異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
深く沈降していく。
秋遂は襲い来るトビウオのような魚雷をすべてその水中戦能力によって撃退していた。
恋が「鉄の城」のようだと言った能力のそのままに、すべてを一切の油断なく叩き落として、二人は沈降する。
『……あれが本拠だと思うか、貴様』
『―――否定。ミナ様たちが向かった場所が本命と思われます。こちらは―――』
現れたのはドクロの意匠を持つ頭部に、不細工な―――鎌とも斧とも見える―――刃を備えた機体。
それとは異なる、いびつな笑みを浮かべた蛇のような顔の巨体。
そして、頭部がハサミのようになっている潜水艦のような物体であった。
『改の会にあのようなものを建造する技術はおそらくはない……分析に従えば、あれは秋遂の追加装備をバグで変容させたものということになるが』
『ご主人様。推測どおりにアレが我が一部の変異体だとしても、あの醜悪な造形を認めたくないのですが』
『……わからなくもない』
わずかに嫌そうな響きを加えて送信される秋遂の言葉に、廻はそう返信して秋遂の戦闘態勢を取る。
トビウオめいた魚雷など所詮は第一戦闘配備たらんとも撃退は容易。
しかし、展開しつつある今の敵勢力は確かにエネルギーの総量から見れば強敵と見えた。
『―――どう思う』
人間のようにそう問えば、秋遂は彼以上に人間らしく『我々を舐めているか、別の狙いでしょう。おびき寄せられた、とは言いません』と何やら嬉しそうに応えた。
その言葉に廻はわずかに、『そうか』と答えて、秋遂の右腕を射出する。
『右腕射出』『誘導します』
その言葉とともに射出された右腕は、ロケット噴射によって瞬く間に海中での音速―――秒速1500mへと達し、ドクロのロボットの左腕へと激突した。
陸上であればさぞ轟音を発したろう。
しかし、今はただ振動のみを秋遂に残して、その左腕は崩壊していく。
音はない。
秋遂が拾ってはいない。
秋遂が感知したそれは、おぞましい怨嗟の言葉。
彼女は己の主人であり、己と同じ電子と数値の権化たるものをいたわるかのようにその音は伝えない。
『―――廻様。海上の、桃色髪の幼子はわたくしたちの力の外です。どう使おうと、彼女が死することはないでしょう』
廻はその声に、どこか面白げな色を覚える。
しかし、彼女はごくごく真面目にこれから先はフリーハンドであると伝えたつもりだった。
『ご主人様。わたくし、スー◯ーロボッ◯大戦、好きなのです。故、なんだかあれらは見覚えがあります』
廻は、秋遂がくつくつと、軽く煮える鍋のように笑っているように思えた。
―――それも、錯覚だろうか。
機械の体らしくもない、と静かに笑って周囲を囲む三体の機械人形へと意識を向ける。
『ご主人様。ああ、この呼び方はお嫌いでしょう。廻様。いえ、廻さんと呼べばよろしいですか?』
廻はそれに、内心―――否、スーパーロボット秋遂そのものである彼女には筒抜けであるが―――面白げに答えるのだ。
『好きにしろ。お前の楽しいように』
その瞬間に、秋遂は加速する。
時速にして100ノットを超えるだろうが、しかしその強靭なボディにはなんの痛痒もない。
その速度のまま、己と同じ程度の巨体を持つ蛇をただただぶん殴る。
轟音の如き振動が秋遂を揺らすが、関係ない。
そのまま回し蹴りをすると、蛇の胴体があぶくを放って爆ぜる。
『―――脆い。だが、油断はできんか』
『―――!』
爆ぜたその先から、敵意と殺意を向けて蛇は再生していく。
おそらくは、海水そのものを素材にしているのだろう、と廻は推論する。
であれば、このままちまちまと戦い続けても再生を許し、時間がかかるばかりだ。
『なら、母艦を潰すか』
さらりと彼はそう言葉に出して、秋遂を急加速させる鎌髑髏も蛇もハサミも置いて沈降を始めたのだ。
『―――!?』
予想外、と思ったのか、一瞬動きを止めた三体の機械の獣は秋遂を追いすがり加速してきた。
『無駄なことを』と秋遂は呟いた。
既に蛇頭はほとんどが破壊され、その本来の姿と明滅するように入れ替わりつつある。
ふ、と一瞬秋遂の反応がなくなり、コンマ1秒も立たずに復帰した。
その様子に、廻は『わかったのか』と確認を取る。
『―――認めたくありませんが。しかし、相異なくあれはわたくしの雷撃発生装置……推測通りのようです』
彼女の追加装備の情報は、薺川博士でも、別の場所で開発されたこともあって詳細は不明だ。
知っているのは秋遂本人だけであると言える。
一瞬の沈黙は補助記憶装置からの検索時間であったのだろう、彼女はそう答えて廻に『ご随意に』と促した。
まさかこの場で装着が可能なものでもあるまい。
廻は思考を巡らすが、答えが出ることはない。
それは仲間たちの戦場で現れた物体の情報が、海中に飛び込む前に夕から得た情報がない今、仕方のないことだ。
『早急に母艦を潰す。腰部噴進弾、二十だ』
廻が呟くと、瞬時に秋遂からミサイルが20発正確に放たれる。
明らかに容積を超えるものだが、これも内部の製造装置が高速で作成しているものだ。
その原材料がどこから来るのかは薺川博士以外は知ることはないだろう。
距離にしておそらく2000m。
ミサイルは魚雷のように水中を走って行く……
その隙に、鎌頭が秋遂へと襲いかかった。
『行かせてはくれんらしいが……!』
ガキン、と放たれた鎌が着弾するが、しかし無傷である。
『推測。バグにより変異させていることで、逆に戦闘能力が落ちています。胸部熱線砲の使用を推奨』
ハサミ潜水艦が突進してくるのをいなしながら、秋遂の勧めにしたがって胸部熱線砲を展開し無言で照射する。
『!?』
驚く暇もあらばこそ。
ハサミ潜水艦はドロドロと溶け出して活動を停止する。
すれ違いざまに放たれたそれは、数万度にもなる理外の熱線であり、水蒸気すら発生せずプラズマ流となってハサミ潜水艦を溶解させて水中へ拡散していった。
『これは……鋏というよりは楔か槍だな』
ハサミ潜水艦が変異……いや、元の姿に戻った、おそらくは手持ちの武器と思われるそれを手にし、秋遂は迫る鎌頭に鉄槌を下す。
玉掛け用のハーケンによく似たそれを振り下ろせば、ゴシャアッ!と轟音がせんばかりに鎌頭は砕け散って沈黙する。
叫び声のようなものを出す暇もない、一瞬のことだ。
瞬間、爆光が秋遂のセンサーに感知される。
潜水艦もまた船体が3つに折れて沈降していくことが確認できた。
『兵装回収及び潜水艦の残骸調査へ向かう。調査開始後、二十分で成果がなければ帰投する』
『了解……使用する前に洗浄したかったですね』
『気持ちはわからんでもない』
肯定の声と軽口に総反応すると、廻は秋遂を加速させた。
―――鎌頭から元に戻ったそれは、四枚の斧に似た刃である。
回収も一瞬、秋遂は再び破壊した潜水艦を目指して潜航していくのであった。