異世界で頑張ったので出戻りますね あるいは彼女は如何にして悩むのを止め、現代をエンジョイするようになったか   作:大回転スカイミサイル

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第46話 「ま、頑張りましょ」「ええ、精いっぱいに」

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それから1時間半……遂に歌自慢大会の本番が始まった。

 

「今回のルールはッ!簡単の一言……!賞金の規模から、プロが来ることは目に見えていたッ!特に禁止もしていないッ!よって参加者にはこのブランデー子爵の決定したルールに従ってもらうことになるッ!」

 

「今回の審査アドバイザー、我が友ブランデー子爵の提案通り……この大会は、いわゆる『自分の持ち歌』を歌うことは禁止とさせていただこう……事前に告知したとおり、チーム所属者と全く関係ない歌のみを許可したッ!」

 

テンションの高いおっさん二人が今回のルールを説明していく。

 

それを観客席で見ていた岬は「……あの変な人、誰ですか……?」と茜に聞いていた。

 

「あれは……確か、たまに会館で芸やってる芸人だったはずね……よく知らんけど」

 

どうやらこちらはあまり有名ではないようだが、ナポリ男爵とはそこそこ仲が良いらしい。

 

岬はふーん、と言いながらオレンジジュースを口にして、「廻さん大丈夫ですかねえ?」と心配そうに目を細めた。

 

「大丈夫でしょう。そんなことより、何かあったらちゃんと守ってよね」

 

「りょーかいですよー」

 

岬がそう言った瞬間、十瑚元議員が宣言する。

 

「それでは、始めていただきましょうか……!」

 

「閣下のお許しが出たッ!まずはエントリーNo.1、紅蓮音楽隊ッ!どうぞッ!!」

 

ナポリ男爵がそれを続け、舞台袖から午前中とは違って派手な格好をした筋肉質の自衛官たちが舞台へと上がってきた。

 

後ろにはすでに楽器も設置してある。

 

「ではまずは1曲目!これはいいのかッ!?地方総監部から怒られるんじゃあないかッ?!陸上自衛隊の行進でおなじみ!『抜刀隊』からだぁぁ―――ッ!!」

 

「ロックアレンジバージョンとはッ!地方総監部どころか統合幕僚監部からクレームがつきそうだッ!大丈夫なのか!?」

 

テンションの高い曲の紹介から、演奏が始まる。

 

「抜刀隊」は外山正一の作詞に、フランス人シャルル・ルルーが曲をつけたもので、同じくルルーが作曲した「扶桑歌」と合わせての編曲は、長く帝国陸軍の行進曲として愛され、第二次大戦後も普通に様々な場面で使用されている名高い軍歌である。

 

扶桑歌との編曲バージョンはいくつもの名称を持つが、戦後名づけられた「陸軍分列行進曲」が現在では有名だ。

 

それのロックアレンジバージョンとは、なかなか勇気ある自衛官だなあ、と控室から歌を聴いていたミナは思った。

 

(まあ、集成党が政治的に壊滅状態で、こういうことしても怒られない状況になったような気はするけども)

 

そして、夕に「廻さんから何か連絡は?」と聞く。

 

夕は首を横に振って、「まだ見つからないようだ。磁器探知機では埒が明かないが、このような人間が多数いる場所では電探やX線走査は無理だ」と答えた。

 

電探―――電波探信儀、すなわちレーダーは強力な電波を発する。

 

オーバーテクノロジーを用いた軍用である廻と夕のそれは、おそらくは1960年代のそれと同等だ。

 

そのレベルのレーダーが放つマイクロ波電波を受ければ、おおよそ普通の人間は最低でも生殖機能を失い、最悪死に至る。

 

そんなことをミナたちが出来るはずもなかった。

 

「そっか……1チーム30分ほどだから、私たちの出番まで後2時間強。それまでに捕まえられるかどうか……」

 

「なにをぼそぼそ話していらっしゃいますの?」

 

後ろからそう聞いてきたみはるに、ミナは「ちょっと緊張してきたね、って話してたのよ」とごまかす。

 

ごまかされたみはるは、「ま、いいですわ。深刻な顔をしているから何かと思いましたわよ」と言って席に座った。

 

(うーん、岬にはカーチャンを守ってもらうという唯一無二の大事な使命があるし、私たちは動けないし……いっそ人形で……いや、無理か)

 

「ミナさん。舞台に出たら、僕がミサイルガードを拡大して、ステージと観客席の間、それにお義母様とミサキ殿にこっそりかけます。ミナさんは攻撃できるようにしておいてください」

 

案を出してきたのはルルだった。

 

