異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第40話「お腹壊すくらいで怖気づくとか、ミナさん冗談きついですよ?」

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翌日、ミナは店長に言われた場所までやってきていた。

 

岬は留守番をしていて、廻と夕はバイト中、空悟は当然のように張り込み継続中らしく今そばにいるのはルルだけだった。

 

昨夜はあれから2時間ほど飲んだところで、店長が明日の仕込みをするため席を立ち、それに合わせて解散となった。

 

ミナがいる酒の絡む席では珍しいことだったので、ルルは「いつもこうだといいですね」とチクリと嫌味を言う。

 

目の前の「漁大くらげ屋 毎週火・木定休日」という看板を見上げつつ、ミナは「私のペースについてこようとするやつが悪いのよ……」とうなだれた。

 

「わかっていらっしゃりながらやめられない……あなたはどこかの無責任男ですか?」

 

ルルが鼻で笑う。

 

その言葉に眉毛を釣り上げたミナは、「笑った鼻はこれかぁ~!?」と彼の鼻を垂直に釣り上げた。

 

「それは痛いですって!痛いです。いや、本気で取れるからやめてください!」

 

「うりうり~~うらうら~~」

 

そんなふうに二人が店の前でじゃれついていると、中からスキンヘッドかつ身長がおそらく190cmを軽く超えているおっさんがヌッと出てくる。

 

そして、一つごもっともなことを彼女らに言った。

 

「お嬢さんがた、店の前でいちゃついていられるとよ。後ろのお客さんが入れねえから、入るか退くか選んじゃくれねえか?」

 

ふと見ればミナの後ろにはまだ一人だがまるまると太った大男が一人、こちらをじとりと睨めつけていた。

 

「あ、すいません。入ります」

 

ハッと気づいてそう言うと、スキンヘッドの男は「それならいい。いらっしゃい」と言って二人を促した。

 

促されるままに店内に入ると、むっとするほどの魚介の匂いが鼻を突く。

 

かと言って不快感はそれほどにない。

 

「ふむ……」

 

少年は鼻を鳴らして平然としていた。

 

魂が日本人であるミナだけならともかく、ルルもそれほど不快には感じていないようである。

 

「ラーメン……の匂いだけど……ぎょか……魚介?肉類の匂いが全くしない……」

 

漂ってくるのは様々な魚介類の匂いだけで、一切動物系の匂いがしない。

 

感じる精霊力も海のものばかりで、ほとんど陸の動物の精霊力は感じられなかった。

 

「お、よくわかったな。うちは濃厚魚介系動物不使用こってりラーメンがウリでね。さ、食券買ってくんな」

 

スキンヘッドのおっさんはそう言って厨房へと去っていった。

 

「こってり魚油ラーメン……お腹壊しそう……」

 

「お腹壊すくらいで怖気づくとか、ミナさん冗談きついですよ?」

 

「うるせー馬鹿!ま、いいわ。海老ワンタンクラゲラーメンにするか……爆食ワイルド系ラーメンはかつては苦手だったけれど、今なら食い切れるでしょうし、問題はないわね」

 

ちゃりんと小銭を850円ちょうど入れてボタンを押すと紙の食券が出てきた。

 

スキンヘッドにどやされないように声を抑えて話しながらルルとミナは机に座る。

 

ルルは「こっさり魚油ラーメンオイスター風味」という謎のメニューを小盛りで買ったようだ。

 

その食券をカウンターに差し出すと、それを受け取った顎の尖った店員が「海老ワンタンクラゲラーメン1丁、こっさり魚油ラーメン1丁!」と大きな声でスキンヘッドに注文を伝える。

 

ミナがその漂う匂いを精霊力とともに嗅いでいると、あることに気づいた。

 

「……うーん、色々匂いがする……でも、きっとほとんど『ここで捌いてる』わね。鰹節とか鯖節とか節系の素材、煮干し系の匂いもするし……それ以外は全部鮮魚系だとすると、これはもしや……」

 

ミナが腕を組んでウンウン唸っていると、「前からごめんなさいね、海老ワンタンクラゲラーメンのお客さん」と顎の尖った店員がラーメンを差し出してきた。

 

ルルにもほぼ同時に別の店員がラーメンを置く。

 

「うーん……ワンタンと一緒に乗ってるのは、クラゲか……って当たり前よね。いただきます」

 

量はスナック黒十字のカレーにも負けないくらいの大盛りだ。

 

