異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第323話「彼女自身の自由のためですので」

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「なるほど、大体わかりました」と言ったのは老人であった。

 

それまで話していた内容を反芻するように頷き、そして孫娘の顔をじっと見る。

 

その顔には心配とほんの少しの怒りが滲んでいた。

 

十瑚はしばらくそうして無言で見つめたあと、「危険なことをするなら、一言私に相談するくらいはしなさい」とメグミの頭を軽く叩く。

 

ぱふっ、とメグミの髪が音を立てた。

 

痛みを与えるつもりではないという証拠のように、そのしわがれた手のひらはそのまま孫娘を撫でている……

 

「でもさぁ……仕方ないじゃん……」

 

申し訳無さそうな表情でそう言うメグミに、「仕方なくあるものか。なんのためにあの二人を君から遠ざけたと思っているのかね」と返して、彼は撫でている手をそっと離した。

 

その声音にミナは、おそらく家族のことだろうな、と岬から聞いた彼女らの辛い過去に照らし合わせて思う。

 

おそらくは彼女の両親は、彼女に虐待をしていたのだろうと勇者は想像した。

 

それは間違っていなかったようで、十瑚は「君の人生も私の政治生命も破壊するようなことをしでかしたからだ。それも私ではなく君を虐げ貶めるという最低の形で、だ」と苦々しく宙を仰いだ。

 

「あ、それはご家族『だった』人の所業ですね?」とルルがデリカシーのなさを発揮すると、ミナはその後頭部をカンとどこからともなく取り出した小さな木槌で叩く。

 

「痛いんですが」「痛くしてるのだわ。まあ、メグミさんが危険なことをしていたのは、彼女自身の自由のためですので、そう怒らないであげてください」

 

ルルの言葉を軽く流してそう宥めたミナは、「それよりも彼女は……スーパー・マジカル・ガール・ネットワークの首領イェカは、これまでの事件から鑑みてかなりの高齢のはず」と言って十瑚の瞳を見た。

 

ミナたちは学校で起きた怪奇現象とその中心であった中位精霊ワラシトモに深く彼女か、その係累が関わっていると考えている。

 

そして、それは十中八九本人であろう、と。

 

「ふむ……」

 

「私みたいな……こう言ってはなんですが、幼い頃は森しか知らず、長じては冒険ばかりをしてきた人間では政治家など無理でしょう。彼女にまずは交渉してみます」

 

顎に手を当てて思案する十瑚にそう言って、ミナは窓の外を見やった。

 

「……それとも、やはりこの市を独立させてしまう、というのはまずいですかね?」

 

そう言うと、十瑚は「……バグダンジョンや信濃を隠蔽するため、ということであれば最善かもしれないね。もちろん大きな混乱が伴うし、当然海外からの干渉は避けえないだろう」と返す。

 

そうしてフッと息をつくと、「不可思議な……この世界の理ではない法則を認められないものも多いだろう」と微笑んだ。

 

「……そうだね。異端は認めないって言うのは多いもの」と孫娘は口をへの字に結んで眉をひそめる。

 

「現代の魔女狩りが巻き起こってしまうかもしれないですね。まあこの国では起きないでしょうが……」とルルも同調した。

 

「そうなるとやっぱり力で黙らせるしかなくなるよねえ。難しい……」とミナは腕を組んで唸った。

 

「実際、発展途上国では未だにそのような迷信が蔓延り、21世紀に入ってからも3000人に及ぶ犠牲者がでているとする情報もあります。その魔法少女たちが日本にしかいないのであればよいのですが……」

 

十瑚の言葉に、ミナは「そこですよねえ。岬も虹の欠片がどこまで飛んでいったかはわかないですし、やはりイェカ首領に聞いてみるしか手がかりはないですね」と瞑目した。

 

「ところで……聞きたいことがあるのだけれども」

 

腕を後ろに組んで、しゃがんでいるメグミを覗き込むようにしたミナはそうして彼女へと質問する。

 

「何?」

 

「苗字は十瑚でいいわけ?」

 

「そーだよ。十瑚めぐみでいいんだよ」

 

それはなんでもない質問であった。

 

そのなんでもない会話をしながら、しかし、メグミは気づいていなかった。

 

この老人ホームを守る迷いの樹が、彼女を敵とみなさなくなったことを……

 

 

 

―――1時間ほど後のこと。

 

十瑚は運動の時間ということで、迎えに来た運動療法士とともにリハビリルームへと去り、ミナ、ルルとメグミは老人ホーム内のカフェテリアにいた。

 

そういうわけでメグミとしては実に不本意な時間と言えるだろう。

 

それも昼の軽い食事と言ってミナは(いつもどおり)3人前くらい頼んでいる。

 

突っ込みたいのは山々だが、と言いたげな顔をするメグミは、高速でなくなっている食事に呆れたような顔を向けていた。

 

そして、ミナの食事が終わろうとしている。

 

「ほーん、じゃあやっぱりあんたが魔法少女になったのは……」

 

