異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第39話 「そういえば、味見とかしてないん?」

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結局の所、兄妹は食べることは出来るし味覚も感じるが、かと言ってそれを消化できるわけではなく水分のみを搾り取って残りは廃棄するということがわかった。

 

「潜入に必要な機能の一つだな。食事もしないでは怪しまれるし、感想を言えなければそれも怪しまれる。つまり、特に食事は必要はないが食べられるわけだ」

 

「えー……それ早く言ってよ。そしたらあなた達のぶんの御飯も作ったのに」

 

ミナが額に指を当てて苦笑する。

 

それに対して夕はハァ、とため息をついて「取らなくても問題はない。洗浄が面倒だし、水があれば事足りるんだ」と呆れ顔を彼女に向ける。

 

「人間社会で生きていくなら娯楽は必要よ。食事は人類最古の娯楽なのだし」

 

ミナは冷蔵庫から追加の食材を出しながら唇を尖らせた。

 

「潜入用っていうのなら、慣れておいたほうがいいでしょう?いきなり美味しい料理食べて、変なリアクションしたら怪しまれるわよ?」

 

「……それもそうだな。夕、ここはご相伴に与ることとしよう」

 

「廻がそう言うのなら……」

 

ロボットたちの回答に少女はニッコリと笑う。

 

「まあ大したものじゃないけど、楽しんでくれたら嬉しいわ」

 

フライパンをコンロで温め、油を敷く。

 

ミナは野菜をパチパチと音を立てるフライパンに放り込んで料理を続けていた。

 

「野菜炒めにちょっとカレー粉入れるとなぜこんなに美味しいのだろう……」

 

「カレー粉に勝るものなしですよ、ミナちゃん」

 

茶碗や皿の水分を吹きながら岬がそう意見を述べた。

 

「でも、カレー味一色になっちゃうから、量は抑えないとね……」

 

「カレー味一色になってもいいじゃないですか」

 

「そういう意見もあるか……」

 

香り付けに留めるのがミナには好みだったので、カレー粉をひとつまみ、オイスターソースと醤油も小さじ1杯ずつ入れてもやしとニラ、人参と豚肉の炒めものは完成した。

 

「よし!だいぶ手抜きだけど、美味しいからヨシ!」

 

手早く皿に盛り付け、ご飯と味噌汁をよそい、そして漬物を冷蔵庫から出して食事の準備は完了した。

 

「いただきます!さ、二人もどうぞ」

 

「いただきます。ほら、夕も」

 

「ああ……いただきます」

 

促されるままに二人は野菜炒めに口をつける。

 

「おお、美味しい……美味しいな、これは。製造されて初めての感覚だが、これは美味しいと思う」

 

「……」

 

素直に感想を言う廻と無言の夕を見て、ミナは笑う。

 

「夕?」

 

「……ああ、美味しい。廻の言うとおりだ。これは美味しい」

 

ミナから目を背けて、人のように顔を赤くする夕に、ミナは満面の笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

そして、翌日となった。

 

目の前にはスナック黒十字の変わらない看板がある。

 

「そういえば、味見とかしてないん?」

 

「カレーは店長以外は調理に関わらない。厨房では主に腸詰めの茹でや荷物運び、その他力仕事などを担当しているのだ」

 

廻がそう言ってコートを脱ぎ手にかける。

 

ミナが夕を見ると、「私か?葉山殿の補助だ」と答える。

 

「ああ、じゃあほんとにご飯食べたの昨日が初めてだったんだ」

 

店のドアに手をかけながらミナは笑う。

 

ドアには『CLOSED』と札がかかっていたが、既に鍵は開けられているようですんなりドアが開く。

 

「おはようございます。道野枝廻、道野枝夕、ただいま到着しました、葉山殿」

 

床掃除をしている顔色の悪いウェイトレス、葉山潤美に廻は律儀にそう声をかけた。

 

「ああ、おはようございます、廻さん、夕さん。早速着替えて搬入の手伝いをしてください。店長が野菜の箱と格闘中のはずです」

 

「了解しました」「承知しました」

 

ピタリとした動きで潤美に頭を下げると、二人はバックヤードへ向けてキビキビと入っていく。

 

