異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第332話「待てと言われて待つバカはイないのですよ!」

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「このままゆっくり行ってたら、あんさんの言わはるお仲間さんのとこまで1時間以上かかるやないですか。それやったらもう、どうしようもおへんわ」

 

金髪の少女が己のスマホで、岬が言った仲間との合流地点を検索しつつ、そう言って嘆息した。

 

草津温泉の上空からその地点……空悟が戦っているはずの大谷資料館までの距離はおおよそ110kmといったところか。

 

今の午雷王たちの攻撃を防御しながらでは、実際彼女の言う通りの時間がかかるだろう―――

 

常識的に考えれば、70km弱といった距離の神流川発電所……カレーナが陣取っている地下水力発電所のほうが近い。

 

だが、岬が目指しているのは大谷資料館である。

 

その選択はミスではないのか、と金髪の少女はやんわりと非難しているのだ。

 

しかし。

 

「まぁまぁ、落ち着くのですよ」

 

金髪の少女にそう言われても岬は何一つ動じていない。

 

その理由は、すぐにもわかる……時計を、岬は時計を一つ懐から取り出していた。

 

それはミナから預かっていた懐中時計、イーガックの時計である。

 

歪んだ時空のなかであっても、魔力や重力に影響されない正しい時間を示してくれるその時計を手にして、岬は不敵に微笑んだ。

 

「さあ、それはどうなのでしょうです」

 

岬はどこか楽しげにそう言って、スマホが示す時間とイーガックの時計の時間を比べる。

 

「ふふふふふ……」

 

「な、何笑ってんだべ!?」

 

「思惑通りだということなのですよ!時間が、本来の時間とズレているのです!なら、今のあたしならこれを利用することができるのですよ!」

 

赤髪の少女の非難にも似た声に、そう答えて時計を掲げる。

 

「―――揺れて、震えて、流れていく時間さん!あたしの声を聞くのです!時と空を縮めて、あたしたちの世界をあの人の世界へと近づけて!」

 

瞬間、魔力がステッキに集まり、まるで河のように流れ、それに乗って岬たちは加速していく。

 

「へっ?なんやこれ?!」

 

「ふっふっふ……ミナちゃんが編み出した転移魔法を参考に作った、高速移動呪文なのです!名付けて、マジカル・スイングバイ・マニューバー!」

 

それは即ち、重力を魔力にて最大限に活用する術理。

 

僅かに歪んだ時空、重力や魔力が空間に作り出す『すり鉢』『井戸』を『坂』と捉えて、そこに魔力で滑り込む魔法である。

 

同じ距離を進む場合でも、坂を自転車で駆け抜ければ、平地を進むよりも格段に速い。

 

下り坂で加速され、上り坂で減速しながらもぐんぐんと進む自転車のように、岬たちは加速していく。

 

要するに、これは魔法の名前そのものの術法。

 

宇宙探査機が使うスイングバイを、よりミニマムな空間で実現する魔法だ。

 

そう、この魔法の存在が岬をして空悟のところへ向かわせた理由である。

 

単独であっても―――ミナの祖母であるカレーナが負けることはないだろう。

 

故に、空悟との合流を最優先したのである。

 

『ぬぅぅ!待てい!』

 

午雷王の声がドップラー効果で低く変質しながら耳朶に届く。

 

「待てと言われて待つバカはイないのですよ!また後ほど会いましょうなのでーす!!」

 

その速度はすでに亜音速へと達しようか。

 

たとえ空間がバグ―――暗黒の魔力で歪んでいようとも、これほどの加速があり得るだろうか。

 

しかし、魔法とは世界の論理を魔力で歪める術理である。

 

であるならば―――可能なのだ。

 

「自慢するのはいいけど、あたいの魔力全部持ってく勢いなんだけどぉ!」

 

「アイツラを振り切るには仕方ないことなのです!我慢してほしいのですよ!」

 

恋の悲鳴に岬はそう叫び返して、ジェットコースターよりもなお怖い重力の坂道を全速力で降っていく。

 

あと、数分もかからずに目的地へとたどり着くであろう。

 

「「……!!!???」」

 

その速度に、金髪の少女と赤髪の少女は悲鳴すら上げることなく絶句する。

 

(……ッ!?なん……なんどす、これ……!)