普通盛りにして正解だったな、とミナは麺を口に入れる。

 

ごく普通の中太麺は複数の魚の味のするスープと、香味油のネギを揚げたらしい魚油によく合っていた。

 

いくらかミナにも判別できない香りと味が混じっていたが、それはミナも前世の三郎もこちらの世界の魚介類にそれほど明るいわけではないため無視する。

 

無視した上で―――なおミナの口に合う美味しさだった。

 

「あれま、これは美味しいわね。来てなかったのは失敗だったわ……ってか岬、ごく普通の爆食ワイルド系とか言ってなかったっけ?」

 

麺をすすりスープを飲んでミナは嬉しい誤算だった、と喜んだ。

 

ルルもまた「そうですねえ。ちゃんと全部煮る前に火を通してるから美味しいんでしょうね。下手な魚スープと違って、魚や貝の匂いが不快ではない……」

 

エルフである二人には、臭みを取るために大量の野菜類を使っていることもよくわかった。

 

「……これで850円なら安いわね」

 

「……あっちなら金貨1枚取れますよ。これはスナック黒十字や中華の伊坂でも言えることですが」

 

下手な品評をすると店員に睨まれそうだったので、二人は小声、それもエルフ語でボソボソとそんなことを話し合う。

 

異世界グリッチ・エッグでは食品産業は大規模化も機械化もしていない。

 

それらはすべてこの世界の科学技術のたまものでもあった。

 

―――ふと、ミナの鼻と舌に小さく懐かしい風味が漂った。

 

(あれ?これなんの風味だっけ?こっちの世界じゃなくて、グリッチ・エッグで食べたような……?)

 

ミナが不思議な懐かしさを覚えたのは偶然だろうか。

 

(まあ何はともかく美味しいわね!)

 

かけらのような記憶の断片を思考の端に追いやり、ミナは麺をすする。

 

そんなふうにミナとルルが改めて感心していると―――

 

「ッ!?」

 

突如としてルルの背中に突然悪寒が走った。

 

走った途端にカラン、と店の扉が開く。

 

「……ハゲ、持ってきたよ」

 

そこにいたのは……あの、ルルに似た雰囲気の少女―――ミナたちが助けた半グレに乱暴されていたあの少女だった。

 

 

 

―――その少女は、大きなクーラーボックスを二つ、両肩に下げていた。

 

見た目に反して、だいぶ力持ちであることが見て取れる。

 

眼鏡をかけていて、髪の色も顔立ちも肌の色もどこかミナの傍らにいる少年に似ていた。

 

違いは、その体は、少女然としているルルよりもよりふっくらした肢体は……どこからどう見ても女性であるということだ。

 

「よっと……相変わらず注文する量が多いんだよ」

 

少女はスキンヘッドの男をハゲと不躾に呼ぶと、空いている席からカウンターにクーラーボックスを置いて、踵を返す。

 

そうすると、券売機で1枚食券を買って席に座った。

 

「いつもの奴……」

 

「相変わらずだな。届け物は確かに預かった。シーフードカレーラーメン1丁」

 

そのクーラーボックスの中身を見ると、スキンヘッドは顎の尖った店員と顎の四角い店員に渡す。

 

ふん、と鼻を鳴らすと男はおもむろに麺を湯で始める。

 

その様子をミナたちはカウンターの端の方でラーメンを食べながら見ていた。

 

「……さっきの中身、多分魚……魚介類よね。乾物かしら?」

 

「多分そうでしょうね。それより……」

 

「わかってる。あの時の女子高生でしょ?やっぱりあの子が起点になる災いなのかしら……」

 

破壊神の神託は基本的に、何らかの破壊にまつわるものだ。

 

それは何も物理的に建造物や生命が破壊されるというだけではない。

 

関係、絆、信頼や信用、心……そう言った精神的な破壊も司る。

 

故に、それはルル本人か、あるいはルルの周囲の持つ何かが致命的に破壊されてしまう可能性を示唆したものだろう、というのがルルとミナの一致した見解であった。

 

神託は曖昧模糊として理解が難しいものだと、神と直接対話したことのあるミナですら思うものなのである。

 

少女のラーメンが来て、彼女が麺をすすり始めたころ、ぼそりとミナは言った。

 

「……話してみようか?」

 

その言葉に、すでにほとんど食べ終わっていたルルは「そうしなければ、始まるものも始まらないでしょう。僕が行きますよ」と返す。

 

