異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

45 / 333
第45話「お前たちの健闘を祈るッ!」

-45-

 

そして、時間は流れ次の週の土曜日……

 

「はぇー今日がその歌自慢大会の当日というやつなのですね」

 

観客席で茜と一緒に岬はいた。

 

ポテトチップスをポリポリとハムスターのように咀嚼しながら岬は不満げに眼下を見た。

 

場所は神森市市民会館ホールである。

 

よく見るとメディアの取材も来ているようだが、はっきりとわかるのは惟神テレビとネットメディアだけだ。

 

そしてそれ以外の地方局も来てはいるようだが、それも1~2局程度のようで―――いわゆる全国ネット局はどこも来ていないようだった。

 

観客自体も岬や茜を含めてもまだ3分の2から4分の3というあたりである。

 

それに観客席と言っても、市民会館のホールにパイプ椅子を並べただけだ。

 

むしろこれだけ観客がいるだけでも御の字なのかもしれない。

 

茜は「引退した与党議員の道楽だしね、これ……そら来ないか……」と呟いた。

 

その脇で岬は唇を尖らせている。

 

「あたしもそこそこ歌上手いですのにねーミナちゃん誘ってくれなかったですもんねー」

 

「阿南さん?あなた、バレたら大変だって立場わかってる?処理が済むまでそう言うのはNGよ」

 

茜は優しい眼で岬を睨めつける。

 

岬はそれに背中をブルリと震わせて、椅子の背にしがみついた。

 

「……処理が何だとは聞きませんですよ、先輩……」

 

岬が恐怖に青ざめた目で茜を見るが、茜はどこ吹く風だ。

 

―――この水道局員のおばちゃんが何をしているのかはミナにもルルにもよくわからない。

 

少なくとも自分やミナたちの害になるものではない……と岬は信じたかった。

 

「あ、始まるみたいよ」

 

茜がそう言って舞台を見ると、スルスルと幕が開いていく。

 

『レデイース・アンド・ジェントルメン!イッツショータイム!本日はお集まりいただきありがとうございます!』

 

整った口ひげを持つ奇異なタキシードを着込んだ手品師がそのシルクハットを外して挨拶をすると、そのシルクハットから無数の鳩が飛び出していく。

 

そして屈伸運動をしながら、ふわふわと浮き出して―――舞台の上に用意されたハリボテの山の上に着地すると哄笑を上げた。

 

ワーッと拍手と歓声が鳴り響くと、謎の手品師はそれを手で制して続ける。

 

『我が名はナポリ男爵!司会進行を務めさせていただくしがない手品師だッ!本日は十瑚元議員のために来てくれて誠にありがとう!そう―――神森市のため、A県のため、そして国政のために尽力した十瑚又三郎議員!そのためにッ!』

 

「……あの人、なんでしたっけ」

 

「うちの三郎みたいなこと言わないでよ。うちの市出身の手品師さんじゃない。結構有名らしいのよ」

 

テンションの高い男を見つめて岬が聞くと茜はそう返して髪を手で梳いた。

 

『さぁ!十瑚氏の登場だッ!皆、拍手で出迎えてほしい!』

 

拍手が鳴り響き、舞台袖からスーツの男が現れた。

 

「ケレン味が強いですねえ……芝居みたい」

 

「そりゃお芝居でしょ……」

 

……元実業家で、引退後政界へ進出して与党議員となった十瑚又三郎議員の登場を見ながら、親子に見える二人はそんな会話をしていた。

 

壇上へ上がった男はマイクを持ち上げて観客席へ語りかける。

 

『本日は誠にお日柄もよく、我が愛する街の2月にしては実に晴れ渡った良い日です。我が街のため、故郷のため、最後の御奉公と思い、今日の場を設けさせていただきました。参加される団体、そして歌手の皆様―――どうか、心残りなきよう歌い尽くしてください!』

 

髪の毛を剃ってスキンヘッドとなっているその元議員の言葉が続く。

 

『賞金として、なんと優勝者にはなんと10億円もの大金が送られる……これはなかなか異例のこと―――これらは総て優勝団体への寄付という形となるのだ!』

 

ナポリ男爵が高らかに宣言すると、またワーッと拍手混じりの歓声がホールに響き渡った。

 

