異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第35話「あーやっぱり怒った」

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ミナをルルが担いで、6人が薺川博士がいる研究所中枢へ戻ってくると、そこにはまだ薺川博士は中空に浮いていた。

 

そして、その眼窩を6人に向けると『……やってくれたのだね?』と聞く。

 

熟睡しているミナに代わってルルが「ええ、もちろんです」と答えた。

 

「ですが、このダンジョンを消すことは叶わないようです。おそらくこの下にダンジョンが続いている」

 

そう続けてミナを床に下ろした。

 

スマホの時計を見れば、時間は午後に差し掛かろうとしてた。

 

銃砲弾の嵐の中でも傷つくことなかったそのスマホをポケットにしまい、ルルは微笑んだ。

 

「つまりあなたもまだジョウブツ……というのでしたね、この国での昇天は。それはしなくていいようです。お子さんともう少し語らってみてはいかがですか?」

 

『なんだと……?いや、成仏はどうでもいいが、この研究所……いや、ダンジョンが消えないとはどういうことかね!?』

 

気を使った言葉と微笑みに驚愕と質問で返されたルルは憮然として、「ですから言ったではありませんか。あなたが作った爆弾……が変異した魔王はこのダンジョンの主ではないのだ、と」と眼鏡をくいと上げて今度は歯をむき出しにした獰猛な笑みを浮かべる。

 

そして眼鏡が汚れていることに気づくと、外して布で拭きながら今度は真顔で薺川博士と廻、夕の顔を交互に見た。

 

「まあよく我々の世界の研究者たちも間違うのですがね。バグ溜まりをバグの原泉と誤解したのでしょう」

 

ダークエルフの不死者は眼鏡をもう一度掛けて、今度は眠っているミナの顔、そして空悟と岬の顔を覗き込むように見た。

 

「これはきっと闇、というか歴史が深いコトだ。ミナさんが起きてからじっくりと話し合いましょうか。では、ナズナガワ殿らは親子の語らいをどうぞ」

 

そうして、ミナの額に濡れタオルを当ててルルは沈黙した。

 

空悟もまた、ミナのためにルルが出した布団にシーツをセットし、岬は固形燃料を使って簡単な料理を始めていた。

 

無言で作業を進める3人を見て、拍子抜けした人であった一人と人ではなく生まれた二人は、しかしルルの言ったとおりに向き合い言葉をかわす。

 

『博士は……あの化物共と似たようなものになってしまわれたのでしょうか』

 

不安そうに、しかし単刀直入に夕が聞く。

 

博士はシニカルに微笑むと、夕を覗き込んで『それはあのミナと名乗った少女のほうが詳しいのだろうな。私もこうして意識を取り戻したことに困惑したし、このように研究所の機械たちに触れられるようになるまで半世紀以上を要した……』と懐かしむように天を仰いだ。

 

彼が手を動かすと、ミナの上の照明だけが消灯した。

 

ルルが頭を下げたことを確認した博士は、首を縦に振る。

 

『このようにな。一部を除いて、かなり自由に動かせるようになった』

 

『……我々の今後の任務についてご下命いただけますか、博士』

 

廻は直立不動でそう聞いた。

 

博士は困ったようにもう一度天を仰ぎ、二人の顔を見た。

 

二人もまた困ったように博士を見つめる。

 

先に視線をそらしたのは、博士の方だった。

 

『ミナさんに君たちを任せるつもりだったが、その格好のままでは外の世界では奇異に取られるだろうな……よろしい。一週間、研究所内での待機を命ずる。その間になんとかしてみせるよ』

 

『はっ!』『命令、受領いたしました!』

 

二人が敬礼するのに合わせて、薺川は答礼して沈黙した。

 

すると、彼らが入っていたカプセルが動き、そこから手術台のようなものが出現する。

 

『ミナさんが起きるまで、少し他愛ない話でもしようか』

 

手術台に現れた、ルルでもパッと見ただけではよく理解できない虫のような機械が何かを作成し始めたのを確認した博士は、そう言って空中に座った。

 

『私達で良ければ』『喜んで』

 

二人の人造人間も、金網になっている床に正座する。

 

『さて、まずは何を話そうか……』

 

ごくごく普通の世間話でしかない三人の会話は、三時間ほどしてミナが起きるまで続いたのであった。

 

 

 

「ちくしょおおおおおお!!あのくそやろうが!こんなもんまで用意してくれてからに!!」

 

眠り込んでからの状況を聞いたミナの放った第一声は上記であった。

 

「あーやっぱり怒った。案の定というか、なんというか……」

 

「キレずにいられるかこんなもん!あああああ!あったまくるわァァァァ!!」

 

ルルの予想通りになったことに、空悟は苦笑しつつカップラーメンをすすっていた。

 

岬が自分の分のカップ麺の蓋を開けたと同じくして、空悟はミナに話しかけた。

 

「キレんのはいいんだけども、夕方だしそろそろ外に出ようぜ。帰るのが遅れちまう」

 

