異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第4話「情報量が多い……」

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一通り暴走族たちから話を聞くと、どうやら半グレ集団の長らしき人物が未だにルルにご執心であるということだけがわかった。

 

半グレ集団とはいわゆる離合集散し組織的な犯罪行為を行う、暴力団と暴走族や街の破落戸の中間にあるような集団である。

 

故にトップになる者も、その立場はまちまちで捉えづらく、たとえ捕えても別の者が居座るためあまり意味が無いものとされる。

 

そして、この暴走族たちはそのトップも知らない下っ端のようだった。

 

「……なるほどね。今後もこういうことはあると見ていいってことか」

 

「うーん、やっぱり直接僕の逸物見せないとわかってもらえないんですかね?」

 

「多分そうじゃないわよ……意地とかそんなんでしょ。悪党にだってちょっとくらいはあるわよ」

 

なんだか嫌に嬉しそうなルルと対称的に呆れたミナをチンピラ共は正座して見つめている。

 

処遇がどの様になるのか、それだけが今の彼らの関心事だ。

 

「……あの、それで、俺らは」

 

「……世界を支配する偉大なるロジックよ。叫び回る時の針を戻し給え。三千の吐息を生み出す前へ」

 

「たらしめるもの、感覚と記憶を司りし生命のクオリアよ。大きな仕事を頼みます。月の巡りの一回り、間に在りしすべての記憶をこの者たちから消し去り給え―――」

 

金髪の男が言うが早いか、ルルは古代語魔法を発動し、駐車場にあった破壊の跡を、改造バイクの破壊すらも消し去っていく。

 

第八位階の古代語魔法タイムリターン、ごく短時間のみであるが生命以外の時間を巻き戻すことのできる魔法である。

 

次いでミナによって唱えられたのは、精霊術の第六位階。記憶を消し去る魔法オブリビエイトだった。

 

男たちの見開かれた目が通常に戻ると、なぜここにいるのかわからない、という風で彼らは顔を振る。

 

そうして笛を取り出したミナが「遠き山に日は落ちて」の演奏を始めると、郷愁の呪歌にかけられた彼らは、何が何だか分からないという顔をしながら家路につく。

 

―――面倒なことになったかも知れない。

 

そんなミナの思いは旋律とともに風に溶けていった。

 

 

 

「はい、はい。わかりました。気をつけてくださいね」

 

真面目そうな警官が一人、メモ書きをしながらミナに話を聞いていた。

 

どうやら誰かが暴走族が現れたことを通報していたのだろう。

 

それから30分ほどして、警察がパトカーでやってきて、ミナたちに事情聴取を行った。

 

説明した内容は、駐車場に来た暴走族が、なんだかわからないけどもそのまま解散してしまった、ということだけである。

 

パトカーが去っていった頃には午前3時過ぎ。

 

警官は朝食にするのであろう、お弁当やおにぎり、カップ麺などをいくらか買っていった。

 

その間にやってきた客は3人ほどだった。

 

何があったのかはルルが丁寧に説明をする。

 

大変だなあ、と言ってくれる人ばかりで助かった、とミナは思った。

 

その後は特に何も起きることはなく、バイト時間が終わる。

 

すでに店長にはLINFを用いて連絡済みだ。

 

次のシフトの人に内容を伝えて自転車に二人乗りしてコンビニから走り去る。

 

風を顔に受けながら、ミナはうんざりした顔をした。

 

「ねールルぅ~……これで終わると思う?私、微塵もこのまま済むとは思えないんだけど……」

 

「終わるとは全く思えませんね。かと言って、街のクズどもを軒並み殺すなり記憶を消して回るなり、なんて手間がかかりすぎるでしょう。放置しかないのでは?」

 

眼鏡をクイと持ち上げて、ルルは苦笑した。

 

「まあそれしかないかあ……カーチャンにでも手出しされなきゃ、それでいいや」

 

眉をひそめ、ぼへぇ、と溜息をつくことしかできない。

 

―――そしてその言霊が現実化する日は遠くなかった。

 

 

 

ミナは朝食を作り、食卓に並べていた。

 

今日のメニューはウィンナーソーセージの醤油炒めと目玉焼き、そして納豆だ。

 

味噌汁は大根が入っている。

 

母が居間に入ってくると、テレビを何気なくつけた。

 

地方テレビ局の惟神テレビだ。

 

岐阜放送などと同様のキー局を持たない地方独立局で、主にテレ東系・テレ朝系のアニメ、特撮を中心に放送する放送局だ。

 

一応、朝昼夕は報道番組も放映するが、キー局のような報道バラエティ化は避けている。

 

再放送にも躊躇がなく、かつてネット配信がない時代はテレ東アニメをいくらでも見られる局として人気を博していた。

 

