異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第329話「やれやれ。僕が先に大物に出くわすとは」

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音もなく、打ち捨てられた神殿のように静かな闇の中に二人は現れた。

 

『成功したようだな』

 

「派手さの欠片もないあたりがいい感じね。しかもここはもうバグダンジョンと化している」

 

だというのにもかかわらず、彼女ら……ミナと夕はこの場に現れることが出来た。

 

バグダンジョンにかならずある脱出の仕掛けにも依らず、当然転移自体を阻害するバグダンジョンに現れることが出来たのは空間の精霊ノトスの力によるものだ。

 

普段は照明がつけられ、見学者が多く訪れるこの首都圏外郭放水路の中枢部だが、今は静寂と暗闇に落ちている。

 

騒動の前に職員たちが落としていったのだろう。

 

その景色は暗視の能力を持つ彼女らにはくっきりと映っており、今は好都合であった。

 

「スムーズにたどり着けてよかったわ。研究所のほうのダンジョンでも、今後はスムーズに脱出や移動ができそうね」

 

通常の転移魔術では決してそうはいかない静かな到着に、ミナはニッと笑って夕の肩を叩く。

 

『喜ぶのがいいが、待ち伏せのようだな。前方百米、警戒しろ』

 

立ち並ぶ壁のような柱の向こうから、何某か―――銀色のテラテラとごくごく僅かな光を放ちながら近づいてくるそれを夕は指して促した。

 

「……メカ土下座衛門……?」

 

真ん中に巨大な目を持った銀色の球体……それも全身からメカメカしい触手を持つそれを見て、ミナは三十年以上前の少年漫画誌に載った怪物のことを思い浮かべる。

 

「ベムとか大目玉とかって言い方もあるけど、やっぱ◯木土下座ェ門がしっくり来るわね」

 

そのモンスターを登場させたときの権利騒動で起きた事件のことはそれなりに有名であり、年配のファンタジー好きは今でもそれをそう呼ぶことがあるのだ。

 

夕はメカらしくもないため息を付き、『気楽だな……確かに、そう脅威度は高くないが。ではお前の世界ではなんと言ったんだ』と返す。

 

若干呆れた声音を漏らしつつも、しかし油断なく腕の内蔵機関砲をその機械怪物へと向けた。

 

「そりゃ大目玉かなあ。土下座衛門って言ったらよくわからんって言われたわよ」

 

そうにこやかに笑って、ミナもヒヒイロカネの小剣を抜いて下段に構える。

 

「そんじゃ、とっととぶっ壊して、この場所を捜索しましょう。ルルたちが到着するまでに」

 

『―――敵性体検知。侵入方法不明。排除シマス』

 

てっきり機械音声で鳴くかと思ったそれは、無機質な合成音声を放って睨めつけるように触手と眼球を此方へと向けてくる。

 

ゆらゆらと蠢く触手は、それが機械であるとは思えないほどだ。

 

「名もなきものよ。雷の中に潜む理を司りし光よ。我が剣に雷を宿したまえ。雷(いかづち)は伝い電(いなずま)となり、我が敵に対すべし」

 

静かにそう唱えると、ヒヒイロカネの小剣に電光が宿った。

 

バチバチ、と放たれる光は空気の絶縁を破るほどでありながら、しかしミナには何も影響を与えていない。

 

雷の下位精霊たる名もなき理の精霊術、エンチャントサンダーである。

 

『高圧電流検知。危険―――危険。直チニ排除シマス』

 

瞬間、複数の触手から熱線が放たれる―――まさにそれは赤外線のラインとして二人の視界へとはっきりとした軌跡を残した。

 

「あぶねっ!?」

 

バヂン、と一条の熱線がミナの装束によって弾かれる。

 

『だが、脅威にはならんな』

 

夕が冷笑すら交じる声音でそう言ったとおり、なんの防御魔法も使っていないミナの戦装束とブラックリボンの防御力のみに弾かれたことからも、その攻撃が大した威力ではないことはわかる。

 

そうは言っても、おそらくは普通人や一般車両が喰らえばたちまち致命傷となる威力であることも間違いはない。

 

だから―――

 

「いやぁっ!」とミナが熱線を掻い潜りつつ一閃。

 

『ピーガガガガガガガ』

 

触手が3本まとめて吹き飛び、眼球にも一条の傷がつくと同時に、その大目玉は盛大にエラー音を出して機能停止した。

 

「いくら耐電処理してても、直接中身に電流流し込まれちゃ終わりよね」

 

『そのくらい対応していないのが悪い』

 

大目玉の再起動を防止するため、夕はその眼球へと拳を突き刺して破壊しつつそう返して周囲を見回す。

 

『番犬はこれだけ、ではないことは確かだ。熱源が複数……二十七確認。十三が大目玉、残りは……形状は魚雷だな』

 

「ええい!数だけは揃えてからに!鬱陶しい!」

 

瞬間、ミナが軽く小剣を振るうと、カキン、カンとなにかを撃ち落とす音がする。

 

「チッ!先から矢を出す魚雷があるか!」

 

これだからバグダンジョンは嫌だとばかりに、右手を掲げる。

 

「夕ちゃん!対電防御、お願い!」

 

『心得た』

 

