異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

319 / 333
第319話「……もしかして、これって本来は?」

-319-

 

『ぬぅ!?鷹妃殿の生命反応が!おのれぃ!』

 

ミナの一撃で鷹妃の上と下が泣き別れになったその瞬間、午雷王はそう吠えて夕を見据えた。

 

『こうなれば……!』

 

『こうなれば、なんだ?』

 

回転式機関砲を目の前の10メートルはあろうかという巨躯のロボットへと向けて、夕はそう言って「逃さぬ」という意思を眼光として放つ。

 

彼女の体がマシーンであることを忘れてしまうような、怒りと―――幾ばくかの悲しみを載せて。

 

『お前たちは哀れだ。だが、許してはおけん。兵士としても我が国の兵器としても、一個の意識としても、我が国の平和を斯様な手段で奪わんとするものを、私は決して許さぬ』

 

夕が左前に構え、右腕の――― 一発一発が最新の戦車砲すら上回る威力を持つ弾丸を発射する機関砲を、まるで地獄の獄卒、牛頭・馬頭のような姿をしているそれへと向けて吠えた。

 

『―――こちらとて引くことはできぬ!全ては壱百年後のためよ!』

 

午雷王はそう吠えて、体を炎で包みこんだ。

 

『む』

 

轟轟と燃えるその体を見据え、夕は一瞬……刹那に満たない間に星雲砲を使うかどうか躊躇する。

 

もし外せば、異空間ではないこの場は破壊の渦に巻き込まれて消失するやもしれない。

 

故に、選択するべきは一つである。

 

『―――殺人光線、全力照射!』

 

キィィィィ、とまるで光が集まるかのような赤光が夕の額の日の丸を模したクリアパーツへと集まっていく。

 

重層紅玉結晶……人を殺す光線を放つために合成され、研磨されたそれが光り輝く。

 

『炎躯――― 十王突!』

 

燃えた躯で突進してくるそれに、夕は身じろぎ一つせずに―――怒りだけを向けて。

 

『その力!なぜ我が国の「人」のために使えぬ!!』

 

そう叫んで、額から中心温度摂氏数万度にも及ぶ破壊の刃を放った!

 

バジバジバドドドドドッ!と弾け、爆ぜ、崩壊していく音が響き渡る。

 

『ぬわぁぁぁぁぁあぁっ!ま、またしてもぉぉぉぉ!!』

 

『我らに勝ちたくば、斯様な民間人を狙うテロルはやめることだ。そして、身一つで勝負しに来るがいい。そのような滅びても蘇る傀儡の殻ではなくな!』

 

それが単なる遠隔で操作される機械の器でしかないこと―――

 

クオリア、即ち感覚質……仏教で言えば、意識・末那識・阿頼耶識……五感に依らぬ上位の識覚を安全な後方に置いておきながら、戦いと抜かすは何様か、と夕は憤りを覚える。

 

『ぐわぁぁぁぁぁぁ!!』

 

『これは戦争などではない。単なる暴力に過ぎん。私は一個の意思、兵士、兵器として貴様らを許さん』

 

叫びは威力へと変わり、午雷王を焼き尽くしていく―――

 

『ば、バンザァァァァァァイ!!!』

 

ボゴァァァァッ―――爆ぜる音と光を残して、その巨躯は爆散する。

 

夕に『痴れ者め』と罵られながら―――

 

その後ろでいくつもの爆光が煌めく。

 

『どうやら―――』

 

それ以上の言葉を夕は紡がなかった。

 

爆発して消えゆく男への怒りをそのままに、ただ空を見上げる。

 

それだけであった。

 

 

 

決着から十数分後、ミナは仲間たちに慌ただしく指示を出しながら、魔法陣を白い粉で描いていた。

 

「間に合えぇ~……あいつらのくっだらねえ思惑全部たたっ壊してやっかんな……」

 

怨嗟と慚愧と矜恃と憤怒の綯い交ぜになった表情で、少女はその魔法陣を完成させる―――

 

空を見れば、己が従者が三人ほどのピクリとも動かない人の形をしたものを、ガーゴイルに乗せて運んできていた。

 