そうして、ミナがアッと声を出す前にルルは席を立って彼女のもとへ向かう―――そして。

 

「てめーかぁ!てめーのせいで姉貴はなぁ!!」

 

「ちょっと落ち着い」「落ち着いてられるか!あいつらも敵だがお前も敵だ!!」

 

彼と彼女の会話は一瞬で口論になり、そして―――どすり、と彼女が懐から取り出したナイフがルルの腹部に潜り込んだ―――ように見えた。

 

「は、ハァ……ハァ……畜生、畜生!」

 

ミナは荒い息をして地面を叩く少女を無視してルルに駆け寄る。

 

「ちょっとルル!大丈夫!?」

 

服をはだけ、常人なら血が噴き出ているはずの腹部を見ると、黒い粉が散らばっているだけだ。

 

確かにナイフは完全にルルの下腹部を抉る軌道を描いた―――が、それはミナが彼に貸したパーカーを貫いたのみで、その刃は彼には届かなかった。

 

ノーライフキング、リッチーに物理攻撃は効果がなく、魔法の加護を得ていない武器は崩れ去るのみ。

 

リッチーの権能をほとんど封印しているルルに残された、魔眼と並ぶアンデッドとしての力が発動したのだ。

 

「はー、ビビった。破壊神の神託なんてやべー話があったからマジで死んだかと思った」

 

「ご心配をおかけして申し訳ありません、ご主人様。僕はそう簡単には死にませんよ……それより、ここを収めるのが先です」

 

驚かせないようエルフ語で会話しながらミナは立ち上がる。

 

周りを見れば、昼過ぎでほとんど客はいないものの、大盛りのラーメンをすすっていたデブの巨漢がビビりあがって席から立ってドン引きしている。

 

顎が特徴的な二人の店員もざわざわと騒ぎ始め、そしてスキンヘッドがカウンターから躍り出てルル似の少女の肩を掴んだ。

 

「おい!お前!何やってやがる!!」

 

「た、大将……だって、だってさぁ……!」

 

泣きじゃくる少女の前に、ルルはすっくと立って埃を払った。

 

「ミナさんからいただいた服に穴を開けたことは許せませんが……ミナさんが心配してくださったので不問に処します。運がよかったですね。それにこのナイフは壊れていたようです。この通り、僕は無傷ですよ」

 

「ひっ!?」

 

「悲鳴を上げられても困ります。直截に『貴女、僕に似ていますね。そのせいで何かトラブルにあったことは?』と聞いただけではありませんか」

 

ガラス玉のように感情のない瞳で彼女の眼を覗き込み、ひんやりとした笑みを彼女に向ける。

 

すると、大将と呼ばれたスキンヘッドが何かに気づいたようにまじまじとルルの顔を睨めつけた。

 

「……なんでしょう」

 

「へぇ、こりゃ確かに似てるわ……なるほどねえ、お前らか、あそこの店長が寄こした連中ってのは。ぬえ子ちゃんよ、裏で事情聴かせな」

 

踵を返した大将は、カウンターの中のざわざわしている店員二人に「客の捌きは頼むぞ。いつもどおりにやればいい。午後3時過ぎたら3時間休憩は変わらないからな」と指示を出す。

 

そして常連客らしいデブが何か言いたそうにしているのを見て、「ワリイなまっちゃんよ。お騒がせしちまった。今日のはロハにしてやるからこのことは黙っておいてくれ」と笑った。

 

「た、大将がそういうなら……いいっスよ」

 

「おう、助かる」

 

座り直して麺をすすり始めた巨漢を尻目に、大将は店の裏手に出ていった。

 

こちらを見て怯えながらそちらへいく、ぬえ子と呼ばれた少女の背中を見ながら、ミナたちもそちらへ向かっていった。

 

 

 

雪が脇に片付けられた裏手、店員の喫煙所となっているらしいそこにはコンビニや喫煙所などによく据え付けられているスモーキングスタンドが薄汚れて立っていた。

 

大将は無言でタバコに火を付けると、「何があったのか聞かせてくれ」と言ってタバコを思い切り吸い込む。

 

紫煙を鼻から蒸気のように吹き出して、3人を睨めつけた。

 

「そうですね……秋の半グレ暴走事件のときに、僕らも被害に合いそうになりまして。僕に似た雰囲気の彼女もそうなのかな、と急に興味が湧いてしまいナンパ……というんですかね。声をかけてしまいました」

