異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第327話「あの連中にぶっ壊されるより、ここを知る人間がぶっ壊すほうがいい」

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黒く、白く、朱く脈動するそれを空悟は睨めつける。

 

睨めつけながらも、その引き金は命なき戦闘員どもへと無慈悲に鉄槌を放ち続けていた。

 

「……ところで、君。あのドクンドクンしてる箱に心当たりあるかい?」

 

M2重機関銃のベルトリンクを再装填しながら、己の傍らまで走り抜け少年をかばう銀髪の少女に声をかけた。

 

「知る、わけ、ないでしょ……!私だって初めて見たわよ!」

 

息を整えながらそう言う少女に、空悟は「わかった。信じるぜ……ありゃあ、一体何だろうな?」と考えをまとめようとする人間特有の、返答を求めていない言葉を紡いだ。

 

たしかに人工物ながら、しかしこのようなところで蠢いているはずもないものだ。

 

何しろここは観光地やロケ地であり、かつては重要な鉱工業の基盤であった場所。

 

そんなところにあんな不気味な物体があろうはずもない。

 

「……ぶっ壊すか」

 

「正気なの!?崩れるわよ!?」

 

「ああ、君らは俺が助けるから問題ない。ここは、まあなんだ。血と汗と涙と夢と、あと諸々いろんなものがある場所だ。あの連中にぶっ壊されるより、ここを知る人間がぶっ壊すほうがいい」

 

空悟がここに訪れたのは今が初めてというわけではない。

 

彼は特撮ファンであるのだ。

 

つまり、かつて憧れたヒーローたちが、恐れた悪役たちがこの空洞を闊歩する姿を何度も何度も見続け、大人になってからはここへと恋人……今の妻と訪れたことも少ないとは言えない回数だ。

 

そのたびに「色気のない場所ですね」と妻に笑われたのはいい思い出だ。

 

だからこそ、あの謎の物体に壊されるよりは、と思うのは自然の感情であろう。

 

「だからって、駄目でしょう、それは!」

 

「わかってる。わかってるが、あのよくわからん箱を放置するのは職業柄ちょっと出来ねえんだよなあ」

 

少女の言葉に軽くそう返して、突っ込んでくる戦闘員の頭を二つ程拳銃で打ち抜き、そして装弾を終えたキャリバーを戦闘員どもへと向ける。

 

「まぁ、こいつをぶっ放してる時点で、だいぶぶっ壊しちゃってるんで許してくれよ君!」

 

「ちょっと待ってぇ!いや、この子に何を見せる気よあんたは!」

 

空悟はその言葉を聞かずに、一〇〇式機関短銃を戦闘員に。

 

M2重機関銃を謎のコンテナへと向けて斉射する。

 

「しばらく目と耳塞いでな、少年少女ぉ!これぞ真っ赤に燃える正義の血潮!悪を切り裂けアトム撃ちってかぁ!?」

 

子供らを怖がらせないためだろうか、楽しげな声音でどこかのトランプをモチーフにしたスーパーな戦隊のレッドなヒーローの口上を叫ぶ男であったが―――

 

ドゴンドゴン、パタタタタと二つの機械が生み出す鋼の旋風が轟音を放つ中。

 

「……怖い」

 

「怖いわね。めちゃくちゃ怖いわ」

 

無力な少年と、銀髪の少女はそう呟いて男の背中を少し引いて見つめるのであった。

 

 

 

「ふぅーむ。これはまつろわぬ者共の霊魂か何かのようにも見えるのう」

 

戦闘員の頭を踏みつけながら、透き通る布……ただ見ればレースのようにも見えるローブを羽織った女がそう言って、その脈動する箱の表面を撫ぜた。

 

「うぬ、何か識らぬかえ?」

 

まこと不思議である、とばかりに彼女は声を掛ける。

 

「ち、痴女に答える口は持っていないわ!」

 

声をかけられたエメラルドグリーンの長髪を持つ魔法少女はそう答えると、目を逸らした。

 

その女……カレーナの装備は、その透けるローブのみで、その下に何も着ていないように見えたから。

 

「不敬じゃのう。こう見えてきちんと隠すべき場所は見えぬようになっておる」

 

そう胸を張れば、まあ確かに乳首や陰部は視界には映らない。

 

どう隠しているのか、物理的には不明だが、確かに目に入ることはなかった。

 

「せっかく見せて構わん相手にしかおらぬのだから、好きな格好をさせい……で、何も識らぬということでいいのか、娘」

 

助けてやったのに恩を知らぬのう、とカレーナは妖艶に微笑む。

 

微笑んで、周囲を見れば倒れて溶け消えかけている戦闘員と、同じく倒れている職員たち……

 

ここは群馬県上野村は神流川発電所の地下発電所空洞である。

 

「水と地の精霊が雷の精霊に導かれ、雷の精霊を生み出しておる……なかなか趣のある回廊ではないか」

 

そんなところにどう見ても邪悪な力を醸す箱……カレーナの身長の倍はあるコンテナを持ち込んでいるのだ。

 

「ここが壊れるのはつまらぬゆえ、我は早くなんとかしたい。何も識らぬならそうと言え」

 

ふっ、と小さくため息を付いた女に、少女は「し、識らないから!知らないから、ちゃんと隠しなさい!ふしだらよ!」と顔を赤くする。

 

「ほほほほ、そんなに恥ずかしがることはないではないか。女同士ぞ―――ま、識らぬのはわかった」

 

では、どうするか、と足掻く戦闘員の頭を踏み潰してカレーナはコンテナへ、その手に持つ己の魂を封じた剣を向ける。

 

