異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第330話「帝国陸軍に曰く―――転進、転進!退却にあらずなのです!」

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同じ頃、空悟の相対していたコンテナも変形を開始していた。

 

「オイオイオイオイ……やっぱ重機関銃程度じゃ駄目ってか!」

 

弾切れを起こしたM2重機関銃と一〇〇式機関短銃を投げ捨て、腰の斬鉄剣を引き抜いて地に構える。

 

『GYUUIIIII―――!』

 

それは変形が終わると、空気を切り裂くような金切り音を出す七本のドリル状物体と化していた。

 

「なに、あれ……」

 

銀髪の少女の後ろで、少年が恐怖の声を上げると、刑事は叫んだ。

 

「よぉし!怖がる必要はないさ!」

 

特に根拠はないが、ここで退くことも弱気になることも許されないのだ。

 

なら前へ出るしかないだろう、とすり足で、今や駆動しつつあるドリルへと近づいていく。

 

「―――ッ!」

 

瞬間、ドリルが一本空悟を襲う!

 

ギンッ!と斬鉄剣が閃けば、その円錐状の物体は金属音とともに弾かれ、その切っ先はズレるように地に落ちた。

 

だが見よ。

 

落ちたドリルの先端は消滅し、残った部分からまるで切られたトカゲの尻尾が再生するかのようにズルリと生えてきたではないか。

 

空悟が一呼吸する間に、ドリルは元の凶悪な長さを取り戻していた。

 

「うわっ!生え方が気持ち悪いわよ!」

 

「同感だ!君、援護はできるか!」

 

少年をかばいながら不気味がる銀髪の少女にそう質問をすると、彼女は「わかってるわ!こんな気持ち悪いアスパラガスみたいなのに、私が怯むわけがないじゃない!」と居丈高にその手の魔女の箒を向かってくる二射目のドリルへと向けた。

 

「えぇい!」と叫べば、魔力光が一条流れ、ドリルは上方向に弾かれる。

 

「上出来だ!はぁっ!」

 

そこに切り上げからの切り落としで二撃、ドリルは三つに裂かれて地面に落ちて、そして徐々に再生を始めていた。

 

最初に再生を始めた一本を含めた残る六本のドリルはまた、ギュイイイイ、と空気を削る金切り音を上げて今度はすべてが同時に空悟へと向かってくる。

 

その速度は瞬間的には亜音速にもなろうか。

 

しかし、冒険者現象により強化された彼の動体視力はそれを確実に捉えていた。

 

「一つ!」と叫ぶとドリルが一つ、真っ二つに割れ、壁へと向かい爆発四散する。

 

残る5本は―――「えぇぇぇいっ!」と叫んで闇雲に放たれた銀髪の少女の攻撃を避けて減速しては、また向かってくる挙動を取った。

 

隙はそれで十分。

 

空悟は右手の斬鉄剣を順手に持ち替えると同時に、背負っていたロケットランチャーのグリップを左手で強引に引き起こす。

 

本来両手で扱うべき鉄塊を、強化された膂力だけで水平に構えたのだ。

 

無言で放たれた誘導弾頭は、ドリルの一本にぶつかるとそのまま爆裂した。

 

―――空悟のロケットランチャーは薺川博士謹製の兵器であり、そこに装填されたものは自己誘導型のミサイル弾である。

 

しかし、爆散して粉々になった欠片はまた一つになろうと蠢き出しているし、残りはまだ四本もあるのだ。

 

「……いや、これやばいな。ジリ貧になる」

 

機関銃とロケットランチャーがもたらした破壊の煙が晴れれば、いずれは弾薬と体力、そして銀髪の少女の魔力が尽きてしまうだろう。

 

それまでになんとかしなければならない。

 

眼の前の円錐どもがバグ・モンスターかそれに類いするものということは明らかだ。

 

なら、どうすべきかは良くわかっている。

 