「……そうだな、ここにこれ以上いても、今日は何も出来ねーし……」

 

ミナはくしゃくしゃと寝癖のついた髪をかき回して唇をへの字口に歪める。

 

「じゃあ、私達は一旦帰ります。もうこのフロアはほとんどバグの気配がしないので、こっちに記憶陣を作らせてもらいますね」

 

博士に向き直って、ミナは丁寧にそう言って「廻さんと夕ちゃんについては、一週間後ということでしたけども」と聞いた。

 

『うむ……そうしたら準備ができる。外の世界に連れて行ってやってくれ。ここで眠らせるだけなのは、あまりにもったいない……彼らの人生がね』

 

「人生、ですか……」

 

『機械だろうと意志を持てば人間と変わるまい。今の世界を見た上で、彼らにはここで眠るか、外で生きるかを選んでほしいと思っている……』

 

そうして博士は天を仰ぎ見る。

 

『もう二度と太陽を拝めぬ身だ。太陽を彼らに見せてやってくれ』

 

『博士……』

 

夕の不安げな声に、博士は笑う。

 

『恐ろしいことなどなにもないよ。君たちは、次元を隔てた場所から来た存在とまともに戦えるほどの力を持っているのだから』

 

そうしてミナを向いて、言葉を紡いだ。

 

『ここを作る元となったものは……おそらくは昔から、きっとこの街に人が住む前から、ずっとここにあったものだ。それを歪めて使用したのは私達だ……解決を任せてしまうこと、本当に申し訳ない』

 

「いえ、こちらこそ―――あの邪神の仕組んだことに違いありませんから、これもまた私が仲間たちとともに解決しなければならないこと。そこに廻さんと夕ちゃんも加わってくれるなら心強いことです」

 

お互いに深々と頭を下げる。

 

「廻さんと夕ちゃん、これからよろしくね」

 

『ああ、よろしく頼む』

 

『……わかった。よろしく……』

 

廻はいつもどおり実直に、夕はじろりと睨みながらそう言って博士のそばに寄り添う。

 

そして、ミナは高らかに宣言した。

 

「疲れたから、詳しい話は1週間後!帰りましょう!」

 

その言葉に、ルルと空悟、岬は賛成して―――今回の冒険は終わった。

 

結局の所、何も解決はしていない。

 

新たな問題、新たなクエスト。

 

まだまだやるべきことは多い。

 

しかし、以前に比べればやるべきことは少ない。

 

だから、良しとしよう、とミナは思った。

 

「しかし、1週間後ってスパン長くねえ?エルフの常識に頭汚染されてねーか?」

 

「そーかなー?でもこんな疲れ切った頭で聞いても頭入んねえだろ?」

 

空悟の言葉にそう返して、薺川博士が案内してくれた地上近くへの直通昇降機―――つまりエレベーターで地上へ向かうミナであった。

 

 

 

水門家にたどり着くと、そこでは文と茜が談笑しているところであった。

 

今野家の子供たちは庭で雪だるまを作って遊んでいるのが見える。

 

「ただいまー……清水さん、来てたんか。こんにちは」

 

ミナが靴を足で器用に揃えながらそう言って居間に飛び込む。

 

そうして居間を通り過ぎて台所で手洗いうがいを済ませると、こたつに座る。

 

遅れて空悟、岬、ルルの順に家に入ってくると、居間では流石に狭く感じるほどの人数となった。

 

「どうだった?危険はあったんだろうけど、五体満足で空悟くんたちは戻ってこれたみたいね」

 

茜が茶をミナに差し出すと、ミナは「いやあ大変だった……」と笑った。

 

着ている服は上古の森人の戦装束ではなく、普段着の薄緑色のチュニックと藍色のスカートだ。

 

「頭が銃とかになってる気持ち悪いの何百体と戦う羽目になりましたですよ……茜さん……」

 

遠い目で茶をすする岬は見た目幼女だが、その仕草はやはり完全におばちゃんであった。

 

「ま、そんな感じで……詳しい話は空悟に帰ってから聞いてくれよ、清水さん。ちょっと大事な話というか、予想外なことがあったから、その話を聞いてほしいんだ」

 

茶飲みを置いたミナは、真剣な目で全員を見た。

 

「これは清水さんにもカーチャンにも聞いてもらわないとならん話だ」

 

「……もしかして、敵がだんだん弱くなってた件か?」

 

空悟は首を傾げながら、文からお茶を受け取る。

 

「弱くなっていた?」

 

文も首を傾げると、ミナが指を立てる。

 

「正確には、弱くなってたんじゃなくて、空悟たちが強くなってたんだよ。いいか。一回しか言わないからよっく説明を聞けよ」

 

そうしてミナは、空悟たちにリソースとバグ、人間の関係についての話をした。

 

バグによって生まれた魔物を倒せば、リソースという肉体・精神・魔力を強大にする祝福が手に入る。

 

それを手に入れることで、向こうの世界の冒険者は徐々に強くなっていくのだ、と。

 

