異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第333話「言いましたよね。倒すんですよ」

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そこからは何も苦戦することはなかった。

 

「いぃぃやぁぁっ!!」

 

正眼より放たれた斬撃がドリルを弾き飛ばし、切り裂いて。

 

「悪しきを、凶つを、魔に落つ前の姿へ。天の道を思い出させるのです―――!さぁお眠りなさい!アナン・レインボー・フラワー!チャージアップなのです!!」

 

浄化の光が円錐たちを消滅させていく。

 

「……ふう、どうにかなったな」と空悟が壁に背を預けて息をついた。

 

気づけば地面にはゴロゴロとドリルと、それの発射装置と思われるものが横たわっている。

 

「これは……ドリルですか。ドリルミサイル?」と岬が転がった、ドリルミサイルとしか言いようのない物体をつついてみせる。

 

「んなことより、ここから早く出ないとあのおっさん来ちゃうぜ。この洞窟崩れるっしょ」

 

恋が息も絶え絶えになっている二人の少女……赤髪の少女と金髪の少女の肩を支えながらそう言って外を指さした。

 

「レミさぁぁぁぁん……おぇ」と赤髪の少女が情けなく言って口を抑えると、「あんたらユイに何したのよ!」と気絶した少年を抱えながら銀髪の少女が吠える。

 

「命からがら脱出してきた、ってあたりさ……な?」

 

「せや、な、ぁ……死にそな速さでぇ……なぁ……」

 

金髪の少女も何かをこらえながらそう言って、同じように口を掌で抑える。

 

「岬ちゃん、やっぱアレ速すぎて安全じゃねえわ」

 

「むう。他人を運ぶことは難しいのです」

 

岬は困ったように腕を組み、頭を傾げると空悟へ「無事で良かったのです」と微笑んだ。

 

「ああ、なんとか。ありがとう。それじゃあ行くとするか」と答えた彼に、岬は首肯するとへたり込んでいる少年をすっと抱き上げた。

 

「わ」

 

「さぁ、ここから出ましょうですよ。早くしないとこわ~いおじさんが飛んでくるのです」

 

枕でも持ち上げるかのようにお姫様抱っこをした岬は、そのまま外へと向かって歩き出す。

 

「俺も賛成だ。この兜がなんか来てるのを感じてる……君たちは外に出たら、そのまま一目散に逃げるんだ」

 

空後は魔法少女たちを一瞥してそう言うと、入口へ向かって歩を進めた。

 

「ここで戦うってのも、あこがれではあったんだけど、これ以上壊すわけにもいかないからな」

 

様々なヒーローたちのロケ地になったこの大谷石採掘場跡を俯瞰した彼はニヤっと笑うと、地面に落ちているドリルミサイルのようなものを見て「これはまた後で」と呟く。

 

それから、どちらにせよ迂闊に触れて良いものでもないだろうし、迂闊に触れられるものでもないだろうから、と心のなかで付け加えた。

 

「う、ウチら、まだやれる……で……!」

 

「無理だぜ。あの午雷王とかいう野郎は、多分岬ちゃん……オリジナルと今は同じか上か、くらいだ。あたいは多分刃が立たない」

 

これは純然たる事実であろう。

 

アップデートされていると思われる午雷王を一蹴できるのは、おそらくミナ、ルル、カレーナの三人だけである。

 

あとは楽勝とは言わずとも圧倒できる廻と夕……

 

戦闘能力としてはその下になる恋や空悟では太刀打ちはできまい。

 

無論、竜の兜や魔法のイレギュラー的な威力を鑑みれば、確実に負けるとは言えないが、一対一は避けたい相手である。

 

しかも、今の午雷王にはドリルミサイルと同等と思われるオブジェクトが二体付き従っているのだ。

 

「ここで死んでしまっては、イェカさんが悲しむのです。あたしたちはあなた達を助けに来ましたのです。死地に赴くのは……ああ、こんな言い方はなしですね。アイツラと戦うのはあたしたちの仕事なのです」

 

「む……」

 

不満そうにしていた金髪の少女とレミと呼ばれた銀髪の少女はイェカの名前を出されて、一瞬の逡巡のあとに押し黙った。

 

「君たちにはその男の子と、外で避難しているはずの人々をもっと遠くまで避難させてくれ。俺達だけじゃできないことだ」

 

空悟はそう言うと「急げ!そろそろだ!」と入口近くでそう叫んだ。

 

資料館の入口、今は無人の受付を抜ければ外は―――晴天。

 

いち早く光の下へと出た空悟は、冒険者現象により強化された視力で空を見る。

 

見れば、十数kmはまだ離れているだろうが、点が三つほど。

 

もうすでにいかついロボと変形しつつある立方体が二つ蠢いている様子が観測できた。

 

「岬、頼む!目くらましでいいから時間を稼いでくれ!」

 

空悟がまた叫ぶと、男の子を地面におろした岬は声で答えることはなく呪を唱え始める。

 

「風の乙女シルフさん!あたしの手に矢を!遠く貫く矢となって、あたしの敵を遠く、遠く、遠く、我が眼の見える遠くまで鋭き刃金となって貫いて!!」

 

風の矢、ウィンドアローが形作られる。

 

精霊術の拡大を三度。

 

ヒュン、と風切る音が聞こえて、すでに目視の距離にある三体へと向けて解き放たれる。

 

遠く見れば、一瞬動きが鈍ったように見えた。

 

その瞬間、午雷王と思しき一番大きな敵影からドローンらしき物体が解き放たれる。

 