ルルの指が緑色に光っており、それは遮音の術がミナとルルの周りを覆った証拠だった。

 

「一人でも傷つけられたら私たちの負け……分の悪い賭けになりそうだわ」

 

「まあ今回も力押しで何とかなるでしょう。最悪、そういう意味で負けたとしても即死までならスリープクラウドで観客全員眠らせて、ミナさんがリザレクションを使えばいいですし」

 

「ま、そうね。神や成長した魔王相手でもないのに、力押しでどうにかならなかったら名折れよね……」

 

ミナはため息をついてから、みはる達に怪しまれないように、風の精霊にそっと語り掛けて遮音の魔法を解いた。

 

「ま、頑張りましょ」

 

「ええ、精いっぱいに」

 

時計を見れば14時……みはる達の出番まで、後2時間ほどとなっていた。

 

 

 

最初の自衛官チーム、紅蓮音楽隊の演奏が終了する。

 

最後の歌は、かつてFlashムービーが全盛期だったころに旧軍の死闘を語った動画で使われた、とあるあまり人気のないロボットアニメの主題歌だった。

 

「ありがとうございましたァ!」

 

正多二尉らは全力で歌ったことを示すように汗まみれだ。

 

その言葉とともに観客席からは拍手が巻き起こる。

 

そうした会場の様子に十瑚元議員がうん、と頷くとメンバーが舞台の前列で姿勢正しく整列した。

 

「さぁ最初のチームが終わった!先生の判断やいかにッ!」

 

「審査は無論のこと時間が多少いる……我々と協議を行った結果が―――点数として発表されるのだッ!」

 

テンションの高い説明の後、5分ほど元議員先生とアドバイザーの二人による審査が行われる

 

そして、老人がマイクを手に高らかに紅蓮音楽隊の成績を発表した。

 

「点数は……87点!自衛官の皆様、いつもお疲れ様です。いい歌でしたよ」

 

議員がパネルに書かれた87という文字を高々と掲げると、モヒカンだのパンクな格好をした自衛官たちは直立不動で敬礼を行う。

 

「おっと最初から高得点……!だがッ……この後に続くプロの歌手たちと比べてどうだろうか!」

 

「その答えは次のチームが出してくれるだろうッ!ありがとう紅蓮音楽隊ッ!!」

 

手品師と芸人の言葉に合わせて、自衛官たちは舞台袖へと消えていく。

 

会場も9割以上は席が埋まっており、観客の反応も盛況と言えた。

 

もっともそのいくらかはやはり各チームの応援でやってきた各団体の所属者であるようだったが。

 

「素晴らしい歌でした。あの熱さでこれからも我が国を守っていってくれると信じます」

 

「元議員、ありがとうございましたッ!それでは早速……!」

 

そして次のチームがコールされる……同じころ、ルルとミナは控室で相談を終えていた。

 

すなわち、ミナたちの出番まで後2時間ほどである。

 

それまでに解決するかはわからない。

 

わからないどころか、状況から狙われているのがみはるたち商店街・百貨店組ではないかとあたりをつけているだけで、元議員本人がターゲットの可能性も十分にある。

 

いや、ともすればそのほうが高いかもしれない。

 

猶予はあまり存在しないのだ。

 

その頃、銃器を所持していた者を探索していた廻は開館のトイレで怪しい動きをしていた男を捕えていた。

 

きょろきょろとあたりを見回し、何かを取り出そうとしたところで御用となったのだ。

 

案の定、腕を後ろに締め上げてみると、カバンの中から金属の袋に入れられた拳銃がまろび出た。

 

ガシャン、と金属を立てて落ちたその袋をバツの悪い顔で睨む男に、廻はため息をついて腕を放して肩を掴む。

 

「……なるほど。拳銃所持だな。この時代では拳銃所持は一般市民に認められることはまずないという。このまま警察に突き出してやろう」

 

「な、なにをわけのわからねえことを……」

 

口答えをしようとする貧相な男を、廻はそのまま怪力で持ち上げて、トイレの個室へと押し込めた。

 

そして便器が清潔であることを確認すると、強制的にそこに座らせて詰め寄る。

 

「なんのために拳銃を所持していた?言わなければ、指を一本一本折っていく」

 

無機質な声で、男の瞳を覗き込みながら廻は言う。

 

その特殊樹脂とカメラで出来た瞳は、今はなんの感情も表していない。

 

戦闘マシーンの顔をむき出しにした旧軍の最終兵器を前に、男は本気で指を折られると観念したのか、口端を笑いの形に歪めて話し出した。

 