老人が食べても平気なように柔らかめに炊かれた米を飲み込むと、ミナはそう言って箸を置いた。

 

「そう。3年前のことだよ。マコやショウコもそうだわ。クロキとチコは2年前。これは特別だよ。イェカ様が秘密にしろって言ってたことだし……特にオリジナルには」

 

唐辛子があまり入っていないペペロンチーノの最後のひとすすりを飲み込んだ彼女は、口を尖らせながらそう睨んできた。

 

「……時が来るまで、ってことだったのでしょうね。そして時は来たれり、と」

 

緑茶をすすりながらルルがそう言うと、メグミは「そーよ……イェカ様はそう言ってた」と前髪を指で弄りながら答える。

 

「やっぱり時期が合いませんねえ。岬さんが魔法少女になったのは、今年の一月です」

 

ルルがそう言うと、メグミは「……冗談じゃないのよね?」と渋い顔になった。

 

「マジもマジ。虹の欠片の大量放出が起きたのが正月なのだわ」と返して、ミナはコップの水を含んで飲み下す。

 

「……じゃあ、オリジナルは。あの子はオリジナルじゃない……?」

 

こめかみに人差し指をあてて、誰かと交信しているような素振りをメグミは見せる。

 

「……まだ答えられない、ですか」

 

どうやらイェカと念話をしていたようで、回答が芳しいものではなかったのか彼女はこめかみから指を離す。

 

「岬がオリジナルか、そうじゃないかねぇ……」

 

ミナが天を仰いでそう言うと、メグミが「違うの?時期が合わないなら違うんじゃないの?」と半ば以上怒りの浮いた顔で問い詰めてくる。

 

ミナはその言葉を受け流すように茶碗のほうじ茶をぐっと飲み干すと、「仮説の正しさが立証出来るかなあ」と呟いた。

 

「仮説?」

 

「それはイェカ『さん』のところで話すわ。本気でこれややこしい話になるのだわ」

 

そうして、ミナはあえて敵の首領の名にさん付けをして口にして、静かに瞑目するのであった。

 

 

 

その日の夕方。

 

中華の井坂で夕と落ち合ったミナとルルは、メグミのことについて話していた。

 

「というわけで、やっぱり私の仮説は正しそうかな、って」とミナはかつて言っていた「本世界ループ説」について言及している。

 

「メグミちゃんが魔法少女になったのは3年前だから、それだと絶対計算が合わない。じゃあ、どういうことかと言えばルルに似てるぬえ子ちゃんたちや、ダークエルフの血を引く崎身さんがヒントになる……」

 

ここまでは言ったことがあったよね、と勇者は真顔で機械兵士を見る……

 

テーブルの上には、水と中華神話の聖獣をマークとした企業の瓶ビール。

 

まだそれ以外には注文していないようだった。

 

「状況証拠でしかないな。女男の体細胞の遺伝情報と、今名前が上がった3人は―――〇.九七の確率で血縁はない」

 

ビールではなく水の入ったコップに目を落としながら、夕はそう言ってルルを見る。

 

「どうだ?遺伝情報を誤魔化すようなことは出来るのか?」

 

「どうでしょう。しかし、シェイプシフトで変身したときは完全に変身側へと変化していますから。その状態で検査をしてもらえればわかるでしょう」

 

ルルの言葉に夕は小さく「了解した」と返答し、続いて「例の連中のところに言ったときは、その首領の髪の毛でもなんでも良いからもってこい」と言った。

 

「下手に隠れて持っていこうとしたら怒る性質の人では?」

 

「ぶっちゃけ正々堂々もらおう、って言いましょうよ―――彼女たちは、なんだか私とルルを化け物だなんだって恐れてるみたいだし。改の会とはなんとなく別の尺度で」

 

飲んだビールが作るヒゲを手で拭い、肩を竦める。

 

そして、「失礼よねー、こんな美少女捕まえて」とおどけた。

 

「いや、それは妥当だ」

 

「ミナさん。美少女であることは言うまでもありませんが、しかしですね」

 

夕が真顔で、ルルはどこからともなく1988年から続いているライトノベル雑誌の表紙に載っている某天才美少女魔道士(自称)を指さして苦笑する。

 

「あ~ん~た~ら~???」

 

「はっはっは。冗句だ」と額に青筋を立てるミナに、夕は表情を1ミリも変えることなくそう言い放った。

 

「夕ちゃん……?」

 

ギヌロ、と音がしそうな勢いで睨むが、「そういうところだぞ」と返されてはもはや何も言うこともできない。

 

実際に彼女が冒険の際に参考にしていたキャラの一人だからである。

 

「まあ、大丈夫です。今更そんなこと気にする人はいませんよ。森に草が生えているのが当たり前であるように」と花のような笑顔で従者が肩を叩く。

 

「覚えてとけよこの野郎」「はい、忘れないですよ」

 

その会話に、夕は「よし、話を進めろ」とにべもなく言い放ち、そして―――

 

(早く注文もらえませんかねえ)

 

カウンターの向こうで、店主が嘆息しているのであった。

 




あと50回……
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