異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第326話「ポンコツからガラクタにジョブチェンジする覚悟は出来ているようですね!」

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「ハイパー!メガトン!彗星キィィィッィック!!なのでぇぇぇぇぇす!!!」

 

遠く、近く、澄んだ声が響く。

 

その声は上空3000mから響く我らが知る少女の叫びであった。

 

『ビッ!?』

 

電子音声が、その凛々しくも可愛らしい声の上がった方向に向く―――が無意味。

 

その電子音を出す機械―――両脚で二足歩行を行う戦車の砲塔に、紅い少女の切っ先が突き立つ。

 

切っ先、否、それは彼女の纏うドレスの一部。

 

鋭く尖ったトウシューズの爪先なのであった。

 

速度にして亜音速。

 

時速900kmを超える速さで振り下ろされたその鉄槌のごとき爪先は、その装甲をまるで針を刺した焼き菓子のように割り裂いて、砲塔はビシリと音を立てて崩れ行く―――

 

バガンッ!とそんな破砕音を立てて、両脚戦車が一両、吹き飛ばされて空中で爆発、そのまま遠くの森へと吹き飛ばされていった。

 

そこは、群馬県の有名なダム。

 

かつてある政権に建設を邪魔されまくり、しかし不屈の精神で完成したダム……八ッ場ダムである。

 

今でも近くの道の駅には、とある元大臣への恨み節たっぷりの看板が残る地である。

 

「―――チィッ!ダムでテロとは、天下国家の是正を語る割には、最低限の常識もない偽忠もののようなのです!」

 

空中でくるくると宙返りをして、スタリと地面に立った少女は、ダムの上……観光者向けに開かれた橋の上でそう叫んだ。

 

「地域のインフラ!水瓶にして電源であるダムを狙うとは、許すことは出来ないのですよ!」

 

「あ、あんたぁ……ひょっとしてオリジナルなんかい?」

 

僅かになまりの入った少女の声が、紅い少女の背中にかけられた。

 

「です!魔法少女マジカル☆アナン!あなたの危機に馳せ参じたのです!」

 

肩を抑えてうずくまる少女に駆け寄って、マジカルアナン……岬はそう微笑んだ。

 

「い、イェカ様……」

 

「そのイェカさんから頼まれてきましたですよ!さぁ、もう少し踏ん張ってほしいのです!」

 

脇を掴まれ立たせられた少女は、岬の紅いドレスとにこりと笑う少女の顔を見て安堵したかのように息を吐く。

 

「お、リジナル、さん?味方ということでいいんだんべか?」

 

「もちろん!さぁ、ここを切り抜けてしまいますですよ!」

 

少女を背中にギターロッドを抜いた岬は、不敵に笑う。

 

『ビ、ボボビロボボビロビ』

 

まだ3両は無傷。

 

不気味な電子音声を出し、砲塔と機関砲をこちらに向ける。

 

見れば少女は衣装のそこかしこが破けている……砲撃に耐えきれずに破れたのだろう。

 

「……子供相手になんてことするのですか。ポンコツからガラクタにジョブチェンジする覚悟は出来ているようですね!」

 

岬がタンカを切ると、それを無視するがごとくに機関砲から銃弾が放たれる。

 

ドンッ……ドンッ……と単発での発射。

 

音が届く前に、岬は防御態勢を取るが。

 

がきんっ!と金属が跳ねるような音がした。

 

「あなた!」

 

「わ、わたし!サポート向けなんです!防御は出来ても、た、倒せなくて!助けて、ください!」

 

岬の後ろに隠れる赤毛の少女はそう叫ぶように。

 

白い障壁を岬の前に展開して、申し訳なさそうにそう叫んだ。

 

「ありがとなのです!じゃあ、支援はお願いするのですよ!」

 

岬はふわりと微笑んでギターロッドをくるくると回し―――

 

「お覚悟をばするのですよ!」と大音声をあげる。

 

ギターロッドを振り上げれば、それは灼火を放ち……

 

「にゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

彼女は、サイボーグ化された刑事が主役のハリウッド映画に出てくる悪役メカのようなそれに突進するのであった。

 

 

 

―――数分前のこと。

 

『―――愛する方と書いて我が主人様。分析の結果、敵はインフラストラクチャや観光地へ出現しているようですが、意図は不明です』

 

秋遂の人工知性が、冷たくも麗しい声音で軽口のごとくにそう言うのを半ば聞き流し、廻は「そうか」と小さく呟いた。

 

「聞こえているな、夕。ミナとルルの輸送、現場への投下は任せる」

 

『そちらこそ岬たちを頼む。我々は本命へ向かう故な』

 

妹機が珍しくも音声でそう返す様に、廻は礼儀のごとくに音声で返す。

 

「ああ。そうだ。我らは我が国の、日本列島の守護者である。そこに生き、虹のかけらがもたらす災害から人々を守る年若き魔法少女らを守るのだ」

 

怒り、慈しみ、誇り、義務。

 

その入り混じった声に、秋遂のカーゴユニットにいる岬が笑った。

 

『護国の鬼とは、つまりは国を守る勇者のごとしなのですね』

 

「誂うな、岬。恋、空悟、ミナの祖母殿。準備はよろしいか」

 

「おう、あたいはいつでもOKだぜ」

 

岬の言葉を軽くあしらい、恋の言葉を確認すると、廻は一瞬押し黙り「作戦開始だ」と小さく告げた。

 