「この兜に頼るしかないのわかるが、さてどうしたもんか。仕事ならなんかあったら始末書でも顛末書も書くが、生憎と休職中なんでな」

 

ロケットランチャーの銃把を強く握りしめながらそう呟き、空悟は被っている龍の兜に意識を集中する。

 

低く、強く、確かに、流動し鳴動する感覚が五感を支配していく―――

 

 

 

「あ、よいしょぉッ!」

 

白いシールドに砲口を塞がれ、砲撃を封じられた両脚戦車最後の一体は、その砲身を捕まれてそのままダムの下の森へと投げ飛ばされていく。

 

ドォォン!と眼下の森に両脚戦車は落着し、土煙を舞い上がらせて爆散、停止した。

 

「これで終わりなのです……と言いたいのですが、まだなにかありそうですね」

 

周囲にまだ不穏な気配……そう、彼女にもはっきりとバグの気配が感じられるからだ。

 

「科学組織なら科学だけ使うのですよ。風情の欠片もないのです」

 

「ひえええ……も、もういねんだからいきましょうよぅ……」

 

魔法を使いながらも腰を抜かしたのか、へたり込んで息をつく赤髪の少女に、岬はフォームをノーマルのピンクに戻しながら「残念なのですが、まだみたいなのですよ」とダムの貯水面の上に浮かぶコンテナを指差す。

 

「な、なんですか、あれぇ」

 

「この世のものか、あの世のものか、それはわからないのですが……少なくとも敵なのです」

 

それは首都圏外郭放水路、神流川発電所、大谷資料館、そして草津温泉街上空に現れたものと同じ、黒く、白く、朱く脈動する不気味な箱である。

 

大谷資料館地下で空悟が相対しているものと同じく、徐々にぐねぐねと歪み別の形に変形しようとしていた。

 

「逃げてもいいのですよ……どうやら、なんだかアレはまずそうなやつなのです」

 

そこまで言ってから、岬はふと首を傾げた。

 

……あんなものがダンジョンの中でもない空中であんな挙動をするのだから、何らかのエネルギー源があるのではないか。

 

もしもそうであるなら、他の場所にもあれが現れているのではないか……と。

 

それならここから一番近い草津温泉の上空へ向かった恋のところへ向かうべきだろう。

 

何しろここから草津温泉の中心部まで15kmもないのである。

 

岬が全力で飛べば、おそらくは3分もかかるまい。

 

遮るものなき空へ上がれば、きっとすぐに肉眼で目視できるだろう。

 

何より―――

 

「魔法少女を狙った、ということはあれのエネルギー源は」と呟き、心のなかで(あたしたちから、かもしれないのです)と独り言ちる。

 

「飛べますですか?なにかで、逃げれば一つ、進めば二つといいますが、ここは『進むという意味での戦略的転進』をするのです―――」

 

「つ、つまり?」

 

「帝国陸軍に曰く―――転進、転進!退却にあらずなのです!」

 

赤髪の少女の肩を抱いて持ち上げ、岬は浮かび上がる。

 

「は、はい!頑張ります!」

 

その言葉にウンと首肯すると、岬は彼女を前に抱えるように抱いて、そのまま脇目も振らず草津温泉方面へと飛行を始めた。

 

彼女を抱えてとは言え、せいぜい5分かそこらでたどり着くだろう。

 

その意図に気づいたのか―――

 

『―――!』

 

そのコンテナはブルブルと震えると、周りに人間大の戦闘機もどきを排出し始めた。

 

「ひぇぇ……」

 

「それで追いつけると思うなら追いついてみろなのです!べーッなのです!」

 

風圧をものともせぬかのように、後ろを見ることもなく毒づいて、岬は少女を抱えて飛ぶ。

 

湯煙の上で戦う、歳の離れた親友のもとへ―――

 

 

 

「なんだよそりゃあッ!ジェッ◯スクラ◯ダーか!?◯レート◯ースターか!?」

 