経験値のようなものではなく、強くなるきっかけを作るものであり、何が強くなるかはランダムなのだと。

 

そして、ミナは推測を語る。

 

「オレに勇者の素質が宿ったこと、そして空悟と岬が何故かあの程度のモンスター討伐でやけに強くなっていること、精神注入棒で空悟がレイスを撃退できたことなどを鑑みるに、多分地球人になんか秘密がある。何かはわからんけども、バグとリソースに対する感受性や耐性が強いのかもしれん」

 

ミナはそうして茶をすすって、空悟を見る。

 

「……もしかして、だ。あの半グレのリーダー、治田も……ってことか?」

 

空悟が神妙な目でミナを見返すと、ミナは「ああ、鋭いな」と目を細めた。

 

「そうだ。考えてみれば、エニヴァの黒筆の魔力で変異したとしてもあそこまで……オークキングのようなやべーやつには普通はならないんだよ。普通は何も起きないか、すぐに魔物になってしまう……」

 

ぬるくなった茶を飲み干し、ミナは続ける。

 

「あのときは、あいつの欲望がでかすぎたからだと思ったが、よくよく考えればそれだけであんな風になるわけがない。つまり、地球人のリソースやバグへの耐性と感受性になにかあるんだろう。これも今後調べないといけないとは思うんだが、さしあたって問題になることを伝えておく……単純にお前も岬も強くなってるってことだ」

 

「まさか、空悟さんが好きな昭和のヒーローみたいに、パワーの制御が利かなくなったりするんじゃあないでしょうね……?」

 

文が目を剣呑な角度に釣り上げながらそう言うと、ミナは壁を作るように両手を前に突き出して首を横に振った。

 

「ああ、そこは安心してほしい。リソースで強くなったとしても、『壊してやろう』っていう破壊の意志を持たなきゃまず制御できる。これは一応神様の祝福だから、そういうひどいことになった事例はほとんどないんだ。事実、ふたりとも力を制御できてるだろう?」

 

その言葉に、空悟は「たしかにな」とつぶやき、岬もまた「カップ麺ぐしゃっ、とかならなかったですもんね」と指を頬に当てて首を傾げた。

 

「つまり、制御できないということが問題じゃない……とっさの時に、超人めいたことをしちゃうのが問題、ってこと?三郎……」

 

茜がそう疑問を呈し、ミナはそれに無言の首肯で肯定する。

 

それは、つまり―――

 

「明らかに身体能力がおかしくなってるから、人にバレないように気をつけろ、ってことか……まあ俺刑事だし、荒事なんかいくらでもやるからな……」

 

空悟が若干げんなりした顔でそう言って茶をすする。

 

「そういうことだ。清水さんも気をつけてフォローしてやってほしい。正直、こんなに早くリソースの影響が見えるほどに強くなるとは思わなかった……ごめん」

 

ミナが床に手をついて土下座をすると、文は長い溜息をついて、そしてミナに「いいですよ。もう常識外のことが起きるのは諦めました」とミナを許して微笑む。

 

そして―――ギシリ、と軋むような笑みを浮かべて、頭を上げたミナの目を覗き込んだ。

 

「何が起きるかほんっとわからないんで、私への護身術のレクチャーとかマジック・アイテム?っていうんですか?それの譲渡もよろしくおねがいしますね、先輩?」

 

「あ、あい……」

 

ミナは、その笑みが怖くてそう答えることしか出来なかったのだった。

 

 

 

―――数分後。

 

「リソースとかいうので強くなっていることはわかりましたです。制御できてるし、隠しきれば問題ないのではないですか?荒事しなければならない刑事さんはともかく、あたしにはそんなに関係が……」

 

文の冷たく恐ろしい視線から開放されたミナに岬は、ん~?と考え込みつつそんなことを聞いた。

 

「店長、ある意味俺よりお前さんのほうが問題だぞ。俺はこのタッパと筋肉がある。つまり、多少超人めいたことをしても火事場の馬鹿力でどうにかごまかしも利くだろうが……」

 

「そうですねえ。ミサキ殿は見た目が子供なので、万一バレてしまえば必ず絶対売文屋に嗅ぎつけられますよ。そこに僕らもいるわけで……」

 

空悟は苦笑して、ルルはやれやれと肩をすくめて岬を笑った。

 

岬は、ぷうと頬を膨らませて「そりゃ、そうかもしれないですけど……どう気をつければいいと?」と返した。

 

「まあ基本的には家から出ない、ってのが一番ね……」

 

ミナがため息をつく。

 

「どうしてもというときは、うちの連中についてってもらいなさい、阿南さん」

 

茜がそう促して、ちらりとミナを見る。

 

「ええ、それが一番ね」

 

「仕方ないですね……」

 

娘と義息がそう言ったことに頷いて、茜は笑った。

 

そうして、時計を見ればもう夕方の6時だ。

 

その時、扉を開ける音がして、外で遊んでいた空悟の子供たちが中に入ってくる。

 

こうして、この日は解散となったのであった。

 

 

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