異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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縦横無尽に飛び回り、散弾やミサイルを撃ち込んでくる午雷王に対して、岬は他の三人の中央で防護魔法を展開しつつ徐々に市街地から離れる動きを取っていた。
「反撃はどうする?」
「まあ、見ているのです。あたしの予想が正しければ、焦るのはあちらなのですよ」
自信ありげにニマリと笑う岬の顔に、不安さは微塵もない。
「そっか。あの箱が変形する仕組みがわかったんだな」
恋も納得したとばかりに微笑むが、しかし。
「二人でばっかり納得しとらんで、ウチらにも説明してや?」
「ほーですよ! このまんまじゃジリ貧になっちまうべよぉ!」
方言少女たちがそう不安げに返してくる。
それでも岬はその余裕ある態度を微塵も崩さずに、此方へと向かってくるコンテナへと視線を向けた。
「あいつだけ変形していないのです。そのからくりはきっと簡単なことなのです」
岬の推理は確信に満ちていた。
魔法少女……『虹の欠片』より生まれし魔女たちの魔力を、岬は使うことができる。
それが何故ここで岬が余裕を見せているかの理由ともなる。
その証拠に、午雷王はわずかに攻撃に焦りを見せていた。
(何故だ!計算上、すでにもう一機も展開を始めているはず……!)
傍目には、戦闘機もどきと己の火器を使って、午雷王が一方的に少女たちを追い詰めているように見えよう。
しかし、それは午雷王にははっきりと欺瞞に見えていた。
『力場が……!?』
小さく、小さくそう独り言つ午雷王の唇の動きを岬は見逃してはいない。
「説明は本当にたったひとつなのです。漏れ出ているみんなの魔力を、あたしがこうして防護魔法のエネルギー源にしているからですよ!」
そこまで言って、恋もまた気づいた。
「ああっ、なるほど!あいつらあたいらの魔力を吸って変形してんだ!」
「どーゆーことや」
展開していた巨腕は負荷が高いのか、それを解除しつつ金髪の少女がそう問うと、岬は微笑み彼女へと「何をしてもどうやっても、エネルギーというのは無駄が出るのです」と答えた。
「あ、なるほどなあ。発電所の熱ぅつこうてお風呂沸かすようなもんやね」
「そゆことなのです!あいつらはあたしたちが出した排熱、余剰魔力をバグの生成エネルギーとして吸引する仕組みを持っているのです!あたしは、虹の欠片を産んだオリジナルなのです!魔力を吸引して循環させることができる……だから、あたしはこうして結界に何もかもを閉じ込めて省エネ運転しているのですよ!」
岬の防護魔法……魔力の防護壁(マジカル・プロテクト)ではもはやなく、魔力を漏らさずに結界内で循環させるための術理と化していた。
「名付けて『マジカル・サーキュレーション・エリア』!完全ではないのですが、この草津温泉の上から離れるまでの時間稼ぎとしては十分なのです!」
ステッキを真上に掲げ、時速にして100kmに満たない速度で彼女らは山岳方面へと移動していく。
『ぐぐっ!おのれ!』
攻撃の手を休めることなく迫る午雷王だが、恋と赤髪の少女、金髪の少女と手を繋いだ岬がとどまることはない。
周囲を戦闘機もどきに囲まれながらも、戦場は確実に移動しつつあったのである。
魔力は世界に秘されしロジック、神や精霊へ供えてその力を借り得るためのエネルギーである。
それは原初に世界を形作り、今もどこからか供給されている『リソース』と呼ばれている第一原質―――プリマ・マテリアと良く似たものである。
そして、リソースは方向性を与えやすいエネルギーである。
その対を成すのが、法則性を持たず、あらゆるものを歪めていく『バグ』である。
バグは闇の力、暗黒の魔力とも呼ばれるものである。
―――即ち、それは魔力と表裏一体のものではないのか。
ミナが古代語魔法を叔父オーサンから学んだときに感じたことだ。