『空悟様は場所と飛行能力の都合上、落下傘の装備が必須です。準備はよろしいでしょうか。また、カレーナ様は不要ということでよろしいでしょうか』

 

秋遂の声に、「準備万端だ。いつでもいいぜ」と刑事は軽く答える。

 

そして勇者の祖母もまた「我も問題はない。いや、しかし絶景かな絶景かな。世界樹の上でもこうはいかぬ」とカーゴユニットの窓から見える景色に笑っていた。

 

場所は八ッ場ダム上空3000m―――

 

「……ところで、俺の目的地、ここから100km近く離れてるんだけど」

 

『落下傘装備には飛行装置も付随していますので、お覚悟を』

 

「お覚悟をってなんだ!?お覚悟をって!?」

 

『それでは、どうぞ』

 

バシュン、と射出音がして空悟の答えを待たずに座席はあっという間に射出されていった。

 

時速にして1000km近いが、すでに空悟の肉体はそれに耐えうるものである。

 

「えーと……あたいらはお手柔らかに」「同じくじゃ」「あ、あはははは……」

 

『善処します』

 

秋遂の冷たい声を聞きながら、残る3名は冷や汗を流すのであった。

 

 

 

改の会の戦闘員たちは、その少女を追跡していた。

 

ここは多くの撮影でも使用された、栃木県は宇都宮市の地下空洞……今は大谷資料館と呼ばれている採石場の跡地である。

 

八ッ場ダムからの距離は100km弱であり、先程の射出から数分後のことであった。

 

地下宮殿めいたその冷たい坑道を魔法少女は走る、走る、走る―――

 

どんどんと奥へ誘導されていることに焦りながら、少女は叫んだ。

 

「全く!しつこいやつら!死んでしまえ!!」

 

氷の手裏剣を投げながら、銀髪の少女は毒づいて奥へ奥へと移動している。

 

普段なら観光客で賑わう場所だが、今は改の会の戦闘員が現れたことによって、混乱はあったがほぼ避難済みである。

 

その功績が誰にあるかと言えば、それは間違いなく今走り抜ける少女であろう。

 

「だ、大丈夫、お姉ちゃん?」

 

少女は傍らにおそらくは小学校低学年と思しき少年を抱えている。

 

そう、彼が数少ない避難が遅れた少年であった。

 

「ごめん、黙って。舌を噛むわよ」と少女が冷たい声で言うと同時に、崖から飛び降りるが、それより高い場所から戦闘員が降りてくる。

 

「……!」

 

くぐもった、意味があるかもわからない戦闘員の発する声が響く。

 

「チッ……追い詰められたか」

 

「おねえちゃん……」「だから、なんとかするからちょっとまってて」

 

不安と恐怖を抱え込んだ少年を後ろに、少女は忍者刀めいた形状のステッキを戦闘員に向ける。

 

確保が目的なのであろう、縄や刺股といった捕縛用具を持ち、戦闘員らはジリジリと迫ってくる。

 

「やぁっ!」

 

裂帛の音声を上げて少女が刀を降ると、氷の手裏剣が四枚生成されて飛んでいった。

 

それはドカリ、と音を立てて戦闘員の脳天に突き刺さり、うち三体を倒す―――が。

 

「……!」「……!」「……!」

 

スタリ、と同じ高所から戦闘員がまた多数現れる。

 

「数が!多い!!」

 

このままではジリ貧である。

 

少年を見捨てれば逃走も適おう。

 

しかし、彼女は―――魔法少女である彼女は、その持ち前の善性から眼の前の少年を見捨てることに躊躇いがあった。

 

「……くっ……イェカ様―――!」

 

南無三、と特攻まがいのことでもしてみようかと思ったその時。

 

「くっそー……ひどい目にあったぜ……!」

 

多少間延びした疲れた声が、別の方から聞こえてきた。

 

「入場料払ってねえけど、今は緊急事態だからな……って、特撮でよく見る神殿とか地下施設のロケ地じゃねえか」

 

瞬間、パンッ!と弾ける音がして、戦闘員の頭が一つ吹き飛ぶ。

 

「子供をそういう扱いする連中に、国がどうこういう資格ねえと思うなあ」

 

そう、そこに現れたのは……

 

「あんた!オリジナルの仲間の!」

 

「おうとも。ヒーローじゃないから名乗りは勘弁してくれ。名乗ってる暇もなさそうだからな」

 

拳銃をホルスターに戻し、男は笑う。

 

戻して、笑みを消して短機関銃と重機関銃を両腕に抱えて、そして―――

 

「こっちに向かって走れ!」と叫んだ。

 

そう、その古めかしい龍の意匠が施された兜を被り、どこかサイバーパンクの世界から出てきたようなボディアーマーを装着する男。

 

今野空悟の到着であった。

 

瞬間、少女は爆ぜるように少年を引っ掴んで走り出す。

 

「お姉ちゃん!?」「黙って!」

 

戦闘員の囲みを強引に突っ切り、少女が迫る―――と同時に短機関銃と重機関銃の発砲音が鳴り響く。

 

鳴り響くその音を聞き流しながら、空悟は「狙いはこりゃ魔法少女だけじゃねえな?」と戦闘員が群がっているあたりを見た。

 

そこには怪しく脈動するコンテナが一つ。

 

それは―――

 




あけましておめでとうございます。
……昨年は何も出来なかったので、今年はなんとか頑張ってみます。
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