異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第325話「世界樹といえど枝葉を伸ばさぬ日はない」

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「さ、お座りくださいな」

 

静かにその少女は促し、なぜか慌てる後ろの少女たちに目配せをして落ち着かせる。

 

銀の少女は真白く微笑んで、「歓迎いたしましょう。まずはわたくしのお菓子とお茶を召し上がれ」と目を細めた。

 

艶然としながらも少女然として、考えていないような、深く思考を巡らせているような瞳をしている。

 

「……そうする前に、話をするのは?」

 

「どうぞ召し上がれ」

 

一瞬彼女の表情がピクリと動いたのは気のせいだろうか。

 

ミナはそう思いながらも、「ま、今更そんなことしないわよね。いいでしょう、いただきます」と仲間たちに先んじて席についた。

 

彼女の行動に、仲間たちもまた席に次々とついていく。

 

彼女の隣に即座に席についたのは岬であり、逆側に座ったのはルルである。

 

かすかな表情の変化を見て取ったミナは「……もしかして」と呟いて。

 

「言葉にしたら無粋ですわよ、異界の勇者殿」と銀の少女に止められる。

 

「……なるほどなのです」

 

岬がなにか得心したようにう頷くと、銀の少女もかすかに頷く。

 

微笑みを崩さない彼女に、ミナは少しだけ罰の悪い顔をしてお茶に口をつけた。

 

「……美味しいわね」

 

「こんな美味しいお茶は飲んだことないのです」

 

感想を継いだのは岬であり、その言葉にわずかに少女は笑みを深くした。

 

「さ、ケーキもクッキーもビスケットも、果物のパイもどうぞご賞味を―――その後、詳しい話は奥でいたしましょう」

 

そうして、銀の少女も茶に口をつける。

 

ミナがその様子に少しだけ口の端を笑みに歪めて、ケーキをそっとフォークで切り分けて口に運んだ。

 

「悔しいくらい美味しいわね。あのとき、ナポリタンだけしか食べなかったの、失敗だったかしら」

 

ミナの言葉に―――夕は銀の少女が僅かに青筋を立てたことを感知したが、見て見ぬふりをして砂糖の入っていない紅茶を啜る。

 

「ええ、ええ。ひどいですわ。悲しかったですわ。ナポリタンだけ食べて帰るなんて屈辱でしたわ」

 

ヨヨヨ、とわざとらしく泣く少女に、ミナは「悪かったわね」と一言返して、「そろそろ自己紹介くらいしてくれないかしら」と続けた。

 

キッと後ろの少女たちに睨まれた気がする。

 

メグミとクロキの視線だった。

 

彼女たちは銀の少女のかすかに咎めるような表情に、一言も漏らさずに表情をニュートラルに戻す。

 

「失礼。私の名はイェカ。今や姓も氏もどこかに捨て去ったイェカですわ」

 

ふわりと綻ぶような笑顔を向けてくる少女はそうな名乗って岬を見た。

 

「『オリジナル』……阿南岬さんね」

 

わずかに、わずかに、ほんのわずかに苛立ちがイェカの表情に浮かんだ。

 

「……はい、阿南岬なのです―――どうして」と岬は言いかけて。

 

「うふふふ。そのお話は此の後いたしましょう。私としたことが不用意な言い様でした」

 

その言葉に遮られる。

 

そうして銀の少女は典雅な様子でケーキにフォークを入れる……

 

「つかさ。あの早く本題に移りたいんだけど、あたい」と恋が言えば、イェカは「ふふ、伊良湖恋さん。急いては事を仕損じるわよ」と笑みを崩さず声音のみで不敵に答えた。

 

「……世界樹といえど枝葉を伸ばさぬ日はない、ともいうのだわ。私の世界ではね」

 

即ち、どのような巨大で強力な存在であれ行動を起こさねば何もできない。

 

拙速はなお巧遅に勝り、戦場で足を止めたものから死んでいく。

 

それを意味する森人の諺である。

 

そんなやり取りを見ながら、空悟はふっと息を吐く。

 

「俺、場違いでは」

 

「私も含めてではないかと愚考する」

 

「聞こえるからやめろ」

 

「はぁ……」

 

少女たちを諦め気味に男衆と夕が見つめていた。

 

 

 

―――それから小一時間ほど。

 

魔法少女たちが後ろに控えるイェカを前にした奇妙なお茶会は続いていた。

 

やがて用意していた紅茶も、菓子も尽きていく。

 

そうして殆ど喋らずにただ茶を飲み続けていた刑事が言葉を放った。

 

「――― 一つだけ言っておくが、どう言い繕っても、どう世間の役に立ってようと犯罪行為だからな。特に怪物になってるとは言え不特定多数への暴行、岬ちゃんに対する誘拐未遂、それから―――」

 