それにオーサンは頷き、魔を学べばどれほどそれが神域のものであろうとも、バグに侵される危険性を孕む、と言っていたものだ。
もう100年以上も前の話だ。
当時は滅ぼすべき敵であり、今では何より大事な存在となった少年―――彼を斃すための研鑽を積んでいた頃の記憶だ。
ふと―――そんなことを思い出した。
暗闇の先、結跏趺坐して待ち受ける白装束の女。
そのあまりに異質な佇まいが、忌まわしい過去の記憶を呼び起こしたのかもしれない。
「鷹妃詩美だったわね。こんなコトしでかして何がしたいのかしら」
返ってくる言葉は沈黙のみ。
しん、とまるで生きてはいないかのようにその女は佇んでいた。
大目玉と魚雷を全て片付けた後、首都圏外郭放水路を先へ先へと歩いていけば、その女が静かに、闇の中に座っていたのだ。
答えは相変わらずない。
「……意志が感じられないわね。抜け殻か」
敵意も、殺意も、憎悪も、感情の類が何一つ動いていないことに、ミナは小さくため息を付く。
その言葉に夕が頷いた。
『脳波検知、最低限。ほぼ脳死と言える状況だ』と答えて、今まで消していた探照灯の点灯の許可をミナに求める。
「うん。よろしく」
パッと探照灯の光が夕の額から照射され、白装束の女を照らす。
インフラビジョンでは見て取れない細かな色合いが瞳に映った。
「……血は出ていないが、外傷がある。血が抜かれているのかしら」
血が出ていればミナが嗅覚で気づくはずだし、それ以前に夕が人工の感覚器官で探知するはずだ。
それでも血が出ていないのであれば、血が抜かれているのか、それともそもそも流れていないのか。
夕は『血流は確認できないが、生命反応が消えてはいない。かと言ってルルのような不死者でもない。奇妙だ』と怪訝な表情になる。
「……明らかに呪詛か儀式だと思うけど、ここがもうバグダンジョンになっていることを考えれば、それにまつわるものね」
ミナは今度は深くため息を付いて、眼の前で死んでいるかのように生きている人形を睨み、もう一度ため息を付いた。
「今回はめんどくさい冒険になりそうなのだわ」
『全く同感だ』
精霊と機械。
人の姿に近くありながら、両極端な体を持つ二人はうんざりとした顔でお互いを見やるのであった。
ギン、ギン、ギギン、ギン。
刃が銀色の光と音を立てながら、ドリルのようなものを弾き続けている。
白い光を放つ龍の兜に守られながら、空悟は一心不乱に後ろにいる銀髪の少女と彼女が守る少年を庇いながら剣を振るっていた。
鉄どころか、もっと強度の高い金属をも微塵に切り砕く斬鉄剣を振るう。
薙ぎ、穿ち、払う。
それを10分は続けている。
ドリルどもは粉々に砕けながらも、しかし懸命に空悟を襲い続けている―――
だが、それだけだ。
空悟の、龍の兜の放つ威光がその動きを確実に阻害していた。
「あなた、それは……」
「ああ、いいもんだろ。ちょっと使うのが難しいのが玉に瑕なんだがね……」
不敵な笑みを浮かべながら、刑事はそう言ってまたドリルを薙ぎ払った。
もう銀髪の少女の助けは必要としていない。
七つの円錐のすべてを彼は相手にしていない。
ただただその攻撃を弾き返し続けている。
「……つっても、あいつら再生が止まらねえなあ」と独り言るが、しかし兜の下の瞳は勝機在りとばかりに爛々と輝いていた。
勝算はある。
誤算も今はない。
なら前に出るしかないと考えることは当然のことだ。
―――だが、奇妙な、奇妙な焦燥感がある。
この奇妙な焦燥感に、理由が見いだせないことが、ドリルを相手に防戦を演じている理由であった。
さて、どうするかな。
そう彼が考えたとき、天井をぶち破って現れたもの―――それは。
-331おまけ-
「転生して一番焦燥感抱いたこと?うーん、そうだなあ……地球人30年の人生よりハイエルフ400年の人生のほうが、なんか『薄かった』ことかな……」
「そ、そうか」
「女になったとか、ハイエルフだとか、そんなもんはどうでも良かった……記憶を取り戻して一ヶ月ほどして、このままじゃボケる、って思った……心底焦ったぜ……」
ある日の飲み屋、転生者とその親友の会話。