『最早私も80歳にならんとしています……子も孫もおらず、妻も他界した……財産など、老人ホームに10年も入るだけ残っていればいい……私の全てをこの街に持っていってもらいたい』

 

『この宣言通りッ!準優勝者にも1億円の賞金ッ!3位には5000万……!参加賞として、参加団体総てに10個入り神森長饅頭3500箱分の無期限購入券が発行されるッ!無論、その神森長饅頭の購入券もまた十瑚氏の貯金からだッ!』

 

ウオオオオオオオ!!と歓声が上がる―――ああ、これはサクラかな?と岬は内心微妙な気持ちになった。

 

『それでは今回の参加者―――8団体の入場ッ!因みに……3日前に予選が行われているが、その様子はただいまスクリーンに表示されているURLか、あるいはパンフレットに記載してあるQRコードを読み取ってほしいッ!』

 

ナポリ男爵の宣言によって、舞台袖から何十人かの人々が上がってくる……

 

整列した人々の中から、自衛隊の制服を着た人間が一人壇上に上がる。

 

『エントリーNo.1!まずはなんと自衛隊!神森駐屯地を本拠とする陸上自衛隊第16特科隊の勇士『紅蓮音楽隊』!そのリーダーは東部方面隊音楽隊にかつて所属していた正多祐一二尉だッ!なんで音楽隊から特科隊に転属になったのかは聞かないでほしいらしいぞッ!!』

 

『正多二尉であります。誠心誠意頑張らせていただきます。我々は公務員であるからして、寄付金を受け取ることは出来ない。よって寄付金は総て地元の慈善団体に送られることが決定しております』

 

礼儀正しく自衛隊式の敬礼をする青年を見て―――いつの間にか隣りに座っていた廻が笑みをこぼす。

 

「おわっいつのまに!?」

 

びっくりする岬に笑みを向けて、廻は満足そうに話し出す。

 

「現代にもきちんとかつての帝国陸軍の息吹が生き残っているのが、この眼で確かめられて私は嬉しい」

 

「あっうーん……実は、公式にはそれは陸自さん否定しているんですよね……」

 

「それでもだよ、岬殿」

 

そんな話をしているうちに何団体かの紹介が終わっていく。

 

そこそこ有名な演歌歌手やアイドル、歌い手が名を連ねていた。

 

店長の言っていたとおりである。

 

団体自前の人員での歌を披露するのは、今の所自衛隊だけのようであった。

 

その様子をミナは舞台の端、みはるの隣で見ている。

 

(……聞いたことある人が何人もいるわね。やっぱり他の団体はそういう腹積もりかぁ……あの十瑚って人のこと良く知らんけど、そういうのって逆効果なんじゃないかなあ……)

 

ミナは明らかに有名人を連れてきた団体に対して呆れていた。

 

元地元議員ということを考えると、金に糸目を付けぬ方法は間違いのような気がしていたからだ。

 

ルルもまた同じように(権力者ほど金満家ほど、その権力財力にしがみつかなくなった時、それ以外の絆を求めるもの……どうなるものやら)と内心嘆息していた。

 

そうこうしているうちに次の紹介……みはる達商店街・百貨店連合の出番となる。

 

『それでは、エントリーNo.6ッ!商店街・百貨店連合の送り出したるはッ!地元に根を張るご当地地下アイドル―――とは名ばかりの色物歌い手!『フライングガールズサーカス』の登場だッ!』

 

ナポリ男爵の紹介で、みはる―――と、つぐみの扮装をしたルルが前に出る。

 

『代表のフライングガール!そしてサーカスガール!今回はサポートメンバーも充実しているようだがッ!そこはどうなのかねッ!?』

 

同じく地元展開をしているせいか面識があるのだろう、ナポリ男爵に促された二人は、それぞれ練習していた挨拶をした。

 

『地元に愛される悪役令嬢を目指すフライングガール、一ノ瀬みはるでございます。当然それは万全ですわ!むしろ今回のメンバーこそ最強と言えますのッ!』

 

『……地元に光をもたらすサーカスガール、相羽つぐみです~誠心誠意頑張りますよ~』

 

いつも通りのみはると、一瞬躊躇するも練習通りにつぐみの真似をするルル。

 

そのルルの様子にミナは笑いをこらえるばかりだ。

 

(いやあ、ルルがここまでするとは……!あははははは!)