 

肺の中の空気が押し出されるような圧迫感に、金髪の少女は文句を言うことすら諦め、ただ岬の背中にしがみつく。

 

前に加速していくのに、落ちていくような、何かの縁でぐるりと回転しているような感覚に吐きそうになる。

 

「―――んぐぇ、ぐ!」

 

赤髪の少女も潰れるような声ともならない音を出して、恋の背中にしがみついた。

 

『お、おのれ!おのれぇ!!』

 

午雷王の声はもはや遥か遠く。

 

加速を始めた午雷王だが、物理法則にまだ乗っている彼が追いつくことはなく。

 

四人はあっという間に戦域を離脱したのであった。

 

 

 

天井をぶち破って現れたものは、それはどう見ても魔物であった。

 

『ギャァァァ!』

 

見れば尻尾が蛇になっている鷲か鷹のようなものである。

 

コッカトリス、という言葉が空悟の脳裏に浮かんだ。

 

良く見れば天井は地上へつながるような穴の空き方ではなく、まるでその魔物だけ天井に埋められていたかのようであることに空悟は気づいた。

 

とりも直さずそれは。

 

「なるほど。ここもダンジョンになろうとしてるのか」

 

期待していた仲間の到来ではないが、これはこれでちょうどいい、と空悟は思う。

 

「ふ、増えたっ!どうすんのよ!」

 

「そりゃ俺に聞かれても困る。慌てることはないさ」

 

焦燥を隠さない銀髪の少女に、焦燥を隠して空悟は笑いかけた。

 

「その兜、光るだけ光って何も起きないの!?」

 

「そりゃあ、起きるとは思うんだが、そのうち」

 

ギンッとドリルを弾き、そう言って降りてきた魔物を見据えると―――

 

一瞬だけ魔物たちは空悟の姿を捉えるが、しかし。

 

燦然と輝く竜の兜を見遣り、怯えたような視線に変わった後、『ギャァァ!』と叫んで何故かドリルの方へと向かっていった。

 

どうやら自分たちに向かってくるわけではない。

 

あわよくば盾にできるか、と考えた空悟だったが、そうではなくいわゆる敵の敵になってくれるようだとわかると、彼はジリジリと前に出ていく。

 

『―――!』

 

ドリルたちも面食らったのか、一瞬動きを止めて空悟を狙うのをやめ、数を増やしつつある魔物たちに向かっていった。

 

ドガッと鈍い音がして、コッカトリスのうち1匹の頭蓋が破壊される。

 

コッカトリスたちは空悟ほどの強さというわけでもない。

 

あっという間に穴だらけにされ、血と肉を撒き散らして死んでいく。

 

それによって出来た時間はほんの数秒に過ぎないが、空悟には貴重な時間である。

 

瞑目して意識を頭に、兜へと集中させる。

 

「白は白故に白たるべし……平らかなるは坂なき地にあらず……」

 

そうすればすぐにも自分の口から、自分の言葉ではない声が溢れてきた。

 

竜の兜に灯る光が強くなる。

 

『―――!』

 

ドリルたちはそれに気づき、コッカトリスたちを放って刑事へと殺到しようとするのだが―――

 

『ギャーーーッ!!』とコッカトリスがその前に立ちふさがり、牙と爪をドリルへと突き立てようとするのだ。

 

「こ、こっちを守ってるわけじゃない、けど」と、少女は震える少年を守りながら冷や汗を流した。

 

少女の言葉に何も言わず心でのみ肯んじて、男は更に集中する。

 

「退けよ。退けよ。退けよ。汝、空より来たりし。汝、大地に棲まいし。汝、海へ広がりし―――」

 

唱えれば唱えるほどわけが分からない言葉の羅列だが、力が溢れてくることを感じて空悟は斬鉄剣を納刀すると抜刀術の構えを取る。

 

あのドリルは知能と感覚器官をおそらくは持っている。

 

抜刀術は有効になるだろう、と踏んでの事だ。

 

踏み出し抜き放つ。

 

そうして刃が閃けば、ドリルが面白いように両断されていく―――コッカトリスも諸共に。

 

それでもコッカトリスたちはなおドリルへと殺到する。

 

その光景に、ただ無心に切り裂いていけば、ただ周囲が白くなっていくのを感じる。

 

これはまずいな、と思いつつも後ろにいる二人を守るには刃を振るわねばならぬ。

 

「いざ黄泉路なり。道理なり。歪み消ゆるべし―――」

 

ザン、と空気を切り裂く音がすれば、ドリルが一本また縦に割れる。

 

包丁でたけのこをうまく切れたときのような、そんな爽快感すらある斬撃を受けて、そのドリルは―――

 

バタリ、と倒れて動かなくなり、そして時間にして1秒にも足らなかったであろう時間の中で。

 

元の大きさの何倍もありそうな、ドリル型のミサイルを装填したコンポーネントのようなものに変わっていた。

 

「な……?」

 

兜の効果にて僅かに朦朧とした意識でその変化を捉え、空悟は疑問の声を発する。

 

しかし。

 

『―――!』

 

「あ、いかん―――!?」

 

その致命に、これは失敗したかと空悟はうめく。

 

そう、一瞬のスキを突いて、ドリルが空悟へと襲いかかる―――そして。

 

ジュン、と溶けるような異音とともに、桃色の魔力光を受けて吹き飛ばされた。

 

「大丈夫なのですか!!」

 

岩の階段から響く声は、それは。

 

「無事か、空悟さん!」

 

待ちわびた仲間の到来だったのであった。

 

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