異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第324話「―――ようこそ我が家へ」

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宵の月を見つめる少女が一人。

 

その瞳は金、その髪は銀、肌は白磁―――

 

「夜は更け、人は去り、闇が染め、月が返す……」

 

その口端から漏れ出る言葉は、言霊となって世界を塗りつぶす。

 

―――夢々見るは人の常。夜の夢は儚く解け、昼の夢は心を縛る。努々忘るることなきように―――

 

幻のように、霞が月を隠していく。

 

泡沫のように、淡墨のように、星を覆っていく。

 

やがて闇が訪うと、少女は振り返り、深淵を見た。

 

「脅かすは人の性、怯えるも人の性。ならば私は恐れず畏れよう」

 

歌うがごとくにそう宣えば、深淵に白き穴が開く。

 

穴は広がり、人を飲み込めるほどの大きさとなる。

 

少女は決断するかのごとくに断定的に、カツ、と靴を鳴らして白き闇へと歩を進めていった……

 

 

 

明けて9月13日……

 

黄昏の傭兵団は朝食を済ませると西ノ森の公民館で合流し、それぞれミナと空悟の車に分乗して森果の片隅にある喫茶店を目指していた。

 

即ち、スーパー・マジカルガール・ネットワークの首領イェカとの交渉のために。

 

向かう車内ではエンジン音が響き、カーラジオは無機質なニュースを報じている。

 

『……以上のことから、政府は川崎市で起きたテロ事件に対して公式な声明を発表しないことを決定しました。事件は……』

 

今は川崎に現れた両脚戦車のことを報じていた。

 

「ふーむ……ぶっちゃけ完全に黙殺するつもりなのですね。悪手……なのです」と岬はニュースを聞きながら自問自答するようにそう言った。

 

「どこも誰がやったかなどと宣言していないからな」と夕が匙を投げるかのような澄ました顔でそう返す。

 

「誰がやったかわからない場合、うちがやったと宣伝する組織があっても良さそうなものですが、あのロボ戦車?戦車ロボ?を自前で用意した、なんて誰も言えないと思うのですよ」

 

それはそのとおりである。

 

50tに及ぶ主力戦車を二足歩行させる技術もその意味も現在のところどこにもない。

 

「それでも話にならねえのです。ぐんずむんず遺憾の意だけではどうしようもないのですよ」

 

捜査も当然のごとくうまく行っていないのであろう、ニュースを読み上げるキャスターは『政府はこの事件を受けて被害区域の閉鎖と……』と状況を説明している。

 

「あー、やっぱ事件のあたりの封鎖は継続するのね」

 

「仕方あるまいて。この国ではうまく動いている方ではないかや?努めて冷静に動こうとしているとは思うぞ?」

 

ミナの後ろの席に座るカレーナがそう言うと、「ま、もとより端から国に頼ってたら冒険者としてはあるまじき、だしね」と孫娘は返して嘆息した。

 

「僕らが中心に解決するなら、なおのこと手が足りませんね」とルルが助手席で眉をひそめる。

 

「和平にしろ、一時休戦にしろ―――と言っても岬さんと恋さんくらいしか彼女らとはまともに戦闘してはいませんが……SMNには協力をしてもらう必要がありますね」

 

コトが起きてからの反応では、もはや遅いのだ。

 

ルルの瞳はそう言っているかのようだった。

 

「軽々に矢を放つは慎むべし。精霊は道を誤らぬ。違えるのは常に人」

 

ミナはそう呟いて、アクセルを踏んだ。

 

道具の使い方は思慮を持つべし、それを忘れて急いては事を仕損じる。

 

それは古くから森人に伝わる警句であった……

 

 

 

「岬ちゃんとミナねーちゃん大丈夫かな、あれ」

 

空悟の車の中でそう漏らしたのは恋であった。

 

心配気に車の天井を見上げたり、外の森をキョロキョロと見やっている。

 

ミナも岬もイェカの持つ秘密には強い興味を示していた。

 

いつになく真剣な表情でジープ・グラディエーターに乗車する二人を見ていたことで、恋は柄にもなく強い不安を抱いている。

 

それがつい言葉に出てしまったのだった。

 

―――今、同乗しているのは二人の他には廻だけである。

 