 

(不気味な顔で笑うな、金髪女。ぬえ子もだ。しゃんとしてろ)

 

(そんなこと言われても……ふふっ、似合いすぎでは……姉さんそっくりすぎて受ける……ぷぷっ!)

 

夕にたしなめられても二人は含み笑いをやめられない―――もともと性別:男の娘としかいいようのないルルであり、普段も女性の格好をしているが、今の格好はみはるに合わせたつぐみ用の衣装……

 

つまり、ひっらひらかつ露出度高めのドレスだ。

 

もちろん、股間や胸元はしっかり隠れるタイプなので、彼が男だと割れる心配はほぼない。

 

しかし、この格好はミナにとっては笑うしかないものである。

 

ルルは歪んだ森の奥で邪悪なるリッチーとして君臨していたころ―――つまり、魔物としてミナと対峙したころ―――露出度高めのボンテージドレスに身を包んでいた。

 

その関係からか、150年以上経過した今でも露出度高めの服装は好まない傾向にある。

 

ミナが頼んでも、滅多には着てくれないだろう。

 

それをいくら今回の仕事とはいえ、素直に着ている彼がミナにはおかしくて仕方がなかった。

 

つぐみが笑っているのは単純に、いつものだるいパーカーと短めのスカートのルルのイメージしかないからだろう。

 

『自信たっぷりの地元ガールに期待していてほしいッ!』

 

ナポリ男爵が紹介を締め、みはる達が戻ってくる。

 

ルルの耳に口を寄せて、「ちゃんとできてたわよ」とミナが伝えると、ルルは羞恥に耳を立ててミナを睨んだ。

 

「どうにかならなかったんですか、この衣装……僕が嫌いなの知ってるでしょうに……」

 

「いや、だって」

 

「つぐちゃんが大一番でその衣装を着ないというのはあり得ないことですわ。ホホホ、諦めることですわね」

 

扇子で口を覆ってみはるに言われたルルは肩を落とす。

 

そんなルルの様子に、ミナは内心クスリとした。

 

(断固拒否だって出来たのにねえ……本当に珍しいこと……)

 

ミナは今回のぬえ子との遭遇以来、何度も思った感情を心の中で反芻するのであった。

 

 

 

何事もなく歌自慢大会に参加する団体の紹介は終わりを告げる。

 

時間を見れば、正午ごろ。

 

ちょうどお昼時になっていた。

 

『審査員は基本的に十瑚氏ッ!今回は十瑚氏の開いた、十瑚氏のための歌自慢大会ゆえにッ!アドバイザーとしてこの私、ナポリ男爵ともうひとりのゲスト―――未だ到着していないがッ!その男が務めるッ!』

 

ナポリ男爵は天を指差して続けた。

 

『しかしッ!天を見給え……既に時間は正午ッ!お昼の時間だ……』

 

ナポリ男爵は座っていたハリボテの山からおもむろに飛び降り、ステージ脇に座っている十瑚元議員へと駆け寄り『それではッ!各チーム紹介も終わったことだ……一旦お昼とするッ!昼食は会館食堂か、パンフレットに記載のある店であればチケット提出で2割引となる……忘れないでくれ―――午後13時半より本戦が開始される!そこでまた会おうじゃあないかッ!!』と叫び、十瑚元議員とともに腕を天を向けて振り上げた。

 

『それでは、また後ほどお会いしましょう』

 

十瑚議員が壇上に上がってそう言うと、舞台の幕が降りる。

 

どうやら、紹介だけで午前は終わってしまったようであった。

 

「あー、だから観客席まばらだったんですねえ。プログラム見りゃそう書いてありますですね」

 

ポテトチップスの最後の一口をポリンと割って食べて岬は半目になる。

 

「おじーちゃん議員の体力の問題とかですかね、先輩」

 

「さぁ?まあナポリ男爵が面白かったから別にいいんじゃない?手品しながら司会とかすごいわ」

 

紙コップのコーヒーを飲み終えて、手元のレジ袋に放り込んだ茜は立ち上がる。

 

「ま、私達も昼食にしましょうかね」

 

「そーですねー」

 

はぐれないように自分の手を掴んだ茜と一緒に歩き出す岬はパット見親子か祖母と孫にしか見えない。

 

岬は少し気恥ずかしさを覚えつつ、まあいっか、と思考を放棄するのであった。

 