「い、いやこの拳銃を持ってうろついてりゃあ20万くれるって言われたのよ……時々いかにも怪しい、って風に取り出して見せろってさ……弾も入ってなかったしな……モデルガンだって持ち掛けてきたやつ言ってたし、美味しいバイトだと思ったのよ、へ、へへへへ……」

 

怯えながら上ずった声で笑う男に、廻は続けて聞いた。

 

「どんな人間だ?顔かたち、背格好。わかることは何でもいい。話したまえ」

 

「ま、マスクとグラサンつけてたからよくわからねえ……背格好つっても厚手のコート来てたから、そんな背ぇ高くねえってことしかさぁ……なあ、放してくれよ。これ以上は何も知らねえんだ」

 

廻はその言葉に、注意深く男が発する音を聞いていた。

 

(心拍数、反応なし。呼吸、変化なし。生命反応からは虚偽の兆候はない……)

 

廻はそう判断し、取り上げた拳銃に本当に弾が入っていないことを確認すると、男の顔を掴んだ。

 

「な、なにしやがる……」

 

「非致死性麻酔瓦斯、噴射」

 

頭を掴んだ廻の手から無味無臭透明の気体が放たれ、男はそれ以上何も言えずに眠りに落ちていった。

 

「……同じような依頼をされているものが複数存在している可能性がある。その中に銃弾が入っているものがないとは限らない……スナック黒十字前で捕縛された者共のトカレフ類似品には確かに銃弾が装填されていたのだから」

 

廻は独り言ちると夕に通信を送り、ミナたちへ最新の状況を伝えてからその場を離れることにした。

 

「……引き続き探索を続行する」

 

通信を終えた廻は個室の扉を閉めてそのまま立ち去る。

 

男が発見されるのは、1時間ほど後。

 

トイレにやってきたハゲデブの中年のおっさんが第一発見者であった。

 

 

 

それから1時間後、みはるとぬえ子がお手洗いにでかけた隙を突いてミナたちの控室を訪れた廻が持っていた拳銃の数は10に及んだ。

 

廻が昏倒させて隅っこに放置した数はその約半分の6人だ。

 

会館が昔箱物行政が行われていた頃に建てられたもので、かなり大きめの建物であることを考慮しても異様な数だ。

 

警備員達に気づかれていないのがおかしいほどの数だと廻は思う。

 

そのいずれもが金に困っていそうな貧相な男女ばかりであったことをミナたちに説明し廻は深刻な顔をした。

 

「まず間違いなく囮、または保険だ。真の敵は観客席にいるに違いない」

 

すなわち、観客席で―――ホールの中で下手な捕物など出来るはずもない。

 

もし彼らが不審者として捉えられ、歌自慢大会が中止になればそれはそれで何者かの思い通りということなのだろう。

 

ミナは頭を抱えて、「ルルの言うとおりにするしかないかなぁ……狙ってくるのはステージか審査員席だろうしさあ……」と呟く。

 

「いいわ。廻さんは岬たちのところでカーチャンを守っててほしい。いざという時は力ずくでなんとかする方針で」

 

「承知した。では、気をつけてくれ。夕、頼むぞ」

 

「わかっているさ」

 

夕が微笑んだことを目視で確認した廻は規則正しい靴音を反響させながら控室を出ていった。

 

入れ違いに入ってきたみはるたちに廻のことを聞かれた夕であったが、「何、応援に来てくれただけだ」と返して微笑む。

 

「出番の1時間前……というのがなんとなくいいですわね!」

 

「そーかなー……?そうかも?」

 

みはるの言葉に首を傾げたぬえ子は、舞台衣装のマスクをつけて笑った。

 

「さあ後は泣いても笑ってもこれっきりだからね!頑張ろう!」

 

「あ、それわたくしが言いたかったですのに!さすがはつぐちゃんの妹……侮りがたし!」

 

ぬえ子の号令に、みはるはぐぬぬと悔しがり、ミナはその光景に呆れた声を出す。

 

「何が侮りがたしなのよ……とにかく頑張るのだけは間違いなくやりましょうね」

 

ミナは手を差し出す。

 

その手にぬえ子と夕は気づいたようで、その手に自分の手を重ねる。

 

「ハッ!まさか!またわたくしの出番を減らそうというのですわね!?そうはいきませんことよ!」

 

みはるもまたそうして手を合わせ、最後に「やれやれ」と呟いてルルが合わせた。

 

「いいですわね!やるなら優勝!賞金10億!えい!えい!」

 

「「「「おう!」」」」

 

号令が響く。

 

何事も起きないことを祈りながら、ミナとルルはみはるの戦場へと随伴するのであった。

 