「深く考えすぎってのはあるかもしれんが、三郎の方は大丈夫なんじゃねえかな」

 

そう言って、加速し始めたミナのジープを追うかのように空悟もアクセルを踏む。

 

表情は暗くもなく明るくもなく、フラットな視線を前へ向けていた。

 

「岬の方も大丈夫だろう。想定はいくつもしているようだ」

 

助手席に座る男は、瞑目して続ける。

 

「そも、我らは尋常ではない戦いに挑んでいる。どのようなことが起きようとも、飲み下す覚悟は私も岬もできているよ」

 

廻はそう言ってからかすかに微笑み、「恋。君も相方を信じてやれ」と続けて押し黙った。

 

「そっかー……岬ちゃんは信じてるけど、さ。どういう事になってるかなんて、あたいは難しくてわからねえわ」

 

そうして恋はシートに目を落とす。

 

「一体この力にはどんな秘密があるんだろうな……」

 

そこには自らのステッキが置いてある。

 

「女神様は虹の欠片を集めろって言った。オリジナルが岬ちゃんであることも一発でわかった。でも、そっから何もわからないんだよね」

 

恋は岬とも話したであろう言葉を紡いていく。

 

「ミナねーちゃんの言うように、本当にループでもしてるのかなあ」

 

そうして廻と同じく押し黙ってしまった。

 

「ま、なにがしかはわかるだろ。SMNの首領と会えばさ」

 

男はそうしてアクセルを踏み込んだ。

 

あと少しで森果の喫茶店にたどり着く。

 

そこで何が待つのかは、まだわからない―――

 

 

 

一方その頃。

 

暗い和室―――寝室と見える―――に何も知らなければ少女と見紛う女が一人。

 

「御老公。鷹妃、御前に」

 

恭しく膝をつく女の前には、布団の中で瞑目する老人が一人。

 

「……報告せよ」

 

老人は嗄れた声音で短くそう言って、女を見ることもしない。

 

「初期作戦は―――成功しました」

 

「……そうか。ならば良い」と呟く。

 

どういうことだろうか。

 

改の会の最初の行動である川崎でのテロは失敗に終わっている。

 

なんの声明も上げない、しかも犯人の姿すら杳として知れない。

 

テロとしてはなんとも不完全に不首尾と言えるだろう。

 

だが、それはテロルの本来の意味を考えれば―――

 

老人はしばし熟考してから体をゆっくりと起こし、ようやくにして女を見た。

 

「まずは認知させることのみ……それさえ果たせれば、あとは容易い」

 

「不安は恐怖を呼び、恐怖は恐慌となり、恐慌は混沌を起こし、そして混沌は新たな秩序の礎となりましょう」

 

女はそうして頭を下げた。

 

「―――この世界には秩序がない。統一されたそれがない」

 

老人はそうして低く嘲笑った。

 

「良い。下がれ。そして、次は……」

 

「は。この世ならざるはこの地には不要。この血に変えても、掃滅いたしましょう」

 

女は立ち上がり、踵を返して立ち去っていった。

 

「……新世界秩序。使い古された言葉だ」

 

その背中に老人の一層嗄れた言葉が投げかけられた。

 

寝室は再び闇に包まれていく。

 

闇に……

 

 

 

―――そして森果の喫茶店―――にて。

 

「看板の文字は読めるのに、それが意味を紡いでくれない」

 

自分と親友の車を無限のバッグにしまったミナは、喫茶店の看板を見上げてそう呟いた。

 

「あのときは気づきませんでしたが、言霊による強力な結界ですね。意図的に出力を上げているように思える」

 

ルルはそうして後ろに続く仲間たちを見た。

 

「さて、皆さん準備はよろしいですか?」

 

その言葉に、全員が頷く。

 

少女は扉に手をかける。

 

そして、扉は開く。

 

造作もなく、あっけなく。

 

カラン、カランと呼び出しのベルが鳴る。

 

鳴ったベルが収まると、そこには一つのテーブル。

 

その上には色とりどりの菓子と、香しい茶。

 

「―――ようこそ我が家へ」

 

そこには幾人かの少女を侍らせた―――銀色の少女がいた。




あと、49……
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