そんな二人を守るように後ろをついていく廻は――― 一瞬、センサーに何かが映ったことに気がついていた。

 

(……前回と同じか?この会場にトカレフ複製品を所持しているものがいる……)

 

「すいません、お二人共。私は少し用事ができました。先に昼食をとっていてください」

 

廻が礼儀正しく二人に頭を下げると、岬は「え。また厄介ごとですか?」とあっさり気づく。

 

「あたしも行ったほうが……」

 

「否。私一人で制圧可能な範囲だ。それに私と違って君はまだ戸籍がない。ここに来ることとて本来は危険な行為だ。それに茜殿を守ることは、今君にしか出来ない……ここは任せ給え」

 

岬の頭を撫でながらアンドロイドの兵士はそうして岬を窘めた。

 

「さぶ……ミナにもよく言うけども、無理と無茶はしないでよね」

 

「承知しています、茜殿。それでは」

 

そう言うと、廻は一礼して足早にホールを出ていった。

 

「どうあれ厄介事は来るんですかねえ……」

 

「ま、だとしてもうちのバカ息子……娘がなんとかするでしょうよ」

 

母はそうして少女を連れて会館の食堂へと向かって、歩き出す。

 

本戦が始まるまで、後1時間半弱のときであった。

 

 

 

「というわけだ。一瞬で反応が消えたため、おそらくは磁気に反応しないよう特殊な袋に入れたのだとは思うが……」

 

夕に通信を行い、ミナたちと合流した廻はトカレフを所持していたものについての情報を交換していた。

 

夕に伝えるだけで終わらなかったのは、ぬえ子たちにバレてしまうことを懸念してのことだ。

 

幸いにして、今はミナ、ルル、夕の3人しか控室にはいなかった。

 

「なるほどね……動機として考えられるのは、この歌自慢大会を台無しにすることか、あるいは……」

 

「ああ、十瑚元議員……帝国議会ならぬ国会の元議員への襲撃か」

 

常識的に考えれば後者だろう。

 

いくら元国会議員が散財するために開いた大会とは言え、大手マスコミはほとんど来ていない。

 

地元のテレビ、新聞、そしてネットメディアの類しか来ていない……むしろ、あえて呼ばなかったと思えるほどだ。

 

調べてみれば、議員に初めてなった30年前に舌禍事件を引き起こして以来マスコミに対して警戒感が強くなった人物であり、議員としてはほとんどマスコミの前で話すことはなかったと言う。

 

しかしながら、影響力は地元に持っていたらしく、与党が構造改革を行い始める21世紀初頭までの15年ほどは地元にしっかり利益を持ってきていた議員のようであった。

 

彼の所属する派閥が退潮を起こしたからこその、神森の寂れようとも言える部分は確かにあるようであった。

 

それにしても、とミナは思う。

 

もし廻が発見したものが、スナック黒十字の前でたむろしていた連中と同じ銃だとすれば―――

 

そして、副市長の娘でもある乾物屋の娘……ぬえ子がここにいる。

 

さて、これは偶然なのだろうか?

 

もしそうだとすれば、半グレ暴走事件となにか関係はないか。

 

半グレどもが街からいなくなったこと、いや自分たちが消したこととなにか連鎖してはいないか。

 

彼らの持ち物で回収し忘れはない―――はずだ。

 

少なくともミナたちが精神を壊したり、その生命を冥府への宅急便に乗せたものたちのものは……

 

そこまで考えて、ミナはふと思った。

 

「そういえば、廻さんや夕ちゃんを連れてスナック黒十字に行った時、店長に激しくクレーム入れてたのは確か中国人とロシア人だったよね、夕ちゃん」

 

「ああ、そうだ。まあ確かめたわけではないから本当にそうとは限らんがな。北京語とロシア語を話していただけだ」

 

「なるほど……ルル、どう思う?」

 

だんまりを決め込む半裸めいたドレス姿のルルを振り返ると、ルルもまた顎に手を当てて考え事をしているようだった。

 

「ルル?」

 

「……ああ、いえ、この間見ていた下手にヤクザ……組織化されたならず者を官憲が処理できない理由の話を思い出していました。そういえば、向こうでも何度かそういうことありましたよね?」

 

ルルの言葉にミナは肯んずる。

 

