異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか 作:大回転スカイミサイル
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暗闇に浮かぶ荘厳な柱の林を5人はてくてくと、あるいは恐る恐ると歩いていく。
『そろそろ中心部だ』
夕がそう言うと、静謐をわずかに破り、真上から風音がヒュゥと響いた。
「ここが最深部……で、地上に一番近い場所、ということだ」
ミナは静かにそう独り言ちると、右手の薬指にはめた指輪とその手に握られた白杖を掲げる。
「そいだら、あんたらは家に帰ってくれ。イェカさんとこに挨拶にもな」
少しだけ訛りの入った言葉でそう言うと、ミナは呪を唱え始める。
「えっ、そんな急に」
「いいんですか?」
魔法少女たちは口々にそう言うが、ミナは詠唱を少し中断すると「だいじょーぶだいじょーぶ。あなた達はきっとこれから大変になるから、それまで休んでいてほしいってことよ」と、あっけらかんとした態度で笑った。
「そ、そうなんですか……?」
栗毛の少女の再度の不安げな言葉に、ミナは「ま、そういうことで」と答えて呪を完成させる。
「南風にして無限大の空間を支配する豊穣王ノトスよ!満ち満ちる世界の果てへ、我が望むものを連れゆかん。遠く開かれよ。道よ、遥か遠くへ。照らす夜光は疎らに。吹きゆく風は確かに!」
唱え終わると、栗毛の少女も黒髪の少女も、その姿は急速に薄れ消えゆく―――
「あ、ありがとうございました」
「このお礼は必ず!」
二人ともにルルの方を見ることはなく、ミナにだけ顔を向けてそう言って消えていった―――
「なにゆえ」
「怖がらせるからだって言ってんでしょ、バカタレ」
不本意そうなルルに、彼女はそう言って頭をなでつけると「OK。よくやったわ。これで3割程度は連中の目的は防げたはず―――」と暗闇を睨めつける。
「確かに魔法少女の捕縛についてはこれで解決でしょうが……」
わずかにくすぐったそうにしながらルルがそう返すと、ミナは「まあ、残りのほうが問題なのは間違いないわ」と彼の頭から掌を離して腕を組んだ。
『ここまで大規模にバグを使えたということは、既に貴様らの世界の秘密を知っているということだ。だとするなら推測は容易だ』
夕がそうして戦闘装備の庇を上げて瞳を見せる。
その瞳を見つめ返し、ミナはふぅ、と溜め息をついた。
ついて、一言。
「……十のうち八は、魔王、でしょうね」と言って瞑目した。
考えてみれば当然のことではある。
如何に相手が科学技術を優先しているものとはいえ、バグやリソースを用いるのであるからにはあちらの世界と関係しているのは間違いないのだ。
そして、既にこの世界において、魔王は1体生まれかけている。
未然に倒し尽くしたが、あと一歩で生まれ出るところだった『戦略兵器』の魔王。
倒されて久しいが、しかし危機的状況だったことは否めない。
そして復活した魔王。
簒奪者スフルタトーレが使役している、ミナの故郷の北なる地で倒したはずの炎の魔王ラギオン。
更にはグリッチエッグの邪神の洞穴で倒したはずの記憶の魔王も現れている。
「……そうなると、疑わしいのは一つね」
「はい。僕らが対峙しながらも倒せなかった魔王が一体います。邪神の洞穴にもいなかった……」
ルルが指を立てると、夕が『それは何者だ?』と確認を取った。
「既に記憶の魔王との戦いで対峙はしています」
「酒の魔王……よ」
ミナは苦々しくそう言うと、ヒヒイロカネの小剣を抜き、その先に魔法の明かりを燈した。
声音だけではなく表情にも苦渋を浮かべ、彼女は歩き出す。
「改の会とどう関係するのかわからないけど」
呟く。
「もろともに叩き潰してあげようじゃない」
低く、強く、そう呟いた。
「出迎えご苦労」
隣で荒い息をついている青髪の少女の隣で、透けた寝間着のような装束を纏う妖艶な風体の女は空を見てそう微笑んだ。
ヒュウヒュウと風が吹く。
見れば何も来ている様子はない―――吹く風がやけに強いことを除けば。
すると虚空から声がした。
「おばあちゃんまたそんな格好して……」
彼女のあられもない姿にどこからか現れた少女―――岬の容赦ないジト目が飛んできた。
「ええじゃろ、別に。迷宮の中なら誰も見てはおるまいに」と悪びれもなく言った女……カレーナの前に、岬だけではなく巨大ロボット―――秋遂が音もなく出現する。
光学迷彩を解いたのであろう、黒い巨体が虚空から現れ、発電所の上空に浮遊していた。