「あの家の占拠、ですわね?」

 

あら、面白い。

 

そうとでも言わんばかりの笑みを浮かべて、イェカはそう返す。

 

「住居不法侵入と不法占拠だよ、それは」と空悟は頭が痛いとばかりにこめかみを指で抑えた。

 

無論、これは演技である。

 

一応、刑事として真意を糺したかっただけだ。

 

何よりもこれから日本国から独立騒ぎを起こそう、だなんて話の中でするものではない。

 

雑談の一つでしかない。

 

その証拠のように、ミナやルルも何も言うことはなかった。

 

「まあ、アレは使用されていない―――放棄されて、二度と誰も帰ってこない朽ちるばかりの家をこちらが接収させていただいただけですわ」

 

その言葉に、おそらく同じような魔法少女たちのセーフハウスのようなものは全国にあるのだろう、と判断する。

 

ミナは空悟に一つ頷くと、空悟も「OK。ま、このあとの話には関係ないからもう言わないぜ。証拠もないしね」と手を挙げた。

 

「世の中、クソですな」

 

「ええ、まことに」

 

毒づく空悟は愉快そうに笑うイェカに皮肉げな笑みを返して、それから親友を見た。

 

「で、こっちの要望をこれから言わせてもらっていいかい」

 

親友が何も言わなかったのを見て、空悟は一言そう言った。

 

一瞬、場に緊張が走る……

 

何も喋らずにイェカの後ろにいる少女たちの空気が明らかに変る。

 

廻と夕もまた同じだ。

 

変わって、なお。

 

「いいですよ。ちょうどお菓子もなくなりましたし」

 

少女の笑みは変わらない。

 

「では、従者の僕から言わせていただきます―――」

 

これまで口を開かなかった少年が、コトリとカップを置いて。

 

「あなた、王になりませんか」

 

なんでもないことのようにそう告げた。

 

単刀直入で、直載そのもので、なんのひねりもない言葉だ。

 

「……それはどういう意味で?」

 

「どういう意味も、そのままの意味ですけども」

 

何を言っているか理解できない、という顔の少女と。

 

何を言われたのか理解できない、という顔の少年と。

 

掌であちゃあと顔を抑えた少女たちの姿があった。

 

「いや、それじゃわかんねえよルル兄ちゃん」

 

「恋ちゃんのいう通りすぎる……」

 

「口を挟ませていただきます、イェカ様。なんですこの人?」

 

「あーもー仕方ない奴ら……」

 

口々にそうルルに文句を言う少女たち。

 

特に面識のない黒髪の少女は困惑していることを隠してもいない。

 

「えーっと……お遊びでもないのだし、ちゃんと言ってくれるかしら、阿南岬さん?」

 

「はぁー……わかりましたですよ」

 

頭の上に予想外のはてなマークの出ているイェカに、岬が深呼吸してから続けた。

 

「端的に言えば、最悪―――いえ、もう最悪の事態になりつつあるので、あたしたちは信濃とこの神森市を国土として独立を宣言したいと思うのです」

 

「あ、はい。それは予想通りでもありましたけども、ちょっと直截すぎて困惑してしまいましたわ」

 

頬に手を当てて、目を糸のように細めて―――そして、笑う。

 

「そこであなたに女王……国家元首になってほしいのですよ」

 

「ふむ……なるほど?本気なのだな?」

 

閉じた目を見開き、今までとは別人のような気勢でイェカは黄昏の傭兵団を見据える。

 

あまりの攻撃的な気配に廻と夕が席を立とうとして―――ミナに手で静止された。

 

「本気も本気、大本気よ。こちとら冒険者で王様やるようなのじゃないんでね、すぐ返事を出さなくてもいいけど考慮していて―――」

 

ミナがそこまで言った時。

 

バンッ!と後ろの厨房へ続くと見えるドアが乱暴に開かれた。

 

「何事だ、マコ!」

 

この場にいなかった青髪の魔法少女に、イェカはそう問いただす。

 

さすれば―――

 

「失礼いたしました!緊急事態でして!」

 

「良い。報告せよ。客人たちも聞いていて欲しい」

 

指導者に相応しい泰然とした態度となった首領は、そしてマコに促した。

 

「それでは!現在七箇所で仲間の救援要請です!どうやらあの鉄くずどもの―――」

 

「言葉は正確に」

 

「はいっ!改の会を名乗るテロリスト共と思われます!」

 

「ッ!」

 

叫ぶようなマコの声に、椅子が七ツガタリと音を立て、そしてここまで存在感すら消していた美女が一言言った。

 

「答えを急いでもらう必要が出た喃。ま、行こうか、今はの」

 

眼の前の存在感溢れる銀の少女に負けぬよう、殺気を放ちだした孫娘を嗜めるよう、ただ悠然と立ち上がるのであった。




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