ミナの言葉に肯んじて、夕は胸の前で腕を組んで前傾姿勢となり、『電磁障壁展開』と発声した。

 

それは即ち、ミナが高圧電流を伴う術を使うということである。

 

それも夕の強固な耐電・耐放射線性を上回るものを、だ。

 

「雷の源!天に在りて地に在りて肉に有りて、最奥をすなる女王エレクトラよ!天地を穿つ雷を我が仇へと!星の原初、海と大地へ降り注ぎし地獄をここにもたらさん!!」

 

瞬間、雷が爆ぜて、空気の絶縁を破壊して回り、たちまち稲光が幾条も束ねられ―――

 

ズドォォォォォォン、と地面を雷が叩く轟音が鳴り響いた。

 

雷の上位精霊術にして、第九位階の精霊術プリミティブ・サンダーボルトだ。

 

これはミナオリジナルの術。

 

グリッチ・エッグでは数少ない、雷の源がなんであるかを物理法則として知る者にしか扱えない術である。

 

―――ちなみに、この術を第九位階と認めたのは、神流川発電所地下で戦っている彼女の祖母カレーナだ。

 

大地を揺るがすかの如き轟音が鳴り響いた瞬間、全ては終わっていた。

 

目玉も魚雷もそれぞれ電子回路も電路も何もかも破壊されてドン、ドカン、ドォォンと爆発音を響かせて屑鉄へと戻っていく。

 

「もう大丈夫よ、夕ちゃん」

 

『確かにこれは電磁障壁が必要だ。新躯体でも直撃はまずいか』

 

周囲の電荷が急速に消え失せていくことを悟って、夕は感想を漏らしつつ電磁バリアを解除して周囲を索敵した。

 

『敵影なし、だ。早く進もう』

 

「了解なのだわ」

 

ルルがどうしているかなどあまり気にもせずにミナは歩き出す。

 

―――この程度で闇人にして不死の王である彼をどうにかすることなど出来ないのだから。

 

本命は別にあるとわかっていても、いや、わかっているからこそ、道中の雑魚に苦戦するはずもない。

 

身内の欲目抜きに、純粋にそう感じている勇者であった。

 

 

 

ダンジョン化した首都圏外郭放水路は、もはや見学順路などと言っている場合ではない複雑な構造と成り果てていた。

 

階段を登れば階下につく、エレベーターには空飛ぶ魚雷が詰まっている。

 

地面にはピットや地雷などが設置されまくっている。

 

黒髪の少女が地雷を踏んだのか、ドカンと爆発音がした。

 

「あ、あ、あぶなーいッ!」

 

彼女の脚が、人とは思えぬ駿脚ゆえに被害がないだけである。

 

「あ、あの人巻き込まれたぁ!」

 

栗毛の少女がそう叫んで、一瞬立ち止まって振り返る。

 

「あああ……!?嘘ぉ!?」

 

彼女らの叫び通り、地雷の爆発は後方を走っているルルに直撃したと思われたが……

 

爆炎から姿がぬっと出てくる。

 

「無事のようですね。ここらの落とし穴は全部塞いだのでそのまま走ってください」

 

魔力光を杖先から放ち、爆発から無傷で出てきたのはルル本人である。

 

「僕にこの手の物理的な攻撃はあまり効きません。喋る前に走って」

 

「「は、はいっ!」」

 

少女らが走り出したことを確認しつつ、ルルは首を傾げた。

 

(この規模だと、あちらの術者でも容易には扱えない規模のバグが必要だ。誰が犯人かはわかっても、どうやってやっているかはわからない)

 

ミナと合流したらまずはそのことを話さねばなるまい。

 

―――そこまで考えて、ふと前を見れば。

 

たどり着いた場所は会議室のようだった。

 

入った瞬間に栗毛の少女も黒髪の少女も足を止めてしまう。

 

「どうしました」

 

その質問に、立ち止まった少女たちは中空に浮かぶものを恐怖で震えながら指さした。

 

それは……グネグネとのたうつように歪んでいく箱。

 

黒く、白く、朱く脈動する謎のコンテナである。

 

「なるほど、これが機巧というわけだ」

 

「な、な、なにあの不気味なやつ!?」

 

栗毛の少女の質問に、ルルは短く「君たちが狙われた理由です。敵はどうにも嫌なものを手に入れたらしい」と答えて前に出た。

 

「貴方がたは自分の身を守ることだけを考えてください」

 

短くそう言った瞬間、会議室内のPCに電源が灯る。

 

そして……そこに映った砂場ゲームのキャラクターがニタリと笑うと、箱は奇妙に変形していく―――

 

十字型の水門、と言っていいのだろうか。

 

巨大な十字手裏剣にも見えるそれがゆっくりと降りてくると、会議室が不気味に歪み広がっていく。

 

「やれやれ。僕が先に大物に出くわすとは」

 

ミナが残念がりはしないかと要らぬ心配をして、そして。

 

「まあ、どうとでもなるでしょう」と、怯える少女たちをかばうように前に立ち、杖を向ける。

 

「さあ、始めますか。きっと、他の場所でも始まっているでしょうしね」

 

爽快さすら感じさせる笑みを十字手裏剣に向けて、少年は白いローブのフードを被るのだった。

 

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