異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第320話『証拠を消したとて、見た者が多すぎる』

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ミナがマジックポーションを飲みながら、水門家の居間に戻ってきたのは深夜3時近くである。

 

「あー、しんど……」

 

そう言って玄関のドアを開けると、そこには不安そうな文と……出仕支度を整えた母がいた。

 

「ただいま、カーチャン」

 

後ろの仲間たちとともにドアを潜りながら、ミナが靴箱の上にマジックポーションの空ビンを置いたと同時に茜が口を開く。

 

「派手にやったみたいね。わかってはいたけど、これは隠し通せないわ」

 

「だよな……あの二足歩行の戦車も残骸は崩壊せずにそのままだったからな」

 

ミナの言葉に、茜は無言で肯んじて彼女の脇を、仲間たちの脇を通り過ぎて夜へと躍り出た。

 

「ま、どこまで隠蔽できるかわからないけど、これからやるだけやってみるわ」

 

その言葉を残して、どこかウキウキしているかのような様子で車へと急ぐ母を見て、「……てっきりキレられるかと思った」と少しだけ拍子抜けしてしまう。

 

『まぁ、なんじゃ。我らと縁が生まれる所以の一つや二つはあろうとも』

 

祖母の声が響き、そして親友を見れば「そういうことだろうな」とニヤリとした。

 

そして間髪を入れずに、「おう、ただいま」と妻へと声をかけた。

 

「ふぅ~……おかえりなさい。心配かけさせないでくださいね」と少しだけ頬を膨らませた妻に、夫は「ああ、悪い」と返す。

 

すると、文は「もういつものことですけど」と答えて、彼に抱きついた。

 

「……それはともかく、もう疲れたのです。あとは明日にしようですよ」

 

岬がそう提案すると、恋はもう限界のようでうつらうつらと立ちながらステッキを文字通り杖にして船を漕いでいる。

 

その様子に廻が「私達は情報収集に戻る。岬たちを頼む」とミナに言って、踵を返した。

 

「廻さん、よろしくなのです」

 

答えたのはミナではなく岬である。

 

その声に、鉄人は振り向くことなく首肯して決断的に歩を進めた。

 

そして……

 

「私も、そうする」と夕は言葉少なに廻の後をついていく。

 

その背中からは、立ち上るように怒りの精霊の姿が像を結んでいるようだった。

 

「夕ちゃん」

 

「無論、わかっている。怒りは……この疼くような怒りは、私にも理由がわからん。だが、感情に流されるのは兵士として失格だ」

 

その言葉に何も返さずに、ミナはその背中を見送った。

 

「……とりあえず一休みして、起きたらすぐ報道の確認ね」

 

気を取り直したミナはそうして文に、「文さん、明日も仕事だろ?早くそいつ連れて休んでて」と彼女と親友の方を叩いた。

 

「あ、はい」

 

気が抜けたように力を抜いた彼女を、すでにプロテクターを脱いでいる空悟は、短く「おう」と呟いて持ち上げた。

 

「は、恥ずかしいですから……」

 

羞恥の言葉に空悟は「いや、そんなこと言ってる場合じゃないし、眠ろう……」とそのままズカズカと寝室へと歩いていく。

 

「夜が明けたら大騒ぎでしょうね」

 

すでに眠りかけている恋を除いては、唯一言葉を発していなかった少年が……

 

そうどこか諦めたような面持ちで呟くと、彼の主人は「頭痛いわ……」とかすかにしかめっ面をさらすのであった。

 

 

 

―――翌朝、8時。

 

既に空悟は文と子どもたちの送迎のために家を出ている。

 

恋はまだ疲れているのか寝っぱなしだ。

 

そろそろ岬たちは小学校の始業時間だが―――

 

この状態で二人を学校に登校させるわけにもいかず、ミナは体調を崩したとして小学校へ連絡を取っていた。

 

既にミナから恋のマネージャーを通じて、彼女の叔父や学校には恋が急な仕事で休むという旨の連絡は行っている。

 

後は岬が休むことを伝えるだけだった。

 

「はい。はい。すいません。そういうわけで、はい。阿南岬は今日は休ませますので。はい……はい。よろしくお願いします」

 

ミナが惟神小学校へと岬が休むことを伝える電話を掛けつつ、横目で居間のテレビ―――いつもの惟神テレビではなく、全国ネット放送局―――を見つめる。

 

先方に伝えるべきことは伝え、電話を切ると少女は盛大に溜息をついた。

 

「うん。一個も隠蔽できてるようには見えんな!」

 

ガハハ、とちょっとやけくそ気味に笑うと、どっかと長机の上座に座って頬杖をつく。

 

『―――川崎で未明に起きたテロで―――』

 

『―――謎の戦車の残骸が見えます―――』

 

『報道規制―――』

 

画面には破壊された両脚戦車を望遠で写した映像とともに、無責任なニュースキャスターの声が聞こえてくる。

 

「バレるのは時間の問題だとは思ってましたですけど、ここまで派手にいきますですか」

 

