられたままの午雷王は動くことが出来ず―――

 

そして、それはミナに剣を向けられた女も同じことであった。

 

「死ぬ前に、名前くらいは聞いてあげる。名乗りなさいよ」

 

ミナがギン、と貫くような視線を女に向けると、彼女は諦めたようにニヤと笑って―――

 

「―――鷹妃詩美。今はそう名乗っている。」

 

そう自己紹介をした。

 

「―――察するに、オレと同じか。趣味が悪いな」

 

ミナは自己紹介した女の所作から、一つの事実を導き出す。

 

「見抜いたか。如何にも。生き延びるためにこのような女性の姿に身をやつしている」

 

ミナの推察―――つまり、元男ではないかという言葉に肯んじて女は不敵にも微笑んだ。

 

それはなにかの勝算があるようでもあり……

 

しかし、その微笑みには決死の覚悟があるようにも見えた。

 

嵐の勇者を前に死は覚悟して、なお勝算があるとは何か。

 

一瞬、ミナはブラフを疑う。

 

しかし、ミナはその考えを切って棄てた。

 

「……まあ、生き返れるとしても、死ぬのは嫌だもんね」

 

ボソリ、と呟きその剣をバッグの中に放り込むと、代わりに薄緑に輝く日本刀……今津鏡を取り出して、腰に佩く。

 

「死を死と思い、なおかつ不死なるもの……其れはなんぞや」

 

ミナは己が内に聞くがようにそう言って静かにそう呟いて―――

 

結論を出した。

 

「貴様、吸血鬼の類だな……?」

 

即ち、吸血鬼ならば擬似的な不死も可能であることをミナは思い出した。

 

ルルもそうだが高位の不死者は普通の方法では殺せない。

 

浄化の力を持つ魔法、術の類、または魔力を持つ武具で殺すのが一般的な方法である。

 

その中でも吸血鬼の真祖と呼ばれるものは、時に厄介である。

 

即ち、己が墓所の土を用いた復活の呪法を容易に使いこなし、その土を全て浄化しなければ復活するのである―――

 

そう、破邪滅神の力によって消去しなければ。

 

だが、眼の前の女に死の気配は感じない―――

 

「答えを求めているのか?」

 

「……いいえ。信濃で見たあの不死者の兵士を思えば、あんたのからくりくらいは推測できる……そして、それは調和を乱し、自然の理を歪める行為よ」

 

故に、ミナはジトリと視線に悪意と殺意を載せて女を睨めつける。

 

推測ではなく、確定に持っていかなければこの女は殺せないだろう、と、怒りをにじませて。

 

「見ただけで見抜くか」

 

「あたりきしゃりきのこんこんちきよ。大方、ホムンクルスに近い手法を用いての不死化だわね?神様にバチを落とされても知らないから」

 

「神などと……八百万の神々はとうにこの地を見捨てたろう」

 

「言ってろ。この地に神も精霊も住まうはこの身が証明しているのだわ」

 

ミナは笑みを深めた女の目を見据え、鞘をギッと握り、そして中段にて構え、鯉口を切った。

 

「……抜刀術!」

 

「庚申流刀術―――」

 

女の言葉を聞かず、ミナは小さく小さく呟く。

 

「―――」

 

女もまた無言で抜刀術の構えを取った。

 

逃がしてはくれまい、と覚悟の姿勢である。

 

「幻創鬼壮」

 

ミナが呟いた瞬間、刹那に刀身が引き抜かれ……

 

「な」

 

女は一つとして反応することはできず、その胴体は小さな言葉を残して二つに両断された。

 

音もなく、一瞬で。

 

抜刀も納刀も人の目には見えぬほどの速さ。

 

「……なんと美しい」

 

ずるりと二つに分かれ、口端から血を零しながら、女はそうして地面へと倒れ伏す。

 

「―――なるほど。これが死か?」

 

「……ホムンクルスと吸血鬼の製造で得た技術での結果なら、その程度では死なねえだろ。次は確実に殺す」

 

ミナの言葉に、女はニィと笑って「鷹妃詩美。この名、忘るるな」と言って、ぐじゅりと輪郭が歪むように溶けていく―――

 

ドロドロと液体になっていき、やがてそれは地面のしみとなって消え去った。

 

「……くそ!また逃げられた!!本拠地潰さんと無限復活するぞ、あいつ!」

 

ミナが悔しげにそう叫ぶと、背後で爆光が閃く―――

 

それは午雷王を夕が破壊した閃光で―――続いて、いくつもの爆発がミナの目に飛び込む。

 

どうやら決着はついたらしい、と溜息を付いて「あんな技術使うのなら、厄介さは邪神よりちょっとマシ……ってところね」と勇者は独り言つのであった。

 

 




ちょっとずつ精神が回復してきました。
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