「水、地、あとは雷か。術は使い放題ゆえ、壊されとうなくば疾く現れるが良い」

 

足に嫌な感覚を遺しながら溶け消える戦闘員を一目も見ずに、カレーナはそう言った。

 

言って、数秒。

 

「―――ッ!」

 

カレーナはその場から弾けるように退き、翠玉髪の少女を守るように前に立つ。

 

「ほー……また傀儡かや?孫にキレられたろうに。というか、うぬ戦えるのか?」

 

コウ、と。

 

何かを叩くような音が回廊に響き、そして黒洞がコンテナの前に現れる。

 

「あれは……っ?!」

 

「おぞましいもんになるのう。傀儡とは言え、己の体であろうに」

 

恐怖を湛えた少女の声と、揶揄と侮蔑を込めた女の声が響く。

 

そこには改の会の幹部……上下逆になった牛込の顔を胸から生やした六脚六腕、3メートルはあろうかという怪物が立っていた。

 

『なるほど、余裕ですねぇ……ですが、いつまでそう言っていられるかな?』

 

六腕についた機関銃やロケット砲を向けて牛込のようなものは不敵に笑う―――

 

「……この回廊を壊す気なら容赦はせんぞ。我はここがなかなか気に入った。静かで良いからな」

 

しかし、その程度でこの齢九千歳を超える女が、ハイエルフの長老であった女が怯むはずもなく。

 

嘲るように薄く微笑んで、ローブを翻すと「うぬ、そこらに倒れてる小僧どもを拾って逃げい。あ、小僧では通じぬか。男ども、じゃの」と翠玉髪の少女に促した。

 

「できるかの?」

 

「で、できるわ!こう見えても、念動の魔法が得意なのよ!」

 

「ならば良い。疾く去ね」

 

シャン、シャン、とローブの腰や肩にあしらわれた鈴が鳴る。

 

「ま、激しくぶっ壊れたら孫か死体殿に直させれば良いか」と軽く微笑んで、雷の精霊へと声を掛ける女であった。

 

 

 

『ふははははっ!非力、非力ぃ!!』

 

草津温泉街の上空で空中戦をしているのは、恋と午来であった。

 

他の場所にも現れたコンテナは、上空200mほどの場所に浮遊している。

 

「よりにもよってあたいの相手がこいつかよ!」

 

F-4EJに腕と足が生えたような、しかしスケールは人間大程度の戦闘機もどきを従える午雷王に対して、恋はそうして毒づく。

 

「火力じゃあたいが圧倒的に不利……!」

 

青髪を風に乱して、少女がそう叫ぶ。

 

「で、そっちは大丈夫かい?」

 

「無事とは言われへんなあ。力を貸せ言うならやぶさかではあらへんけど」

 

肩に機関砲の一撃を受けて血を流す金髪の少女に、恋は「そっか。じゃあ、もうちょっと頑張ってくれよ」と微笑んで肩を貸す。

 

ガンガンと戦闘機もどきは機関砲を撃つが、それはすべてマジカルプロテクトによって弾かれていた。

 

「雫なるもの、生まれいづる命ウィータよ……生命の樹より垂れし珠をあたいの守るべき人の体と心に宿し、その傷を癒やしてくれ!」

 

触れた場所から温かいものが流れ、金髪の少女の肩の傷を癒やしていく……

 

「あ、あんた……」

 

「なぁに!気にしないでくれよ!あたいもここで負けるわけには行かないからさあ!」

 

「下から写真とか動画とか撮られてるけどええんか?」

 

不敵に微笑む恋に、金髪の魔法少女はそう言ってホテルやら旅館やら町中やらから自分たちを盗撮している人間たちを指差す。

 

「そこはなんとかしてもらうからヘーキヘーキ!それじゃあ、やるぜ!!」

 

しかしそれはもう薺川博士になんとかしてもらうことを決めていた青髪の白い少女は、己の分身を周囲に生み出し、笑うのであった。

 

 

 

その頃―――埼玉県は首都圏外郭放水路上空10000m。

 

『岬たちはそれぞれ戦闘に入った。魔法少女だけではなく、謎のコンテナの出現が確認されているようだ』

 

夕の言葉に、ミナは頷く。

 

「謎のコンテナってのがちょっと気になるけど、予定通り……廻さんと秋遂さんは?」

 

『茨城港沖で100kmで待機中……おそらく数分もせずに戦闘に入るはずだ』

 

秋遂からのデータリンクにより、秋遂へは海中より高速で物体が迫っていることが確認された。

 

『我々も行くぞ。本当に可能なんだろうな?』

 

疑念を抱く戦闘機械の少女へと、ハイエルフの勇者ミナは笑って答える。

 

「そりゃあ、ノトス様だし、使用に条件が多すぎる短距離転移よりは信頼性は遥かに上よ」と。

 

『コンテナのことを考えると、奪われた秋遂の武装も関係しているかもしれん。さっさと終わらせよう』

 

夕の言葉に、またミナは頷いて―――

 

「南風にして無限大の空間を支配する豊穣王ノトスよ!満ち満ちる世界の果てへ、我と我が望むものを連れゆかん。遠く開かれよ。道よ、遥か遠くへ。照らす夜光は疎らに。吹きゆく風は確かに!」

 

唱えられた精霊語が力を成し、そして、一瞬のあと二人は戦闘機「台風」のコクピットから消失していた。

 

あとには自動操縦に切り替えられた台風が一機。

 

警戒するようにその場所を旋回するのであった。

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