「そうね。私達が潰した暗殺者ギルドの後釜を狙って、ジェレイヒ皇国からヤクザもどきが流れ込んだ時は後始末がクソみたいに大変だったわね……それだと?」

 

ミナが言うと、廻もまた首を縦に振って肯んじた。

 

「君たちが壊滅させたヤクザまがい……半グレの後釜を狙う、というのは十分にあり得る話だ。今野殿の話で『裏が見つからない』というのもますます怪しい。世の中には知らずに通牒に利用されているものもいれば、洗脳などを成されていて時期が来たら市民の真似事をやめ、間諜として暗躍するものたちも存在する。そう言う者たちなのかもしれない」

 

「可能性高いわね。んで、私とルルが見つけた、大将が採ってるグリッチ・エッグの貝……向こうの存在がこの街にいくつも存在するのは、もう認めたくないけど事実なのだわ。最悪の場合、向こうのマジックアイテムや魔法が関わってるのも十分にありえるわね」

 

ミナはうーん、とうなって天を仰ぐ。

 

そして、会館の空き部屋を利用した控室に十数秒の沈黙が訪れた。

 

沈黙を破ったのは夕だ。

 

「で。方針は?」

 

そう聞かれたミナは苦虫を噛み潰したような顔でロボット二人に目線を向けた。

 

そして一つの質問を投げかける。

 

「鉢巻アーマー装備すれば殺人光線は撃てるんだっけ?」

 

「問題ない。頭部に殺人光線発射装置を接続すればな」

 

廻の言葉にミナは「OK」と短く返して、無限のバッグから廻と夕の鉢巻アーマー=殺人光線発射装置を取り出して二人に渡した。

 

「私達も魔法のステッキに見える発動体を持って歌うから、夕ちゃんも帽子の下にそれつけといて。廻さんも隠し持っておいて、いざって時には観客を殺さない程度にぶっ放してください」

 

そう言って椅子にミナはドカッと座って、ニタリと笑う。

 

「もしコトをやらかそうというのならば……」

 

「それは僕ら『黄昏の傭兵団』への挑戦、ということですね」

 

その服にふさわしい……普段は絶対に使わない、白い羽の生えた杖を取り出したルルが言葉をつなぐ。

 

「だからさ。珍しいよね、ルルがこんなにやる気なのは」

 

「さぁ……僕も破壊神様の神託に振り回されているのかもしれないですね……なんだかざわつくのですよ」

 

ルルはつぐみの髪と同じ長さにしたウィッグを控室の壁にかけて笑った。

 

(敵は外からくる……それで破壊されるものは何か……破壊するべきものはなにか……)

 

少年は、心がどんどんざわついていくのを感じている。

 

それが何なのかは、考えても全くわからなかった。

 

 

 

5分後、戻ってきたぬえ子・みはるとともにミナが作ってきたお弁当を広げていると、唐突にドアが轟音を上げて開く。

 

「応援に来たぞッ!我がふっ!?」

 

一瞬敵かと思ったミナによって投擲されたカラーボール―――コンビニバイトを辞める時に餞別にもらったものだ―――を顔面にぶつけられて吹っ飛んだのは店長であった。

 

「な、何をするのかね……」

 

「いや、突然女と男の娘しかいない場所に奇声を上げて飛び込んできたら、こうなるのは当たり前ですわ」

 

「そのとおりだねえ……いや、今日は頑張ってくれ給えよ」

 

みはるの言葉に反応したのは、店長の後ろから入ってきた初老の男だ。

 

髪は真っ白だが、背筋はしっかりしており、グレーのスーツに身を包んでいる。

 

「あら、こんにちは。こちら、駅前商店街振興組合、組合長の与野賢治さんですわ」

 

「どうも、与野だ。よろしくね」

 

柔和な声で挨拶をした男に、皆それぞれに頭を下げた。

 

「つぐみちゃんが無事で本当に良かったよ、ぬえ子ちゃん。ずっと意識不明だったからねぇ……」

 

「あ、いえ、そんな!まさか急に治っちゃうなんて、奇跡でも起きたのかと……」

 

ぬえ子は両手を振って慌てるが、顔にカラーボールの跡をつけた店長は「慌てなくていい。組合長は知っている」と笑いながら顔のインクを拭う。

 

「まさかねえ。変装しているとは言え、ここまで二人に背格好や声が似てる男子がいるとは、世の中広いもんだ……」

 