 

 

「それではエントリーNo.6ッ!フライングガールズサーカスの出番だ―――ッ!!」

 

ナポリ男爵の号令とともに、ワーッと拍手と歓声が上がる。

 

とはいえ、その応援は有名人らと比べれば控えめなものと言えた。

 

―――その歓声と拍手に紛れて、ルルが精霊術を使ったことに、誰も気づかない程度には大きなものではあったが。

 

「商店街・韋駄天百貨店連合代表の彼女らは、この神森市に根を張るご当地アイドル―――を自称する色物ユー○ューバーだッ!!」

 

テンションの割にはいまいち売れていないらしい芸人の言葉に、舞台に上がってきたみはるは「まだいいますかッ!こちらが色物ならば、そちらはマイナー極まりないではありませんかッ!」と抗議を叫ぶ。

 

だが、ブランデー子爵はそんな抗議も何するものぞと哄笑した。

 

そして、彼女を吹き上がらせるように続ける。

 

「フッハハハハハッ!その意気だとも小娘ッ!それでは、早速歌っていただきましょうッ!!」

 

「おのれぇぇ……!ふん、見ておいでなさい!」

 

そっぽを向いてマイクを手に取るみはるを見て、ナポリ男爵が曲の紹介を始める。

 

「一曲目は―――吉井勇作詞、中山晋平作曲ッ!ゴンドラの唄だッ!正直有名な歌ではあるが、ちゃんと来歴を知ってるやつがいるのかッ!?意外!それは大正4年の歌ッ!十瑚元議員は知っておられるようですがッ!!」

 

「そうですねえ……私が生まれる20数年も前の歌ですが、母が好きでしたね。いろいろな映画や劇でも聞きました。それにしても100年以上前の曲を持ってくるとは、私も予想外でしたよ」

 

「なるほどッ!そして彼女らの今回のテーマは……『著作権切れ』だと申告があった……正直どこまでやれるものか……?しかし、それで怯む彼女らではないのでしょうッ!それではどうぞッ!」

 

そうして、マイクを手にとったみはる、そして目の前にマイクを置かれた星を象った飾りのついた帽子を被り白いワンピースを着たミナと夕が歌い始める。

 

「「「命短し恋せよ乙女……紅き唇褪せぬ前に……」」」

 

熱き血潮の冷えぬ間に、明日の月日はないものを。

 

乙女が乙女でいられる短い日々の歌が切々と歌い上げられる。

 

ぬえ子のシンセサイザーで合成された音に、ルルの琴が合わさってハーモニーを奏でていた。

 

3人の声は、ホールを満たし、静かに観客の心へと染み渡っていく。

 

何も問題はない。

 

みはるは心でそう思う。

 

今回の選曲にあたっては余計なアレンジをほとんど加えず、とにかくミナと夕の歌声を生かすようにした。

 

素材がいいのだ、だったらそのまま使わなければ損ではないか。

 

刺し身にケチャップをかけるような真似は今回、彼女は控えた。

 

ぬえ子が指摘したように、ブランデー子爵が嘲笑ったように、彼女の歌はいつもそういう目立つためのアレンジばかりをしていた。

 

今回はそう言うのはなしにしよう、と思ったのは時間がないのもあったが、何よりつぐみと二人の歌、つまり自分たちだけの歌ではないのだから、それが当然だとみはるは考えたのだ。

 

それはどうやら、みはるの中では正解だったと結論づけていいものだった。

 

―――今日はふたたび、来ぬものを―――

 

一つになった歌声が終わりを告げる。

 

静かにみはるは一礼をした。

 

すると、最初のそれとは大きさが明らかに異なる拍手と歓声が注がれていく。

 

みはるの答えが観客席の人々と同じものだったことは証明された。

 

その観客たちへ、みはるはマイクを掲げて笑みを投げかける。

 

会心の笑みを。

 

「これは―――ッ!驚いたッ!彼女らの楽曲は概ね無茶なアレンジを入れたわけのわからないものばかりという印象だったが……!」

 

「正統派―――完全な正統派のアレンジほぼなしの……だがッ!確かに今回の助っ人の女子二人は彼女の言う通り最強……!素晴らしいと言わざるを得ないッ!次々行ってもらおうッ!次は―――」

 

ナポリ男爵とブランデー子爵の声が響く。

 

ミナと夕は、みはるに向けて首肯して、始まりを促す。

 

次の曲はハンプティ・ダンプティ。

 

英国の童謡、マザーグースの一つ。

 

今日は再びない、覆水盆に返らず。

 