「なっ……!これは……!」と青髪の少女が怯えるように後ずさる。
その光景にカレーナは「まっこと心配性じゃのう。大地はようよう震えるが、大抵は犬鬼一匹出てくるのみじゃ。そんなだから何度も何度も往復する羽目になるのじゃぞ」と扇子らしき物を、パンと音を立てて広げた。
そう、カレーナと青髪の少女の二人は他に脱出していないか神流川発電所のなかを何度も確認して回っていたのであった。
「汝はもう今日は帰りや。我らはこのまま此度の騒ぎを収拾しに行く故な」
その言葉に少女は「わ、わかった……オリジナルもいるのね」と息を整えながら地面に腰を下ろす。
「素直でよろしい―――して、そちらの首尾はどうかの?」
「ばっちりなのです。全員逃がしましたですよ」
サムズアップをした岬に、カレーナは頷き、「ほれ。麓まではこやつらが送ってくれよう」と青髪の少女の肩を引いて立ち上がらせる。
「う、うん……よろしく」
「任せてくださいです」
ふらつく彼女に肩を貸した岬は、そのまま上空へ手を振る。
ガキン、と地面についたロボの背中のカーゴユニットへ、岬がふわりと空を翔ける。
カーゴユニットに入った青髪の少女は直ちに輸送され、そして他の魔法少女たちと合流した。
―――こうして、戦いは首都圏外郭放水路へと集約されたのである。
カツ、カツと二つの小さな、ズシ、ズシと一つの重い足音が進んでいく。
かつん、かつん、となにか……小石がコンクリートの地面に落ちるような音も。
導くように、足音の前をかつん、かつん、と。
「誘われてますね」
「ええ、そうね」
ミナがそうして周囲を見渡す。
「異常は見当たらない……いや、異常が見当たらないのが異常か。そっちはどう?」
『座標が正常でないことは確かだ。電探と自動位置判定には堂々巡りをしているように映っている』
ミナがふむ、と鼻を鳴らして地面を足で叩く。
コツン、と小さな音がした。
その音に、少し不自然な気がしたので地面へと小剣に燈した明かりを近づけると、そこには―――
「印、ですね。それもあまり良くないものです」
『何の印かわかるのか?』
ルルに聞いた夕に答えたのはミナだった。
「円の中に、重ねて五行の字が書かれているわ……重ね方が、相生の木火土金水の順じゃなくて相克の木土水火金。つまり、これは『良い流れを封じ、減じ、滅する』、という意味になるわ」
『なるほど。全くこちらの世界の陰陽五行説と同じということか』
それはグリッチエッグでは即ち、マナを消し、魔を封ずる陣の起点になるものだ。
悪用すれば、魔が消えた場に新たな魔を余計に呼び込むという効力にも転ずる。
―――気づけば先程からうるさいほどに聞こえていた小石の落ちる音も聞こえない。
「これを破壊すればなにか起きるかも知れないってわけ」
罠かもしれないが、罠は踏み砕いて進むものである、と彼女は笑って印に魔力を込め始めた。
「―――ミナ・トワイライトが印に問う。汝、何と生まれしものか」
『我は封。我は絶。我は消。我は土に克ち、水に克ち、火に克ち、金に克ち、木に克ち、もって巡り滅ぼし留め置くものなり』
「然り。汝の名は相克なり。しかして我、汝を生かす。我、巡り還る相克を否となす」
印が光り、文字が色を持って空間に浮かび上がる。
ミナが手で印を描く。
すると空に浮かんだ文字が離れ、交じり、順序を変えていく。
即ち……
「再びミナ・トワイライトが印に問う。汝、何と生まれしものか」
『我は放、我は乗、我は成。我は火を生かし、土を生かし、金を生かし、水を生かし、木を生かし、もって巡り来たり流れ行くものなり』
「然り。汝の名は相生なり」
ミナが呪を唱え終わると、文字は再び一つに重なり印となっていた。
そして……
ゴウンゴウン、となにかが駆動する不穏な音が空間に響いた。
『―――ヴァ、ア、ァ、ァァァ―――』
「なるほど、こいつが鍵ってことか」
地面が盛り上がり、コンクリートの下から土色の水が金属となったような塊が生え、徐々に半端なヒトガタを成していく。
「本当にこれ、鍵ですか?」
「そうじゃなくても、ただうろついてるより進展はある!四の五の言わずに戦うわよ!」
少女がそう言って金剛石の大剣を無限のバッグより引き抜くと、少年はやれやれと首を振り杖を構えた。
『戦闘開始だ。算定中だが、少なくとも改の会の幹部傀儡よりは強いぞ』
そうして夕が機関砲を構えたと同時にそれは全身から燃える枝葉を生やす。
『グオァァァァァァァァァ!!』
その咆哮には、少しだけ、焼けた酒の臭いがしたのであった。
|ω・`)
うーん、10月も全然書けなかった。
11月はもう少しガンバルゾー!