先の戦闘機もどきであろう。

 

「あ、あの」

 

ユイと呼ばれた赤毛の少女が、ステッキを構えた恋に聞けば―――

 

「早くいけ!下の駐車場にいる避難してる人を誘導してくれ!」

 

そう叫んで彼女は離陸し、岬も同じように。

 

そして、空悟もまた跳ねるように駆け出して、周囲の高くそびえ立つ絶壁を飛ぶように登っていくのであった。

 

 

 

―――首都外郭放水路。

 

ミナはその死体とも生きているともつかぬ女の肢体に触れると、懐から符を取り出した。

 

陰陽術で使うものだ。

 

「―――ミナ・トワイライトが符に問う。汝、なんと生まれしものか」

 

ミナが問えば符は答える。

 

『我は閉じ込め、抑え、流れ出さぬもの、世界から隔てるものなり』

 

「然り。汝の名は『封印』なり!」

 

ボ、と小さな音と光を放って符は燃え尽き、女の周りに白い光の円陣が現れる。

 

白い肢体と黒い髪が光に揺れ、そしてやがて闇に落ちていく……

 

そうすると、ミナはフッと息をついて女の肢体を床に寝かせた。

 

「これでよし」

 

『なるほど。陰陽術による封印か。この女の死体のようなものにはどのような意味があると考えている?』

 

夕が聞くと、ミナは「なんかの術……多分、こいつが使ってるのは東洋の術。私の納めている魔法では、陰陽術に類似するものだからね。『封印』はこの世界でも意味は多少あるでしょ」と答える。

 

「此方の世界にも『奇門遁甲』という術理がある。それがグリッチ・エッグには明確な効果を持つ術理として存在するの。これはおそらく『測局』を歪め『即曲』としたもの……場のあり方を断ち切り、流れを歪ませる奇門遁甲の裏技……邪法に違いないわ」

 

ミナの術はそれを封じるものだ。

 

封印の符は古代語魔法のシーリングとは異なり、物体ではなく場を封印する術だ。

 

これによって改の会が考えているであろう目論見を封ずる……とミナは考えた。

 

と、同時にこれは誘い水、罠の類ではなかろうか、とも。

 

しかし、それは望むところである。

 

「罠にかかれば踏み砕くべし、よ」

 

過去の戦いにおいて改の会はバグ、そして魔法を手中に収めたがっていた。

 

それは先だってのバハムートの一件で達成されたのかも知れない。

 

あのとき、午雷王が持っていったのかも知れない。

 

ミナはそこまで考えて、一歩踏み出した。

 

首都外郭放水路は全長6kmの巨大構造物である。

 

まだまだ先は長いのであった。

 

 

 

「……少し空気が軽くなりましたか」

 

ローブを翻して十字手裏剣の前に立ったルルは、おそらくミナがやったのだろうと考えて頷いた。

 

「ちょ、ちょっと!あれ、どうするの!?」

 

「言いましたよね。倒すんですよ」

 

ルルはそうして歪んだ杖を十字手裏剣へ向けて呪を唱え始める。

 

「破壊と渇望の王、呑み込み食らう我らが神よ―――」

 

『……!』

 

危険を感じたのだろうか、その呪が響いた瞬間、十字手裏剣は無数に分かれてルルをめがけて殺到した。

 

「―――その赤き牙を盾と変えたまえ……デス・ウォール」

 

なんでもないことのようにルルは雨のように降ってくる無数の十字手裏剣に臆することなく呪文を完成させた。

 

瞬間、赤黒い障壁が現れて手裏剣を弾き、壊し、吹き飛ばしていった。

 

ガリガリガリガリ、と削れるような嫌な音。

 

ガンガンガンガン、とぶつかり破砕されていく音が光とともにその広いとは言えない空間に満ちていく。

 

「ひぇ……」「わ、ぁ……」

 

後ろの少女たちは恐怖ゆえにもう脚も動かない状態である。

 

「まあ、こんなものでしょうね。攻撃としては……バグで強化されているわけではなく、使役しやすいようにバグを染み込ませただけ、か」

 

ルルは微笑んでそう言うと、デス・ウォールが切れぬうちにと次の呪へと移行する。

 

「世界を司る偉大なるロジックよ。吹き荒れよ、消えぬ炎の大嵐よ。降り注ぐ火の雨は世を平らかに吹き荒れん!ファイアストーム!」

 

瞬間、三人だけを焼かぬ炎の風が彼らの後ろから巻き起こる。

 

「―――きゃあッ!って、なんともない……」

 

「ええ、なんともありません。これは敵だけを焼く魔法なのです。そして……」

 

『……!!』

 

デス・ウォールへと降り注ぐ手裏剣の嵐が、炎の嵐に押し返され、溶かされ、散らされていく。

 

「ふん。まるで手応えがない。幻と戦っているかのようだ」

 

ルルがそう独り言ちたことに腹を立てたのか、溶けた手裏剣がまた再生されて飛んでくる。

 

それどころか数さえ増して……

 

「し、質量保存の法則ぅ!!真面目にやって!!」

 

真面目そうな方の少女がそう叫ぶと、ルルは「その法則を書き換えるのが魔法なのですよ」と僅かに呆れて微笑んだ。

 

「ここはすぐに片付きそうだ……ミナさんはともかく、他のみんなはどうでしょうね」

 

ルルは珍しくもミナではなく他の仲間を少し案じ、瞑目する。

 

十字手裏剣が沈黙したのは、それから十秒もしないうちであった。

 




すいません。体調とか諸々悪くて……
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