壁の上に座ってたハンプティ・ダンプティはおっこちた―――誰も彼もが彼を直せない。

 

壊れた卵男を戻せない無力な人々のお話だ。

 

そうして、歌は続く。

 

最初に言っていた3曲以外にもいくつもの「著作権が切れた歌縛り」で紡がれた歌たちは、最後に星めぐりの歌で締めくくられる。

 

空の星々を巡るさまが歌われる。

 

まずはみはるが独唱し、ミナと夕はフルートを吹いた。

 

星めぐりの歌が劇中で使われた童話「双子の星」をイメージしたものだ。

 

二人がボウセ童子とチュンセ童子のように銀笛を吹く傍で最後までみはるが歌い終えると、もう1ループ、今度は3人が揃って最初から歌われる。

 

そうしてそれが終わりまで歌われると、みはるたちのプログラムは総て終了した。

 

『以上となります。ご清聴、ありがとうございました』

 

5人が揃って礼をする。

 

拍手と歓声がすぐに湧き上がったのは言うまでもない。

 

「素晴らしい演奏をありがとう、フライングガールズサーカスッ!それでは審査を始めようッ!」

 

十瑚議員もアドバイザーの二人も立ち上がって拍手する。

 

「懐かしい歌ばかりでした。子供の頃に聞いた曲ばかりでした。きちんとあの頃と今はつながっていることを再確認できたと思います……」

 

元議員がそう言って、点数を掲げる。

 

そのプラカードには「98」と書かれていた。

 

―――ここまでの最高得点である。

 

「98点ッ!これは優勝は決まったか!?否ッ!まだ2チーム残っている!ありがとう、その清澄な歌声を忘れないでくれフライングガールズサーカス!妙なアレンジはもうヤメルンダッ!」

 

「うるさいですわねドマイナー芸人ッ!みなさん、そして十瑚様!ありがとうございましたッ!」

 

みはるがブランデー子爵を指差して怒鳴ると観客席はドッと笑いの渦に包まれる。

 

そうして赤いドレスに身を包んだ少女は観客席と十瑚元議員へと深々とお辞儀をして、ドレスを翻す―――と、その瞬間のことであった。

 

観客席の3列目中央に座っていた筋肉質の男が一人立ち上がって、その懐から―――いや、どこから出したのかわからないが、20cmほどのサブマシンガンらしきものを取り出して、それを撃とうと構え―――

 

次の瞬間、どうと椅子に倒れ込んで気絶してしまった。

 

周囲の観客は何事か、となるが、しかし男が完全に気絶してしまったため、困惑するだけの反応に留まる。

 

「どうやら興奮して気絶したものが出たようだ―――衛生兵!衛生兵ッ!」

 

ナポリ男爵がそう言って救護班を呼んだこと、そしてみはるとぬえ子が舞台袖へ引っ込んだことを確認し、ミナたちもそちらを目指した。

 

「―――よし。ルル、夕ちゃん」

 

「はい」「承知」

 

ステージを去る間際、ミナが小さくそう言って、二人もまた小さく返す。

 

誰も気づかなかった。

 

彼女が杖を振るっていたことを。

 

その杖の先に小さな光が灯っていたことを。

 

ミナが振るった杖―――フルートに見えるそれは、ルルと話していた持っていても違和感のない魔法の杖、発動体だ。

 

空の銀笛と呼ばれる魔法の楽器である。

 

そして放たれた術は古代語魔法フェインティング―――昏倒の魔法。

 

目に見えない光弾を放ち、当たったものが抵抗できなければしばらく気絶させるだけの魔法であり、範囲で効果が起きるスリープクラウドに比べて指向性が強い魔法である。

 

これにより機関銃らしきものを持った男はその犯行に至る前に妖精によって処理されたのだ。

 

(ま、撃てたとしてもミサイルガードを突破するには、相当の威力がないと無理だったろうけど)

 

ミナはこっそり、ルルにサムズアップを返して健闘を讃えた。

 

そして夕に視線を移すと、こくりと首肯する。

 

廻への通信は既に行っていたようだった。

 

(とりあえずうまく行ったとは思う……ルルが指示していたとおりに精霊術を使っていたなら、ミサイルガードは後1時間強は持続するはず……とにかく、最後の表彰式まではこれ以上何事も起きませんように……調和神様、どうか均衡が崩れぬよう、お見守りください……)

 

聖印を切って自らの信仰する神へ祈りを捧げながらミナは控室に向かっていく。

 

―――チ、と。

 

彼女らの聴覚の範囲外で、誰かが小さな舌打ちをしたことにミナもルルも夕でさえも気付いてはいなかった……

 

 

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