「本日未明、西之森町のコンビニエンスストア周辺を暴走族が―――」

 

ちょうど、ミナたちがエンカウントした事件の報道をしていた。

 

母には簡単に説明済みだ。

 

もちろん、記憶を消して帰したことは言っていないが。

 

「大丈夫だった?怪我なんかしてないでしょうね?」

 

一応、今は女なんだから、とミナがよそったご飯を受け取りながら、母は心配した。

 

ミナは苦笑すると「大丈夫だよ。穏便に帰ってもらったからね」と自分の分のご飯をよそう。

 

「……まさか、ナニカしたんじゃないでしょうね?」

 

「だとしても証拠になるようなものは遺してないから問題ないって」

 

納豆をかき回し、ご飯にかけてミナは笑った。

 

「そんなことよりもうそろそろ出ないとまずいんじゃないか?」

 

「あ、そうね。無茶はしなさんな。いくら姿形が変わっても、お前は私の大事な子供なんだからね」

 

ご飯をかきこみ、味噌汁で流し込んでカーチャンは立ち上がった。

 

バッグを肩に担いで、仕事へ向かう母に、ミナは一言いってらっしゃい、と声をかけたのだった。

 

 

 

その日の午前9時頃。

 

朝食を片付け、風呂に入ったミナはいつもどおり1時間ほど寝てから、むくりと起き上がった。

 

彼女はパジャマを手早く脱いで、母からもらったブラウスとスカートに着替える。

 

早着替えは冒険者として必須に近い技能だ。

 

着替えた彼女はルルがいないことを確認して、机に向かう。

 

スマホは充電が済んでいた。

 

とはいえ、彼女が彼だったころも、スマホは電話、メール、そして連絡用のLINFくらいしか使いみちがなく、なにか電子系の趣味をするならもっぱらパソコンでゲームであった。

 

思えば殺風景というか、パソコンしかない部屋である。

 

数年前、三郎が三十路になったときに、漫画も小説も資格試験の参考書も仕事で使う技術書も、散々遊び倒したパソコンゲームもすべて電子化して、全部まとめて倉庫にしまい込んでしまったのだ。

 

いずれ処分しようと思いつつ、庭の隅の倉庫は整理されていない。

 

そのうち全部ゴミで出すか、古本屋の出張サービスに頼んで引き取ってもらおうと思って3年が経過していた。

 

「……転生当初は、カーチャンが処分してくれることを信じつつ、悶絶する日々だったことを私は忘れない……」

 

HDDの自動消去だの、そういう七面倒臭いことは全くやっていなかったのである。

 

こういう機会で処分する機会が訪れるとはさらさら思わなかったので、ミナは少しだけ安堵した。

 

これらを売ってしまうのは著作権的にどうかと思ったので、誰かにあげてしまうか、それとも捨てるかを選ばないといけない。

 

「どーしよっかなー、つーかあまりにも物がなさすぎるから、プランターでも買ってこようかなあ」

 

ハイエルフである彼女は植物が近くにないと少し寂しい。

 

実際、彼女が定宿にしていたとある王都の部屋は植物まみれになっていて、何度も女将さんに叱られたものだった。

 

今日は園芸店にでも行ってみようか。

 

そう想いつつ、パソコンの電源を入れるミナであった。

 

 

 

通り一遍のネットサーフィンを終え、ミナが考えたことはたった一つであった。

 

「情報量が多い……」

 

そう、情報は足で追い目で確かめるのが基本の異世界に比して、あまりにもこちらの世界は情報過多であった。

 

向こうでは隣国の情勢など、何か月もしなければわからないことが普通。

 

下手をすれば隣町が疫病だの魔物の襲撃だので滅んだとしても、その情報は生き残りがいないとすると、惨状を行商人や物資輸送を行う国軍や貴族の兵が確認し周辺に伝えるまで何日も遅れるだろう。

 

しかし、こちら側では地球の裏側の情報すらもほとんどタイムラグなしで庶民が知ることとて可能なのだ。

 

この感覚の差異はミナにとって苦しかった。

 

「やばい……前世でどうしてたか、記憶引き継いでるのによくわかんなくなってきた……」

 

我々が普段目にする情報は、インターネット登場前の何十倍何百倍、マスメディア登場以前の数万倍以上に増えているという。

 

かつてその高度情報通信社会に生きていたミナであったが、2世紀以上そこから離れていた結果、感覚がだいぶ劣化してしまっていたのだ。

 

出戻ってきて2週間以上たった今でも感覚は是正されていない。

 

さすがに体感的に200年も遠ざかっていれば当然のことである。

 

頭を抱えてベッドに倒れ伏す。

 