そしてそこに残されたのはミナとルル、岬、そして潤美の4人だ。

 

「お客様……ですね?開店まで後30分ほどお時間がありますが、どうぞ店内でお待ち下さい」

 

「ありがとうございます。それじゃあ、中で待たせてもらいますね」

 

時間は朝の9時半だ。

 

飲食店で朝10時から、というのは早朝営業を行っている店以外では珍しい。

 

おそらくは韋駄天百貨店の開店時間が9時半のため、それに合わせてるのだろうな、とミナは思った。

 

「さて、どう切り出そうかな……商店街で何かあるのかしら……」

 

韋駄天百貨店も昔に比べれば寂れているが、商店街はもう完全にシャッター通りになってしまっている。

 

ここから巻き返そうと思えば、かなり大変なことはミナにもわかっていた。

 

治安を悪化させていた半グレやチンピラは神森半グレ暴走事件を経て、ミナとルルがだいたい物理的に排除してはいたし、12月になってからはそれに類するクズどもをろくに見た記憶もない。

 

いわゆるとっぽい格好のイキリ野郎すら見かけなくなってしまっていた。

 

そう考えると、治安の回復に鑑みて再建計画を考えても不思議はない。

 

その道は、決して楽ではないことは間違いないのだが。

 

神森市中心商店街は既に半数以上の店は撤退し、残っているのは中華の伊坂やOZAWAのような古くからある飲食店や居酒屋の類、そしてわずかばかりの食材店や衣料店だ。

 

気を吐いているのは伊坂から500mほど離れた場所にある爆食ワイルド系のラーメン屋くらいなものである。

 

(彼女たちが~とかなんとか言ってたから、誰かになんか頼もうとして断られたんだろうとは思うんだけども……)

 

とはいえ、ミナ―――と前世の三郎がその誰かを知るはずもない。

 

「ねえ、岬……なんかこの街か県内にご当地アイドル的な存在っていたっけ?」

 

「記憶にはないですねー……あったら覚えてそうなもんなんですけども。流石に地元ですし」

 

「まあちらっとくらいなら記憶にありそうなもんよね、忙しくても」

 

うーん、と二人は腕を組んで唸ってしまう。

 

ルルはそれを横目に、窓の外を見た。

 

窓を見て―――ふっと、彼の心に何かが落ちてきた。

 

―――我が愛子、破壊の子よ。お前の敵は、外から来たる。

 

「!?」

 

「ルル……あんたまさか?今のは」

 

「……ええ、破壊神様の神託です……曖昧模糊としていますが、少なくとも『外』から僕に不安を抱かせた厄介事はやってくるようです」

 

ルルが沈鬱な瞳でそう言うと、ミナはまたうーん、と唸ってしまう。

 

「店の外から厄介事が来る?それとも街?我が家の外?それとも……グリッチ・エッグから?わかんないわね……オラクルってそう言うもんだけど」

 

「とにかく、僕は外を警戒します。ミナさんは店長に話を聞いてみてください」

 

そう言って少年の眼は完全に店外に向いた。

 

ミナはこうなったら仕方ないな、と考えてバックヤードの方を見る。

 

時間は9時40分。

 

開店までは、後20分ほどだった。

 

 

 

―――それから20分ほど後。

 

開店後すぐにカレー大盛りを頼んだミナは、潤美に一つ聞いてみた。

 

「あの、ウェイトレスさん?こないだ来た時に、店長が叫んでた彼女たちが~とか商店街の再建が~とかって、どういうこと?」

 

聞かれた潤美は困ったように目を泳がせ、そして力なく笑った。

 

「申し訳ありません、お客様。少々込み入ったことでして、部外者の方にお教えするわけには……」

 

「や、私たち道野枝兄妹の家族ですし……教えていただけたりはしないでしょうか?!」

 

身を乗り出して聞くミナに、潤美は更に困り顔で「そういうわけにも行かないのですが……」とつぶやくように断りを入れる。

 

「なるほど……相当大変なことが起きている、ということですね……」

 

ミナは鎌をかけるように彼女の瞳を覗き込む。

 

「……お答えできません……」

 

しばし沈黙し、力なくそう答える。

 

その瞳は、確かに大変なことが起きている、と雄弁に語っていた。

 