「ミナさん。とりあえず、すでに死んでいる者、治療が間に合わなそうな者はこれで全てです。20人に満たなかったのは不幸中の幸いでした」

 

ドサリと、魂が抜けたように―――否、本当に死んでいる肉の塊になってしまった物を、少年は魔法陣の中へと横たえる。

 

「粗末に扱うなよ?」

 

「わかっています。彼らはただの被害者ですからね。この国では、なるほど理不尽極まる『死』だ」

 

ルルは吐き捨てるようにそう言うと、彼らの頭に小さな石を置いていく―――

 

「保存の魔法は?取りこぼしはないわね?」

 

「無論、プリザベーションは全員に。僕が『死』を取りこぼすなら、それは誰でさえ取りこぼすものです」

 

死の王たる矜恃をわずかに見せて、ルルはふうと息をついた。

 

「どちらにせよ、保存の魔法で魂を躯から離れないようにしてはいますが、そう時間はありません。お願いします」

 

ルルの言葉に、ミナは周囲を見渡す。

 

少年以外の仲間たちは、今頃消火活動と救助活動の真っ最中である。

 

リペアーの魔法で復旧させるには、範囲が広すぎることもあって、それらに専念するしかなかったのだ。

 

「良かった……死亡後半刻以内に保存の術をかけられなきゃアウトだもんね」

 

ミナはほっと胸をなでおろすと、白い魔杖を掲げた。

 

無論、右の指にはマスターリング。

 

二つの増幅器とも言えるほどの強力な発動体を手に、ミナは精霊への祈りを空へ唱える―――

 

ここは人類の力たる炎によって様々なものを作り出すコンビナートである。

 

故にこの場では、神へ祈るよりも、世界の理を書き換えるよりも、容易な方法であるのだ。

 

その瞬間、バサリとドレスを翻して、救助活動中の岬が空から降りてきた。

 

「ミナちゃん!それは!」

 

「見ていなさい。もしかすると、あなたもお世話になるかもしれない術の一つだから」

 

眼の前の―――遺体や、そうなりかけている人間を見て、ミナはそう少女に語りかけた。

 

『うむ。正しい選択じゃ。破壊の炎は浄化せねばな』

 

ミナの佩いているもう一つの剣が、祖母カレーナがそう言って微笑むような気配を見せる。

 

「うん―――では行くわ。雫なるもの、生まれいづる命ウィータよ。たらしめるもの、感覚と記憶を司りし生命のクオリアよ」

 

ミナは白き魔杖に祈りを込める。

 

それは生命の下位と中位にあたる精霊の名を以て唱えられた。

 

「―――不死なるもの、生死を導くもの、輪廻を司るもの、神々と精霊の橋渡しを成すもの、魂の救済者にして冒涜者、炎天を支配する翼―――鋼の秘密を封ずるもの!火の鳥よ!不死鳥なりしフェニックスよ!」

 

そうして炎と命の精霊王たるものへの嘆願を唱え―――

 

周囲から炎の粒子が集まってくる。

 

まだ稼働している工場から―――

 

燃え盛る被害区域から。

 

また、破壊された両脚戦車から……

 

赤い粒子は、煌めく星となって、やがて白く、皓く、森人の少女の肌よりも、白の魔杖の色よりも真白になって収束する。

 

「命を命たらしめ生かし活かし逝かすものよ、我が生より死へ至る道のり、十と七の巡りを捧げよう!此処にあるは未だ彼岸へ向かうべからざるもの。此岸にて大望を成す命なり!!」

 

ミナは杖を両手で持ち、捧げるように高く掲げ跪いた。

 

「……これが」

 

「はい。ミナさんが魔法、術理としてすなる蘇生の術。それは善神の力による奇跡、古代語による論理改竄、そしてこの不死鳥の力を借りた術の三つです。この世界は炎の力がグリッチ・エッグに比べてひどく強い……」

 

岬の嘆息に、白い光の中から生まれる火の鳥を見つめてルルは薄く微笑む。

 

「神聖魔法リザレクション、古代語魔法リヴァイブ・ライブ。どちらも数十分に及ぶ簡易的な儀式―――それに神に祝福された土地でなければ術者の寿命を削る魔法です。このフェニックスの力を借り受けた精霊術も本来はそうなのです……」