「そんなこと言うてる暇でっか!来ますえ!」

 

恋の叫びに金髪の少女がそう返して、彼女は眼の前に迫った戦闘機もどきを自らの身長ほどもあろう巨腕で張り飛ばす。

 

ドゴォッと衝突音がして戦闘機もどきが破砕されると、その爆炎の向こうから哄笑が聞こえた。

 

『フハハハハハハーッ!ついにこの午雷王に従ったか、この武装がぁ!ハーハハハハハッ!!』

 

半ば正気を失っているのではないかという声音を発する午雷王の背中には、本来の飛行ユニットではなく、鋭角的なシルエットの追加ブースターが装備されている。

 

変形したコンテナが形になったそれを午雷王が装着すると明らかに様子がおかしくなったのである。

 

「喰らいやがれッ!」

 

戦闘機もどきの群れの真ん中にいる午雷王へ、白い分身とともに恋の魔法が放たれる。

 

エネルギーボルトが本体と分身合わせて五条、いや更に連続して放たれていく。

 

古代語魔法の中でも純粋な物理衝撃をもたらすエネルギーボルトが、この場は有効であろうと考えたのだ。

 

金髪の少女が前衛向きの能力だったことで、彼女は射撃戦に注力できている。

 

しかし、それでも……

 

「多いですなあ。こりゃあきまへんで」と呆れと怒りが綯い交ぜになった感想を金髪の少女は漏らした。

 

ガゴン、と振るわれた巨腕がもどきを一機破壊するが、焼け石に水だ。

 

「わかってるって。でも、この下にいる人らを巻き込めねえっしょ!」

 

恋は射撃を続け、哄笑を続ける午雷王に少しでも攻撃を届かせようとしていた。

 

しかしながら、見たところ午雷王に痛痒はあまり与えられていないようであり、そうであるならばいずれジリ貧になるのは明白。

 

言語化は出来ずとも、恋はそれをひしひしと感じて脂汗をかいていた。

 

「んなこと言いはるけども、この状態で逃げへん連中が悪ぅないですかえ」

 

「うっ……でも、駄目だ!」

 

下でまだスマホ撮影してる連中を指さして顔をしかめる金髪の少女の言葉に思わず頷きそうになる。

 

そんな自分を叱咤して射撃を継続している―――と。

 

『フフフハハハハハハハ!!漲る!漲るぞ!!』と大音声を発して午雷王が上空へ向けて加速する。

 

「やべえ!なんか大技するつもりだ!」

 

そう叫ぶも時すでに遅し―――奇妙な鋭角軌道を午雷王は取って、やがてこちらへと―――

 

「くっ!」

 

マジカルプロテクトを展開しながら、恋は唇を噛み締め金髪の少女の前に出る。

 

『フハハハハッ!贄となれ魔法しょ』

 

午雷王が笑っていたのはそこまでであった。

 

なぜならば―――

 

「アナン・レインボー・フラワー!チャージアップなのです!!」

 

加速を妨害して、虹色の花が午雷王の脇をかすめる。

 

『ぬぐっ!?貴様ッ!』

 

「岬ちゃん!後ろから箱来てる!気をつけて!」

 

「恋ちゃん!無事みたいですね!さぁ、行きますですよ!」

 

赤髪の少女からの魔力供給を得た虹色の花が空中で爆ぜる。

 

そう、八ッ場ダム上空からここへ急行していた岬が到着したのである。

 

恋の指摘した通り、後ろからコンテナが変形しつつ近づいてきているのだが、そんなことはお構い無しに、岬は息を整えながら叫んだ。

 

「すぅー……はぁー……女の子相手にイキってるおっさんとか!帝国軍人の風上にも置けないのです!反省して滅ぶのですよ!!」

 

親友の叫びに恋は小さくガッツポーズをして、「四人いりゃどうにかなるな!行くかぁ!」と笑うのであった。

 

 

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