「これじゃあネットの仕組みとか覚えて帰るなんて夢のまた夢だわ……」

 

仰向けになって悩まし気に天井を仰ぐが、何の解決もしなかった。

 

「……一から勉強しなおすか!」

 

とりあえずはそこからであった。

 

―――時間を見ればもう10時。

 

そろそろルルとともに出かける準備でもしようと、彼女はベッドからのそりと体を起こすのであった。

 

 

 

園芸店へ行こうと思ったが、午後は久々に魔法の訓練を行いたかったので、近所のホームセンターで用事を済ますことにしたミナたちは、住宅街の南端にあるそこへやってきていた。

 

ミナの家から歩いて20分ほどの場所にある店だ。

 

入口は腐葉土やらプランター、植木鉢や植物の苗や種が並び販売している園芸コーナーとなっていた。

 

「なるほど……これが大衆店として存在するとは……」

 

ルルはプラスチックの植木鉢を手に取りまじまじと眺める。

 

「こちらの世界は燃える水の秘密を解き明かしている、というミナさんの話は興味深いものでしたが、実際こうして多くの実証物に囲まれると、ふふ、なんだかうれしくなってきてしまいますねえ!」

 

「やめい!」

 

パコンと丸めたチラシで少年は頭を叩かれた。

 

「痛いじゃないですか」

 

「いつもいつもいきなり狂うんじゃない!」

 

これはルルの癖だった。

 

知的好奇心が刺激されると、興味の対象物を解体したくなってくるという危険極まりない性質であった。

 

ミナもかつてはその被害者になるところだったのである。

 

「こっちでやらかしたら鉄拳制裁じゃ済まさないからね!?」

 

握った拳骨にハァ~と息を吹きかけてルルを睨む。

 

睨まれた少年はどこ吹く風である。

 

こいつ、いずれまたやらかすな、という思いがどうしても心を離れてくれなかった。

 

ミナの従者となる前はその知的好奇心で国さえ滅ぼしかけたこともある、このクソガキがついてきたことが頭の痛い問題になることがありませんように、とミナは祈らざるを得ない。

 

「あーったく。そんなことより買い物しましょ。とっとと用事終わらせて、お昼は家で食べるわよ」

 

「了解です」

 

カートにカゴを乗せると、二人は店内へと歩いていく。

 

年若い外国人の少女二人は、否が応でも目立ちまくっていた。

 

 

 

園芸コーナーでは小さな植木鉢を二つに砂利と腐葉土、砂をカゴに入れた。

 

如雨露やスコップなどは、既に所持しているため今回は購入しない。

 

種はサクラソウとシャコバサボテンを見繕った。

 

次に向かったのは、照明コーナーである。

 

ルルは眠らなくていいアンデッドであるが、横になるスペースがないのは辛いということだったので、某青いタヌキもといネコ型ロボットを参考に押し入れをルルのベッドにするのだ。

 

ベッドそのものは布団とマットを敷けば済むことだったが、押し入れは当然ベッドではないので、照明もコンセントもない。

 

コンセントはACタップを用意すればいいことだが、照明をどうするかということで、少々意見の対立があった。

 

最終的に、照明の魔法を使えばいいと主張したルルに対して、せっかくなのだから購入しようというカーチャンの意見が通ることになったのだが。

 

それについてはミナは意見なしであった。

 

どちらでもよかったともいう。

 

2階建て3LDKの家の一つの部屋は三郎の亡父の部屋であり、そちらを使用するという意見もあったが、すでに物置と化していること、ルルが別室を拒否したこともあって見送りとされていた。

 

ルルが選んだものは小さめのアームライトだった。

 

そのあとは、ルルを案内しホームセンター内を散策する。

 

ルルには魔法の力も、鍛冶師や職人の技も使わずに作られたものは新鮮で興味深かったし、特にプラスチックやビニールなどの化学製品は未だ異世界では未知の物質である。

 

それらを見て回るのは彼にとって実に楽しい時間だった。

 

何度も瞳に危険な光を灯しては、ミナにツッコまれていたのは言うまでもない。

 

平日昼前のホームセンターに人は少なく、目立ちながらもじろじろと見られる程度で、不快な視線や絡んでくる者はいなかった。

 

平和で楽しい時間が過ぎていく。

 

目的のものをレジに通し、購入が終わったのは12時半を過ぎたころだった。

 

家路につこうとしたその時、二人は気づいていたが、あえて無視した。

 

彼女らに明らかな劣情を向けて話しかけようとした男たちがいたことを。

 

そして、その男たちがスーツを着た別の男に止められていたこと。

 

―――スーツの男が黒い手帳を取り出していたことを。

 




ゲゲルぅ……

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