困った顔の潤美が助けを呼ぶようにバックヤードを覗き込むと、黒いエプロンをつけた店長がちらりとこちらを見た。

 

彼は鍋を降りながら、一つ頷く。

 

すると、彼女は思い切ったように頭を下げて「閉店後にもう一度いらしてください。店長からお話があります」と、今までとは打って変わった態度となる。

 

「色々と……あるのです。なので、ご内密に」

 

「……わかりました。無理を言って申し訳ありません。では、19時にまた来ます」

 

ミナが立ち上がって頭を下げると、潤美ももう一度頭を下げる。

 

「はい。よろしくお願いします。それでは、大盛りカレー1枚でよろしかったでしょうか」

 

「後、ヴルストと今日のスープを一つずつ」

 

「あたしはカレー小盛りをご飯少なめでお願いするです」

 

「僕はたんぽぽコーヒーを」

 

それぞれの注文をいつもどおりに素早く書き記すと、潤美はバックヤードへ去っていく。

 

廻と夕には教えなかったのに、何かを相談する気になったのはなぜだろうか。

 

それはまだ考えても仕方のないことだな、とミナはお冷を口にした。

 

 

 

―――その日の夜。

 

空悟を除く一党のメンバー5人とスナック黒十字の店長、そして葉山潤美が向かい合って座っている。

 

その場所は、百貨店の同じ階にある個室居酒屋「翔峰」だ。

 

お互いに自己紹介を終え、最初の一杯を頼むと店長はミナたちを見据えた。

 

「……ここなら盗聴対策もされている」

 

「なぜ盗聴対策が……?」

 

ボソリとつぶやいた店長にミナが耳聡くそう聞くと、店長は凄味のある笑みで「色々あるのだ」と答えた。

 

「色々が怖い……」

 

「ミナさんが怖いとか、それなんのジョークですか?前にもこれ言いましたよね?」

 

「言った」

 

ルルのジョークをピシャリと切って、ミナは店長を見る。

 

「聞きたいことがあるのだったな。言ってみるといい」

 

店長はそう言って、ミナを覗き返す。

 

「単刀直入に言えば、商店街の再建がどうとか彼女たちがどうとか言っていたのを廻さんたちがバイト面接をした日にあなたが叫んでいるのを聞きました。私もこの街の住人です。気になりますし……力になれることがあれば、と差し出がましいようですが、思いまして……」

 

「出歯亀根性ではない、ということかね?しかし、それだけでは全ては話せない。ただ言えるのは、先日の半グレ暴走事件で被害にあった人々がいて、未だに立ち直っていない。そして、その人々にこそ商店街の再建を託したかった……それだけだ」

 

眼帯の店長は目の前の日本酒を飲み干す。

 

「……なるほど。それなら、私達も無関係ではありませんね……私や私の下ぼ……義弟も彼らの被害に合いそうになりましたから。私達は運よく返り討ちにできましたけども……」

 

「ほう……」

 

ミナは沈痛な面持ちで顔を伏せた。

 

当然だ。

 

あの事件は、ミナの大事なものを狙って起こされた事件だった。

 

更には邪神かなにか……街に巣食うものが引き起こしたものだが、それはミナたちとは無関係ではない。

 

だから、こうして実際に被害にあった人の話を聞けば、助けたいと彼女は思う。

 

しかし、店長は頑ななようだった。

 

「……まあ手伝いたいという気持ちはわからなくもない。君は料理や力仕事は得意かね?それと、他にアルバイトをしているということは?」

 

店長はミナが聞き出すまで諦めそうにないという空気を発しているのがわかったのか、代替案を提示するつもりのようだ。

 

「もちろん、一端以上には出来るつもりですよ」

 

ミナが力強く頷くと、店長は隣の潤美に目配せをする。

 

そして潤美が頷くと、彼は髭面を微笑ませた。

 

「よろしい。では、この住所を明日以降に訪れてみるといい。そこでしばらく仕事を務めてもらえたら、私の苦悩を明かすとしよう」

 

「……そこまでする、ということは割と厳しい仕事、ということでしょうか?」

 

ミナが店長の瞳を見ると、店長は黙って首肯する。

 