 

ルルがそう言ってぬえ子と呼ばれた少女に頭を下げる。

 

「ほんとよね。義姉がいる場所でいきなり何をやってるんだか?」

 

ミナが呆れた顔で義弟を睨めつけた。

 

もちろん、これは演技である。

 

それに大将は気づいてか気づいてないか、ぬえ子の方を見た。

 

「で、そっちはどうなんでえ?」

 

「……いや、そのさ」

 

「そのさ、じゃなくてだな……姉さんのことかい?ありゃあお前のせいじゃねえし、お前自身被害者じゃねえか」

 

大将は言いづらそうにそう言うと、ぬえ子は更に黙り込んでしまう。

 

ミナはその様子を見ながら、ルルの頭を引っ張って内緒話を始める。

 

もちろん使用言語はエルフ語で、大将らに万一にも聞かれないようにして。

 

「あん時の子で100%間違いないわ。もしかしてこれ……」

 

「彼女の家族も被害にあったようですね……それも、僕らが居合わせたおかげで心身ともに無事……ではないですが、回復できた彼女と違って……」

 

「そこは詳しい話を聞いてから確定させましょう」

 

大将になだめられている彼女を見れば、ポツポツと話し出していた。

 

「……あの日のことは、よくわからない。気づいたときには助け出されてたし、チンピラに薬物を使われたからだって警察は言ってたけど、本当かどうかもわからないくらい記憶がない……でも、その日、別の場所で姉さんも同じようにさらわれて……私、たちに似た奴がターゲットなんだって聞かされて……そして……」

 

絞り出すように彼女は話す。

 

事情だけはなんとか話すことが出来た彼女の姉だが、乱暴された傷は深く―――今も昏睡状態にあるという。

 

更には、ぬえ子が薬物を使われていたという情報が歪んで漏れ伝わってしまったようで、彼女は現在学校で孤立していた。

 

そして、そのために彼女の姉の友人と自分は―――

 

「あの人も私も、眼帯の店長や大将の言うことを手伝える状況じゃない……いくら姉さん達が―――アングラで人気があるアイドルもどきって言ったってさ……私はそうじゃないし、あの人も……」

 

「ああ、なるほど……アングラとかネット中心で活動してちゃ、私や岬はあんまりわからないわ……」

 

うなだれる彼女にミナが近づいていく。

 

「それで、相手が自分たちがひどい目にあった原因を作った奴かもしれないから、ついカッとなってやった……と。いや、ほんとマジで運が良かったわね……」

 

内心で(うちの下僕が相手で)と苦笑する。

 

ルルには大半の物理攻撃が効かないため事なきを得たが、これが別人だったら大変なことになっているところだ。

 

顔色の悪さから、本当に衝動的なものだったようだが……それ以上に追い詰められていることもわかる表情だった。

 

「まあ気にしないで。こいつの服は私が直すから。そしたら嬉ションするようなやつだから安心してよ」

 

「―――そこまではしませんが、しばらく嬉しくて眼鏡がずり落ちる機会が増えてしまいそうですね」

 

眼鏡をくいと上げてルルが満面の笑みを浮かべると、大将が「おう、それでなんでナンパしようと思ったんでえ」と当然の疑問を投げかけた。

 

「そこはほら……気分というものがありまして。いくら僕が義姉さんを好きだからと言っても、他の女の子に声をかけたくなるときもあるというものです」

 

しれっとそんなことを言って、ルルはぬえ子に声をかける。

 

一瞬前に、ミナに目配せをして、彼女がそれを承認するかのように小さくうなずいたのは、大将とぬえ子には見えていなかった。

 

「……もしかしたら、あなたのお姉さんのためになにか出来るかも知れない。案内してもらえませんか?」

 

(治せるなら治してきなさい)

 

(承知しました)

 

ミナがアイコンタクトでそう指示すると、一瞬ルルの目が光ったように見えた。

 

するとぬえ子は立ち上がり「わ、わかった……姉さんのところに、案内するよ……どうにか出来るとは思えないけど……」と今までとは打って変わった態度となる。

 

ルルが魅了の魔眼を最小限の威力で使用したのだ。

 

ルルへの嫌悪感が薄れた彼女は、大将に「ご迷惑おかけしました……」と頭を下げる。

 

大将も「……まあそっちのお二人が納得するってんなら、オレは良いけどな……次からはなしにしてくれよ。客が常連一人しかいなかったから良かったようなもんだ」と頭をかいてそれを許した。