おさんどんをしながら岬は呆れ顔をしていた。

 

ちなみにメニューは卵焼きとウインナーソーセージの醤油炒めにほうれん草のお浸し……それとダンジョンで採れたグリーンスライムの煮物、それから大根とジャガイモの味噌汁である。

 

「『事故?謎のテロ組織?死者ゼロ名?川崎で広範囲に爆発事故』……ちょっと詳細な情報が出すぎな気がしますね。まだ7時間ほどしか経っていないのですが」

 

珍しく朝食の場に姿を表したルルが、SNS上で流れているネットニュースの記事や、アップされ拡散されている写真を確認してそう嘆息した。

 

テレビでの報道も現場近くで撮影されたと思しき写真や、広範囲に封鎖されている区域を映し出し、解説用なのかパネルに地図まで用意されている。

 

どう考えてもあらかじめ準備されていたとしか思えないものだ。

 

「これはマスコミに改の会の草が紛れ込んでいたのでしょうかね?」

 

「考えられないことではないのです。先日も例の国のスパイらしき人間が、英語翻訳をわざと間違っていたという事件がありましたですよ……いただきますです」

 

ルルが紅茶……ただし、ペットボトルの―――を口に入れながらそう言うと、岬がご飯に手を合わせてそう答えた。

 

ミナはその様子に不機嫌に「カーチャン……水道局のほうが一手遅かった、ということ……」と瞑目してまたため息をついた。

 

想定内ではあるが、少々時期が早い、というのがミナの感想である。

 

せめて信濃の居住区改装が終わってからならば、と思うがそれを今どうこう言っても始まらない。

 

いずれ関係者を避難させるのは言うまでもないが、間に合わなかったときが恐ろしい……

 

「最悪、あの殺風景空間にみんな寝泊まりしてもらう他ないな。廻さんたちから連絡は?」

 

ソーセージをご飯に乗せたミナに、ルルは「来ていたらこう悠長にはしていませんよ」と片目をつぶって手のひらを振った。

 

「まだ情報が錯綜していて、どこまでバレているものやらわからない……というわけでもなさそうですね」

 

メガネを直しつつ岬が言うと、ちょうどその時ミナのスマホに着信があった。

 

「はい、もしもし……」

 

『こちら夕だ。博士から情報汚染について、全容が判明したと連絡があった。どうする?』

 

夕の声にミナは少し安心し、その言葉の意味をすぐさま捉える。

 

それは即ち―――

 

「流出した画像、ネット上から全部消せんの?マジで?できんのそんなん?」

 

『ああ、問題ない。だが、ここまで広がったものの『記憶』だけは消せんぞ。証拠を消したとて、見た者が多すぎる』

 

「う……」

 

ミナが一瞬言葉に詰まると、夕がわかっていたとばかりに言葉を継いだ。

 

『詳しくは後ほどになるが、既に情報汚染の範囲は全世界だ。回線未接続の筐体に保存されたものまではいかんともしがたい』

 

その言葉に、ミナは腕を組んでスマホをスピーカーモードにした。

 

「……ということは、手遅れってことね。腹を括るしかないでしょう」

 

「ええ。もう既に鉄の怪物の画像もこの通り撒かれてしまっています。テレビに写っていたものだけではないようですね」

 

ルルが自分のスマホをミナに見せると、多方向から撮影された両脚戦車の姿があった。

 

それを投稿しているのは、キリル文字だったりアラビア文字だったり、多岐にわたる言語のアカウントである。

 

『どうする?』

 

「やるだけ無意味っぽいわね。オフラインにもう持ち出されてるのは確定でしょう」

 

ミナがため息を付くと、ルルが「まあ、ミナさんも言いましたが、腹を括るしかないでしょう。現代では記録に残らなければ誰も信じない……ただし、拡散する前は、ということです」と肩をすくめた。

 

「でもおかしいのです。これだけの騒ぎになっているのに、奴らの声明がありませんです。テロリストは必ず自分等がやったと声明を出すはずなのに、です」

 

それも異常科学を手にした改の会であれば、全世界の電波ジャックを行う程度はできるはずだ。

 

―――研究所の妨害がなければ、ではあるが。

 

『死人を出せなかったこと、事実上我々に敗北したこと、博士の妨害を警戒していること、三百以上の要因が挙げられるが、宣戦布告ならどこぞに通告が行っている可能性はある』

 

夕の声に、岬は「……直接政府要人にだけ伝えたです?改の会を知る人間だけがわかるように?」と首を傾げた。

 

しかしながら答えは出ない。

 

少なくとも方針としては、ネット上の情報拡散には手を出さないということ。

 

そして、改の会が声明を出す時期を待つ。

 

それがどこから発信されたかを虱潰しにしていくことでアジトの捜索を行うこと。

 

その程度だけを決めて、夕からの通話は終わった。

 

『光り輝く火の鳥を見たんだって!本当だって!』とテレビの中では、作業員らしき男がインタビューを受けている。

 

―――ミナはその顔に見覚えがあるのであった。

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