「偶然に助けられる、というのもまた愉しからずや、ですよ組合長殿」

 

ルルがふっと肩をすくめて笑うと「いや全く」と組合長は微笑んだ。

 

「それで、どんな御用ですの?ご挨拶に伺えなかったのは実に申し訳ありませんでした。一刻の猶予もなかったから……と言い訳させていただきますわ」

 

「いやいや、そんなことはないよ。親友が瀕死の時に話を持ちかけたのは私達だ。土壇場でも協力してくれて本当に助かる……」

 

そう言って、与野は頭を下げた。

 

「まあ、それで、今挨拶に来たのはどういう理由でして?」

 

「応援に来た……というだけではダメかね?」

 

与野がそう言ってみはるを見る。

 

みはるはその視線をまっすぐから見て「それはよろしいのではなくて?ただ、集中を欠くといけないのでわたくしたちには仕出し弁当や応援のための人員はいらない、と申し上げていたはずですわよ?」と答えた。

 

「わかってる、わかってるよ。商店街の応援団は午後から来て惟神テレビの取材を受けるだけだ。それにしても演奏まで自分たちだけでよかったのかね?いつも君たちがやっている配信やライブハウスでのコンサートではないんだよ?」

 

「それはミナさん、ルルさん、そしてぬえちゃんがやってくれますし問題ないと判断いたしました」

 

扇子で顔を仰ぎながら、みはるは笑う。

 

「まあそれならいいんだが。頑張ってほしい。半グレどもが戻ってくる前に、シャッター通りの問題に決着をつけなくちゃならないんだ」

 

「……戻ってくる?」

 

ミナが耳をピクリと動かして反応すると、ようやくインクを落とし終えた店長が答えた。

 

「その通りだ。先日、我が店の前で逮捕された輩が居たろう。奴らが半グレどもの再来ではないか、と組合長は危惧しているのだよ」

 

「もしそうなら大変なことだ……商店街の閉店した店の中には誰も住んでいない場所がある……西南書店の跡地のように、半グレやホームレスが住み着いてしまった場所もあった……」

 

「ははぁ、だから心配していらっしゃったのですね」

 

ミナが言うと、与野はこくりと首肯して眉をひそめた。

 

「みはるちゃんのお父さんは、それなら空き家になっているビルをすべて解体して、駐車場や露天イベント会場にしてしまえばいいとおっしゃる……だが、それはそれで寂しいのでね。まあ、潰すにも資金がいるというのもある」

 

「それでお父様と店長や商店街の皆様でこの大会への温度差があったのですわね。父にすれば、駐車場が増えて郊外からの客を引き戻せればよし。そうでない方法で商店街が活性化してもよし、と」

 

得心したようにみはるは笑った。

 

「うむ、そういうことです。少なくとも、もはや一刻の猶予もない。最悪でもビル解体の予算だけは商店街で確保せねば」

 

それを歌自慢大会の賞金に頼るのはどうなんだ?とミナは思うが、事実資金がないのであれば仕方ない。

 

管理者のいない空き家というのはいつでも厄介な問題なのだ。

 

(と、すると……)

 

(トカレフ持ってた連中は、百貨店で問題を起こして歌自慢大会への参加を妨害しようとしていた?)

 

白と黒の妖精はそれぞれに同じ疑問を抱く。

 

しかしながら、結論を出すには完全に情報不足だ。

 

今は、外で銃器所持者の探索を行っている廻に頼るしかない。

 

「それじゃあ、また後でね」

 

「お前たちの健闘を祈るッ!」

 

そう残して、与野と店長は退出し、後にはミナたち5人だけが残された。

 

「うーん、おっかない話だなあ。私たちも無関係じゃないのがまたおっかないよ」

 

ぶるっと肩を震わせたぬえ子にルルは優しく「なに、僕や義姉さんがいるのですから、そうそう大事にはなりませんよ」と声を掛けた。

 

―――とはいえ、相手が大事にするつもりなら、相手の命に大事が訪れるでしょうが。

 

ルルはミナを見てそう考えた。

 

その考えはミナに透けていたようで、ルルはミナにチョップを食らわされるのであった。

 

 

 

どんな日常回が読みたいですか?

  • メインキャラのエピソード
  • サブキャラのエピソード
  • 敵キャラについての深掘り
  • その他(活動報告にコメントお願いします)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。