 

「じゃあ、ルルはそっちをよろしく。私は大将に別のお話があるから」

 

「はい、本来の用事を存分に」

 

ぬえ子の手を引いて喫煙所を去るルルを見送り、大将に向き直ったミナは「スナック黒十字の店長からの紹介でやってきました」と簡潔に伝えて頭を下げた。

 

「ああ、わかってるよ。あのぬえ子と似た兄ちゃんを連れてたからな」

 

そうしてミナはバッグから紹介状を出して、大将に見せる。

 

「確かに……っても、本当に出来るのか?あの眼帯野郎、出来るはずだ、とか適当なこと言ってたけどよ」

 

困ったように頭を掻く男に、ミナは率直に聞いてみた。

 

「あの、一体何を私にやらせたいんでしょうか?」

 

「あー……うちが魚介オンリーのラーメン屋になったのは1年ほど前のことなんだがな。まあ、オレは元漁師ってやつよ」

 

そう言って、吸い終わったタバコを灰皿に押し付けてもう一本タバコに火をつけた。

 

「とはいえ、完全に辞めたってわけじゃあねえ。この店で使う魚のいくらかは蒼沫湾でオレが取ってきてる」

 

「はぁ……ということは、その手伝いを探しているということなんでしょうか?」

 

「まぁ有り体に言やあそういうことなんだけんどもよ」

 

その言葉に、ミナは自信を持つ。

 

彼女は海中に眠るダンジョンを攻略するために、5年もの期間海女さんの村に住み着いて、その水泳と漁の技術を叩き込まれたことがあるのだ。

 

水中呼吸の魔法と組み合わせることで、ほとんど人魚のように泳げるという自信すらあった。

 

当然、釣り道具や地引網など近代以前から存在した漁の道具についても十分以上に扱える。

 

―――その冒険行の中で、パーティメンバーはダンジョン攻略を諦め、彼女とルルだけが残ったことはある意味パーティ追放ものではなかろうか、とミナは懐かしく思う。

 

5年後、ダンジョンを攻略して王都に戻った時に暖かく迎えてくれたから違うかも知れない、とも思うが。

 

そんな元パーティメンバーたちはもう全員鬼籍に入ってしまった。

 

既に100年ほど前の話である。

 

「しかし、大丈夫か?結構な力仕事だけんどもよ。そんな細っこい体だし」

 

「そう思うのでしたら、この場で腕相撲でもしていただけますか?」

 

ミナはニコニコとして、腕を差し出した。

 

「そりゃあ、構わんが……」

 

そうして、ミナが休憩所の机に腕を差し出すと大将も腕を差し出してきた。

 

ミナは笑みを崩さないままだ。

 

促されるままに腕を組み、「せーの」とミナが掛け声を入れ腕相撲が始まった瞬間―――大将はそのままひっくり返った。

 

正確には腕を机に一瞬で引き倒され、その勢いのせいで転びそうになったところを、腕を痛めないように受け身をとった格好だ。

 

「なんだと……?」

 

目を見開く大将にミナは笑みをそのままに「どうです?力あるでしょう?」と言って、助け起こすための腕を差し出した。

 

それをしっかと掴んで大将が起き上がると、信じられないものを見た目で彼女を見る。

 

「……いや、あの眼帯野郎の眼力っちゃぁあてになるもんだな……オレを引き倒せるくれえなら安心して手伝ってもらえるわ」

 

そうして引き起こしてもらったそのままに握手をする。

 

「ちぃっと危険だからよ、準備は怠らねえでくれ。今度の木曜日頼むわ……ほれ、うちは週休二日なんだ。それはオレが木曜は漁に出てるからってやつよ」

 

そうして、メモ紙をミナに手渡す。

 

メモには住所と目印になる船の特徴が記載されていた。

 

「木曜の午前4時、ここに置いてあるうちの船まで来てくれや」

 

そう言って、腕相撲のせいで吹っ飛んでたタバコを拾い上げて灰皿に押し込んで大将は去っていった。

 

「漁なら楽勝……だと思いたい」

 

ミナは笑って、それからルルから連絡が来てないかスマホを見る。

 

時間は―――15時5分。

 

あの美味しいラーメンをもう1杯食べたかったかも知れない、と思いつつ、それは次の楽しみにしようと店を立ち去るミナであった。

 

 

 

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