ぐい、と御猪口の日本酒を飲み干し、ニヤリと笑った。

 

「そのとおりだ。いわゆる、ラーメン屋というやつだよ。商店街と言っても、中華の伊坂ではないがね。あそこで働けるような女性ならば、彼女の代わりも務まるかもしれん……」

 

「ほう、ラーメン屋……というと、2年ほど前に出来た爆食ワイルド系のつけ麺と油そばメインのあの店ですか?」

 

ミナがビールの入ったジョッキを干してそう聞くと、彼は「何だ知っていたか」と鼻白んだ。

 

「行ったことはありませんが、噂だけは……」

 

ミナが言って、岬が続ける。

 

「あたしは何回か行ったことありますけど、ごく普通の爆食ワイルド系だと思いましたですけど……?」

 

首をかしげる幼女はオレンジジュースを飲みつつ不思議がる。

 

「まあ、行ってみるといい。ちょうど『担当』のバイトが辞めてしまって大変そうだからな。廻くんと夕くんは手伝うんじゃないぞ。あくまで、これはミナくんに頼みたいことだからな」

 

また一杯御猪口を干して店長は続ける。

 

「それに廻くんたちに今店を離れられるときついんだ……」

 

「それが本音ですね、店長……」

 

ボソリと言った男を、潤美はジト目で睨めつける。

 

「まあ……これはどちらにせよ商店街や百貨店に関わらない人間にはあまり関係がないことです。どうぞ、ご随意によろしくお願いします」

 

ペコリと頭を下げた潤美を見て、ミナは「やったろうじゃないか」と内心笑う。

 

「廻くんと夕くんが来てから、かきいれ時に葉山くんが青白い顔をすることがなくなった。時々来る腐れクレーマー外人の対応もしてくれる。本当に離れてもらわれると困るから仕方ないんだ」

 

お通しの芋餅しんじょう風を口に入れて店長はぼやいた。

 

「これもありかと楽しんでくれる外国人もいるのだがね……クレームを付けたいだけの者も時折来る……そこでバイトが辞めてしまうのだ」

 

「であれば、ナチス・ドイツの党旗を降ろされてはいかがですか?独国総統ヒットラーは、正直私はそんなに好きではありません」

 

夕が白い目で店長を見るが、「降ろしたら負けたと思われるじゃないか。百貨店側も対応してくれているし、問題はない」と凄んで終わらせようとする。

 

その様子に廻がクスリと笑う。

 

それを見逃さなかったルルは、フッと彼に目線を向けた。

 

「なにか面白かったですか?」

 

そう聞くと、廻は手の中の御猪口に入った日本酒を摂取してから答えた。

 

「何、我々のような異物でも役に立つのだな、と。この時代で頑張っていくには十分な意気を得たと思ったまでだ」

 

「そういうものですか」

 

「そういうものさ」

 

―――自分の何十分の一しか生きていないくせに、定命の人々は面白いことを言いますね。

 

内心でそう言って、ルルは目を伏せる。

 

ミナも流石に今日はペースを抑えている。

 

それを見て安心したように、岬に自分の分のお通しを差し出して、お茶を飲む。

 

もちろんアルコールの入っていない、熱い緑茶を、人の熱を求めるようにちびちびと。

 

 




「魔法」
古代語魔法:古代語を用いて世界を支配する論理を改ざんする魔法。世界の解明と利用を骨子とする。
精霊術:精霊の力を借りる術。魔法ではなく術と呼ばれるのは、世界の論理を改ざんする術ではないため。
神聖魔法:善神の力を借りて行使される魔法。信仰する神によって異なる固有魔法がある。調和神は「契約」。
暗黒魔法:悪神、邪神の力、または善神の暗黒面の力を借りる魔法。やはり固有魔法を持つが、善神の固有魔法は神聖魔法のみで行使できる。基本的には邪法。暗黒面の力を借りる方法は禁忌のたぐい。
陰陽術:符や陣を用いて世界を支配する論理に干渉する魔法。陰陽合一による少世界創造を理想とする。
呪歌:魔法的な効果を持つ音楽。演奏をやめると効果は切れるものが多い。
死霊術:死霊や不死者を扱うことに特化した術。基本的には人間には使えない。

そのうち増えると思います。

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