 

少年はそうしてミナを見た。

 

「しかしミナさんの実力も関係しているのでしょうが、この短時間で召喚に至るには、やはりそれだけではないのでしょう」

 

「……もしかして、これって本来は?」

 

「はい。どの蘇生術も一人か二人を蘇らせる程度がやっとですね。それを20人近く蘇生させるわけです。これは我々の世界でも大変な大規模術式であり、森人や神に愛された聖人でも危険とされます。ミナさんでもこの規模では『一度しか』やったことはありませんね」

 

ルルは少し微笑みに苦笑の色を混ぜて、「止めたんですけどねえ。ハイエルフもイモータルの一種だと言って聞かなくて。なんでも例の光の巨人なら迷わず使うと」と肩をすくめた。

 

「世に永遠はなく、永劫は遠く、叡智は儚く、命は儚く―――されども我は魂の救済者、命の冒涜者たる汝に希う―――命の灯火を消すなかれ。失われた灯火が燻る今が其時也―――」

 

ミナの言葉に、不死鳥はゆっくりとその翼を広げていく。

 

「大いなるものよ。輪廻に還らんとするものを、この地に留め置きたまえ!」

 

勇者が叫ぶようにそう唱えると、翼を広げた不死鳥はゆっくりと空へと登っていく……

 

「炎よ白に染まり灯火を灯さん。死という黒に飲み込まれんとする魂を、どうかこの地に繋ぎ止め給え―――」

 

少女の祈りに応えるように、不死鳥はケェンと高く鳴いて降り注ぐ……それはこの場に斃れる十七の人の上に蝋燭のように灯り、やがて儚く消えていった。

 

―――それと同時に、あるものは息がなく、あるものは欠け、あるものは元の形を留めずに地に置かれた者たちの躯が、まるで逆回しのように治って―――

 

否、戻っていくといったほうが良かろう。

 

そして足りぬ部位は盛り上がるように復旧していく。

 

それは脳や心臓が失われたと見える人も同じこと。

 

死体の青に染まりつつあるその体に桃色の温かさが戻っていく。

 

これが精霊術の最奥が一つ、第十位の秘儀―――死者蘇生の術レイズデッドである。

 

吐息が戻り、安らいだ顔で眠る人々を見ながら、「ざまぁかんかんだぜ……」と呟いて、杖にその体重を任せて膝を折った。

 

「大丈夫なのですか!?寿命は!!」

 

岬が走り寄ると、ミナは「へーきよ……場所が良かったのね。せいぜい20年ばかし……」と言ってニヤリと笑った。

 

その顔から生気は失われておらず、しかし代償なのか左の瞳から血の涙を一雫流している。

 

その光景に慌てず、ルルはいつもの歩調でミナの脇に近づいた。

 

「無事ですね、ミナさん」

 

「あたりきなのだわ。ここが火の力が、壊すだけではなく生み出す力が集まる地だからどうにかできた無茶……」

 

ミナは崩折れそうになるが、ルルと岬が即座に肩を貸して立ち上がらせる。

 

ガラン、と白の魔杖は地面に転がり、あたりは闇に包まれる。

 

「……ヤバそうなところの消火と救助が終わったら、撤収ね」

 

勇者の言葉に、ルルはふと周囲を見遣る。

 

ウ~ウ~とサイレンの音が高らかに聞こえた。

 

「どうやら消防や救急が来たようですね。自衛隊は……無理か」

 

「そう簡単に出動はできないですよ、自衛隊。ともかく……長居は無用みたいなのです」

 

すでに察知したのか、廻と夕はこちらに向かってきていることがかすかな噴射音からわかった。

 

そして―――親友はと言えば。

 

「よし、これで一通り終わりだ」と言って、救助した人の止める声も聞かずに走り出していたのだった。

 

事件発生から1時間20分。

 

舞い降りてきた秋遂にミナが乗り込んだところで、関わるのはおしまい。

 

あとは押っ取り刀でやってきた公僕の人々に任せて、黄昏の傭兵団は撤収したのであった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。